上 下
58 / 266
第4章 列強時代

第57話  外国人観光客

しおりを挟む
ヤポーネに着いた頃にはすっかり陽が暮れていた。
夜にもかかわらず、街は明るく活気に溢れていて、つい時間感覚を忘れてしまいそうになる。
通りは商店や露天がひしめき合っており、人族も亜人も魔獣までもが入り乱れている。


「へぇ、随分賑わってるし、明るいんだな。オレンジ色の明かりが落ち着くぞ。」
「あ、これ確か魔道具なんですよ。橙色の灯りの。名前は確かトー、トー・・・」
「トォーー?」
「トーーフ!トーフですよ確か!」
「へぇー、変な名前。」
「ここは独特な文化があるんですよ。あの人が着てる服なんかユタカっていうんですよ。」
「一枚布を巻くもののようだが・・・、それがユタカとは不思議な響きだな。」
「豊作祈願でもかかってるんじゃないです?ユタカ、すなわち豊かと。」
「はぇえ~。」


みんな納得してるけど、これ大丈夫か?
道行く現地人が半笑いになってるぞ。
オレらは今、勘違い外国人になってないか?
「ツアーガイド」は気を良くしたのか舌が滑らかだ。


「この国には500万だか600万だかの数の神様がいるらしいですよー。」
「え、居すぎ!名前覚えられないよ。」
「その辺の色んなものに神様が宿ってるとか言ってましたもん。」
「その辺のって、また随分と雑な話だな。」


それを聞いたシルヴィアが、トーフと呼ばれる灯りの元に歩いていった。


「カミサマはじめまして、シルビィだよ!」


トーフの灯りよりも遥かに眩い笑顔での挨拶だ。
神様が居るならノックアウトだろう。
居るならな。


「おおぅい、灯籠の灯り換えとくれ!」
「はぁい、旦那様!」


そんな声が聞こえると、店から出てきた少年がトーフの灯りを換えた。
いま「トウロウ」って言わなかったか?


「あら、その浴衣綺麗ねぇ。高かったんじゃない?」
「そうなの!父様にねだって買ってもらったのよー?」


今度は街行く若い女だ。
確か「ユカタ」って言ったよな?


オレらはさっきまでしたり顔だったアシュリーを見た。
羽で身体を包み込むようにして覆い、両手で真っ赤になった顔を塞いでいる。
オレはアシュリーの耳元で、甘く甘く囁いた。


「ユタカ、すなわち豊かかと・・・。」
「やめてぇー!忘れてぇー私を見ないでぇー!!」


見ないでったって、今この界隈で一番目だってるからな?
弄る度に光輝くこいつは見てて飽きん。


大火傷を負ったアシュリーをそこそこに弄りながら、宿に着いた。
シンデン建築っていう、建物内に大きな庭がある、独特な造りをしていた。
その庭も、灯りや水場が整然と設置されていて、見るものの目を楽しませてくれる。


部屋に着くと、それぞれ荷物を置いた。
食事の前に風呂に入ろう、という話になった。


「じゃあとりあえず風呂いくかー。」
「アルフさん、着替えはこれみたいだよ?持っていこうよ。」
「はぁ、森の賢人たる私は今まで何を学んできたと・・・」
「アシュリー?せっかくの旅行なんだから、楽しみましょう?」
「シルビィお風呂だいすきー!広いといいなぁ!」

「そうじゃのう、シルビィちゃん。ワシと一緒にゆーっくり入ろうぞ。」




・・・え、誰?


気がつくと部屋には見知らぬ爺さんがいた。
プカプカと宙に浮いた、ちっさい爺さんが。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~

三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】 人間を洗脳し、意のままに操るスキル。 非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。 「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」 禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。 商人を操って富を得たり、 領主を操って権力を手にしたり、 貴族の女を操って、次々子を産ませたり。 リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』 王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。 邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!

ごめんみんな先に異世界行ってるよ1年後また会おう

味噌汁食べれる
ファンタジー
主人公佐藤 翔太はクラスみんなより1年も早く異世界に、行ってしまう。みんなよりも1年早く異世界に行ってしまうそして転移場所は、世界樹で最強スキルを実でゲット?スキルを奪いながら最強へ、そして勇者召喚、それは、クラスのみんなだった。クラスのみんなが頑張っているときに、主人公は、自由気ままに生きていく

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

処理中です...