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第1章 平民時代
第15話 後悔ふたたび
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どうしてこうなった・・・。
オレはダイニングテーブルに突っ伏して、頭を抱えてかきむしった。
突然襲ってきた4人組を蹴散らして、黒幕の領主を倒し、リタやエレナが勝手に戦線を抜けて、街の兵を討ち果たしてからしばらくの事。
視線を巡らせるとリタは昼の後片付けをし、エレナは外で走り込み、アシュリーは羽の毛づくろいをしている。
シルヴィアとミレイアは床で人形遊びをし、グレンは離れの小屋に作業に出かけた。
ここまではいい。いつも通りだ。
「お茶とお菓子です、どうぞー。」
「あ、これはどうもご丁寧に、すいやせん。」
「ありがとうございます。お菓子は持ち帰りますので何か手提げをいただけますか?」
ガタイの良い体を必死に小さくさせているおっさんと、真顔で厚かましい事を言う文官風のおっさん。
この二人が途方もない厄介ごとを持ち込んでくれた。
「そういやそうだ、リタ様すいやせん。」
「リタでいいですよぉー。」
「あ、じゃあリタさん。これ街の子供たちからお礼にって。」
「まぁ、綺麗な花・・・。早速飾らせてもらいますね。あの子達にもお礼を伝えてくださいな。」
「ええ、そりゃあもちろん!えへへっ、へへ。」
「アーデン、リタさんに気に入られようと笑顔をがんばってますが、鼻毛が出ては台無しですよ。」
「マジかよ、ちゃんと抜いてきたのに!」
「ええ嘘ですよ。出てなくて良かったですね。」
「てめぇ、このガリッガリ野郎が!」
ヘコヘコしたり花束だしたり口喧嘩したり、こいつら忙しいな。
本題に入らず目の前で口喧嘩し出した街の代表2人に、冷たい目線を送った。
「んで、お前らはその笑えないコントを披露しにきたのか?」
「し!失礼しやした!」
「それとそこの眼鏡、お菓子は持ち帰るんじゃなかったのか?」
「ふいばせん、ふぉのお菓子がおいひいのでいただいてます。ゴクン。
なので土産用にもうひとつください。」
筋肉ダルマの恐縮っぷりと眼鏡野郎のふてぶてしさよ。
話がまとまる気配を見せなくて、オレは軽い頭痛を感じた。
「何度も言うが、オレは領主になんかならんからな。お前らでなんとかしろよ。」
「そ、そこをなんとか。レジスタリアを守れる人はあなた様しかいないんスよ!」
「なんでオレがそこまでしなきゃならん、めんどくさい。勝手にやれよ。」
「そうですよ、貢物も無しに魔王様のお手を煩わせようなんてどういうつもりですか?」
「貢物!これは失礼しやした!具体的に何をおもちすりゃあ・・・」
「まずは住民全員の生爪ですね、一人一枚でかまいません。」
「全員、幼子もですかい?」
「もちろん、そうでなくては偉大なる魔王様の加護を与えることはできません。」
「うーー。わかりやした、病の治療みたいなもんだと思ってそこはどうにか。」
「あと、処女の活き血も必要ですね。若くて極力美しい娘の・・・」
うん、ミレイアちゃん。
今は大人の話をしてるから割り込まないでくれるかな。
向こうでシルヴィアたんと遊んでらっしゃい。
いや、罪深き男の眼球とか言ってないで。
いらないから、そんなグロアイテム欲しくないから。
「確かに魔王様にとっては領主となることは面倒ごとでしょう。」
口の周りにクリームをつけた、ほんとイイ歳のおっさんが口を開く。
「ですが、ここでレジスタリアを治め、今まで通り所か、より良い国にしなければ、一層面倒になりましょう。」
「・・・どういうことだ?」
「成敗されたトルキンはダニのような男でも中央では名の知れた男。アレが倒されるような事態を王家が軽く見るとは思えません。」
「・・・続けろ。」
もったいぶるように話をするクライスという男。
こいつの話術は意外とあなどれないな、もうこいつの術中に嵌っている実感がある。
「では・・・。あのクソゴミのトルキンは狡猾な男で、大金を活かし世を渡り、まさしく油断のならぬ男。味方であるうちは良いが、敵に回ったら夜も眠れぬ。中央で強大な軍事力と影響力を持つ公爵や侯爵連中ですら気にかけていた人物です。邪悪な男ではありましたが、無能な男ではありませんでした。」
オレは口を挟まず聞いていた。
クライスは紅茶を口に含み、間を置いてからカチリと器を鳴らした。
「それだけ老練に立ち回る男が、なすすべもなくほんの一夜で殺されてしまった。暗殺ではなく決戦という手段で。そんな事をやってのける人物が魔王と名乗り、領地のそばに住処を構えている。これを聞いて安穏としていられる領主方は一人として居ない事でしょう。」
クライスの言う事はいちいちもっともだった。
ここまでの推論や推察に異論を挟む余地はない。
「次に打つだろう手はいずれかです。武門の誉れとも言える人物を派遣してレジスタリアを強化し、培った軍事力を駆使して魔王様を弑する方法。もうひとつは途方もない程の軍を派遣してこの森を制圧する方法でしょう。」
「つまりは、オレかオレに与する誰かが強固な地盤を作り上げて、抑止力となる力を見せつけないと平穏はない。そう言いたい訳か?」
「おっしゃる通りです。私の見立てではそういった軍が押し寄せても、歯牙にもかけぬ強さであると推察します。」
「まぁ、昨日みたいなのが万と来ようとやられはしねえが・・・。」
「あなた様がお求めの平穏な日々からはかけ離れた生活でしょう。王家も簡単には手を引かないでしょうから。」
「つまり相手が手を引くまで続く、次の殺し合いが始まるってことか。ほんと面倒だ・・・。」
「でふのでここはふぃとつ、街の者と手をほひはい力をはわへへですね。」
「おい、手土産は多めにやるから菓子を食うのは後にしろ。」
そういってリタに菓子を用意させた。
クライスは真顔のまま、3つでいいですよとか言ってる。
ほんとにふてぶてしいなコイツ!
隣の大男も青い顔になりながら唖然としてるぞ?
「ほんとお前の言う通りだよ、街を支配してもしなくても面倒が付きまとうな・・・。」
「考え方一つかと。今小さい苦労をして大きな面倒を避けるか、小さい苦労を避けて大きな面倒に巻き込まれるか。そういう事ですよ。」
「ああ、なんでこんなことに・・・。オレはただ静かに暮らしたかっただけなのに・・・。」
「魔王様、世界は繋がっているのですよ。何かを成せば必ず別の何かが起きてしまうものです。」
静かに諭されてしまった。
顔をクリーム塗れにしたおっさんに。
しばらくの間は街の統治や防衛について考えなくてはいけない。
陽が昇ってから沈むまで、シルヴィアと一緒に過ごしていた日々が酷く遠く感じられる。
その後に吐いたため息は、本当に、本当に深いところから出てきた。
オレはダイニングテーブルに突っ伏して、頭を抱えてかきむしった。
突然襲ってきた4人組を蹴散らして、黒幕の領主を倒し、リタやエレナが勝手に戦線を抜けて、街の兵を討ち果たしてからしばらくの事。
視線を巡らせるとリタは昼の後片付けをし、エレナは外で走り込み、アシュリーは羽の毛づくろいをしている。
シルヴィアとミレイアは床で人形遊びをし、グレンは離れの小屋に作業に出かけた。
ここまではいい。いつも通りだ。
「お茶とお菓子です、どうぞー。」
「あ、これはどうもご丁寧に、すいやせん。」
「ありがとうございます。お菓子は持ち帰りますので何か手提げをいただけますか?」
ガタイの良い体を必死に小さくさせているおっさんと、真顔で厚かましい事を言う文官風のおっさん。
この二人が途方もない厄介ごとを持ち込んでくれた。
「そういやそうだ、リタ様すいやせん。」
「リタでいいですよぉー。」
「あ、じゃあリタさん。これ街の子供たちからお礼にって。」
「まぁ、綺麗な花・・・。早速飾らせてもらいますね。あの子達にもお礼を伝えてくださいな。」
「ええ、そりゃあもちろん!えへへっ、へへ。」
「アーデン、リタさんに気に入られようと笑顔をがんばってますが、鼻毛が出ては台無しですよ。」
「マジかよ、ちゃんと抜いてきたのに!」
「ええ嘘ですよ。出てなくて良かったですね。」
「てめぇ、このガリッガリ野郎が!」
ヘコヘコしたり花束だしたり口喧嘩したり、こいつら忙しいな。
本題に入らず目の前で口喧嘩し出した街の代表2人に、冷たい目線を送った。
「んで、お前らはその笑えないコントを披露しにきたのか?」
「し!失礼しやした!」
「それとそこの眼鏡、お菓子は持ち帰るんじゃなかったのか?」
「ふいばせん、ふぉのお菓子がおいひいのでいただいてます。ゴクン。
なので土産用にもうひとつください。」
筋肉ダルマの恐縮っぷりと眼鏡野郎のふてぶてしさよ。
話がまとまる気配を見せなくて、オレは軽い頭痛を感じた。
「何度も言うが、オレは領主になんかならんからな。お前らでなんとかしろよ。」
「そ、そこをなんとか。レジスタリアを守れる人はあなた様しかいないんスよ!」
「なんでオレがそこまでしなきゃならん、めんどくさい。勝手にやれよ。」
「そうですよ、貢物も無しに魔王様のお手を煩わせようなんてどういうつもりですか?」
「貢物!これは失礼しやした!具体的に何をおもちすりゃあ・・・」
「まずは住民全員の生爪ですね、一人一枚でかまいません。」
「全員、幼子もですかい?」
「もちろん、そうでなくては偉大なる魔王様の加護を与えることはできません。」
「うーー。わかりやした、病の治療みたいなもんだと思ってそこはどうにか。」
「あと、処女の活き血も必要ですね。若くて極力美しい娘の・・・」
うん、ミレイアちゃん。
今は大人の話をしてるから割り込まないでくれるかな。
向こうでシルヴィアたんと遊んでらっしゃい。
いや、罪深き男の眼球とか言ってないで。
いらないから、そんなグロアイテム欲しくないから。
「確かに魔王様にとっては領主となることは面倒ごとでしょう。」
口の周りにクリームをつけた、ほんとイイ歳のおっさんが口を開く。
「ですが、ここでレジスタリアを治め、今まで通り所か、より良い国にしなければ、一層面倒になりましょう。」
「・・・どういうことだ?」
「成敗されたトルキンはダニのような男でも中央では名の知れた男。アレが倒されるような事態を王家が軽く見るとは思えません。」
「・・・続けろ。」
もったいぶるように話をするクライスという男。
こいつの話術は意外とあなどれないな、もうこいつの術中に嵌っている実感がある。
「では・・・。あのクソゴミのトルキンは狡猾な男で、大金を活かし世を渡り、まさしく油断のならぬ男。味方であるうちは良いが、敵に回ったら夜も眠れぬ。中央で強大な軍事力と影響力を持つ公爵や侯爵連中ですら気にかけていた人物です。邪悪な男ではありましたが、無能な男ではありませんでした。」
オレは口を挟まず聞いていた。
クライスは紅茶を口に含み、間を置いてからカチリと器を鳴らした。
「それだけ老練に立ち回る男が、なすすべもなくほんの一夜で殺されてしまった。暗殺ではなく決戦という手段で。そんな事をやってのける人物が魔王と名乗り、領地のそばに住処を構えている。これを聞いて安穏としていられる領主方は一人として居ない事でしょう。」
クライスの言う事はいちいちもっともだった。
ここまでの推論や推察に異論を挟む余地はない。
「次に打つだろう手はいずれかです。武門の誉れとも言える人物を派遣してレジスタリアを強化し、培った軍事力を駆使して魔王様を弑する方法。もうひとつは途方もない程の軍を派遣してこの森を制圧する方法でしょう。」
「つまりは、オレかオレに与する誰かが強固な地盤を作り上げて、抑止力となる力を見せつけないと平穏はない。そう言いたい訳か?」
「おっしゃる通りです。私の見立てではそういった軍が押し寄せても、歯牙にもかけぬ強さであると推察します。」
「まぁ、昨日みたいなのが万と来ようとやられはしねえが・・・。」
「あなた様がお求めの平穏な日々からはかけ離れた生活でしょう。王家も簡単には手を引かないでしょうから。」
「つまり相手が手を引くまで続く、次の殺し合いが始まるってことか。ほんと面倒だ・・・。」
「でふのでここはふぃとつ、街の者と手をほひはい力をはわへへですね。」
「おい、手土産は多めにやるから菓子を食うのは後にしろ。」
そういってリタに菓子を用意させた。
クライスは真顔のまま、3つでいいですよとか言ってる。
ほんとにふてぶてしいなコイツ!
隣の大男も青い顔になりながら唖然としてるぞ?
「ほんとお前の言う通りだよ、街を支配してもしなくても面倒が付きまとうな・・・。」
「考え方一つかと。今小さい苦労をして大きな面倒を避けるか、小さい苦労を避けて大きな面倒に巻き込まれるか。そういう事ですよ。」
「ああ、なんでこんなことに・・・。オレはただ静かに暮らしたかっただけなのに・・・。」
「魔王様、世界は繋がっているのですよ。何かを成せば必ず別の何かが起きてしまうものです。」
静かに諭されてしまった。
顔をクリーム塗れにしたおっさんに。
しばらくの間は街の統治や防衛について考えなくてはいけない。
陽が昇ってから沈むまで、シルヴィアと一緒に過ごしていた日々が酷く遠く感じられる。
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