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第三部

3ー43 パンツマン Lタイプ

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アランを先導にオレとエリシアは、プリニシアの領土を進んでいった。
こいつの脳内には精細な地図でもあるのか、数々の哨戒線も砦の索敵エリアも、見事にかわし続けている。
その代わり、侵入ルートは深い森や断崖絶壁の渓谷が選ばれたが、敵兵に見つかるよりはずっとマシだった。


「ダンナ、お疲れさん。間もなくプリニシア王都だ。こんな無茶なルート進めたのも、ダンナの力あってこそだな」

「あいよお疲れ。すげぇよお前、ここまで見つからなかったぜ」

「確かに優秀。私を変な目で見なければ文句ナシ」

「いええ、エリシアさん。オレはそんな……言いがかりは勘弁してくれよ!」

「崖の登りでお尻を、降りで胸元を見られた。ちなみにお尻7回、胸が5回」

「そうなのかアラン。こういうのが良いのか?」

「勘弁してくだせぇよ。ダンナの女に手を出すほど命知らずじゃねぇっての」

「良い。今のフレーズもう一回言ったら許してあげる」

「ええ? ダンナの女……ですかい?」

「ふぅ……ありがとう。あなたの罪は今許された」


何か赦免されたぞ。
この流れは要るか?

それはともかく潜入だ。
プリニシアの城壁は高く、そして厚い。
いつだったか魔獣の大軍を前にしてもビクともしなかった護りだ。
兵の配置も無駄がなく、入り口はもちろん壁の上も隙間無く配置されている。
大国の王のお膝元は兵士は、士気や練度も十分のようだ。


「こっからだよなぁ。夜陰に紛れるしかないか?」

「ダンナ。そんな事しなくても妙策があるよ。あそこの林までいいかい?」


アランはオレたちを連れて、街道から外れた林へと向かった。
そこには木々に隠された立派な馬車があり、御者らしい人物が一人だけ待ち受けていた。
フードを目深に被った怪しげな男。
彼はアランと短く会話をし、麻の小袋を受けとると音もなく消えた。


「アラン。今の男は?」

「まぁ、気にしないで。胡散臭ぇが、信用できる連中なんで」

「信用ねぇ……ほんとかよ」

「少なくとも、金をキッチリ払えば間違いないってね。じゃあお二方は荷台の方に潜ってもらえるかい? 布を目張りにして」

「ライル。この密閉空間は素晴らしい。ここで私の初めてを貫いてしまおう」

「お前状況わかってんのか? 下手すりゃ槍先で全身を貫かれんだぞ、比喩抜きで」

「おふたりとも、そういうのは後で頼むよ? このまま門を突破するんでね」


アランは鞭をくれた。
逞しく、値の張りそうな馬が走り出す。
荷台の中は陶器の壺やらでひしめいていて、段差の度にガタガタ鳴った。
耳障りだが、オレらの気配をうまく消してくれそうでもある。

しばらく進むと速度が相当に落ちた。
ざわめきの大きさから、門の入り口に辿り着いたようだ。


「止まれ! その馬車は何用か!」


衛兵の鋭い声が響く。
荷台を調べられでもしたら一発でバレそうだが、アランに考えはあるのか。


「あいご苦労さん。オレはクウギョ閣下の使いだよ。後ろの荷は今日の催しの為のもんだ。早いところ通してくれないか?」

「く、クウギョ卿の? 話は聞いてないが……」

「へぇ。グランの上級貴族たるクウギョ閣下の御命が、アンタら門番の責務より劣るってのかい」

「そう言われてもこちらとて治安を維持する役目があるのだ。手間はかけさせんから、何か証拠をだな……」

「はぁ、仕方ねぇな。ほらよ、これ見りゃ納得いくだろ?」

「その封蝋は、確かに間違いない。クウギョ卿のもの。手紙の中をあらためさせてもらっても?」

「バカ言うな。勝手に封切ってみろ。オレはもちろん、お前ら全員血祭りだぞ?」

「むぅ……。わかった、通ってよし」


それきり馬車は止められる事は無かった。
市場や雑踏のざわめきが激しくなり、街に侵入できたことを示している。
オレはとりあえず状況の確認を問いただした。


「アラン。もう大丈夫か?」

「危険は脱したがね。そのままジッとしてくれた方が安全ってヤツだなぁ」

「お前はさっきナンタラ卿の話をしてたが、ハッタリか?」

「いやいや。今日は胸っクソ悪い公開処刑があるんですわ。おかげで潜り込む口実に使えたがね」

「処刑って、中央広場のか?」

「たぶん、ね。わざわざ刑場まで作らせやがって……。そうまでして人を見せしめにしたいかねぇ」 


布の隙間から見えたのは、疎らな群衆。
木製の平たい舞台。
そこに繋がれた複数人の人物。
まだ幼い子供も混じっている。
そのうちの一人を見て、オレはアランに停車を命じた。


「アラン、止まれ」

「ええ? ダンナ、勘弁してくれよ。寄り道してるゆとりは無いんだぜ?」

「良いから。顔見知りが居る」

「……あの処刑者の中にですかい?」


あの男は間違いない。
いつか衝突した敵の将軍だ。
アシュリーが狂ったとき、投石で正気に戻してくれた、あの指揮官だ。


「おい、この胸くそ悪いイベントとやらについて教えろ」

「数々の重要な戦いで負け続きの将を、見せしめのために殺すんだとさ。本人だけじゃなく、家族もな」

「子供まで手にかける事はねぇだろ。あれはたぶん4歳くらいだぞ!?」

「オレに当たらないでくれよ。これがヤツらのやり方、何も珍しくはねぇって」


オレが驚愕の思いで眺めていると、会場の様子が大きく変わった。
毛布でくるまれた赤子が掲げられ、台のところへ置かれる。
群衆は悲嘆に暮れたような声をあげるばかりになった。
まさか、赤子まで殺すつもりなのか。

血の気が引き、怒気が全身を駆け巡っていくのを感じた。


「ちょっとダンナ、どこへ行くんだい? まさか処刑場じゃないでしょうね?」
 
「ちょっと寄り道くらい良いだろ」

「あのね。その寄り道の先が袋小路ってことなんかザラだぞ? 気持ちは分かるけど、どうにか堪えてくれよ」

「ライル。私も反対。そのままじゃ目立つ」

「なんだよエリシア。お前まで見捨てろって言いたいのか?!」

「ううん。助けるかどうかはさて置いて、魔王がここに居るって知られちゃマズイよね? 前々回の戦争で顔見られてるよね?」

「そりゃそうだけどよ。黙ってみてろっていうのか?」

「安心して。私に妙案がある」


その瞬間エリシアは器用にも、オレの服を脱がし、パンツ一丁としてしまった。
そして麻袋が頭から被せられた。
……これはもしかして。


「さあ行け。哀しき戦士、パンツマン・L(レジェンド)よ。存分に破壊するが良い」

「するが良いじゃねぇよ。つうかよ、頭がモサモサしてねぇか?」

「そりゃあ、レジェンドタイプだから。Lタイプだから」

「だ、ダンナぁ。そりゃ何の真似ですかい? なんつうか、手遅れの人にしか見えない……」

「無礼者ッ!」

「グハァッ!」


パシィンという音と共にアランが吹っ飛んだ。
頭がもげそうな程のビンタだったが、首は繋がったままだった。


「何すんだよ、エリシアさん! 死ぬかと思ったぞ!」

「だまらっしゃい。この美しさ、儚さ、哀愁を理解できない低脳は死んでしまえば良い!」

「つうことはオレも死ねと? 一度だって理解したつもりはねぇ……」

「さぁ行くのだパンツマンよ。世界の哀しみを胸に抱きつつ!」

「無視すんなよオイ」


ともかくジャレあってる場合じゃない。
今は眼前の下らん処刑を止めるのが最優先だ。
エリシアの病については、あとでゆっくり治療するとしよう。

ちなみにだが、パンツマンS(スマート)や、パンツマンM(マジョリティ)ってのがあるらしい。
クソどうでもいいっつの!
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