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第三部
3ー33 雪上の狼
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まおダラ the 3rd
第33話 雪上の狼
豊穣の森を出て灰エリアを抜けると、広大な針葉樹林帯になる。
その先は一面が雪景色で、見ただけで寒そうだった。
オレの場合は魔力で守られてるから平気だが、連れもそうとはならない。
北の空は異様に寒く、エリシアが根をあげた。
いや、正確には『空は凍える。全裸でお互いを暖めあおう』なんて言い出したんだっけ。
だから即座に着地。
魔王さん素直。
「ごめん、ライル。足手まといになって」
「いや、そうでもないぞ。本拠地にいきなり現れるよりも、こうして地上から徐々に入り込んだ方が警戒されにくい。付近の様子も分かるしな」
「私の事は気にしないで。今すぐ裸にして、湯タンポ代わりにしてくれて構わない」
「……どうして家の女たちってのは、人の話を聞かないかねぇ」
グランの攻撃部隊は遥か東、大陸の中央部から侵攻しようとしてるらしい。
かち合うと面倒だから、オレたちは南西方面から入国だ。
といっても、別に砦やら国境線がある訳じゃない。
おおよそのテリトリーに入っただけの事だ。
「さて、こっからがお隣さんの領地か。どんな様子かねぇ」
「ライル。気づいてる? 捕捉された」
「いいや。どこだ?」
「前方やや右手。5体の4つ足」
「そうか。助かったぞ」
「貢献した。『大人のイイコイイコ』を所望する」
「ふざけてないで敵に備えろ」
まばらな雪が地面を隠す。
その上を軽快な足音がいくつも鳴らす。
直後に唸り声。
彼らなりの警告が飛んできた。
「グレートウルフか、懐かしいな」
「ライル、突破? それとも殲滅?」
「殲滅ってお前……あの様子を見てよくそんな事言えんな」
現れたのは勇壮なるグレートウルフ……とはほど遠かった。
尻尾は完全に垂れて、さらに腰が引け過ぎて、尻尾を下敷きにしている。
それでも必死に牙だけ剥けているのは、群れのリーダーへの忠誠心からだろう。
こんな健気な子たちを傷つけたくはない。
「確かに。これでもかってくらい怯えてる」
「どうすっかな。強引に突破したら、攻撃してくるよなぁ」
「加減して、戦闘不能にする?」
「それすらも嫌だけど、仕方がねぇか……」
オレが棒を構える。
それだけでウルフたちはビクッと身動ぎ、プルプルと震え始めた。
あぁ、すげぇ嫌だ。
弱いもの虐めにしか見えないよな、これ。
それからは膠着状態。
頼むから逃げてくれ、と気を放つオレ。
恐怖にかられながらも、懸命に役目を守ろうとするウルフたち。
エリシアも剣を抜き放ち、威圧する。
それでもウルフは耐える。
ちくしょう、頭をワシワシ撫でて誉めてやりたいくらいだ!
その時、木々の奥から鋭い声が響いた。
「やめろ! お前たちで敵う相手じゃない!」
弾かれたようにウルフたちが飛びすさった。
どうやらボスのお出ましらしい。
ひとまず構えを解いて出迎える事とした。
現れたのは大きなグレートウルフに股がる、美青年だった。
ムカつくくらいのイケメンだ。
「お前がここの親玉か? オレは豊穣の森の……」
「ジィジ! やっぱりジィジだーッ!」
「アォオオン! ォオン!」
グレートウルフと青年のタックル。
あまりの予想外の言動に、オレはまともに受け止めてしまった。
何で親しげな様子なんだよオイ。
ワンコは顔を舐めるな、獣くさっ!
「何だよお前ら! 離れろっつの!」
「ジィジ、僕だよ。ケビンだよ!」
「ケビンってお前が!? じゃあこっちのワンコは」
「コロだよ、おっきくなったでしょ?」
「アォオオン! アォオオーンッ!」
「マジかよ。でけぇな……うっぷ」
場合によっては一戦も、なんて考えてたが、それは杞憂だった。
なにせボスらしき青年はオレの首に抱きつき、ワンコの親玉なんか顔をベロベロ舐めてきてるんだから。
コラッ、おしっこ漏らすんじゃない。
「エリシア。眺めてないで助けてくれよ」
「なるほど、なるほど」
「何を感心してんだ」
「想い人を美青年に寝取られる、そういうのもあるのね」
「良く判らんがすぐに謝れ」
妙なリアクションのエリシアはさておき。
今回の同盟話は上手く運びそうだ。
案外日帰りで戻れるかも。
……なんて考えはさすがに甘すぎた。
苦労無しに成果は得られないという事は、この世の真理なのだから。
第33話 雪上の狼
豊穣の森を出て灰エリアを抜けると、広大な針葉樹林帯になる。
その先は一面が雪景色で、見ただけで寒そうだった。
オレの場合は魔力で守られてるから平気だが、連れもそうとはならない。
北の空は異様に寒く、エリシアが根をあげた。
いや、正確には『空は凍える。全裸でお互いを暖めあおう』なんて言い出したんだっけ。
だから即座に着地。
魔王さん素直。
「ごめん、ライル。足手まといになって」
「いや、そうでもないぞ。本拠地にいきなり現れるよりも、こうして地上から徐々に入り込んだ方が警戒されにくい。付近の様子も分かるしな」
「私の事は気にしないで。今すぐ裸にして、湯タンポ代わりにしてくれて構わない」
「……どうして家の女たちってのは、人の話を聞かないかねぇ」
グランの攻撃部隊は遥か東、大陸の中央部から侵攻しようとしてるらしい。
かち合うと面倒だから、オレたちは南西方面から入国だ。
といっても、別に砦やら国境線がある訳じゃない。
おおよそのテリトリーに入っただけの事だ。
「さて、こっからがお隣さんの領地か。どんな様子かねぇ」
「ライル。気づいてる? 捕捉された」
「いいや。どこだ?」
「前方やや右手。5体の4つ足」
「そうか。助かったぞ」
「貢献した。『大人のイイコイイコ』を所望する」
「ふざけてないで敵に備えろ」
まばらな雪が地面を隠す。
その上を軽快な足音がいくつも鳴らす。
直後に唸り声。
彼らなりの警告が飛んできた。
「グレートウルフか、懐かしいな」
「ライル、突破? それとも殲滅?」
「殲滅ってお前……あの様子を見てよくそんな事言えんな」
現れたのは勇壮なるグレートウルフ……とはほど遠かった。
尻尾は完全に垂れて、さらに腰が引け過ぎて、尻尾を下敷きにしている。
それでも必死に牙だけ剥けているのは、群れのリーダーへの忠誠心からだろう。
こんな健気な子たちを傷つけたくはない。
「確かに。これでもかってくらい怯えてる」
「どうすっかな。強引に突破したら、攻撃してくるよなぁ」
「加減して、戦闘不能にする?」
「それすらも嫌だけど、仕方がねぇか……」
オレが棒を構える。
それだけでウルフたちはビクッと身動ぎ、プルプルと震え始めた。
あぁ、すげぇ嫌だ。
弱いもの虐めにしか見えないよな、これ。
それからは膠着状態。
頼むから逃げてくれ、と気を放つオレ。
恐怖にかられながらも、懸命に役目を守ろうとするウルフたち。
エリシアも剣を抜き放ち、威圧する。
それでもウルフは耐える。
ちくしょう、頭をワシワシ撫でて誉めてやりたいくらいだ!
その時、木々の奥から鋭い声が響いた。
「やめろ! お前たちで敵う相手じゃない!」
弾かれたようにウルフたちが飛びすさった。
どうやらボスのお出ましらしい。
ひとまず構えを解いて出迎える事とした。
現れたのは大きなグレートウルフに股がる、美青年だった。
ムカつくくらいのイケメンだ。
「お前がここの親玉か? オレは豊穣の森の……」
「ジィジ! やっぱりジィジだーッ!」
「アォオオン! ォオン!」
グレートウルフと青年のタックル。
あまりの予想外の言動に、オレはまともに受け止めてしまった。
何で親しげな様子なんだよオイ。
ワンコは顔を舐めるな、獣くさっ!
「何だよお前ら! 離れろっつの!」
「ジィジ、僕だよ。ケビンだよ!」
「ケビンってお前が!? じゃあこっちのワンコは」
「コロだよ、おっきくなったでしょ?」
「アォオオン! アォオオーンッ!」
「マジかよ。でけぇな……うっぷ」
場合によっては一戦も、なんて考えてたが、それは杞憂だった。
なにせボスらしき青年はオレの首に抱きつき、ワンコの親玉なんか顔をベロベロ舐めてきてるんだから。
コラッ、おしっこ漏らすんじゃない。
「エリシア。眺めてないで助けてくれよ」
「なるほど、なるほど」
「何を感心してんだ」
「想い人を美青年に寝取られる、そういうのもあるのね」
「良く判らんがすぐに謝れ」
妙なリアクションのエリシアはさておき。
今回の同盟話は上手く運びそうだ。
案外日帰りで戻れるかも。
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