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第三部
3ー32 クライスさんはお怒りの様子
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まおだら the 3rd
第32話 クライスさんはお怒りの様子
「まったくもって不十分。内政が何たるかを知らぬ者ばかりです」
執務室で、クライスが珍しく声を荒げた。
その弾みで机にそびえ立つ、2柱の生クリームの塔がプルプルと揺れる。
糖分に塗れる日々は相変わらずらしい。
オレはお前に節度を教えてやりたいよ。
「砂糖の備蓄が極めて少ない。この国の者たちは私が一日にどれだけ消費しているか知らないのでしょうか」
「知らねぇし、知る気もねぇ」
「まぁ、個人的に備蓄を山のように抱え込んでおりますので、全く問題ないのですが」
「じゃあ今の話は何だったんだよ。焼くぞ」
素朴な疑問だが、コイツをこんがり焼いたらどうなるんだ。
カルメ焼きみたいになんのか?
すっげぇ甘い臭いしそう。
「さて、微笑ましい冗談はさておき」
「全く笑えなかったぞ」
「さしあたって流通問題に対処すべきですな。取引相手がヤポーネだけでは少なすぎます」
「やっぱり厳しいよなぁ。グランやプリニシアとは断絶、ゴルディナは敵寄り。コロナは?」
「グランの支配下です。交易を望むなら一戦を交える必要があります」
それは現実的じゃない提案だ。
オレが直接出向けば陥とせるだろうが、その隙を突かれてレジスタリアが攻撃されかねない。
そうなると迎撃に難がある。
リタやアシュリーでは黒鉄兵とは戦えないし、エリシア一人に任せるには敵が多すぎる。
更にコロナが支配下になったとしたら、広大な領土をオレ一人で守る必要がでてしまう。
そんな危ない橋を渡るわけにはいかない。
「今は厳しいな。戦力が足りない」
「いまは勢力圏を広げるよりも、地固めすべきかと。統治が安定すれば国力も自然と上がるものです」
「でも、流通問題はどうするんだよ? 食い物が足りないのか?」
「食料に関しては、次の収穫まで持ちますので問題ありません。さらには農地拡大を奨励し、翌年以降の収穫量も増やします」
「じゃあ何がネックなんだよ」
「鉄です。軍備にしろ産業にしろ、鉄は必須です。それが国中で不足しております。まずはこの問題を解決しないことには、富国策など望めません」
鉄は原料も製品も不足しきっていた。
何せグランによって国中から巻き上げられ続けたのだから、解消にも時間がかかるだろう。
収容所にあった鉄板も全て回収したが、それでも焼け石に水だった。
更にはその中からヤポーネへの交易品も捻出するのだから、不足分を穴埋めするには少なすぎた。
「そうすると、やっぱりコロナに侵攻か……。うーん」
「領主様。獣亜連合と結ばれてはいかがですか?」
「じゅーあ連合? 知らねぇな」
「大陸北西部の豪雪地帯に、獣人と亜人だけで構成された国があります。現在はグランと交戦中のため、余分な鉄は少ないかも知れませんが」
「当たってみる価値はある、と。つうかそんな国ができてたんだな」
「まだ誕生して50年程ですが、中々に頑強です。兵は強く戦略的。自然環境を巧みに利用し、グランの猛攻を退け続けています。その勇猛な兵の中でも、グレートウルフを従えている青年の活躍が目覚ましいとか」
「なるほどね。味方を増やすと後々楽だし、試してみるか」
「北方に向かわれるのでしたら、土産をお願いします。氷結の湖畔という場所に珍しい果物が……」
「じゃあオレは行ってくる。留守は任せたぞ」
クライスの言葉が終わる前に部屋から飛び出した。
オレは遊びで行くんじゃねえってのに、当然のように名品を要求しやがる。
今度こっそりと、クソ苦い薬でもクリームに混ぜてやろうか。
とりとめもない企みがまとまる前に帰宅。
家に入ると、中にはアシュリーとエリシアが居た。
リタや子供たちの姿はない。
「他のみんなは?」
「ちょっと森の方に花を摘みに行ってますよ。飾るものを探して来るそうです」
「そっか。オレはこれから北の国へ出掛ける。3日くらいで帰ってくるから、リタにも伝えておいてくれ」
「りょーかいでっす。一人で?」
「いや、エリシアも連れていく。良いよな?」
「ライル、私に任せてヒロイン。誰が何と言おうとヒロインは私。頑張るヒロインし、いつも傍にヒロイン」
「何言ってんだお前。普通に喋れよ」
「ついてく」
「おう」
取り憑かれた様に連呼したけど、何があったんだよ。
またアシュリーに変な事でも吹き込まれたのか?
そう思って容疑者を見る。
そいつは口笛を吹く。
誤魔化せてないぞ。
「じゃあ行ってくるぞ。留守よろしくな」
「アシュリーさん。行ってくる。それから一発キメてくる」
「はいはーい、ご武運をー」
アシュリーとエリシアが意味深な目配せをする。
絶対何かあるだろ、怖ぇよ。
うっすらとだが、嫌な予感が止まらない。
それはエリシアを抱えて飛んでいる間も晴れなかった。
この寒気は、北に向かって移動しているからだと思いたい。
第32話 クライスさんはお怒りの様子
「まったくもって不十分。内政が何たるかを知らぬ者ばかりです」
執務室で、クライスが珍しく声を荒げた。
その弾みで机にそびえ立つ、2柱の生クリームの塔がプルプルと揺れる。
糖分に塗れる日々は相変わらずらしい。
オレはお前に節度を教えてやりたいよ。
「砂糖の備蓄が極めて少ない。この国の者たちは私が一日にどれだけ消費しているか知らないのでしょうか」
「知らねぇし、知る気もねぇ」
「まぁ、個人的に備蓄を山のように抱え込んでおりますので、全く問題ないのですが」
「じゃあ今の話は何だったんだよ。焼くぞ」
素朴な疑問だが、コイツをこんがり焼いたらどうなるんだ。
カルメ焼きみたいになんのか?
すっげぇ甘い臭いしそう。
「さて、微笑ましい冗談はさておき」
「全く笑えなかったぞ」
「さしあたって流通問題に対処すべきですな。取引相手がヤポーネだけでは少なすぎます」
「やっぱり厳しいよなぁ。グランやプリニシアとは断絶、ゴルディナは敵寄り。コロナは?」
「グランの支配下です。交易を望むなら一戦を交える必要があります」
それは現実的じゃない提案だ。
オレが直接出向けば陥とせるだろうが、その隙を突かれてレジスタリアが攻撃されかねない。
そうなると迎撃に難がある。
リタやアシュリーでは黒鉄兵とは戦えないし、エリシア一人に任せるには敵が多すぎる。
更にコロナが支配下になったとしたら、広大な領土をオレ一人で守る必要がでてしまう。
そんな危ない橋を渡るわけにはいかない。
「今は厳しいな。戦力が足りない」
「いまは勢力圏を広げるよりも、地固めすべきかと。統治が安定すれば国力も自然と上がるものです」
「でも、流通問題はどうするんだよ? 食い物が足りないのか?」
「食料に関しては、次の収穫まで持ちますので問題ありません。さらには農地拡大を奨励し、翌年以降の収穫量も増やします」
「じゃあ何がネックなんだよ」
「鉄です。軍備にしろ産業にしろ、鉄は必須です。それが国中で不足しております。まずはこの問題を解決しないことには、富国策など望めません」
鉄は原料も製品も不足しきっていた。
何せグランによって国中から巻き上げられ続けたのだから、解消にも時間がかかるだろう。
収容所にあった鉄板も全て回収したが、それでも焼け石に水だった。
更にはその中からヤポーネへの交易品も捻出するのだから、不足分を穴埋めするには少なすぎた。
「そうすると、やっぱりコロナに侵攻か……。うーん」
「領主様。獣亜連合と結ばれてはいかがですか?」
「じゅーあ連合? 知らねぇな」
「大陸北西部の豪雪地帯に、獣人と亜人だけで構成された国があります。現在はグランと交戦中のため、余分な鉄は少ないかも知れませんが」
「当たってみる価値はある、と。つうかそんな国ができてたんだな」
「まだ誕生して50年程ですが、中々に頑強です。兵は強く戦略的。自然環境を巧みに利用し、グランの猛攻を退け続けています。その勇猛な兵の中でも、グレートウルフを従えている青年の活躍が目覚ましいとか」
「なるほどね。味方を増やすと後々楽だし、試してみるか」
「北方に向かわれるのでしたら、土産をお願いします。氷結の湖畔という場所に珍しい果物が……」
「じゃあオレは行ってくる。留守は任せたぞ」
クライスの言葉が終わる前に部屋から飛び出した。
オレは遊びで行くんじゃねえってのに、当然のように名品を要求しやがる。
今度こっそりと、クソ苦い薬でもクリームに混ぜてやろうか。
とりとめもない企みがまとまる前に帰宅。
家に入ると、中にはアシュリーとエリシアが居た。
リタや子供たちの姿はない。
「他のみんなは?」
「ちょっと森の方に花を摘みに行ってますよ。飾るものを探して来るそうです」
「そっか。オレはこれから北の国へ出掛ける。3日くらいで帰ってくるから、リタにも伝えておいてくれ」
「りょーかいでっす。一人で?」
「いや、エリシアも連れていく。良いよな?」
「ライル、私に任せてヒロイン。誰が何と言おうとヒロインは私。頑張るヒロインし、いつも傍にヒロイン」
「何言ってんだお前。普通に喋れよ」
「ついてく」
「おう」
取り憑かれた様に連呼したけど、何があったんだよ。
またアシュリーに変な事でも吹き込まれたのか?
そう思って容疑者を見る。
そいつは口笛を吹く。
誤魔化せてないぞ。
「じゃあ行ってくるぞ。留守よろしくな」
「アシュリーさん。行ってくる。それから一発キメてくる」
「はいはーい、ご武運をー」
アシュリーとエリシアが意味深な目配せをする。
絶対何かあるだろ、怖ぇよ。
うっすらとだが、嫌な予感が止まらない。
それはエリシアを抱えて飛んでいる間も晴れなかった。
この寒気は、北に向かって移動しているからだと思いたい。
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