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第三部

3ー31  復活の儀

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まおダラ  the  3rd
第31話 召喚の儀



今日の夜にレジスタリアの住民を街の広場に集めるよう、ベンリーに伝えた。
魔王さん自らの手で、伝説上の生き物を復活させてやる、という名目で。
画面越しからは可哀想になるくらい疲れきった返答が返ってきた。

ーーその苦労も間もなく終わる、今後はクライスが地獄を見るんだ。

そう思いはしつつも伝えはしなかった。

そしてもう一つの準備は、子供たちにも手伝ってもらった。
ちょっと変わった木の枝がほしかったので探してくるよう頼んだ。

しばらくすると、ミアは人骨をどこかから拾ってきた。
何でだよ。
本人には手を洗わせ、骨は外へポーン。

シンディは小さな花を摘んできた。
依頼品と大分違うけどありがとう。
リタに頼んで飾ってもらった。

最後にアーサー兄様。
さすがに彼の仕事ぶりは上々だった。
一本の長い枝に古びたツタが絡まっていて、さらにまだ若い葉っぱが数枚枝から生えている、なんともイメージ通りの物を持ってきてくれた。
素晴らしい、神秘的な見た目!
全力で褒め称えると、彼は少し照れたように頬を掻いた。


「さてと、準備は整ったな。着替えは済んだか?」
「大丈夫。バッチリ」
「私もですよ、いつでも行けます」
「リタ殿。タルトのお代わりはありますか?」
「もう無いわ。さっきので最後ね」


オレたちは全員で黒い布を羽織っている。
ボロ服を隠す為でもあるが、他にも意味はある。
ひとつは、アシュリーの姿を人から隠すため。
アイツには色んな演出を担当してもらうからな。

そしてエリシア。
コイツにだけは白い布を被らせている。
巫女として演じてもらうのだが、他の面子は全員黒い格好だからさぞかし目立つはずだ。


「ライルみてみて。ヒラヒラだよ」
「おっ、そうだな」
「こんな際どい格好は初めて。色々でちゃう」
「おっ、そうだな。中にもう一枚着ろ」
「ノリ悪い。もっと覗き込むくらいしないと。乳首に興味持たないと」
「おっ、そうだな」


むくれるヒラヒラ女を宥めつつ日暮れを待つ。
そして夜が更けた。
子供たちの世話はアーサー兄貴に任せ、オレたちはレジスタリアの街の広場へと向かった。

到着すると、広場の中央だけでなく、通りも人で埋め尽くされていた。
関心の高さがうかがえるな。
アシュリーとクライスを空に待機させ、残りは地面に降り立った。


「魔王様。お約束通り街の者を集めました」


ベンリーが先頭に立って言う。
すっかりやつれた顔が痛々しい。
無理させて悪かったよ、ほんと。


「いいか、みんなよく聞け! レジスタリアには内政を任せられる程の人材が居ない! だからオレが適任者を召喚してやる!」
「もしや、魔王様に縁ある内政官といえば……」
「これから儀式を行う。気の乱れが怖いから、なるべく静かにするように」
「聞いたか! 許しがでるまで口を開くんじゃないぞ!」


オレは目配せをした。
するとエリシアは、先程の枝を片手に皆の前に進み、お辞儀をする。
この後は剣舞をしてもらう手筈だ。
別にそんなものは必要ないが、雰囲気作りには調度良い。

夜空に向かって掲げられる不思議な枝。
事情を知らなければ神木か何かに見えるだろう。
片手で持ち上げられた枝は、ゆっくりと両手持ちとなり、そして……。


「てぃっ! てぃっ! てやぁっ!」


強い掛け声と共に何度も振り下ろされた。
違う、そうじゃねぇんだよ。
もっと踊るように、舞うような姿を期待してたんだよ。
袖や裾がヒラヒラしてる理由を考えて欲しかったぞ。


「舞い、終わる!」


エリシアが強く言うと、枝が地面に叩きつけられた。
するとパキリという乾いた音を立てて、真ん中から2つに折れた。
神木だったらどうするんだオイ。


「あらぁ、壊しちゃったの? これは有りなのかしら?」
「リタ。強引に進めるぞ、次頼む」
「まぁ良いけれど」


足元には無惨な枝。
その手前に進んだリタが、両手を合わせて気を集中させた。
風魔法の発動だ。
効果範囲は最大、かつ威力は最低にしてある。
変化としては強い風が吹くくらいだが、演出するだけなら十分な効果がある。
服の裾がバタバタと音を立てて揺れ、頬も強風に押され始めた。


「ライルみてみて。服が風で捲れて、私はもう大惨事」
「何がだよ。中にちゃんと着てるだろ」
「ノリ悪い。そこは鼻息を荒くして反応しないと」
「儀式中だ黙ってろ」


ひとしきり風を吹かせた後、今度は空に向けて吹き上げさせた。
そして止める。

一瞬だけ体が浮いた住民たちは、わずかに驚きの声をあげた。
微妙な雰囲気は挽回できたみたいだ。
次はオレの番、キッチリ決めてやる。


「出てこいクライスッ! 死後の世界から甦れーッ!」


その声を合図に、アシュリーが空から雷をおとした。
見事に木の枝に命中し、辺りには塵や埃が舞い上がる。
そして間髪置かずに、その落下点にクライスを着地させる。

視界が晴れて、次第に黒づくめの男の姿が見えてくる。
街の人たちも口々にどよめきだした。
さぁお膳立ては終わりだ。
最後にバシッと決めてくれよ。


「はい。どうもクライスです。これから宜しくお願いします」


温度差この野郎!
これまでの準備この野郎!


「では早速現状のすり合わせから。ベンリー殿、執務室にご案内いただけますか」
「は、はいっ。こちらへどうぞ」


街の人たちは歩き去っていく2人を見送った。
まばたきを忘れてしまったかのように。
口の閉じ方を失ったかのように。


「ライル、これで良かったの?」
「わからん。そして、締めはどうすりゃいい?」
「フハハ系でいいんじゃない? また会おう的な」
「ふ、フハハ! これにて儀式は完了した! レジスタリアの諸君、また会おう!」


黒い布を翻してから、夜空へと飛び立った。
というか逃げた。
最後の台詞も自棄気味に叫んでやったぞ。
それからは達成感も無いままに、何となく気まずい空気の中就寝した。

翌日。
興奮気味なベンリーから通信が入った。


「魔王様、あの方は素晴らしい! 伝説通り、いやそれ以上です!」
「そうかい。そりゃ良かった。問題は片付きそうか?」
「着手したばかりですが、驚愕するほどに的確な動きですよ。気になる点と言えば……」
「何か不都合があるのか?」
「いえ、少し話が逸れます。なぜクライス様は、あれだけ飲み食いしても平然としてらっしゃるのですか?」


知らん。
それはオレの方が教えて欲しいくらいだ。


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