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第三部

3ー29  エースを捜せ

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まおダラ  the  3rd
第29話 エースを捜せ



分かっていたことだが、やる事が多すぎる。
レジスタリアだけでも統治機構の確立に軍再編に物流復活に下層民や病人の救済に遠征に対外対処にむにむにむに。

豊穣の森でもそうだ。
木々が死んでしまったエリアの復活、収容所の本格的な調査と破壊、龍脈の確認。
さらにはシンディを見守り、共に遊び、ご飯をたらふく食べて、お風呂にゆったり浸かって、寝る前に読み聞かせてやる。
こんなにも多忙。
多忙多忙アンド多忙。

だからレジスタリアの方はノータッチとし、ベンリーという男に全て一任したのだ。
そのまま一ヶ月は何事もなく過ぎたのだが。


「魔王様、私ではこれ以上こなせません! どうにか正式な統治者を配属してください!」


その結果、男泣きを見る羽目になってしまった。
画面越しにすら伝わる熱量は、彼の本気を表している。


「えー、お前でいいじゃん。やれるやれる」
「自分の能力は自覚しています、せいぜいが小店ひとつが限界です! 領地経営などもっての他! なにとぞお聞き届けください!」
「マジかよ。クライスだったら顔色変えずに片付けちまうんだがなぁ」
「それはもしや、伝説の名宰相クライス卿の事ですか?! あのような大偉人と比べられては、私なんぞは居ないも同然です!」
「わかったわかった。悪かったよ。近日中に対処するから」
「……お願い申し上げます、それでは」


通信が終わる。
つい口約束を結んでしまったが、当てなんか無い。
どうしたもんか。
それよりもクライスの野郎は伝説の宰相とか呼ばれてんのかよ、笑える。

あんなヤツ大したことねぇのにな。
糖分補給が出来なくなると、スライムみたいに不定形になるし。
月の半分は休み取ってるし。


「さて、家にいても仕方ないな。外に行くか」
「魔王様。ぜひともミアをお連れください」
「そりゃ良いけど、どうして抜き身のナイフをもってるのかな? そして素敵な笑顔をしてるのかな?」
「先程の、咎人の始末をなさるのでしょう?畏れ多くも魔王様に直談判などと。腸をすべて引きずり出してやります」
「魔王さんやだわー。そういうの嫌いやわー。そもそもアイツ悪くないから罰したくないわぁー」


魔王流の処世術。
幼心を傷つけないようにやんわりとした拒絶だ。
今回はそれが成功したらしい。
ミアが少し肩を落としてしょげたのだ。


「すみません魔王様。私はまだまだ解らないことが多くて」
「いいんだ。少しずつ世の中を知って、大人になればさ」
「ナイフのお手入れが下手なのです。だからその様におっしゃるのですね?」
「フフッ。この子は話を聞いてくれません」


この子は見えている世界が狭すぎるんだ、もっと色々と触れさせてやるべきだろう。
興味が別に移れば言動もきっと変わる。
変わってくれ頼むから。

そんな祈りとともにレジスタリアへやってきた。
もちろんミアをつれて。
視察ついでに社会勉強をしてもらおうという寸法だ。


「魔王様、やはりレジスタリアは広いです。私は初めてなのでビックリしました!」
「そうか。お前は地方の村に居たんだもんな。どうだ、でかいだろ?」
「はい。人もたくさんです。これだけ沢山居れば、2・3人くらい誘拐しても問題ありません!」
「問題あるのよー、絶対ダメよぉー」


血なまぐさい子と街を歩く。
往来は政変前と変わらないくらいの人通りだ。
街行く人々の顔色も悪くない。
ちなみにオレとすれ違っても『魔王だ!』と騒ぐヤツは居なかった。
まぁあの時の顔見せは一瞬だったし、今の格好もボロだし、当然か。


「金属の類いは高値のママか。まだ落ち着かないんだなぁ」


最初にやって来たのは武器屋。
ここは金物屋も兼ねているのか、金属に限り日用雑貨まで売っている。


「魔王様! ここはスゴいです! 強そうな武器がこんなにも!」
「そうだな。メチャクチャ強そうだな」
「あぁ、これは迷いますねぇ。ど・れ・で・殺・ろ・う・か・な!」
「はいはい。次いくよー」
「そんな殺生な!」


ジタバタ暴れるミアを小脇に他所へ向かう。
武器屋に連れてきたのは失敗だったな、うん。

次にやって来たのは裁縫店。
ここは割りと安定していて、銀貨一枚もあれば全身一通り揃えられそうだ。
まぁ麻やら、なめしの甘い革製品ばかりで、品質もそれなりだが。


「ほぇー、いっぱい服が飾られてますね」
「そうだな。やっぱりキレイな服は好きか?」
「はい! 大好きです!」


これは好感触。
もしかすると仕立屋とかに向いてたりするのか?


「アラン兄様が行ってました。女の子が着飾ると、変な大人に拐われるそうです。なので、目一杯可愛い格好をすれば、咎人が向こうから寄ってくる……」
「うんうん。そんな目には合わせないからね安心してねー」
「あぁん、殺生再び!」


ミアはずっとこんな調子だった。
八百屋でトマトを眺めては血がどうの、家具屋でベッドを眺めては処刑具がどうのとご満悦になって語る。

散策が終わった頃にはグッタリしてしまい、徹夜明けの時のようにボンヤリとしてしまった。
帰宅を考えていたところ、ミアがひとつの露店に興味を示した。
アメ細工屋だ。

ーーこの品薄のレジスタリアで、アメ?

軽く不信感を覚えたが、それよりもミアだ。
人様の臓物よりもアメに興味を抱いた方が遥かに健全だ。


「ミア、どれかひとつ買ってやるよ。選ぶといい」
「そんな、よろしいのですか?」
「銅貨一枚だ。大した買い物じゃない」
「いらっしゃいませ。うちの品は絶品ばかり。他所では口にできない味わいを保証します」


ーーゾワリ。
まるで這い寄るような寒気に、つい身構えた。
何に対しての警告なのか理解が及ばない。
店主の顔はアメ細工の束に隠されている。

ミアを退がらせ、ゆっくりと近づいて覗き込むと、そこには……。


「お前、クライスか!?」


間違いない。
あの糖尿おじさんがそこに居たのだ。
なぜ生きている、寿命を迎えて死んだと聞いていたのに!


「待て待て落ち着け。いくら何でもあり得ない。きっとコイツは生まれ変わりだ。人間が何百年も生きるなんて……」
「おや領主様。ご無沙汰しております。何年ぶりでしょうか」
「やっぱりお前かこの野郎!」


なんで生きてる?
なんでアメ売ってる?
なんでオレが生き返ってることに驚かない?
疑問が頭にポンポンッと現れては溜まっていく。
これは詰問しかない。
場合によっては拷問も辞さない。


「とりあえず家に来い。お前には聞きたいことが山ほどあるぞ」
「わかりました。この品が掃け次第お伺いします」
「今すぐだこの野郎!」


クライス捕獲。
踏まれた虫のように地面で暴れるおじさんを捕まえて、ひとまず森の家へと帰還した。

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