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第三部

3ー24  あなたはどっち?

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まおダラ the 3rd
第24話 あなたはどっち?



レジスタリア城の破壊後、リタたちとともに森の家へ帰った。
アシュリーは結界から離れたせいで、多少守りが弱くなったと言うが、オレには違いがわからなかった。
灰さえ凌げれば良いと思う。

外で遊んでいた子供たちは笑顔でお出迎え。アリシアも少し離れた場所から額の汗を拭いつつやってきた。
大して時間が経っていないので、出発前と状況に変化はない。


「おとさん、おかえんなさい!」
「魔王様。おかえりなさいませ」
「ライルお疲れ。うまくできた?」
「ただいま。これ以上無い程の大成功だったぞ」
「皆さんただいまですー。アルフはまぁ、なんとかやりましたよ」
「そうね。上手くいったかしら。少しだけヒヤッとしたけど」


笑顔が並ぶなかで、一人だけ浮かない顔と言うか、首を捻る子がいる。
アーサーだ。
もしかして、失敗したとでも疑ってるんだろうか。
そんな訳ないじゃーん信じなさーい。


「アーサー少年。どうかしたか?」
「うん。どっちかなぁと思ってね」
「今言っただろ。催しは完璧に大成功を収めたんだって」
「あぁ、違うよ。ライルさんとアルフさん、どっちで呼ぶべきかなって」
「……それか」


当然の疑問だと思った。
愛称が複数あってややこしいのだろう。

これは単純な話のようで、地味に根の深い問題だ。
結局のところオレはアルフレッドなのか、ライルなのか。
むしろこっちが聞きたいくらいだが、きっと答えに一番近いのもオレなんだろう。

返答に困っていると、我が家の『賢人さま』が一歩前に出た。
そして両手を腰に当てて、自信満々に言う。


「私に妙案がありますよ。皆さん中に入ってくださいな」


アシュリー悪寒はしていない。
だが何故だろう、嫌な予感しかしないのは。
その言葉に対する反応はそれぞれだったが、全員が提案の通りに家の中に戻った。


「それでは始めます。第1回アルフ、ライル、あなたはどっち討論会ー!」


オレたちを食卓用の大きなテーブルに座らせ、アシュリーが音頭を取った。
つうか第1回って何だよ、シリーズものにする気か?
人のアイデンティティを玩具にするんじゃないよ。


「あのな、これはオレが決めるべき問題じゃないのか?」
「アルフの物はみんなの物。みんなの物はアシュリーちゃんの物です」
「結果全部がお前の懐に入るじゃねぇか。羽むしるぞ」
「んー。ちょっと強引ではあるけれど、決めた方が良いわね。あなたならきっと、ズルズルと先送りにしちゃうでしょ」
「そんなことは……有り得るな」


オレとしては『あだ名の多い人』くらいの認識でいたが、どこかで予期せぬ不都合があるかもしれない。
みんなの気持ちも確定させる方に傾いているので、流れに乗ることにした。


「呼び名を決めるなら、やっぱりアルフが良いわね。呼び慣れてるし、しっくりくるわ」
「その理屈で言えば、私はライルと呼びたい。幼馴染み観点」
「アシュリーちゃんはライルに一票を入れます。これで2対1ですね」
「意外だな。お前もアルフ派だと思ってた」
「だって、アルフはリタとくっついたじゃないですか。ライルという名前でのリスタート扱いにすれば、今度は私と結ばれます」
「結ばれます、じゃねぇよ。オレの意見はどこへいった」


鳥女の軽口は置いといて。
自分の心の声を聞くと、ライルの方を求めている。
そもそもアルフレッドの人生は、唐突といえど終わったんだ。
かなり異様だったが天寿みたいだしな。
実績のある名の方が楽だけども、それは間違っている気がした。


「シンディはどうです?」
「うんうん、なぁに?」
「呼び名についてですよ、あなたのお父さんの」
「えっとね、おとさんは、おとさんなの!」
「うーんそうですかぁ、わかりました。ミアちゃんはどうです?」
「たとえどのような御名であろうと、私の忠節は揺らぎません。身も心も魂も、腸(はらわた)のヒダひとつですら、魔王さまに捧げていますので」


怖い。
それは早い話が「どっちでもいいです」だろ。
どうして一々物騒な言い回しをするかな。
発言した本人は鼻息を荒くしてこっち見てるし。
リアクションに期待すんな。


「さてアーサーきゅん。あなたはどちら?」
「僕もどっちでも良いかな。みんなの決定に従うよ」
「まぁそうでしょうね、付き合いも浅いですし。となると……」
「アシュリー。決めたぞ。オレはライルと名乗る」
「あらそう、残念ね。愛着が湧いてたのだけど」
「ちょっと思うところがあってな。だからオレは二代目魔王のライルだ。よろしくな」


みんなの反応は悪くない。
ごく平凡な世間話のように、反発もなく受け止められた。
シンディに至っては話に付いてこれないのか、机の傷に挟まったゴミをほじくり返している。

スポン。
綺麗に取れた。
食べちゃダメよ。

ただ、メンバーの中で飛びきり大きな反応したのがアシュリーだ。
両手を胸に当てて、感激したように瞳を歪ませている。


「本当ですね、アルフ。いや、ライル!」
「おう。何が嬉しいか知らんが、決めたぞ」
「つまり次の嫁はアシュリーちゃんですね? 確定ですね? こんな形でしか口説けないなんて、もぅ照れ屋さん。でもいいんです。私は理解ある女なんで。今は丁度寝室に人が居ないので一発……」
「トウッ!」
「へムッ」


豆を飛ばしてアシュリーの頭にごっつんこ。
気絶。
森の痴女さま討ち取ったり。


「ライル、おめでとう」
「おうエリシア。お前からしたら変化は無いが……」
「変化がないですって? それは短慮。もう別腹の別次元。私の意見を取り入れたということは魂が連結したということ即ち融合。魂は大事大事超重要。意識が繋がったのに体が離れてるなんて理不尽の極み。だから向こうの寝室で一発……」
「トウッ!」
「ヘムリ」


もうひとつの豆もごっつんこ。
これで大将首が2つ。
戦場なら殊勲モノだこの野郎。

結局騒いだのは二人だけで、以降は普段通りの時間となった。
相変わらず悪ノリしないリタ。
2週目も独走状態になっていることを、アシュリーたちは気づいているんだろうか。

そいつらはというと、仲良くベッドでヨダレを垂らしながら寝入っている。
今回もリタなんだろうなと内心呟いた。
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