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第三部

3ー18  収容所

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まおダラ the  3rd
第18話 収容所


「何だお前らは! どこから入ってきた!」


狭い通路は5人くらいの兵士によって埋め尽くされた。
槍の穂先が整然と並ぶ。
その標的はもちろんオレだ。

侵入してすぐ、通路の端から覗き込んだらこの有り様になった。
運悪く警備の一団と鉢合わせてしまったからだ。
それにしても速攻でバレるとか、ヤバイというより恥ずかしい。


「へへっ。ドジっちまったぜ」
「へへじゃないよライルさん。これ平気なの?」
「ライル。どうする。逃げる?」
「ここはだな……」


強行突破だオラァ!
敵を手当たり次第に殴る、蹴る、投げ飛ばす。
反撃や叫び声をあげる暇すら与えない程の大奮闘だ。

あらかじめ台本でもあったかのように、イメージ通りの結果となる。
それぞれが壁、天井、床に頭から突っ込み、そして静かになった。
追加の兵が来る気配は無い。


「おっし、制圧完了。次行こうか」
「目的が変わってきてる。凄くライルっぽい」
「うるせぇ。こんなもん通過点だ」
「大きな音を出しちゃって。気づかれないかなぁ?」
「問題ないぞ、たぶんな」


その根拠は、辺りがそれ以上に喧(やかま)しいこと。
一定のペースで『ドギャアン!』というクソでかい音が鳴り響いている。
何かをブッ叩いてるようだが、何をやってんだろう。


「よし、引き続き潜入を続けるぞ。ヤツラに見つかるなよ?」
「うん……気を付けるよ」
「おかしい。どこかから『お前が言うな』って聞こえた気がする。不思議」
「空耳だ」


通路を進むと、その先は開けた場所になっている。
そこから施設の全容を探ることができた。

まずは基本構造。
中は吹き抜けの3階建てで、中央はだだっ広い作業場となっていた。
敷地の7割方は作業用として確保しているようだ。
そこには数百人にものぼる作業者が集められている。

鍛冶師のように赤い鉄を叩く者たち。
作業場のど真ん中にバカでかい炉があり、その周辺ではみなが縋を振るっている。
叩いて、炉に戻して、また叩くという事を繰り返していた。

いくらか離れたところに、巨大なハンマーが見える。
別作業に使う装置のようだ。
小集団がそれを巧みに操り、ハンマーが頻繁に振り下ろされる。

その装置は水晶を砕いているらしく、バカでかい音をしきりに発していた。
さっきから聞こえる騒音の元はこれだろう。

小さく砕かれたものは袋に詰め込まれ、炉の方へと運ばれていく。
目の前の光景が何を意味するのか、見ただけじゃよく判らん。


「なんだよ。延々と鉄を打って、水晶を砕いてるな。それを炉の中で組み合わせてる……とかか」
「ここは武器の製作所? 剣や鎧を作ってる?」
「違うんじゃねぇの? 鉄板作って終わりにしてて、次の作業が無さそうだし。アーサー少年は何か知ってるか?」
「ごめん。僕も知らないや」


気になりはするが、検証は後回しだ。
ともかくミアたちを捜さねぇと。
子供の姿を探してると、作業場に新たな動きがあった。
血相を変えた警備兵が、鍛冶場を抜けて炉の方へと駆けていく。


「所長、警備のものが一部消息を絶ちました!」
「なんだと!? 侵入者か?」
「詳細は不明です。調査しますか?」
「ムウ……まずは様子を見る。第2警戒態勢だ、炉を守れ! 囚人どもは作業を続けろ!」


上等そうな鎧を着ている男が叫んだ。
どうやらアイツが親玉らしい。
号令のもとに大勢の武装した男たちが集まる。

数人を除いて、大半は防具すら無く、槍や斧を持ってるだけという武装度だ。
裸ん坊は弱っちいが、鎧の連中は厄介かもしれない。
引き続き隠れ進むことにした。


「中央にたくさん集まってるね。あれはよっぽど大事な物なのかな?」
「さてな。だがこっちとしても好都合だ。手薄な場所をしらみ潰しに探るぞ」


柱やハンマーの装置に隠れながら進む。
もちろん作業者に見つかる訳だが、年嵩の囚人が機転を利かせてくれた。
作業が続けられたので怪しまれずに済んだ。


「なんだアンタらは。兵士でも囚人でもないな」
「味方だ。端的に答えろ。子供たちはどこだ?」
「子供は整備班だ。この時間なら一番上の3階に居る。大きな牢の中だ」
「わかった。後でお前らも助ける。しばらく待て」


情報を信じてオレたちは向かった。
吹き抜けの構造上、階段を行くとモロバレになる。
だから、天井まで伸びる柱に隠れるようにして、一気に最上階まで飛翔した。
さすが魔王様は多機能だねと自画自賛したくなる。

最上階に降り立つ。
便宜上方角を定めると、西、北、東の3方向の端エリアが牢屋だ。
真正面となる通路側だけ、一面が壁の代わりに鉄格子となっている。
だから中の様子が丸分かりだった。


「どうだ、アーサー少年。お目当ての連中はいるか?」
「ううん。こんなに沢山居るとなぁ」
「確かにここだけで100人くらいはいるか。3ヶ所の総当たりはちょっとなぁ」


その間も、ひとりふたりと哀れな警備兵が飛びかかってきた。
もちろん戦いにもならない。
一瞬で床に生えるオブジェにしてやった。
そうしながら鉄格子の前を歩いていると、牢屋の中から叫び声がした。


「アーサーか? おおい、オレだよ!」
「コーディ! 良かった、無事だったんだね!」
「兄様よ。もしかしなくてもお友だちか?」
「そうだよ。ユリアン、ジェシカもいるね。あとは……」
「ミアもここに居るぞ。お祈り中だけどさ」
「本当だ! ミアッ!」


アーサーが親しげな声をかける。
そこには、こちらに背を向けてうずくまる少女が居た。
兄の声は届いているはずなのに、すぐには反応しなかった。

呼吸2つほど待って。
ミアと呼ばれた少女はゆっくりと立ち上がった。
そして振り返り、静かに口を開く。
子供のものとは思えない程の所作や微笑とともに。


「お待ちしておりました、魔王様。こうしてお助けいただけるなんて、私は全くの果報者です」



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