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第三部

3ー15  もっちよもちょ

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まおダラ the   3rd
第15話 もっちよもちょ


子供の順応ってのは本当に早いな。
最初は多少警戒されるけど、一度信頼されればグンと親密になるもんだ。
もう既にリタとも仲良くなってる。


「パンおいしー、チーズおいしーぃ!」
「シンディ。足をパタパタさせちゃだめよ」
「はーい。トマトおいしーぃ」


今は昼食中となっている。
オレの膝にシンディが座り、両隣にエリシアとアシュリー、さらにリタが並ぶ。
彩り豊かな食卓に、賑やかな会話。
やっぱり大勢で食べるのはいいもんだ。


「プハァ。ミルクおいしーぃ!」
「そうか。そんなに旨いか」
「うん、おねぇちゃんのゴハンおいしいの」
「ありがとうね、シンディ」


リタに優しく頭を撫でられて、シンディはくすぐったそうな顔をする。
それから思い出したように、ふたたび手元の食事を再開した。
トマト、チーズ、レタスが挟まれたパンサンドだが、シンディはそれを解体してしまっている。
それをひとつひとつ、丁寧に頬張る。
そんな食い方も良いだろう。

食事が終わると遊びの時間だ。
シンディを抱っこして外へと出る。
ここには数えきれない種類の花が咲き乱れ、飛び回る蝶や蜂も困惑するほどだ。
シンディもすっかり気に入ってしまい、時間があると外へ出るようになった。


「おとさん、みて。アリさん」
「ほんとだ。大きな巣があるねぇ」


シンディが膝を抱えて座り込んだ。
落とされた目線の先にはアリの巣がある。
穴からは絶え間なく出入りし、忙しなさを覚える。


「アリさんはね、もっちよもちょなの」
「うん? なんだそれ?」


ちょっと不思議な単語が聞こえた。
方言とか、獣人特有の言語とか、そういうもんだろうか。


「アリさんはね、足がたくさんあるの」
「うん、生えてるね」
「あっちこっちに、あるいてるの」
「うん、遠くまで移動したりするね」
「だからね、もっちよもちょなの」
「うん……、うん?」


ダメだ、さっぱり解らねぇ。
何度説明されても『もっちよもちょ』の概念が理解できなかった。
子供だけが持つ世界観なのかもしれない。
結局オレはそこへの招待が叶わなかったが、いずれ再挑戦したい。

ひとしきりアリを眺めた後は、興味が蝶に移ったらしい。
フワリと飛び回る真っ白な蝶を懸命に追いかけている。
両手を伸ばしても届かず。
跳び跳ねて捕まえようとするが、スルリと逃げられる。
失敗続きで悔しがるかと思いきや、本人はケタケタ笑っている。


「アハハ、まてぇー!」
「シンディ。足元を見てないと……」
「アイタッ!」
「……転んだな」


結構な勢いでコケたにも関わらず、泣いたりはしなかった。
そのまま仰向けになり、今度は空を眺めだした。
オレも隣に寝転び、同じ景色を見る。

抜けるような青空。
一筋の薄い雲が伸び、少しずつ形を変えていく。
そこへたまに鳥が視界を横切る。
ピューィなんて鳴き声も耳に心地よい。
こんな気分で空を見上げるなんて初めてかもしれない。


「おそら、きれーぃ」
「……そうだな」


もしかすると、シンディにとっては珍しい光景なのかもしれない。
人間から隠れるようにして洞窟で暮らし、それからは鬱蒼と繁った森、そして灰のロラン。

この子にはのんびりと空を眺める事すら許されていなかったのか。
そう思うと不憫でならなかった。

それからしばらくの間、オレは物思いに耽った。
例えば晩飯時。


「じゃがいもさんが、ふっこふこ」
「シンディ。足パタパタさせちゃダメよ」


一緒に風呂に入ってるとき。


「おとさん、みてぇ! おさかなさん!」
「わぁ! 上手上手!」


寝かしつけのときも。


「きょうは、いっぱいたのしかったの。あしたも、たのしいね?」
「そうだな。明日も明後日も、きっと楽しいぞ」


しばらく側で見つめていると、シンディは眠りに落ちた。
そのままゆっくりと部屋を出て、リビングへと向かう。

そこには3人。
剣の手入れをするエリシア、茶を飲むアシュリー、花を飾るリタがいた。
オレは空いている椅子に座り、息を吐く。


「ふぅー。寝たぞ」
「お疲れさま。大変だった。あなたも早く寝たら?」
「何でだよ。べつに眠くはねぇぞ」
「今日はずっと上の空だった。疲れてないなら悩みごと。話なら聞く」


エリシアの言葉に、リタやアシュリーもオレを見た。
注目されてるんなら丁度良いか。
本当はそれなりの場を用意するつもりだったが、もういいや。


「今日からまた、魔王やるから。お前らよろしくな」

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