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報告書A 完全な被害者
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あーもう、何でこんな事になってんのよ!
面白半分で役職を変態にしたら詰み状態とか聞いてねえよ!!
苛立ちを隠せずついデスクに当たってしまった。
「ショーコ キサラギ」と書かれた名札がグラリとゆれる。
名札を黒マジックで塗りつぶして消えたい衝動に駆られるが、生活のためにもそこは我慢。
炎上中の作業に向き合わなくてはならない。
販促用に渡された「あなたもハコニワ プラネットで素敵な星を作りませんか?」と書かれたビラが目に入って、心をさらにかき乱す。
でも全てはご飯のため、まともな暮らしのために歯を食いしばって耐えた。
私の勤めている会社は「ハコニワ プラネット」というコンテンツを開発し、販売まで手広く手掛けている。
娯楽の少ないこの世界でたちまち大ヒットし、今や空前のハコニワブーム真っ只中だ。
会社や株主はそのおかげで相当潤ったようだけど、労務環境は酷く貧しくなった。
典型的な「人足りてないタイプ」の暗黒企業だ。
仕事が回らないから人を雇う→ 教育に時間を取られる→ あまりの過酷さに新人がバックレる→ 時間を割いた分以上にスケジュールが遅れる
会社はそんな負のサイクルに囚われている。
私もその被害者のひとりだ。
私の仕事は管理人であり、ハコニワの管理を担当している。
このハコニワには一括管理なんて便利なものではなく、大抵は個別対応だ。
もう一度言う、個別対応 だ。
さすがにハコニワの正常、異常くらいは一画面で確認できるが、トラブル等に関しては常に個別。
そのトラブルをいち早く見つけて、システムに対応依頼を出して対処する。
デジタルな部分はあくまで星の機能の制御や誘導ができるくらいで、直接介入のできない歯がゆい作業だ。
ハコニワ本体やそこの住民たちは歴とした生命であり、進歩も進化もする。
間接的にではあるが、所有者の好みによって多種多様な進化をさせることができるのだ。
それがこの商品の魅力でもあり、作業者を病院送りにするポイントでもあるのだが。
たった今、黒い感情を圧し殺した文面のメールをシステム開発部に送りつけてやった。
本来なら電話で直接文句と依頼をぶちまけたいが、アイツらは電話に出ない。
最近発生した特A級の依頼に忙殺されているのか、単純に出たくないだけなのかは知らない。
もう蜂の巣をつついたような騒ぎになっているらしく、私のB+ランクの依頼なんか後回しにされてしまうだろう。
メールを送った後、あのレインとかいう青年にちょっかいを出そうと思って、検索画面を開こうとした。
すると、
プルルル
プルルル
開発の連中からの電話だ。
どんな幸運かしらんが、渡りに舟だ。
私はお金を拾うときと同じ早さで受話器を取った。
「はい、管理事業部。」
「システム開発だ、ショーコだろ? メール見たぞ。」
「なら話は早いわ。あの妙な【役割】はなんなの? おかげで貴重な救世主枠が潰れてんだけど?」
「待て、そもそもなんで【勇者】やら【剣聖】やらを選ばなかったんだ? なぜ見るから怪しいものに手を出したんだ?」
「だって……面白そうだったから。」
「自業自得かバカヤロー。」
自業自得とはなんだ。
純度100%の被害者である私に向かって。
あんな面白いものを見て手を出さないヤツなんか居ない。
だからあんな項目用意したヤツが悪い。
証明終わり。
「で、どうすれば直せんの?マスター権限でも触れないんだけど?」
「あーそれなんだが、ちょっとな。」
「何よ、早く言いなさいよ。」
「例の部分の作業はこの前臨時で雇ったヤツに一任しててな。それでソイツが来なくなってだな。」
「何よ! じゃあ直せないってこと?!」
「落ち着け! オレらでも対応はできる! でもそれには大量の判子を上から貰ったり、会社泊まりの記録が延びたりすんだよ。」
「あらそう、皆でお泊まり楽しそうね。」
「定時上がりのお前が言うか、いつか刺されんぞ。」
人が足りていないが、人件費も足りていないらしく残業代は出ない。
残業代が出ないならと、仕事を途中のまま帰ることもしばしばだ。
これは私に限った話ではなく、管理部全体に言えることだが。
「はいはい。んで、いつやってくれんの?」
「特Aの件の合間にやる。だからしばらくはそのままだ。」
「はぁ、なんてこと。神様は私に何を見せたいのかしら。」
「お、そうだな。」
「適当な返事をしないで。じゃあ対応終わったら連絡いれて。」
「わかった、なるべく早くやる。」
「お願いね。」
力なく受話器を置いた。
しばらくはこのままか、あの青年にはほんと悪いことをした。
ちょっと変な目に合わせてから「ドッキリでしたー♪」って感じで終わらせたかっただけなのに。
憂鬱な気分で管理画面を眺めていると、見慣れないポップが画面にズラリと並んだ。
全部、英語。
私、じゃぱにーず。
読めない、わかんない、つうか日本語で書け。
何の話かわからないけど、全部OK連打!
全部にイエス イエス イエース!!
こんな時、かつて居た職場の先輩の言葉を思い出す。
「ショーコ、迷ったらとりあえずOK押しとけ。」
ありがとう先輩。
その言葉のおかげで、面倒な調査や作業が今日も少なくて済みそうです。
さぁて、ちょっくらカフェにでも行ってきますかね。
背伸びをしてからサボり、もといコーヒーを買いに出かけた。
そのせいで例の星に起こっている、深刻な事態を見落としてしまう。
小規模ながらも重大なそのトラブルを。
面白半分で役職を変態にしたら詰み状態とか聞いてねえよ!!
苛立ちを隠せずついデスクに当たってしまった。
「ショーコ キサラギ」と書かれた名札がグラリとゆれる。
名札を黒マジックで塗りつぶして消えたい衝動に駆られるが、生活のためにもそこは我慢。
炎上中の作業に向き合わなくてはならない。
販促用に渡された「あなたもハコニワ プラネットで素敵な星を作りませんか?」と書かれたビラが目に入って、心をさらにかき乱す。
でも全てはご飯のため、まともな暮らしのために歯を食いしばって耐えた。
私の勤めている会社は「ハコニワ プラネット」というコンテンツを開発し、販売まで手広く手掛けている。
娯楽の少ないこの世界でたちまち大ヒットし、今や空前のハコニワブーム真っ只中だ。
会社や株主はそのおかげで相当潤ったようだけど、労務環境は酷く貧しくなった。
典型的な「人足りてないタイプ」の暗黒企業だ。
仕事が回らないから人を雇う→ 教育に時間を取られる→ あまりの過酷さに新人がバックレる→ 時間を割いた分以上にスケジュールが遅れる
会社はそんな負のサイクルに囚われている。
私もその被害者のひとりだ。
私の仕事は管理人であり、ハコニワの管理を担当している。
このハコニワには一括管理なんて便利なものではなく、大抵は個別対応だ。
もう一度言う、個別対応 だ。
さすがにハコニワの正常、異常くらいは一画面で確認できるが、トラブル等に関しては常に個別。
そのトラブルをいち早く見つけて、システムに対応依頼を出して対処する。
デジタルな部分はあくまで星の機能の制御や誘導ができるくらいで、直接介入のできない歯がゆい作業だ。
ハコニワ本体やそこの住民たちは歴とした生命であり、進歩も進化もする。
間接的にではあるが、所有者の好みによって多種多様な進化をさせることができるのだ。
それがこの商品の魅力でもあり、作業者を病院送りにするポイントでもあるのだが。
たった今、黒い感情を圧し殺した文面のメールをシステム開発部に送りつけてやった。
本来なら電話で直接文句と依頼をぶちまけたいが、アイツらは電話に出ない。
最近発生した特A級の依頼に忙殺されているのか、単純に出たくないだけなのかは知らない。
もう蜂の巣をつついたような騒ぎになっているらしく、私のB+ランクの依頼なんか後回しにされてしまうだろう。
メールを送った後、あのレインとかいう青年にちょっかいを出そうと思って、検索画面を開こうとした。
すると、
プルルル
プルルル
開発の連中からの電話だ。
どんな幸運かしらんが、渡りに舟だ。
私はお金を拾うときと同じ早さで受話器を取った。
「はい、管理事業部。」
「システム開発だ、ショーコだろ? メール見たぞ。」
「なら話は早いわ。あの妙な【役割】はなんなの? おかげで貴重な救世主枠が潰れてんだけど?」
「待て、そもそもなんで【勇者】やら【剣聖】やらを選ばなかったんだ? なぜ見るから怪しいものに手を出したんだ?」
「だって……面白そうだったから。」
「自業自得かバカヤロー。」
自業自得とはなんだ。
純度100%の被害者である私に向かって。
あんな面白いものを見て手を出さないヤツなんか居ない。
だからあんな項目用意したヤツが悪い。
証明終わり。
「で、どうすれば直せんの?マスター権限でも触れないんだけど?」
「あーそれなんだが、ちょっとな。」
「何よ、早く言いなさいよ。」
「例の部分の作業はこの前臨時で雇ったヤツに一任しててな。それでソイツが来なくなってだな。」
「何よ! じゃあ直せないってこと?!」
「落ち着け! オレらでも対応はできる! でもそれには大量の判子を上から貰ったり、会社泊まりの記録が延びたりすんだよ。」
「あらそう、皆でお泊まり楽しそうね。」
「定時上がりのお前が言うか、いつか刺されんぞ。」
人が足りていないが、人件費も足りていないらしく残業代は出ない。
残業代が出ないならと、仕事を途中のまま帰ることもしばしばだ。
これは私に限った話ではなく、管理部全体に言えることだが。
「はいはい。んで、いつやってくれんの?」
「特Aの件の合間にやる。だからしばらくはそのままだ。」
「はぁ、なんてこと。神様は私に何を見せたいのかしら。」
「お、そうだな。」
「適当な返事をしないで。じゃあ対応終わったら連絡いれて。」
「わかった、なるべく早くやる。」
「お願いね。」
力なく受話器を置いた。
しばらくはこのままか、あの青年にはほんと悪いことをした。
ちょっと変な目に合わせてから「ドッキリでしたー♪」って感じで終わらせたかっただけなのに。
憂鬱な気分で管理画面を眺めていると、見慣れないポップが画面にズラリと並んだ。
全部、英語。
私、じゃぱにーず。
読めない、わかんない、つうか日本語で書け。
何の話かわからないけど、全部OK連打!
全部にイエス イエス イエース!!
こんな時、かつて居た職場の先輩の言葉を思い出す。
「ショーコ、迷ったらとりあえずOK押しとけ。」
ありがとう先輩。
その言葉のおかげで、面倒な調査や作業が今日も少なくて済みそうです。
さぁて、ちょっくらカフェにでも行ってきますかね。
背伸びをしてからサボり、もといコーヒーを買いに出かけた。
そのせいで例の星に起こっている、深刻な事態を見落としてしまう。
小規模ながらも重大なそのトラブルを。
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