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【第2部】転生を断ったら、女神と旅をする事になった 

第24話  愛情表現

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アシュレリタは、平穏そのものです。
どこもかしこも人だらけですが、皆さんお行儀が良いのでトラブルも少ないのだとか。
そして今はお昼時ですが、食堂は超満員です。
なので自分で勝手に調達しようと、街の外へ出たのですが……。


「……ハァ」


手元のチケットをついつい眺めてしまい、何も手が着きません。
これは「いちゃいちゃチケット」という希少品。
タクミ様とどんな事でも出来てしまうという、正に夢のようなアイテムなのです。
それを2枚もいただいたので、片方は部屋の宝箱に、もう1枚は肌身離さず持ち歩いています。

「タクミさまぁ……」

チケットを眺めていると、あの眩しい笑顔が見えるようです。
太陽に向けてかざすと後光が差したようになり、一層輝きを増します。

そのお方は今、記憶の中にしか居ません。
王都攻めに加えてはもらえず、アシュレリタでお留守番となったからです。
自分の弱さをこれほどまで悔いた事はありませんでした。


「ちゃんと毎日トンボを食べれてるでしょうか。クルミは足りてるでしょうか」


タクミ様にお仕えしてから、こんなに長い間離れた経験はありません。
お側でご奉仕できない苦痛とは……なんて辛いんでしょうか。

空腹なのにも関わらず、あれからも街のすぐ外側をウロウロ。
お留守番の初日からこんな感じだったと思います。
最近は喪失感のあまり、幻影のお姿相手にお仕えする毎日です。


ーーアイリス、腹が減った。ちょっとクルミを頼む。

「はいッ! わっかりましたぁーッ」

ーーそんなにもたくさん採ったのか! お前は最高だ。

「いえいえー、これもタクミ様への気持ちの現れといいますかぁーえへー」

ーー愛してるぞ、アイリス。ずっとオレの傍に居ろ。

「ええっ?! 私のような身分の低い女を奥様にだなんて、いけません! でもでも、王様であるタクミ様に命令されたら逆らえませんよね、えへーえへへー」

ーーアイリス! 助けてくれ!

「だ、大丈夫ですか?! 何があったんですか?」

ーー頼む、力を貸してくれ! お前だけが頼りなんだ!

「わかりました、やってみます!」


これは大変、すっごく助けを求められた気がします!
でも……どうすればいいんでしょう?
念じればいけますか?
こんな事試したこと無いけど、精一杯に頑張ります!
届け、全身全霊の乙女心!


「ふんぬぉぉおーッ」
「……お前さんは何をやっとるんじゃ?」
「ヘゥッ!?」
「ひょっとして組手の訓練だったかの? 邪魔をしてすまんなぁ」
「いえ、その……そろそろ休憩かなーなんて」


ドンガ爺ちゃんに目撃されてしまいました。
よりによって一番恥ずかしいシーンで。
次からはもう少し早めの登場でお願いしますよ?


「それで、何かご用でしょうか」
「うむ。これを渡そうと思ってのう」
「手袋……いや、手甲ですか?」


革でできた手の防具ですね。
甲の部分に魔緑石が埋め込まれています。


「本当は旅に出る前に渡したかったんじゃが、間に合わなくてのう。遅くなってすまんかった」
「えっと、これは何ですか?」
「魔緑石を介して、お前さんの本来の力を引き出せるものじゃ。石に魔力があるかぎりは、大人と同じ力を持つことができよう」
「ということは、私もイリア姉様と同じように戦えますか?!」
「いや、あれと比べるのは……。一般的な魔人を目安にして欲しいのう」


それは残念。
私もあんな風に縦横無尽といきたかったのですが、それは無理のようです。
ちなみに身体も未完成なので、魔法攻撃の方が安心らしいです。
多少の制約がありますが、これは素晴らしいものです。
お爺ちゃんにお礼を言って、早速さっきの続きを始めました。


「これで私もタクミ様のお力に! フンヌゥゥウーッ!」
「さっきもやっとったが、それは何なのじゃ?」
「ええと、愛です!」
「……時代は変わったもんじゃ。ワシの知るものとはエラく違う」


力を貸して魔緑石!
タクミ様の元へ思いよ届けッ!

しばらく念を送った後、私はふと気づいてしまいました。
助けを求めていたのは妄想の中のタクミ様であって、現実世界とは無関係である……という事に。
私はなんて……なんてアホの子なんでしょうか!

私はしばらくの間、顔を真っ赤にしてのたうち回ったのでした。
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