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【第2部】転生を断ったら、女神と旅をする事になった 

第19話  愛すべきアシュレリタ

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帰ってきた。
久々に帰ってきましたアシュレリタ。
愛すべき我が街は相も変わらず……。
大きく様変わりしていた。

整然としていた外観は見る影もなく、防壁の外に掘っ立て小屋が立ち並んでいる。
しかも数えきれないほどに。
壁の中の建物の方が少ないくらいだ。

そして通行人の数。
せいぜい100人ちょいが暮らしていた街だったのに、今は人でごった返している。
これだけの人口をまかなえるだけの施設は揃っていなかったハズだ。
実際食堂も、風呂も作業場も、あちこちに長蛇の列が出来ていた。

もはや無法地帯の一歩手前といった惨状だ。
リョーガは留守中に何をしていたのか。
まさか遊び呆けていたんじゃないだろうな。
これはキツく叱るべきだろう。

帰宅してすぐ、屋敷にリョーガを呼びつけた。
お説教と出撃命令のためだ。
使いを出すと、すぐにやってきた。

久々に見たその姿は、随分と豹変していた。
骨格こそ変わらないものの、頬がゲッソリと削げ目は落ち窪み、野生生物よりもギラギラした闘争心が感じられる。
ここで何があったというのかね、リョーガくん。


「タクミさん、お元気そうで何よりです」
「おう……。そっちは変わりない、か?」


オレの言葉に、リョーガは口角を上げて答える。
あれ、こんな子だったっけ?


「変わったことですか? 街の中はご覧になったでしょう? もう人、人、人ですよ。突然500人もの流民がやってきて、こちらは忙殺されてます。資材も労力も限られてますから、全力で対応してもこのザマですよ」

かつてないほどの早口で捲し立てられた。
ヤバイ、これは相当キレてるやつだ。
ディスティナの一件がこんな結果を生むとは思わなかった。
むしろ『難民問題も、マリィの神格化計画も片付く名案』くらいに考えていた。
その思い付きの皺寄せがここに集まっている訳だ。
ともかく、オレは無関係であることをアピールしておこう。


「ふぅん。戦争が起きてるからな。流れ者がやってくるのも仕方ないだろう。大変だったな」
「おや、こうなる事は予測済みだったのでは? 彼らはタクミさんの書状を持ってましたよ」


やっべ。
ディスティナの連中に渡したやつだ。
アシュレリタに到着しても不都合が無いように、一筆書いたんだった。
その結果、オレに不都合が起きてるという始末。
とにかく、この静かにキレてる熊を何とかしなくては。


「今はそれどころじゃないぞ、ミレイア攻めだ。街の事は他のヤツに投げとけ。お前もスタメンだから準備してこい」
「ハァ……。それは構いませんがね。なんだか釈然としませんよ」
「まぁまぁ、機嫌直せよ。バッタでも食うか?」
「結構です。では用意がありますので、これにて失礼!」


勢いよくリョーガが出ていった。
アイツは極度の人見知りだったはずだが、今ではこんな強気な態度も取れる。
随分と成長したな。
数々の困難が人を育てるんだろう。


次に呼んだのはシスティア。
こいつは戦力にならないので留守番組だ。
遊ばせておくつもりはないので、仕事を割り振っておく必要があった。


「システィア。お前には重大な任務を申し付けるぞ」
「うへぇ。改まって言われるとおっかないんですけどー」
「臨時の内務大臣に任命する。今街で起きている不都合に対処しろ」
「対処しろったって、不都合しか無さそうですけどー?」


思いの外食い付きが悪かった。
こいつの場合、メリットが薄いと手を抜く傾向にあるからな。
ちゃんと『アメ玉』をちらつかせないといけない。


「マルッと解決しろとは言わん。ある程度改善されてればいい」
「そうは言いますけどぉ、何から手を付けたらいいかー」
「良い結果を出せたら、交易の件をお前に一任しても……」
「本当ですか? 本当ですね! 今はっきり言いましたもんね! 絶対ですからねー!」


疾風のごとく去っていった。
あんな動きも出来るのかよ。
普段からその性能を出せるようにしとけって。


最後に呼んだのはドンガだ。
向こうもオレに用があったらしく、手荷物をもってやってきた。


「ドンガ、留守中の監督をお前に任せたい。全体を見つつ、時には愚痴を聞いてやってくれ」
「ほお。いつの間にそんな気を回せるようになった。旅に出て一回り成長したのかのう?」
「色々あったんだよ。辛い体験がな」
「聞くだけ野暮じゃ。追求はせんよ」


ドンガは苦笑しつつ、オレに一振りの剣を手渡した。
普通のロングソードよりも刀身が厚く、『切る』よりも『叩く』に向いていそうだ。
そして柄の部分には魔緑石が埋め込まれている。



「お前さんが使っても壊れないように、耐久力に優れたものを用意してみたんじゃ」
「これは助かるな。普通の武器だとすぐダメになるんだ」
「丸腰の王など格好がつかんわ。魔緑石で頑丈になっておるから、安心して使うがいいぞ」


カラカラ笑いながら去っていった。
さすがみんなのジイチャン、良く周りを見ているな。
武器が手元にあるとちょっとワクワクする。
きっと男ならそう感じるだろう。


しばらくして、そのワクワク感に水を差す出来事が起きた。
出所はアイリスだ。
出陣前夜、応援の為にわざわざ来てくれたんだ。
それはいい、素直に嬉しい。


問題はそこじゃない。
夜中に薄絹一枚で現れた事だ。
例の「いちゃいちゃチケット」を片手に。
オレは問答無用のデコピンで迎撃した。


「タクミ様。戦を前に猛る血を、私でハッサンして……」
「トゥッ」
「へぶしっ!」


アイリスがおでこを抱えて辺りに転がる。
その格好で暴れるのはやめなさい。
色々と危ないから。

落ち着いてから問い詰めると、そそのかしたのはイリアのようだ。
ちなみに服の考案はレイラが担当したらしい。
2段構えやめろ。

それからは、アイリスを諭す時間となった。
特に持て余してる欲求は無い事。
その格好はこの先20年は待たないと似合わない事。
あまり変な気は回さずに、普段どおりで居て欲しい事。

それらを丁寧に告げると、アイリスは涙目でしょぼくれてしまう。
だからしばらく頭を撫でてあげた。
眠たかったけど、この子の機嫌が直るまで。

あの2人は後で『ケツビンタ・改』の刑だ。
しばらく硬い椅子に座れない体にしてやる、覚悟しやがれ。
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