上 下
32 / 83

第32話  明け方のメッセージ

しおりを挟む
とうとう町の人口が100人超えたぞー!
おめでとう、オレたち!

ジジイ1人しか居なかった廃墟がよくぞここまで再生出来たもんだ。
その日の夜はちょっとだけお祝いムードだった。
特に魔人からすると嬉しくて仕方がないんだろう。
故郷を破壊されて以来、迫害も受ける日々だったもんな、無理もないか。

「何か欲しいものはありますか?」とその時に聞かれたよ。
ここまで導いてくれたオレに恩返しだってさ。
だからオレは即答したね。


ーー豪邸、と。


今住んでる家はかなり手狭だ。
1人で住むには十分なんだが、何故か5人暮らしなのだ。
さらに言えばベッドも狭苦しい。
そこそこ寝相の悪い4人が毎晩乗り込んでくるので、家主のオレが一番辛い思いを強いられていた。

だから広い家を希望した。
ついでにでかいベッドも。
「すぐに出来たら嬉しいなぁ」なんて言ってしまったせいだろうか。
ほんとにすぐ建ったよ、半日足らずで。

完成した家は町の中心付近にあり、広さも3軒分ほどある。
内見しようと思って中に入ると、新築特有の匂いがした。
木の香り好き、最高。

中にはイリアが直立でオレを待っていて、目が合うなり深々と頭を下げた。
その頭をポンポンと叩き、頑張りを労ってやった……つもりだ。

うん、内装もシンプルながら機能美が備わっているな。
実を言うと、派手な装飾ってのはあまり好きじゃない。
特に生活空間の中にあるものは。
見ていて疲れるし、うっとおしくなる。
だからこの家はオレ好みと言える、でかしたぞ。


オレは早速荷物を運びいれた。
国王とは思えないほど運送量が少なく、往復する必要なく完了した。

さて、新しい家の中で、新品のベッドに埋もれる感覚はどんなもんかな?
憧れの「大」の字になって眠れたりするんだろうか。
楽しみだ、マジで。


ーー翌朝。
オレは「よく伸びたツクシ」のような形で目が覚めた。
クソッ なんでだ?!
前よりずっと広いベッドなのに……。
周りを見てみると、その理由がはっきりした。

ベッドの右上付近にはアイリスが寝ていて「く」の字になっている。
まぁ、これくらいはいいだろう。
体が小さいからそこまで邪魔になってないし。
問題は逆側か。

左上はレイラで「つ」の字だった。
本当におまえは寝相悪いな!
場所取りすぎだぞ、オイ。

左下はシスティアで「し」の字だ。
両手を挙げたまま体が反った状態になっている。
割と辛い姿勢なのか、苦悶の表情を浮かべている。
だったら早く起きろって。

右下はイリアなんだが「よ」の字だった。
これは形容表現ではなく、かなり正確な「よ」をかたどっている。
お前は寝てても完璧なのかよ。
本来の美しい寝姿からはほど遠いが、脱帽ものだぞ。


改めて全体を見るとなんたるカオス。
このど真ん中でオレは寝てたのか。
そりゃツクシのような形にもなるわな。

喉が乾いたから井戸へと向かった。
東の空は赤みが差していて、「今日」が始まることを報せていた。
オレの一日は、これよりずっと後に始まるんだがな。
薄く雲がかかった朝焼けを眺めていると、空からフワリ、フワリと光のツブが舞い降りてきた。
随分と久しぶりの連絡だが、なぜだろう。
今までは感じなかった胸騒ぎがする。
いつもと同じように胸元で光って消えるんだが、焦れているオレには妙に遅く感じられた。

ーー助けて、タクミ。言えた義理じゃないけど……このままじゃ消えちゃうよ。

なんだ、このメッセージは。
『助けて』はまだ良いにしても『消える』ってどういう事だよ?

『おい、何があったんだ。説明しろ』

ーー人間がまた私の力を奪い始めた。今までの比較にならないくらい、凄い量だよ。どうか、止めて。これ以上石を、止めて。

『石ってなんだよ。もう少し詳しく話せって』

それ以来返事はなかった。
いつもの無視とは違う、これは緊急事態なのだろう。
ひとまずはドンガかリョーガに相談しよう。
何らかの情報が手に入るかもしれない。


この時のオレはまだ気づかない。
人間の持つ底力を、技術力とその脅威(きょうい)を。
ヤツらを見くびっていたつもりは無いが、対策は何一つ講じていなかった。
油断していたと言うしかない。

「東の丘に敵影! 鋼鉄の兵です!」

この報告を切っ掛けに始まった戦いは、かつて無いほどの死闘となるのであった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】全てが嫌いな不憫Ωの少年が初恋相手のスパダリαに愛される?ふざけんなお前のことなんか大っ嫌いだ!

にゃーつ
BL
お母さん、僕は今日結婚するよ。 あの初恋の子じゃなくて、お父様が決めた相手と。父様は僕のこと道具としてしか見ていない。義母様も息子の剛さんも、僕のこと道具として扱う。 結婚すれば殴られる日々から解放される。大丈夫。きっと大丈夫だよ。 いつか王子様が現れるってそんな御伽噺信じてないから、ずっと昔に誰か助けてくれるなんて希望捨て去ったから。 ずっと笑ってられるから大丈夫 幼馴染スパダリα×不憫受Ω 結婚して半年で大きな事件が起こる。 雨の降る夜に幼馴染と再会。幼馴染の南 れおんは恋焦がれていた増田 周の驚くべき真実を知る。 お前なんか嫌いだ。みんな嫌いだ。僕が助けて欲しい時に誰も助けてくれなかったくせに!今更なんなんだよ!偽善者! オメガバース作品ですので男性妊娠、出産の内容が含まれますのでご注意ください。

私の通り名が暴君シッターでした。

ぽんぽこ狸
恋愛
 私は今日もまた使用人たちに迷惑をかけている婚約者のカイの部屋へと向かっていた。  到着するとカイはだらしない格好で小説を読んでいて、慌てて声をかけると嫌そうな顔をされてしまう。  しかし、こんな問答をしている場合ではない。数時間後には舞踏会が始まるのだ。カイは病床に臥している国王陛下の代わりに開会のあいさつをしなければならない。  なんとかやる気を出してもらえるようにカイを優しく説得するがそれでも結局、舞踏会は少し遅れての開催となった。  それからも貴族たちから挨拶を受けるカイは途中トラブルを起こして、対処をしてひと息つくと、ヒソヒソと同じ年頃の若い貴族たちが噂話をしていて、私の通り名が耳に入ってくるのだった。

冤罪悪役令息は甘い罠から逃げられない

綺沙きさき(きさきさき)
BL
【腹黒ヤンデレ公爵令息】×【冤罪の悪役令息】のド執着物語 <※注意※> 攻めだけハッピーのヤンデレエンドです。 それについての批判的感想は一切、受け付けておりません。 <あらすじ> イアン・オークスは聖女を強姦した罪で明日、処刑される……――。 しかしイアンにはその罪に全く覚えがなく、完全なる冤罪である。しかし聖女の証言などもあり、イアンの言い分を誰も信じようとしなかった。 刑の執行を牢で待つイアンだったが、親友のリチャードが牢から連れ出してくれ、彼が準備した隠れ家で匿われることに。 「不安かもしれないけど、僕が必ず真犯人を見つけるから、ここでしばらく身を隠していてほしい。――この件、僕に預けてくれないか?」 かくして、イアンの無実を証明するために奔走してくれるリチャードだったが……――。 *9月23日(月)J.GARDEN56にて頒布予定の『異世界転生×執着攻め小説集』に収録している作品です。

悪役令嬢の兄です、ヒロインはそちらです!こっちに来ないで下さい

たなぱ
BL
生前、社畜だったおれの部屋に入り浸り、男のおれに乙女ゲームの素晴らしさを延々と語り、仮眠をしたいおれに見せ続けてきた妹がいた 人間、毎日毎日見せられたら嫌でも内容もキャラクターも覚えるんだよ そう、例えば…今、おれの目の前にいる赤い髪の美少女…この子がこのゲームの悪役令嬢となる存在…その幼少期の姿だ そしておれは…文字としてチラッと出た悪役令嬢の行いの果に一家諸共断罪された兄 ナレーションに 『悪役令嬢の兄もまた死に絶えました』 その一言で説明を片付けられ、それしか登場しない存在…そんな悪役令嬢の兄に転生してしまったのだ 社畜に優しくない転生先でおれはどう生きていくのだろう 腹黒?攻略対象×悪役令嬢の兄 暫くはほのぼのします 最終的には固定カプになります

私の家族はハイスペックです! 落ちこぼれ転生末姫ですが溺愛されつつ世界救っちゃいます!

りーさん
ファンタジー
 ある日、突然生まれ変わっていた。理由はわからないけど、私は末っ子のお姫さまになったらしい。 でも、このお姫さま、なんか放置気味!?と思っていたら、お兄さんやお姉さん、お父さんやお母さんのスペックが高すぎるのが原因みたい。 こうなったら、こうなったでがんばる!放置されてるんなら、なにしてもいいよね! のんびりマイペースをモットーに、私は好きに生きようと思ったんだけど、実は私は、重要な使命で転生していて、それを遂行するために神器までもらってしまいました!でも、私は私で楽しく暮らしたいと思います!

夫が離縁に応じてくれません

cyaru
恋愛
玉突き式で婚約をすることになったアーシャ(妻)とオランド(夫) 玉突き式と言うのは1人の令嬢に多くの子息が傾倒した挙句、婚約破棄となる組が続出。貴族の結婚なんて恋愛感情は後からついてくるものだからいいだろうと瑕疵のない側の子息や令嬢に家格の見合うものを当てがった結果である。 アーシャとオランドの結婚もその中の1組に過ぎなかった。 結婚式の時からずっと仏頂面でにこりともしないオランド。 誓いのキスすらヴェールをあげてキスをした風でアーシャに触れようともしない。 15年以上婚約をしていた元婚約者を愛してるんだろうな~と慮るアーシャ。 初夜オランドは言った。「君を妻とすることに気持ちが全然整理できていない」 気持ちが落ち着くのは何時になるか判らないが、それまで書面上の夫婦として振舞って欲しいと図々しいお願いをするオランドにアーシャは切り出した。 この結婚は不可避だったが離縁してはいけないとは言われていない。 「オランド様、離縁してください」 「無理だ。今日は初夜なんだ。出来るはずがない」 アーシャはあの手この手でオランドに離縁をしてもらおうとするのだが何故かオランドは離縁に応じてくれない。 離縁したいアーシャ。応じないオランドの攻防戦が始まった。 ★↑例の如く恐ろしく省略してますがコメディのようなものです。 ★読んでいる方は解っているけれど、キャラは知らない事実があります。 ★9月21日投稿開始、完結は9月23日です。 ★コメントの返信は遅いです。 ★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません

二度目の人生ゆったりと⁇

minmi
BL
急ですが二度目の人生頂きましたのでのんびりしようと思いま...あれ⁇ 身体は子ども?中身はおじいちゃん。今日も元気に生きていこうと思います。 *色々設定がありますが、作者の勝手な解釈のもと作成しております。 *少々修正しました。

憧れのあの人と着衣らぶえっち〜年上の御曹司はランジェリー姿の私を溺愛する〜

かほなみり
恋愛
「もも、おいで」 年上で大人のこの人に、心揺さぶられても絶対に傾かないと心に決めていた。決めていたのに、その甘い声は何? バイト先のスポーツジムで出会った常連会員、佐藤大海(カイ)。上質な物を身に着け、およそアットホームなスポーツジムなど似合わないハイスペックなカイに心乱される、女子大生、佐藤もも。 二人の突然動き出したある一日のお話。 ☆ムーンライトノベルズにも投稿しています。 ☆タイトル考案: 沖 果南様にご協力頂きました。 ☆表紙はレイラさん(@Layla_work_ )に依頼しました。 ☆ムーンライトノベルズの若草史生様主催「昼と夜の勝負服企画」に参加した作品です。

処理中です...