蟻魔王ございます

蟻村 和希

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蟻の争い

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 アリアンナも少し面白くなってきたのだろうか、すぐさま次の説明を要求してきた。
 そんなに慌てんでも教えてやるさ。
 
 「それでは、先ほど目の辺りに集めた力を顎の間の空間に集めるようにイメージしてください。 自分の体の中で動かすのではないので、少しばかり難しいかもしれませんが」

 しかし、俺の心配は杞憂だったようで、アリアンナは自分の魔力を顎の間の空間にすぐさま集め出した。
 少々集め過ぎ、というぐらいか、牙と牙の間に真っ白に淡く光る球体が出現している。
 魔力の塊だ。
 確かに俺の魔力より少し性質が違うようだな。
 俺の魔力と正反対で、優しい、というのは解らないが、それは小さな太陽のように暖かさのようなものを感じる。
 
 「素晴らしいですよお姉さま。 あとはそれにイメージを投射するんです。 燃え盛るような、熱のイメージを」

 直後、白い球体は熱を持ち、赤く燃え盛る火球へと変貌した。
 これはすんなりといけるとは思っていた。
 それは、魔力を他のエネルギーに変換する際、一番簡単なのが熱エネルギーであるからだ。
 熱というものをイメージしやすいという点もあるが、何かを動かす、温度を上げるというように、魔力自体を正の方向に作用させるのが簡単というのがある。
 逆を言えば、負の方向に作用させるのは難しい。同じ熱エネルギーだが、温度を下げる、というようなことは。
 掘り下げると、魔力はやはり一つの力であるため、何かを動かすことには長けている。
 例えばそこにある物質を構成する物を魔力により動かすと温度が上がる。更に続ければ火を放つ。しかし、逆に温度を下げる場合はその物質を構成する物の動きを止めなければならない。止めるというのは難しいのだ。
 まあそこまで考えなくても魔法は雰囲気で撃てるんだが、そのような感じで冷却の魔法とかは難しい。
 現に俺は炎熱系の魔法しか撃たない。撃てないというわけではないが、もう一つ理由があり、熱には上限は存在しないが下限が存在するというのがある。
 正確にどのくらいということまでは俺には解らないが、熱はある一定の温度以下に下がることはない。
 無詠唱魔法の性質上、上限の無い正の方向には魔力を使えば使うほど威力や規模が増大するが、下限まで達したものにそれ以上魔力を注ぎ込んでも関係が無くなる。
 つまりはそういうこと。

 「ああ、アンス!」

 自分の目の前に出現した火球に対し、アリアンナは驚いていた。
 
 「どうしましたお姉さま」

 「熱いわ! 私まで燃えてしまいそう!」

 「大丈夫ですお姉さま。 それは私が分けた魔力がお姉さまの中で変化し産まれた炎。 恐れることはありません。 私とお姉さまの子供みたいなものですよ」

 「私と、アンスの、子供――?」

 直後である。アリアンナの目前の火球は、火柱のように燃え盛った。
 なんでだ。
 俺は一つの比喩表現として言っただけだぞ。
 魔力の使用は感情に左右されるが、何を動揺するところがあったのだ。
 
 「お、お姉さま!? 落ち着いてください!? 熱くありませんか!?」

 「え、ええ。 もう大丈夫・・・。 むしろこの火の玉に愛しささえも感じるようになったわ・・・」

 そ、そうか。ならいい。
 何にせよ扱いに慣れてくれるならそれでいいんだ。
 
 「で、ではあとはそれを放つだけです」

 「この子を放り出すというの!?」

 「さっきの例えは忘れてください!」

 こいつらに子供だなんだという例えは間違えたなあ。これから気を付けよう。

 「まあお姉さま。 これで作戦の準備は完了です。 お姉さまなら教えなくともそれの使い方は解るでしょう」

 「うん。 ありがとうアンス。 でもあなたは本当にすごいわね」

 「何がです?」

 「まだ子供なのに色々なことを考えることができて、しかもこんなにも魔力に恵まれている・・・」

 「今度こそ私に嫉妬でもしましたか?」

 「いいえ、本当に自慢の妹よ。 愛してるわ、アンス」

 なんだ、拍子抜けだな。
 しかし――今はまだこいつらは俺を妹と、娘だと思っている。
 確かにそうなのだろうが、もし俺が元魔人、元魔王だと知ったらどうなるのだろうか?
 部下の反逆により殺され、そして何かの偶然か蟻共(こいつら)の新女王として生まれ変わったこと。そしてその腹いせに自分たちが使われようとしていること。
 お婆様への侵攻も、新たな巣への移動も、家族のためなどではなく俺自身の復讐のためと知ったなら、蟻共(こいつら)はどう思うのだろうか?
 俺は少しばかり、それが気にはなっていた。
 いずれは解ることだ。
 お婆様の打倒が完遂し、俺が成虫へと変貌し、自由に動けるようになれば一気に俺は行動に移そうと思っている。
 その時、彼女らは知るはずだ。
 俺がただの娘、妹ではなく、また魔王に返り咲こうと考えている一人の魔人だということを。
 使えるならば使う。だが、そこでもし、俺のことを少しでも恐れるならば――。
 ――いや、考えるのはよそう。
 どうやら俺もこの蟻共と生活するうちに少し毒されていたようだ。
 育ててくれた恩は返してやる。新しい土地と新しい巣、そして知恵と魔力として。
 俺がいなくとも、この土地があればお母様がポンポン増やすだろうしな。
 今はとりあえず、お婆様の巣の攻略だ。

 『姫様ー!』

 しばらくして、アリシアとアリアンナが俺たちの元へと帰ってきた。
 雰囲気から察するに、いい具合のところを見つけられたのだろう。
 
 「お帰りなさいお姉さま方。 大丈夫そうですね」

 『もちろんよお。 それで、どうする? 一度見に行くう?』

 「そうですね。 一応見に行って、それでよければ巣に戻っても構わないと思います。 お母様に解ったことを報告して、また作戦を練りましょう」

 『はい姫様ー! それでせっかくですしこの辺のご飯をお土産に持って帰りましょー!』

 果たして、俺たち四匹はアリアーデたちの見つけた場所を見に行った後、帰路に着いたのであった。
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