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第八章 ~強欲~
8-11.ゴーダンとの約束
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グマルカが落としていった仮面を拾おうとするが、力が入らない。緊張の糸が切れたことで、疲労や痛みが一気に降り掛かってきたのだ。
そんな修をゴーダンが起こし、近くの木の幹に寄りかからせる。
「記憶を持ったまま、何度でも意識を過去に戻す能力……ベル・キロニカ」
もう一度グマルカが去っていった方を見ながら、ゴーダンはこう言った。
「修。それは二度と使うな」
驚く修に目線を移し、ゴーダンは続ける。
「私は、どんな悪人でも裁きを受け、償う機会を与えてやるべきだと思ってる。グマルカはどうしようもない奴だったし、殺意が湧く気持ちも分かる。それでも、償わせたかった」
怒りに飲まれてたとはいえ、修もグマルカを殺す気はなかった。だからこそ、まるで命を奪ったような言い方をするゴーダンに違和感を覚えた。
「君はほぼ無限に近い繰り返しを与えたことで、彼から終わりと心を奪った。どんな裁きも、その終わりが見えなければ、人は改心しないだろう。どうせ苦痛が続くのだからと開き直るか、いつ終わるともしれぬ痛みから己を守るために、何も感じなくなる」
罪人を改心させるため、ありとあらゆる手を尽くしてきたゴーダン。当然「やりすぎて」しまったこともある。
自分が何をしたのか、ゆっくり理解していく修。
「私達が見えるのは終わった後だけ。だが、グマルカは永遠とも言える時間を過ごしただろう。その結果、「改める心」さえも失った。それは、死以上に惨い」
使い方がわからないと思っていた力は、生ける屍を生み出すほどに、凶悪な能力だった。
「私はね、罪人には死んだ方がいいと思うくらいの罰を与える。そうした方が「終わった」時に、より改心してくれると考えているからだ」
騎士団に居た頃から掲げ続け、未だ色褪せぬ考え方。対して、ほぼ怒りで行動し、あまつさえ能力の実験をした修。反論できるはずもなかった。
「修、君には裁きの機会も与えず、いきなり命を奪う人や、終わりを奪う人にはなって欲しくない。だからもう一度……その力だけは、二度と使わないで欲しい」
諦観と悲しさを孕んだような微妙な表情と、決して強くはない口調。バカなことをしたと責め立てられていた方が、まだ良かったとさえ思った。
ことの重大さを理解し、ゴーダンの思いを受け取った修は、しっかりと目を見て「わかった」と返した。
「信じてるよ」その答えを聞いたゴーダンは、仮面を手渡した。
仮面は狐の顔の形をしていた。顔には無数の紙幣が絡みつき、目や鼻の部分には硬貨がついている。
司る感情は『強欲』糧となるのは『節制』適度に慎み、欲を抑えようとする意思。
「メタリィさんの時と同じだね」「……ん?」
邪気を吸引する修を見ながら、サフィアが口を開く。
「親身になって怒ってたからさ。普段のゴーダンって、なんかこう……自分の深いところまではあんまり見せないって感じがしたから」
しっかり見抜かれているなと思うゴーダン。そう言えば、もう一人の仲間にも聞いておきたいことがあった。
「サフィアはさ、例え本人が何もしてなくても、その子の親が悪人だったら、子供も悪人だと思う?」
「思わない」
即答されてしまい、顔を逸らすゴーダン。自分のこだわりが小さいとさえ錯覚するような、真っ直ぐな答え。
「そう言うと……思ったよ」
軽く流すような言い方で平静を装うゴーダン。修といいサフィアといい、簡単に心を揺さぶってくれる。
親のせいで全てを判断されていたゴーダンは、顔を隠し、いつしか自分のことを話さなくなっていった。仲良くなれば自分を知ってもらいたくなる。しかし、自分のことを話せば、それ以外の理由で嫌われる。
そんな本心を守る鎧は、憧れだった騎士と……自分より年下の二人によって崩された。
落ち着いたら、もっと自分のことを話そう。私を知ってもらおう。ゴーダンはそう思い、大切な仲間に目をやった。
「そういえば、モカに興味がわかなかったって言ってたけど、どういう意味?」
そう思った矢先に答えにくい質問が飛んできた。本当によく気がつくと感心したゴーダンは「それは秘密」とだけ返した。
そんな修をゴーダンが起こし、近くの木の幹に寄りかからせる。
「記憶を持ったまま、何度でも意識を過去に戻す能力……ベル・キロニカ」
もう一度グマルカが去っていった方を見ながら、ゴーダンはこう言った。
「修。それは二度と使うな」
驚く修に目線を移し、ゴーダンは続ける。
「私は、どんな悪人でも裁きを受け、償う機会を与えてやるべきだと思ってる。グマルカはどうしようもない奴だったし、殺意が湧く気持ちも分かる。それでも、償わせたかった」
怒りに飲まれてたとはいえ、修もグマルカを殺す気はなかった。だからこそ、まるで命を奪ったような言い方をするゴーダンに違和感を覚えた。
「君はほぼ無限に近い繰り返しを与えたことで、彼から終わりと心を奪った。どんな裁きも、その終わりが見えなければ、人は改心しないだろう。どうせ苦痛が続くのだからと開き直るか、いつ終わるともしれぬ痛みから己を守るために、何も感じなくなる」
罪人を改心させるため、ありとあらゆる手を尽くしてきたゴーダン。当然「やりすぎて」しまったこともある。
自分が何をしたのか、ゆっくり理解していく修。
「私達が見えるのは終わった後だけ。だが、グマルカは永遠とも言える時間を過ごしただろう。その結果、「改める心」さえも失った。それは、死以上に惨い」
使い方がわからないと思っていた力は、生ける屍を生み出すほどに、凶悪な能力だった。
「私はね、罪人には死んだ方がいいと思うくらいの罰を与える。そうした方が「終わった」時に、より改心してくれると考えているからだ」
騎士団に居た頃から掲げ続け、未だ色褪せぬ考え方。対して、ほぼ怒りで行動し、あまつさえ能力の実験をした修。反論できるはずもなかった。
「修、君には裁きの機会も与えず、いきなり命を奪う人や、終わりを奪う人にはなって欲しくない。だからもう一度……その力だけは、二度と使わないで欲しい」
諦観と悲しさを孕んだような微妙な表情と、決して強くはない口調。バカなことをしたと責め立てられていた方が、まだ良かったとさえ思った。
ことの重大さを理解し、ゴーダンの思いを受け取った修は、しっかりと目を見て「わかった」と返した。
「信じてるよ」その答えを聞いたゴーダンは、仮面を手渡した。
仮面は狐の顔の形をしていた。顔には無数の紙幣が絡みつき、目や鼻の部分には硬貨がついている。
司る感情は『強欲』糧となるのは『節制』適度に慎み、欲を抑えようとする意思。
「メタリィさんの時と同じだね」「……ん?」
邪気を吸引する修を見ながら、サフィアが口を開く。
「親身になって怒ってたからさ。普段のゴーダンって、なんかこう……自分の深いところまではあんまり見せないって感じがしたから」
しっかり見抜かれているなと思うゴーダン。そう言えば、もう一人の仲間にも聞いておきたいことがあった。
「サフィアはさ、例え本人が何もしてなくても、その子の親が悪人だったら、子供も悪人だと思う?」
「思わない」
即答されてしまい、顔を逸らすゴーダン。自分のこだわりが小さいとさえ錯覚するような、真っ直ぐな答え。
「そう言うと……思ったよ」
軽く流すような言い方で平静を装うゴーダン。修といいサフィアといい、簡単に心を揺さぶってくれる。
親のせいで全てを判断されていたゴーダンは、顔を隠し、いつしか自分のことを話さなくなっていった。仲良くなれば自分を知ってもらいたくなる。しかし、自分のことを話せば、それ以外の理由で嫌われる。
そんな本心を守る鎧は、憧れだった騎士と……自分より年下の二人によって崩された。
落ち着いたら、もっと自分のことを話そう。私を知ってもらおう。ゴーダンはそう思い、大切な仲間に目をやった。
「そういえば、モカに興味がわかなかったって言ってたけど、どういう意味?」
そう思った矢先に答えにくい質問が飛んできた。本当によく気がつくと感心したゴーダンは「それは秘密」とだけ返した。
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