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第七章 ~欺瞞~
7-1.久しぶりの稽古
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岩の多い荒れ地にて、金属音が木霊する。直後に、修が尻もちをつく。
「ぐっ!」
素顔のゴーダンが「もう一度」と促す。修とサフィア相手に兜はいらないと判断し、壊して捨ててしまったのだ。
少し離れた場所では、岩に座ったサフィアが二人を見ていた。
修とゴーダンが行っていたのは棒術の鍛錬。修に伸びしろがあると感じた彼女は、同じ様に棒を振るい、指導していた。
「君は確かにすごいけど、接近戦ならまだ私の方が上だし、魔法もサフィアの方が上だ」
薄々感じていたことを言われ、少しだけ気分が沈む修。それでもめげずに、気持ちを切り替えるように攻撃していく。
剣術はともかく、伸縮や魔法を使わない純粋な棒術でさえ、ゴーダンの方が上だった。
「だから、片方に頼るような戦い方ではなく、両方の力をしっかり引き出すんだ」
「といっても、今は魔法禁止だけどね」おどけながらも、ゴーダンは修の攻撃を捌いてみせる。
「持てる力を出しきらないで勝てるほど、ザウリム達は甘くないよ」
「……わかってる」
戦い方の理想は、片手にリオン・サーガを持ち、もう片方の手で棒を持つ。
魔法を打ちたければ棒を放り投げ、両腕で棒を振るいたいなら、リオン・サーガを消して握る。
カレンから教わり、ずっと磨いてきた戦い方だ。頭では分かっている。
「続きはあいつで試そう」
ゴーダンが見たのは岩陰。魔物らしき物がこちらを見ていた。
見た目は真っ黒な狼。これまで見た魔物の中で、一番動物に近い。
黒い狼は目が合うと同時に、雄叫びをあげて仲間を呼んだ。
「増えた」集まってきたのは同じ狼や鳥、猫など様々な動物。影がそのまま動物を象っているだけで、模様も体色もない。ただ、額の部分に目が一つと、口があるだけ。
「数が多いだけか」突っ込んできた狼を叩き潰すゴーダン。続くように、修も近くの魔物を薙ぎ払う。
空中の魔物はサフィアが対処し、数を減らしていく。
「私との一騎打ちを思い出して。君はある魔法を使ったはずだ」
ゴーダンが言っているのは、リオン・サーガを使わずに出た光弾。
「よし……」
棒と本を消し、意識を集中する。
「出ろ!!」向かってきた狼目掛け、両手を向ける修。
――出たのは、小さく弱々しい光。速度もなく、埃のようにふわふわと舞っているだけ。
「魔法か?」「あんな魔法知らない」
ゴーダンの質問にサフィアが答える。
時間が止まった気がした。肝心の狼はそれを見て驚くどころか、餌と勘違いし、光を飲み込んだ。
「当たれば何か効果があるかも」と思い見ていたが、狼はゆっくりと近づき、修の腕に噛み付いた。
「いってぇ!!」
止まっていた修の時間が動き出し、エルフィで追い払う。
その後も何度か試したが、出たのは蛍が発するような、弱く不安定な光のみ。
弾とは程遠いただのふわふわした玉は、猫に前足で遊ばれ、鳥には突かれた。
魔物を片付け終えた修が、自分の手を見つめる。無我夢中で出していた光弾は、リオン・サーガを使わず、自分で直接出せる魔法だった。
自分自身で魔法を撃てると分かったのは、素直に嬉しい。だが、こうも不安定では……
「自在に出せるわけじゃなかったか」言いながら修の背中に手を当てる。
「無我夢中で出していたものが、意識して出せるようになった。立派な前進だ」
「魔法で大切なのは、できるって信じること。覚えておいて」
ゴーダンの後にサフィアが続ける。修はわかったと返し、前を向いた。
「それよりも、あれみたいだね」
魔物はメオルブへの道標。ゴーダンが目を向けた先には、町が見えていた。
「あれが、クー・マーチアの人が言ってた不気味な石の城か」
高い石の壁に、山のような縦長の景観。門から見えるのは大きく長い坂と、斜めに並んで見える建物の数々。
町の名前は『スピラット』高所にある民家の屋根が、城特有の尖った屋根のように見えることから、石の城と呼ぶ者もいる。
「なんか……暗いね」
無骨な石の部分が多く、緑はほとんどない。サフィアの感想に、修も無言で共感した。
ゴーダンが仕入れたのは、スピラットの周辺に、変な生き物が居るという情報。
「住民がおかしい」や「巨大な化け物を見た」とは違って遠回しな情報だが、近くに別の町もない以上、必然的にスピラットが怪しくなる。
修達は曇天の中、大きく頑丈そうな石の門を潜った。
「ぐっ!」
素顔のゴーダンが「もう一度」と促す。修とサフィア相手に兜はいらないと判断し、壊して捨ててしまったのだ。
少し離れた場所では、岩に座ったサフィアが二人を見ていた。
修とゴーダンが行っていたのは棒術の鍛錬。修に伸びしろがあると感じた彼女は、同じ様に棒を振るい、指導していた。
「君は確かにすごいけど、接近戦ならまだ私の方が上だし、魔法もサフィアの方が上だ」
薄々感じていたことを言われ、少しだけ気分が沈む修。それでもめげずに、気持ちを切り替えるように攻撃していく。
剣術はともかく、伸縮や魔法を使わない純粋な棒術でさえ、ゴーダンの方が上だった。
「だから、片方に頼るような戦い方ではなく、両方の力をしっかり引き出すんだ」
「といっても、今は魔法禁止だけどね」おどけながらも、ゴーダンは修の攻撃を捌いてみせる。
「持てる力を出しきらないで勝てるほど、ザウリム達は甘くないよ」
「……わかってる」
戦い方の理想は、片手にリオン・サーガを持ち、もう片方の手で棒を持つ。
魔法を打ちたければ棒を放り投げ、両腕で棒を振るいたいなら、リオン・サーガを消して握る。
カレンから教わり、ずっと磨いてきた戦い方だ。頭では分かっている。
「続きはあいつで試そう」
ゴーダンが見たのは岩陰。魔物らしき物がこちらを見ていた。
見た目は真っ黒な狼。これまで見た魔物の中で、一番動物に近い。
黒い狼は目が合うと同時に、雄叫びをあげて仲間を呼んだ。
「増えた」集まってきたのは同じ狼や鳥、猫など様々な動物。影がそのまま動物を象っているだけで、模様も体色もない。ただ、額の部分に目が一つと、口があるだけ。
「数が多いだけか」突っ込んできた狼を叩き潰すゴーダン。続くように、修も近くの魔物を薙ぎ払う。
空中の魔物はサフィアが対処し、数を減らしていく。
「私との一騎打ちを思い出して。君はある魔法を使ったはずだ」
ゴーダンが言っているのは、リオン・サーガを使わずに出た光弾。
「よし……」
棒と本を消し、意識を集中する。
「出ろ!!」向かってきた狼目掛け、両手を向ける修。
――出たのは、小さく弱々しい光。速度もなく、埃のようにふわふわと舞っているだけ。
「魔法か?」「あんな魔法知らない」
ゴーダンの質問にサフィアが答える。
時間が止まった気がした。肝心の狼はそれを見て驚くどころか、餌と勘違いし、光を飲み込んだ。
「当たれば何か効果があるかも」と思い見ていたが、狼はゆっくりと近づき、修の腕に噛み付いた。
「いってぇ!!」
止まっていた修の時間が動き出し、エルフィで追い払う。
その後も何度か試したが、出たのは蛍が発するような、弱く不安定な光のみ。
弾とは程遠いただのふわふわした玉は、猫に前足で遊ばれ、鳥には突かれた。
魔物を片付け終えた修が、自分の手を見つめる。無我夢中で出していた光弾は、リオン・サーガを使わず、自分で直接出せる魔法だった。
自分自身で魔法を撃てると分かったのは、素直に嬉しい。だが、こうも不安定では……
「自在に出せるわけじゃなかったか」言いながら修の背中に手を当てる。
「無我夢中で出していたものが、意識して出せるようになった。立派な前進だ」
「魔法で大切なのは、できるって信じること。覚えておいて」
ゴーダンの後にサフィアが続ける。修はわかったと返し、前を向いた。
「それよりも、あれみたいだね」
魔物はメオルブへの道標。ゴーダンが目を向けた先には、町が見えていた。
「あれが、クー・マーチアの人が言ってた不気味な石の城か」
高い石の壁に、山のような縦長の景観。門から見えるのは大きく長い坂と、斜めに並んで見える建物の数々。
町の名前は『スピラット』高所にある民家の屋根が、城特有の尖った屋根のように見えることから、石の城と呼ぶ者もいる。
「なんか……暗いね」
無骨な石の部分が多く、緑はほとんどない。サフィアの感想に、修も無言で共感した。
ゴーダンが仕入れたのは、スピラットの周辺に、変な生き物が居るという情報。
「住民がおかしい」や「巨大な化け物を見た」とは違って遠回しな情報だが、近くに別の町もない以上、必然的にスピラットが怪しくなる。
修達は曇天の中、大きく頑丈そうな石の門を潜った。
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