上 下
13 / 13

では、こちらは『異世界行き課』です。

しおりを挟む
 気を取り直し、画面に目をやる眼鏡。
 楽しそうに萌香を眺める女神様。

 一先ず萌香も落ち着いたようで舗装されていない道を進んでいる。
 そんな様子をハラハラと見守る眼鏡。萌香が途中花を摘みに行くようで、おっと。と、ちょっと席を離れる。

「あらあら、あらあら、大変だわ。いかにもな悪漢が現れちゃった♪」
「……え!?」

 急いで女神様の席へと戻ると、少年姿の萌香は屈強な男に腕を掴まれ、ねっとりと絡まれていた。

「……!!」
 息をのむ眼鏡。萌香は間一髪で何とか男の絡みから逃れ走り出すが、男も追いかけている。

「も、も、萌香さん……っ」
 恐ろしさで声が震え、バッと女神様に顔を向ける。

「な、何とかしてあげられないのですか!!」
「ンも~。わかってるわよ~」

 ちょと口を尖らせる女神様。
 また鏡の前で人差し指を横に動かす。文字が浮かび上がりスゥっと萌香に向けて消えていくと同時に、今度は女神様が呟く。

『萌え・萌え・ボ・ン・バー♪』

 戸惑いながらも萌香が復唱すると、ボンッと何かが弾けた。

 ――あ、あれは…… ボム……。
 画面の萌香を凝視する眼鏡。
 すると女神様が萌香に向かって声をかけ始めた。

『聞こえますか……。今……、貴方の脳内に……、直接、語りかけています……』

 ――な!?
 信じられないといった表情で女神様を見つめる眼鏡。
 ――ど、どこで、そんなセリフを……ッ

 二人の驚く様に耐えきれず、うふふと含み笑いをもらす女神様。
 萌香もそれが女神様であると気づいたようだ。

『あ、は~♪ だっい、せい、か~~い! パンパカパカ~ン♪ 女神ちゃんでした!』
 早速正体を明かす女神様。

 もお、何が何だかと、女神様と画面の萌香を交互に見やる眼鏡。

『どぉ? 萌香ちゃん♪ 異世界は♪』
 うふふと呑気に挨拶をする女神様。

 追われている萌香はそれどころではない。
 バランスを崩し倒れ、また悪漢に捕まってしまう。

「!!!!」
 気が気ではない眼鏡。
 幾度も幾度も萌香と女神様を交互に見やる。

 女神様はハイハイやれやれといった表情を浮かべ、また人差し指を横に動かし呟く。
『萌え萌えボンバー』

 萌香の口から発せられた言葉は小さく爆ぜ、男はのけ反り、その隙を付き萌香は必死に走り出す。

 そんな様子を意にも介さない女神様。
『さて♪ 「チュートリアル」のお時間よ~!』

「萌え萌えボンバー」が爆発である事と、使用方法をお気楽に伝え始める。
 走りながら息を切らしながら何とか理解しようと努めている萌香。

『そ。そしたら「萌え・萌え・ボ・ン・バー♪」リピートアフターミ~』
 変わらず呑気な女神様。立ち止まり女神様の言う通りに試し打ちをしてみる萌香。

『あら♪ 早速理解したみたいね♪ さっきより理解が深まったところで、あ、ほら! また実戦よ~~♪』

 女神様の言葉にエ?となり画面を注視すると、先程の悪漢が仲間を引き連れ馬で追いかけて来ている。

 ――……!!!!
 ヒュっとなる眼鏡。

『ほらほら♪ 大変♪ 手篭めにされちゃう♪ 萌え萌えボンバー♪ 萌え萌えボンバー♪』
 茶化すような物言いをする女神様。

 萌香が大きな声で「萌え萌えボンバー!!!!」と叫ぶと、
 空気が集まるように風が吹き、先程とは比べようが無いほどの大きな爆発音と閃光が走った。

「ンっ……!!!!!!」
 少しの間萌香を視認出来ずにいたが、土煙が治まり視界が開けてゆくと、テニスコート4面くらいの大きさが綺麗さっぱり更地となっていた。

 呆然とする眼鏡と萌香。
『そ、威力は声の大きさと比例するわね♪』

 萌香は事の大きさに脱力し暫しガクリとしていたが、悪漢の行方を案じ始める。
『あぁ。生きてるわよ』
 あっさりと女神様が答える。
『爆風で大分遠くに飛ばされたみたいね♪ もお安心よ♪』

「人殺し」にならなかった事に安堵した様子だ。

 ――だけど、もしかしたら、いつかは……

 行く末を案じる眼鏡。気付けば爪の跡が付く程に、手を握りしめていた。

『あ、そうそう!』
 女神様の突然の大声にビクッとする。

 すると萌香はゆらりと膝をつく。

『これらは使えば使う程、魔力を消費するから気を付けてね♪』

 そしてゆるりとその場に倒れ込む萌香。

『使い切ると気を失いま~す♪』

「な…………!!」
 画面に釘付けとなる眼鏡。画面はノイズ混じりになり見えにくくなり始めていた。

 ノイズ混じりの画面の先で馬が萌香に近づいて来ている。薄っすらと月明かりを背に、人と馬のシルエットが浮かび上がる。先程の悪漢であろうか。

 萌香はその場に伏せ、微動だにしなくなってしまった。

「も、萌香さん!! 萌香さんっ!!!!」
 たまらず画面の萌香に向け声を掛ける眼鏡。
 とすると画面は真っ暗になり、何も映さなくなってしまった。

 驚き女神様を見る眼鏡。
「あら~。萌香ちゃんの魔力切れね」
「……っ え、 ど、どーゆう……」

「これはね~。そうね~……。分かりやすく言うとっ、携帯電話と一緒よ♪」
「え……?」

「片方が電池満タンでも、もう一方が電池切れたら通話出来ないでしょ♪ それと一緒♪ 萌香ちゃんの魔力もないと、見れないのよ~♪ 残念ね♪」

「――――――っ!!」
 声にならない叫びをあげる眼鏡。

「あぁ、萌香さんっ! ……どうか、どうか、ご無事で……!!」


しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

これはよくある異世界F(旧題:僕の無双はスライム限定!)

カギカッコ「」
ファンタジー
家の排水口からスライムが出てくるせいでスライム嫌いになった少年アル。スライム撲滅を決意するそんな彼と仲間の思うようにいかない冒険旅。 基本コメディ時々シリアス。 他サイト様にもあります。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

竜の契約者

ホワイトエンド
ファンタジー
一人の青年は魂の半分を失った------ 1体の竜は肉体を失った-------- 二つの魂は混ざり合い生まれ変わった----- あの日、全てを失った彼はその身に宿した力を振るう 悪を裁くために 正義をまっとうするために 例え、歪んでいようとも

社畜の俺の部屋にダンジョンの入り口が現れた!? ダンジョン配信で稼ぐのでブラック企業は辞めさせていただきます

さかいおさむ
ファンタジー
ダンジョンが出現し【冒険者】という職業が出来た日本。 冒険者は探索だけではなく、【配信者】としてダンジョンでの冒険を配信するようになる。 底辺サラリーマンのアキラもダンジョン配信者の大ファンだ。 そんなある日、彼の部屋にダンジョンの入り口が現れた。  部屋にダンジョンの入り口が出来るという奇跡のおかげで、アキラも配信者になる。 ダンジョン配信オタクの美人がプロデューサーになり、アキラのダンジョン配信は人気が出てくる。 『アキラちゃんねる』は配信収益で一攫千金を狙う!

チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!

芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️ ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。  嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる! 転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。 新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか?? 更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!

悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~

こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。 それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。 かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。 果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!? ※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。

処理中です...