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市内に戻った藤永達は、住民課の窓口で機械的な口調の事務員から返ってきた言葉に、少しの苛立ちを覚えていた。
「いや、それは知ってます。もう一度言いますけど、そこに住んでいた住人と連絡が取りたいって言ってるんです、我々は」
伏見の言葉にこめかみをひくつかせる女性は、小さな声で何か言葉を発すると、事務所の奥へと消えて行った。
「先輩、何て言ったか聞こえました?」
「いいや」
「待ってろとか、何か言ってくれてもいいのに。——にしても態度の悪い人ですね」
「俺らが刑事だからだろ。それか面倒事とでも思ったんだろうな」
「いや、市民のために働く人でしょ? いいんですか、あんな態度で。他の人に声かけた方がよかったっすね」
「俺達も似たようもんだろ」
伏見にそういったものの、指先でカウンターを叩きながら、藤永は苛立ちを募らせていた。
事務員の態度などどうでもいい。こっちが欲しているものさえ出してくれればいいんだ。
今は何よりも時間が惜しい……。
「お待たせしました」
覇気のない声と同時に、さっきの事務員が分厚いファイルを手に受付まで戻ってきた。それをカウンターの上に置くと、付箋で目印してあるページをめくって、コンコンと指先で一箇所を指し示した。
「これは?」
伏見の問いに目も合わせようともせず、
「ここに書かれているのが、岩城荘の住人の住民移動届けです。役所によって異なりますが、ここではできる限り保管しておりますので」と、抑揚のない声で伝えられた。
「これ、コピー貰っても——」
「こちらを」
「あ、ああ。ありがとう」
伏見の言葉を遮るよう言い放ち、事務員は数枚の写しを差し出した。
予想を反した用意周到な振る舞いに、藤永達はチラリと視線を合わせた後、七名分の用紙に目を落とした。
「因みに、そこに印してある方達は既に生存しておりません。アパートが閉鎖される前に他界されていたと思われます」
彼女の言葉通り、三名の名前の先頭に赤ペンでマルが付けられている。他の名前に目をやると、フルネームに加え、新住所と生年月日の記載があった。
「助かります。お忙しいところ、すいませんでした」
伏見の言葉に事務員は背を向けると、振り返りながら軽く会釈をし、自席へと戻って行った。彼女の横顔を眺めながら、二人は早々に役所を後にした。
「中々の塩対応でしたね。最初から協力的ならもっと可愛いのに」
「なんだ、お前のタイプか? 年上でツンデレ」
「ち、違いますよ! 俺は清楚で従順な子がいいんです——ってそれより、どうします? こっから」
「四人をしらみ潰しにして行くしかないだろう。時間がない、さっさと行くぞ。遠方にいる二人は別班に頼もう。俺らは市内に住んでるこの二人だ」
「了解でっす」
勢いのある号令に従うよう、車へと戻った伏見がアクセルをふかす。
地下駐車場に甲高いスキール音を響かせながら、二人を乗せた車は地上へと走り去って行った。
「いや、それは知ってます。もう一度言いますけど、そこに住んでいた住人と連絡が取りたいって言ってるんです、我々は」
伏見の言葉にこめかみをひくつかせる女性は、小さな声で何か言葉を発すると、事務所の奥へと消えて行った。
「先輩、何て言ったか聞こえました?」
「いいや」
「待ってろとか、何か言ってくれてもいいのに。——にしても態度の悪い人ですね」
「俺らが刑事だからだろ。それか面倒事とでも思ったんだろうな」
「いや、市民のために働く人でしょ? いいんですか、あんな態度で。他の人に声かけた方がよかったっすね」
「俺達も似たようもんだろ」
伏見にそういったものの、指先でカウンターを叩きながら、藤永は苛立ちを募らせていた。
事務員の態度などどうでもいい。こっちが欲しているものさえ出してくれればいいんだ。
今は何よりも時間が惜しい……。
「お待たせしました」
覇気のない声と同時に、さっきの事務員が分厚いファイルを手に受付まで戻ってきた。それをカウンターの上に置くと、付箋で目印してあるページをめくって、コンコンと指先で一箇所を指し示した。
「これは?」
伏見の問いに目も合わせようともせず、
「ここに書かれているのが、岩城荘の住人の住民移動届けです。役所によって異なりますが、ここではできる限り保管しておりますので」と、抑揚のない声で伝えられた。
「これ、コピー貰っても——」
「こちらを」
「あ、ああ。ありがとう」
伏見の言葉を遮るよう言い放ち、事務員は数枚の写しを差し出した。
予想を反した用意周到な振る舞いに、藤永達はチラリと視線を合わせた後、七名分の用紙に目を落とした。
「因みに、そこに印してある方達は既に生存しておりません。アパートが閉鎖される前に他界されていたと思われます」
彼女の言葉通り、三名の名前の先頭に赤ペンでマルが付けられている。他の名前に目をやると、フルネームに加え、新住所と生年月日の記載があった。
「助かります。お忙しいところ、すいませんでした」
伏見の言葉に事務員は背を向けると、振り返りながら軽く会釈をし、自席へと戻って行った。彼女の横顔を眺めながら、二人は早々に役所を後にした。
「中々の塩対応でしたね。最初から協力的ならもっと可愛いのに」
「なんだ、お前のタイプか? 年上でツンデレ」
「ち、違いますよ! 俺は清楚で従順な子がいいんです——ってそれより、どうします? こっから」
「四人をしらみ潰しにして行くしかないだろう。時間がない、さっさと行くぞ。遠方にいる二人は別班に頼もう。俺らは市内に住んでるこの二人だ」
「了解でっす」
勢いのある号令に従うよう、車へと戻った伏見がアクセルをふかす。
地下駐車場に甲高いスキール音を響かせながら、二人を乗せた車は地上へと走り去って行った。
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