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開口前夜
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『守護の宵全連盟員へ通達。現在、一級管理違反者”メルーナ・フィル・ノイエス"は第六エリアから施設外への逃亡を図ろうとしている。直ちに当該エリアへ急行し捕縛若しくは殺害せよ』
無機質なアナウンスが、耳障りなノイズと共に夜空へ響き渡った。
私は気が遠くなりそうな程に夥しく並んだ研究棟の合間を、一つの箱と一枚の紙を抱えて駆け抜ける。
しくじれば死ぬ。この世も終わる。何としてでもこの施設を抜け、彼を探し出さなくてはならない。
「あーーーやっぱり来た。先回りしといた甲斐があったわぁ…………」
目の前に、敵がいた。
白く丈の長いローブを身に纏う忌々しき”魔術師”が、気怠い顔を浮かべ私を正面から待ち受けていた。
血が通わない人形の様な瞳をした彼女を前に私は歩みを止める。
「にしても、上は状況判断が鈍いねぇどうも」
「シエラ・ドルグ…………守護の宵か…………!!」
「駄目だよぉ?魔導士導士ちゃんは大人しく檻の中で研究に勤しまなきゃ。さ、早くそれ置いてよ」
「ふざけるな!!!貴様らは事の重大さを理解していない!!…………明日午前11時58分17秒…………その瞬間から施設内及び世界中へ散らばる秘術庫の7割が開口へのカウントダウンを開始するんだぞ!!!」
「しかも、最初に開口する秘術庫は君の師の先祖が生み出した原初魔術」
「っ!!…………そこまで知っておきながら私を止めるか…………魔術師………」
口角を上げ、徐々にこちらへ近づいてくる。
明確な殺意。だが足は地に張り付いたまま動こうとしない。………恐怖に、末梢まで支配されていた。
「知ったからって別にどうでもいいじゃん。むしろ嬉しいニュースだよ!!君達魔導士が必死に隠していた無数の魔術達がやっと日の目を浴びるんだから…………!!あぁ、早く使いたいなぁ、アタシも」
「力に溺れた愚族共めが…………!!!」
「じゃあ、君達は違うの?」
刹那、風が流れる。
不自然且つ強い風が私の頬を撫で、次に焼け付く様な痛みが腹部に奔った。
視線を落とすと腹部には拳程の大きさに穴が貫通し、そこから赤黒い血液が吹き出す様に流れ出ていた。
「ぐっ…………!!!あぁ…………ぁあああぁああ!!!」
「アハハハ!!!よっわーーい!!やっぱり魔導士って魔術開発以外何も出来ないんだねぇ?今のなんてちょっと指でお腹つついただけだよ?」
彼女は一切移動していない。だがこちらに伸ばした人差し指には私の血液と思われるものが付着していた。
………奴は直ぐにでも私を殺せる。それをしないのは、本当に奴にとってこれは束の間の戯れでしかないのだ。
「メルーナちゃんだっけ?………あんま下らない事で死に急がない方がいいよぉ?まだ子供なんだしさぁ、ウチらにとっても研究員って結構重要なんだからね?」
「研究員とは名ばかりの奴隷ではないか………!!魔術の創造を赦されない貴様らに捕えられ、死ぬまで研究をさせられ、その結果生み出した魔術でさえも総て奪っていく!!!……下らない事だと?違う。私の行為は、私達の行為は!!!世界を繋ぎとめる、唯一の反逆だ!!!!」
右腕の手根に噛み付く。静脈から流れた血液を喉へ流し、記憶を呼び起こす。ここから遠く離れた目的の地、そして我が師の最期を。
「自傷による血液の嚥下……………まさか魔術…………魔導士が…………!?」
「”使えない”と、私が一言でもあの檻の中で嘆いたことがあったか?魔術師」
「ガキが…………嘗めやがって!!!」
豹変した相貌で私を睨むシエラ・ドルグ。
出来ればこんなものに頼らず施設を抜けたかったが………致し方無い。
血を流す右腕を掲げる。私は生まれて初めて、魔術に身を委ねた。
「主従共にメルーナ・フィル・ノイエス。侵す根源は………」
「転移………!!逃がすか!!!」
「五界秘術庫」
朦朧とする意識の中で、私の身体は一つの秘術庫と一枚の地図を抱えたまま………この地獄から消失した。
無機質なアナウンスが、耳障りなノイズと共に夜空へ響き渡った。
私は気が遠くなりそうな程に夥しく並んだ研究棟の合間を、一つの箱と一枚の紙を抱えて駆け抜ける。
しくじれば死ぬ。この世も終わる。何としてでもこの施設を抜け、彼を探し出さなくてはならない。
「あーーーやっぱり来た。先回りしといた甲斐があったわぁ…………」
目の前に、敵がいた。
白く丈の長いローブを身に纏う忌々しき”魔術師”が、気怠い顔を浮かべ私を正面から待ち受けていた。
血が通わない人形の様な瞳をした彼女を前に私は歩みを止める。
「にしても、上は状況判断が鈍いねぇどうも」
「シエラ・ドルグ…………守護の宵か…………!!」
「駄目だよぉ?魔導士導士ちゃんは大人しく檻の中で研究に勤しまなきゃ。さ、早くそれ置いてよ」
「ふざけるな!!!貴様らは事の重大さを理解していない!!…………明日午前11時58分17秒…………その瞬間から施設内及び世界中へ散らばる秘術庫の7割が開口へのカウントダウンを開始するんだぞ!!!」
「しかも、最初に開口する秘術庫は君の師の先祖が生み出した原初魔術」
「っ!!…………そこまで知っておきながら私を止めるか…………魔術師………」
口角を上げ、徐々にこちらへ近づいてくる。
明確な殺意。だが足は地に張り付いたまま動こうとしない。………恐怖に、末梢まで支配されていた。
「知ったからって別にどうでもいいじゃん。むしろ嬉しいニュースだよ!!君達魔導士が必死に隠していた無数の魔術達がやっと日の目を浴びるんだから…………!!あぁ、早く使いたいなぁ、アタシも」
「力に溺れた愚族共めが…………!!!」
「じゃあ、君達は違うの?」
刹那、風が流れる。
不自然且つ強い風が私の頬を撫で、次に焼け付く様な痛みが腹部に奔った。
視線を落とすと腹部には拳程の大きさに穴が貫通し、そこから赤黒い血液が吹き出す様に流れ出ていた。
「ぐっ…………!!!あぁ…………ぁあああぁああ!!!」
「アハハハ!!!よっわーーい!!やっぱり魔導士って魔術開発以外何も出来ないんだねぇ?今のなんてちょっと指でお腹つついただけだよ?」
彼女は一切移動していない。だがこちらに伸ばした人差し指には私の血液と思われるものが付着していた。
………奴は直ぐにでも私を殺せる。それをしないのは、本当に奴にとってこれは束の間の戯れでしかないのだ。
「メルーナちゃんだっけ?………あんま下らない事で死に急がない方がいいよぉ?まだ子供なんだしさぁ、ウチらにとっても研究員って結構重要なんだからね?」
「研究員とは名ばかりの奴隷ではないか………!!魔術の創造を赦されない貴様らに捕えられ、死ぬまで研究をさせられ、その結果生み出した魔術でさえも総て奪っていく!!!……下らない事だと?違う。私の行為は、私達の行為は!!!世界を繋ぎとめる、唯一の反逆だ!!!!」
右腕の手根に噛み付く。静脈から流れた血液を喉へ流し、記憶を呼び起こす。ここから遠く離れた目的の地、そして我が師の最期を。
「自傷による血液の嚥下……………まさか魔術…………魔導士が…………!?」
「”使えない”と、私が一言でもあの檻の中で嘆いたことがあったか?魔術師」
「ガキが…………嘗めやがって!!!」
豹変した相貌で私を睨むシエラ・ドルグ。
出来ればこんなものに頼らず施設を抜けたかったが………致し方無い。
血を流す右腕を掲げる。私は生まれて初めて、魔術に身を委ねた。
「主従共にメルーナ・フィル・ノイエス。侵す根源は………」
「転移………!!逃がすか!!!」
「五界秘術庫」
朦朧とする意識の中で、私の身体は一つの秘術庫と一枚の地図を抱えたまま………この地獄から消失した。
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