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18話「決着」
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プツンと、この世界に繋ぎ止める糸が切れる。
ギュッと目を閉じて、死を覚悟したのだけど、体が底なしの闇へと落下することはなく――
不思議に思って柱を見ると俺の命綱は無事で、切られたのは自分のではなく鷲の方だった。
「うああっ!!!」
「鷲!!!」
鷲の悲鳴と、自分の呼び声が重なる。
命綱を失った鷲の体はバランスを崩し、足場のない空中へ投げ出された。
手を伸ばせば掴める距離だ。なのに――
目の前で最愛の人が真っ逆さまに落下していく。
――はずだった。
鷲は逆さのまま、空中で宙ぶらりん状態。
ピンと張られた命綱が彼の片足を繋ぎとめていた。
顔を後ろに向ける。
鵠が切られたロープの端を、綱引きの体勢で掴んでいた。
段差に両足を引っ掛け、全体重をかけて。
それでも、大人を引き上げるには腕力が足りない。
せいぜい落下させないようにするのが限界のようだ。
「ぐっ……うぅ……」
歯を食い縛り、苦しげに顔を歪ませる鵠。
つかの間の安堵は意味がない。
鵠両手はロープの摩擦で皮膚の皮がめくれ、血が滲んでいた。
「鵠、もういい……手を離してくれ」
逆さ吊りになった鷲は震える声で訴える。
自分も同じ立場だったら、同じことを言うだろうな。そう思い、口をつぐんだ。
でも鵠は「ふざけるな」と吐き捨てた。
優等生の息子の口から出た暴言に、俺は目を見開いた。
「勝手に諦めてんじゃねえよ! 僕を孤独から救ってくれた恩人を……憧れの人をみすみす見殺しになんてできるか!」
「このままじゃ……お前も落ちるだろうが。俺はもういいから……琴を守ってくれ」
鷲の悲痛な訴えに同調するように、ロープはじょじょに鵠の手から滑り落ちていく。
それでも息子の顔には諦めという文字は書かれていない。
「人を愛することの大切さを、家族の温かさを教えてくれたのは、あんただろう!? 絶対に諦めるもんか! 3人で……3人で幸せになるんだ!!!」
「鵠…………」
5年前の内気で弱々しい姿はどこにもない。
目の前にいるのは、優しくて勇気があって、誰よりも家族想いな愛しい人だった。
そんな時、今まで黙っていた鴉島が口を開いた。
「めっちゃ頑張っている所に水を差しちゃうんだけどぉ、実は転落防止ネット張ってるから落ちても平気なんだよね~」
「――――え?」
奴の発言に気を取られた鵠の手から、スルリとロープが抜け落ちた。
「うわあああああああっ―――――」
鷲の叫び声がどんどん小さくなり、数秒後に、ガシャンと金属が割れた音が響いた。
「鷲!!!」
「父さん!!!」
段差から身を乗り出した鵠は、青ざめた顔で下を覗き込んだ。
「――――――生きてる」
ボソリと呟かれた一言に、俺は安堵で、体ごと床に倒れた。
もう身体的にも精神的にも我慢の限界だった。
「よかっ……たぁ……」
色々こみ上げるものがあって、それが涙となってポロポロ流れる。
鵠もへなへなと腰から崩れ落ち、同じように泣いていた。
そこに明らかに空気の読めない拍手が鳴り響く。
「いや~素晴らしい家族愛。感動して涙が出そうだったよ。まあ、鷲ちゃんもこれに懲りて僕を追い回すことはしなくなるといいけどねぇ」
すると横にいた鵠がおもむろに立ち上がり、鴉島の前まで歩み寄る。
実の父親を見上げながら、語気を強めて言い放つ。
「僕は警察官になるつもりです。そして貴方を捕まえます。必ず」
鴉島は目を大きく見開くと、またいつもの笑みを張りつかせ、鵠の頭にポンと手を置いた。
「それは楽しみだねぇ」
鴉島は一瞬、寂しそうに目を細めると、藤堂を連れて屋上から立ち去っていった。
鵠は追いかけようとしたが、全力でとめた。
奴はああ見えて本物のヤクザ。次こそは必ず殺されるだろう。
というか、途中までは完全に殺意を持っていた。
だけど急に雰囲気が変わったのは、やっぱり鵠の存在を知ってから。
結局奴が何をしたかったのかはさっぱりだが、こうして誰も死なずに済んだことは本当に良かった。
こんな経験、後にも先にもないことを祈るばかりだ。
鵠によって両手足の拘束を解いてもらい、ホッと息を撫で下ろす。
早く下にいる鷲も助けなきゃ、そんなことを考えていると、鵠にギュッと抱きしめられた。
「母さん……怖かったよぉ」
俺の胸に顔を埋めた鵠は、消え入りそうな声で言った。
その震える体を両手で包み込む。
「ありがとう、鵠。心配させて悪かったな」
「もう僕を一人にしないで」と呟く息子に力強く頷き、言った。
「帰ろう、俺たちの我が家に」
ギュッと目を閉じて、死を覚悟したのだけど、体が底なしの闇へと落下することはなく――
不思議に思って柱を見ると俺の命綱は無事で、切られたのは自分のではなく鷲の方だった。
「うああっ!!!」
「鷲!!!」
鷲の悲鳴と、自分の呼び声が重なる。
命綱を失った鷲の体はバランスを崩し、足場のない空中へ投げ出された。
手を伸ばせば掴める距離だ。なのに――
目の前で最愛の人が真っ逆さまに落下していく。
――はずだった。
鷲は逆さのまま、空中で宙ぶらりん状態。
ピンと張られた命綱が彼の片足を繋ぎとめていた。
顔を後ろに向ける。
鵠が切られたロープの端を、綱引きの体勢で掴んでいた。
段差に両足を引っ掛け、全体重をかけて。
それでも、大人を引き上げるには腕力が足りない。
せいぜい落下させないようにするのが限界のようだ。
「ぐっ……うぅ……」
歯を食い縛り、苦しげに顔を歪ませる鵠。
つかの間の安堵は意味がない。
鵠両手はロープの摩擦で皮膚の皮がめくれ、血が滲んでいた。
「鵠、もういい……手を離してくれ」
逆さ吊りになった鷲は震える声で訴える。
自分も同じ立場だったら、同じことを言うだろうな。そう思い、口をつぐんだ。
でも鵠は「ふざけるな」と吐き捨てた。
優等生の息子の口から出た暴言に、俺は目を見開いた。
「勝手に諦めてんじゃねえよ! 僕を孤独から救ってくれた恩人を……憧れの人をみすみす見殺しになんてできるか!」
「このままじゃ……お前も落ちるだろうが。俺はもういいから……琴を守ってくれ」
鷲の悲痛な訴えに同調するように、ロープはじょじょに鵠の手から滑り落ちていく。
それでも息子の顔には諦めという文字は書かれていない。
「人を愛することの大切さを、家族の温かさを教えてくれたのは、あんただろう!? 絶対に諦めるもんか! 3人で……3人で幸せになるんだ!!!」
「鵠…………」
5年前の内気で弱々しい姿はどこにもない。
目の前にいるのは、優しくて勇気があって、誰よりも家族想いな愛しい人だった。
そんな時、今まで黙っていた鴉島が口を開いた。
「めっちゃ頑張っている所に水を差しちゃうんだけどぉ、実は転落防止ネット張ってるから落ちても平気なんだよね~」
「――――え?」
奴の発言に気を取られた鵠の手から、スルリとロープが抜け落ちた。
「うわあああああああっ―――――」
鷲の叫び声がどんどん小さくなり、数秒後に、ガシャンと金属が割れた音が響いた。
「鷲!!!」
「父さん!!!」
段差から身を乗り出した鵠は、青ざめた顔で下を覗き込んだ。
「――――――生きてる」
ボソリと呟かれた一言に、俺は安堵で、体ごと床に倒れた。
もう身体的にも精神的にも我慢の限界だった。
「よかっ……たぁ……」
色々こみ上げるものがあって、それが涙となってポロポロ流れる。
鵠もへなへなと腰から崩れ落ち、同じように泣いていた。
そこに明らかに空気の読めない拍手が鳴り響く。
「いや~素晴らしい家族愛。感動して涙が出そうだったよ。まあ、鷲ちゃんもこれに懲りて僕を追い回すことはしなくなるといいけどねぇ」
すると横にいた鵠がおもむろに立ち上がり、鴉島の前まで歩み寄る。
実の父親を見上げながら、語気を強めて言い放つ。
「僕は警察官になるつもりです。そして貴方を捕まえます。必ず」
鴉島は目を大きく見開くと、またいつもの笑みを張りつかせ、鵠の頭にポンと手を置いた。
「それは楽しみだねぇ」
鴉島は一瞬、寂しそうに目を細めると、藤堂を連れて屋上から立ち去っていった。
鵠は追いかけようとしたが、全力でとめた。
奴はああ見えて本物のヤクザ。次こそは必ず殺されるだろう。
というか、途中までは完全に殺意を持っていた。
だけど急に雰囲気が変わったのは、やっぱり鵠の存在を知ってから。
結局奴が何をしたかったのかはさっぱりだが、こうして誰も死なずに済んだことは本当に良かった。
こんな経験、後にも先にもないことを祈るばかりだ。
鵠によって両手足の拘束を解いてもらい、ホッと息を撫で下ろす。
早く下にいる鷲も助けなきゃ、そんなことを考えていると、鵠にギュッと抱きしめられた。
「母さん……怖かったよぉ」
俺の胸に顔を埋めた鵠は、消え入りそうな声で言った。
その震える体を両手で包み込む。
「ありがとう、鵠。心配させて悪かったな」
「もう僕を一人にしないで」と呟く息子に力強く頷き、言った。
「帰ろう、俺たちの我が家に」
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