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第1章「『総務の賢者』は、ダメ男を計算で割り出す」
第4話「……ちがうってばさ」
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第4話「……ちがうってばさ」(UnsplashのAiony Haustが撮影)
爽太さんのしなやかな身体がゆっくりとのしかかってくる。
とてもきれいな身体。贅肉はなくて、お腹も出てない。筋肉はほどほどについていて、バランスが取れている。
全体的に見て、89点の体だ。
「ココだろ、むつみのすきなとこ」
「あんっ」
あたしは条件反射でうめく。
爽太さんの長い指が身体じゅうを動き回る。身もだえしながらしがみつくと、彼は喜ぶ。
「あんっ、そうた、さあん」
「かわいいよ、むつみ。ほら、ここもスキだろ」
「ああんっ、いじわるうう」
……ちがうのだ。
上手に説明できないんだけど、爽太さんが攻めてくるポイントひとつひとつが、微妙にズレている。大きくはずれてるわけじゃないけど、ほんの1ミリ、ズレているかんじなの。
小さな違いだけど――圧倒的な違い。
だから半年のあいだ、爽太さんと『してる』けど本気で気持ちよくなったことはない。
最初はあたしがまちがっているのかな、って思った。
ほら、不感症とかあるでしょう。そういうのかなって。
ネットでも検索してみたし、本もで調べた。
でも、ちがうみたい。
あたしも少ないなりに経験があるけど、ちゃんと『イッた』ことがある。だから、これが『なんか違う』という事だけは、わかる。
ただ、爽太さんに上手に伝えることができないだけ……。
一度、遠回しに言ってみたことがあるんだけど、彼は笑い飛ばした。
『むつみはさ、男経験が少ないからね。まあ男にとっては、カノジョの経験なんて少ないほうがいいんだけどなー』
……ちがうってばさ。
ソッチがへたくそなのよ、とは、言えなかった。
あたしは頭が悪いから上手に伝えられないし、だいたい男のヒトってソレを指摘されるとすごい嫌がるでしょ。
たったひとつ理想にあわない点があるからって、こんなに完璧な結婚相手をフるなんて、もったいなさすぎる。
一生、このままって事になっても……仕方がないよ。
さて、あたしの上では爽太さんがいよいよ盛り上がってきた。
「むつみ……ごめん、オレ、とまんないみたい」
「ああんっ、だめええ……っ」
……女ってすごいと思う。
礼儀と条件反射の積み重ねで、あたしは正しい時に、正しい言葉を出すことができる。だって、そういう形に自分を作り上げてきたんだもん。
19歳でサークルの先輩と初めてしたときから、『かわいらしい女のコ』に求められる反応をきちんとこなしてきた。
はじめは、おどおどして。
少し慣れてきたらちょっぴり大胆に。
ときには『あなただけのものよ』と匂わせつつ、小悪魔的に攻めてみたり無条件に恥ずかしがったり。
コツは、どの反応も『男の想定する枠』からはみ出さないこと。
男の予想を裏切らない女こそが、選ばれる女だから。
だから、爽太さんに対しても同じ。
我を忘れるほどは乱れない。
乱れたことがないし、乱れたいとも思わない。
男女の事なんて、その程度で十分だ。
こうしておけば、爽太さんはきっと指輪を持ってくる。そして結婚したら、ろくに『しない』ことは、年上の女性たちとの会話でよくわかっている。
「むつみっ、いく……っ!」
爽太さんの身体がぐぐっと伸びた。
微妙にズレたリズムの中で、あたしは今日も快楽の破片だけを味わう。
それでいい。
だってあたしは、平凡で平均的な暮らしがしたいだけなんだもの。
中庸こそがほんとうに頭のイイ女が求めるものだとわかっているから。
爽太さんのしなやかな身体がゆっくりとのしかかってくる。
とてもきれいな身体。贅肉はなくて、お腹も出てない。筋肉はほどほどについていて、バランスが取れている。
全体的に見て、89点の体だ。
「ココだろ、むつみのすきなとこ」
「あんっ」
あたしは条件反射でうめく。
爽太さんの長い指が身体じゅうを動き回る。身もだえしながらしがみつくと、彼は喜ぶ。
「あんっ、そうた、さあん」
「かわいいよ、むつみ。ほら、ここもスキだろ」
「ああんっ、いじわるうう」
……ちがうのだ。
上手に説明できないんだけど、爽太さんが攻めてくるポイントひとつひとつが、微妙にズレている。大きくはずれてるわけじゃないけど、ほんの1ミリ、ズレているかんじなの。
小さな違いだけど――圧倒的な違い。
だから半年のあいだ、爽太さんと『してる』けど本気で気持ちよくなったことはない。
最初はあたしがまちがっているのかな、って思った。
ほら、不感症とかあるでしょう。そういうのかなって。
ネットでも検索してみたし、本もで調べた。
でも、ちがうみたい。
あたしも少ないなりに経験があるけど、ちゃんと『イッた』ことがある。だから、これが『なんか違う』という事だけは、わかる。
ただ、爽太さんに上手に伝えることができないだけ……。
一度、遠回しに言ってみたことがあるんだけど、彼は笑い飛ばした。
『むつみはさ、男経験が少ないからね。まあ男にとっては、カノジョの経験なんて少ないほうがいいんだけどなー』
……ちがうってばさ。
ソッチがへたくそなのよ、とは、言えなかった。
あたしは頭が悪いから上手に伝えられないし、だいたい男のヒトってソレを指摘されるとすごい嫌がるでしょ。
たったひとつ理想にあわない点があるからって、こんなに完璧な結婚相手をフるなんて、もったいなさすぎる。
一生、このままって事になっても……仕方がないよ。
さて、あたしの上では爽太さんがいよいよ盛り上がってきた。
「むつみ……ごめん、オレ、とまんないみたい」
「ああんっ、だめええ……っ」
……女ってすごいと思う。
礼儀と条件反射の積み重ねで、あたしは正しい時に、正しい言葉を出すことができる。だって、そういう形に自分を作り上げてきたんだもん。
19歳でサークルの先輩と初めてしたときから、『かわいらしい女のコ』に求められる反応をきちんとこなしてきた。
はじめは、おどおどして。
少し慣れてきたらちょっぴり大胆に。
ときには『あなただけのものよ』と匂わせつつ、小悪魔的に攻めてみたり無条件に恥ずかしがったり。
コツは、どの反応も『男の想定する枠』からはみ出さないこと。
男の予想を裏切らない女こそが、選ばれる女だから。
だから、爽太さんに対しても同じ。
我を忘れるほどは乱れない。
乱れたことがないし、乱れたいとも思わない。
男女の事なんて、その程度で十分だ。
こうしておけば、爽太さんはきっと指輪を持ってくる。そして結婚したら、ろくに『しない』ことは、年上の女性たちとの会話でよくわかっている。
「むつみっ、いく……っ!」
爽太さんの身体がぐぐっと伸びた。
微妙にズレたリズムの中で、あたしは今日も快楽の破片だけを味わう。
それでいい。
だってあたしは、平凡で平均的な暮らしがしたいだけなんだもの。
中庸こそがほんとうに頭のイイ女が求めるものだとわかっているから。
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