上 下
67 / 73
最終章「薤露青(かいろせい)」~清春×佐江 編

第66話「どんな声ひとつだって、おれのものだ」

しおりを挟む
(UnsplashのKarina Vorozheevaが撮影)


 佐江の唇のひらいた隙間に、清春は当たり前のように舌を滑り込ませてきた。
 ゆっくりと、佐江の唇の裏側を清春の柔らかい舌が舐め上げる。佐江はそれを6年前と同じように夢中で受けた。
 清春の唇はひんやりしているのに、舌先は熱く、ゆるやかに佐江を苦しめてゆく。

「…あっ」

 長いキスの間に、岡本佐江は初めて甘い吐息を漏らした。清春がそれを聞いてくすっと笑った。

「わるい、キスが長かったな」

 そういうと、ゆったりと清春は佐江のドレスのジッパーを降ろし始めた。

「キヨさん、ここでは……」

 佐江がゆるく身体をくねらせると、清春は空いている手の長い指を佐江の唇に乗せて言葉を止めてしまった。

「おれだって、このままきみをコルヌイエのスイートに引きずっていって朝までめちゃめちゃにしてやりたいよ。だけど、そういうわけにいかないだろ」

 肩から黒いタンクドレスを脱がせかけ、佐江の首筋に鼻をこすりつけた。そのまま佐江の首筋を唇ですべり、三連のパールを上手によけながら鎖骨のくぼみに舌を這わせた。

 佐江の身体に、震えが走る。
 背筋を駆け上がってゆく白光がうなじを抜けて、爆発した。

「きよ、さんっ」
「こらえろよ、佐江。このドアは分厚いけど、きみのそんな声は誰にも聞かせたくない」

 清春は大きな手で佐江の唇をふさぎ、自分は身体をかがめて半分脱がせたドレスの隙間から、まろやかな乳房を引っ張り出した。
 冷たい外気が当たって、佐江の乳首がピンとたつ。

 清春は薄暗い照明の下で小さな乳房と形の良い乳首をじっと見つめて、それからそっと、口に含んだ。
 佐江の口から、こらえようのない息があふれる。
 それを男の手で受け止めて、清春は丹念に佐江を愛撫した。吐息も甘い泣き声も、すべてが清春の大きな手の中でせき止められてゆく。
 清春がささやく。
  

「声を漏らすな。どんな声ひとつだって、おれのものだ」

 清春の手はためらいもなく佐江のドレスの裾を持ち上げて、シルクストッキングを這いのぼりガーターベルトにたどりついた。
 そのまま、下着の中に長い指を入れ込む。
 佐江がびくっと飛び跳ねた。

 指が柔らかく動いて、男の耳がききたいと思っているかすかな音を引き出す。

「きよ、さん」

 清春はすっと身体をまっすぐにして、フェイクパールが揺れる佐江の耳たぶを噛んだ。笑ったような声が佐江に聞こえる。

「佐江……ぬれてる」

 低い声でそう言われて、佐江は泣いたような目で清春を見た。

「あいかわらず、感じやすいんだな」
『あなただけ。他の人には、ふれられていないから』

 佐江がそう言おうとしたとき、清春はそっと愛撫をはじめた。
 清春の黒いジャケットの上に爪を立てようとするが、するりするりと力が抜けていく。そのうちに清春が笑い始めた。

「くすぐったいよ、佐江」
「だって、手が…指が引っ掛からない」

 佐江が半泣きでそういうと、清春は手を止めて佐江の指先を自分の前に持ってきた。それから笑いだした。

「指が引っかかるわけがない。こんなやわらかい革のロンググローブをはめているんだからな」

 清春は柔らかい革に包まれた女の指先をかじった。

「……白のキッド革の手袋をした女なんて、日本で見たことがない」

 佐江は、何も言わずにただじっと清春を見ている。清春は笑ったままキスをした。

「佐江。このまま、いかせてやる」

 佐江は何も言わずに清春の肩の上で、キッド革のロンググローブに包まれた指をぐいっと食い込ませた。

「……キヨさんも、一緒でなくちゃだめ」

 佐江がささやくと、清春は一瞬身体をとめた。
 それから佐江のはだかの肩に額をのせて、大きく息を吐いた。

「『一緒じゃなくちゃ、だめ』……か。おぼえているか、佐江? おまえ、6年前もそう言ったんだ……」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】男嫌いと噂の美人秘書はエリート副社長に一夜から始まる恋に落とされる。

夏琳トウ(明石唯加)
恋愛
真田(さなだ)ホールディングスで専務秘書を務めている香坂 杏珠(こうさか あんじゅ)は凛とした美人で26歳。社内外問わずモテるものの、男に冷たく当たることから『男性嫌いではないか』と噂されている。 しかし、実際は違う。杏珠は自分の理想を妥協することが出来ず、結果的に彼氏いない歴=年齢を貫いている、いわば拗らせ女なのだ。 そんな杏珠はある日社長から副社長として本社に来てもらう甥っ子の専属秘書になってほしいと打診された。 渋々といった風に了承した杏珠。 そして、出逢った男性――丞(たすく)は、まさかまさかで杏珠の好みぴったりの『筋肉男子』だった。 挙句、気が付いたら二人でベッドにいて……。 しかも、過去についてしまった『とある嘘』が原因で、杏珠は危機に陥る。 後継者と名高いエリート副社長×凛とした美人秘書(拗らせ女)の身体から始まる現代ラブ。 ▼掲載先→エブリスタ、ベリーズカフェ、アルファポリス(性描写多め版)

大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました

扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!? *こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。 ―― ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。 そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。 その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。 結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。 が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。 彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。 しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。 どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。 そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。 ――もしかして、これは嫌がらせ? メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。 「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」 どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……? *WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。

不埒な一級建築士と一夜を過ごしたら、溺愛が待っていました

入海月子
恋愛
有本瑞希 仕事に燃える設計士 27歳 × 黒瀬諒 飄々として軽い一級建築士 35歳 女たらしと嫌厭していた黒瀬と一緒に働くことになった瑞希。 彼の言動は軽いけど、腕は確かで、真摯な仕事ぶりに惹かれていく。 ある日、同僚のミスが発覚して――。

孕むまでオマエを離さない~孤独な御曹司の執着愛~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「絶対にキモチイイと言わせてやる」 私に多額の借金を背負わせ、彼氏がいなくなりました!? ヤバい取り立て屋から告げられた返済期限は一週間後。 少しでもどうにかならないかとキャバクラに体験入店したものの、ナンバーワンキャバ嬢の恨みを買い、騒ぎを起こしてしまいました……。 それだけでも絶望的なのに、私を庇ってきたのは弊社の御曹司で。 副業がバレてクビかと怯えていたら、借金の肩代わりに妊娠を強要されたんですが!? 跡取り身籠もり条件の愛のない関係のはずなのに、御曹司があまあまなのはなぜでしょう……? 坂下花音 さかしたかのん 28歳 不動産会社『マグネイトエステート』一般社員 真面目が服を着て歩いているような子 見た目も真面目そのもの 恋に関しては夢を見がちで、そのせいで男に騙された × 盛重海星 もりしげかいせい 32歳 不動産会社『マグネイトエステート』開発本部長で御曹司 長男だけどなにやら訳ありであまり跡取りとして望まれていない 人当たりがよくていい人 だけど本当は強引!?

【完結】一夜の関係を結んだ相手の正体はスパダリヤクザでした~甘い執着で離してくれません!~

中山紡希
恋愛
ある出来事をキッカケに出会った容姿端麗な男の魅力に抗えず、一夜の関係を結んだ萌音。 翌朝目を覚ますと「俺の嫁になれ」と言い寄られる。 けれど、その上半身には昨晩は気付かなかった刺青が彫られていて……。 「久我組の若頭だ」 一夜の関係を結んだ相手は……ヤクザでした。 ※R18 ※性的描写ありますのでご注意ください

【R-18】残業後の上司が甘すぎて困る

熊野
恋愛
マイペースでつかみどころのない上司とその部下の話。【R18】

【R18】優しい嘘と甘い枷~もう一度あなたと~

イチニ
恋愛
高校三年生の冬。『お嬢様』だった波奈の日常は、両親の死により一変する。 幼なじみで婚約者の彩人と別れなければならなくなった波奈は、どうしても別れる前に、一度だけ想い出が欲しくて、嘘を吐き、彼を騙して一夜をともにする。 六年後、波奈は彩人と再会するのだが……。 ※別サイトに投稿していたものに性描写を入れ、ストーリーを少し改変したものになります。性描写のある話には◆マークをつけてます。

【R-18】私を乱す彼の指~お隣のイケメンマッサージ師くんに溺愛されています~【完結】

衣草 薫
恋愛
朋美が酔った勢いで注文した吸うタイプのアダルトグッズが、お隣の爽やかイケメン蓮の部屋に誤配されて大ピンチ。 でも蓮はそれを肩こり用のマッサージ器だと誤解して、マッサージ器を落として壊してしまったお詫びに朋美の肩をマッサージしたいと申し出る。 実は蓮は幼少期に朋美に恋して彼女を忘れられず、大人になって朋美を探し出してお隣に引っ越してきたのだった。 マッサージ師である蓮は大好きな朋美の体を施術と称して愛撫し、過去のトラウマから男性恐怖症であった朋美も蓮を相手に恐怖症を克服していくが……。 セックスシーンには※、 ハレンチなシーンには☆をつけています。

処理中です...