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第1章「まず、キスから始めよう 」~佐江×清春 編

第27話「指さきに、まだ『佐江の香り』が残っている」

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(UnsplashのRaphael Wildが撮影)

「——キヨちゃん、どうなのよ? まさか昨夜は佐江と二人きりだったんじゃないでしょうね?」
「状況だけ言えば、二人だが、お前が思っているようなことはなかったよ」

 そう言いながら、今になって、清春は身体中の血が逆上しそうなほどの欲望を覚えた。
 なぜ昨夜、あのまま佐江を抱かなかった?
 佐江にはその覚悟があったのに。
 覚悟があったからこそ、真乃の電話について何も言わず、自宅に送り届けてくれと頼まなかったのだ。
 
 ——清春に、最愛の女の異母兄に、最初の身体をゆるすつもりだったからだ。

「……くそ」

 清春が吐き捨てるように言ったのを聞いて、真乃は兄の顔をのぞきこんだ。

「キヨちゃん、佐江と何かあった?」
「なにもない」
「ふうん……?」

 うさんくさそうに言って、真乃は清春の端正な顔をにらみつけた。

「まさか、佐江に手を出したんじゃないでしょうね。キヨちゃん?」
「しない」
「この先も、やめてよね」

 真乃は、びしりと厳しい声で清春に言った。

「キヨちゃんがあたしの知り合いの誰に手を出してもかまわない。でも佐江だけは、ダメよ」
「なんだよ、それ」
「佐江はダメ。あの子はあたしの親友なの。あたしが、みっともないところを見せても平気なたった一人の相手なの。世界中で一番大事な人間なのよ。
だから、中途ハンパな遊びの相手にしてほしくないの」
「……わかっているよ」

 清春は、真乃の真剣な様子に気おされた。
 真乃がこんなふうに誰かのことで感情を昂《たか》ぶらせるところは、初めて見たからだ。
 それほど、真乃にとって岡本佐江は特別な存在なのだ。

「約束してよ、キヨちゃん? 佐江には一生、手をださない」
「分かってるよ」

 清春は立ち上がった。

「佐江ちゃんとおれの間には、おまえ以外の接点はない。
おまえがブルドッグみたいに見張っていれば、何も起きないよ」
「じゃあ見張っているわ。キヨちゃんと佐江がキスしている横で、じっと見ていてやる」

 カッと清春の全身に昨夜の熱が戻ってきた。あわてて顔を撫でおろす。
 その指さきに、まだ『佐江の香り』が残っているような気がして、清春は一瞬、気が遠くなりかけた。

 急ぎ足で、リビングを出ようとするのを、異母妹がふたたび呼び止める。

「……キヨちゃん!」
 
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