27 / 73
第1章「まず、キスから始めよう 」~佐江×清春 編
第27話「指さきに、まだ『佐江の香り』が残っている」
しおりを挟む
(UnsplashのRaphael Wildが撮影)
「——キヨちゃん、どうなのよ? まさか昨夜は佐江と二人きりだったんじゃないでしょうね?」
「状況だけ言えば、二人だが、お前が思っているようなことはなかったよ」
そう言いながら、今になって、清春は身体中の血が逆上しそうなほどの欲望を覚えた。
なぜ昨夜、あのまま佐江を抱かなかった?
佐江にはその覚悟があったのに。
覚悟があったからこそ、真乃の電話について何も言わず、自宅に送り届けてくれと頼まなかったのだ。
——清春に、最愛の女の異母兄に、最初の身体をゆるすつもりだったからだ。
「……くそ」
清春が吐き捨てるように言ったのを聞いて、真乃は兄の顔をのぞきこんだ。
「キヨちゃん、佐江と何かあった?」
「なにもない」
「ふうん……?」
うさんくさそうに言って、真乃は清春の端正な顔をにらみつけた。
「まさか、佐江に手を出したんじゃないでしょうね。キヨちゃん?」
「しない」
「この先も、やめてよね」
真乃は、びしりと厳しい声で清春に言った。
「キヨちゃんがあたしの知り合いの誰に手を出してもかまわない。でも佐江だけは、ダメよ」
「なんだよ、それ」
「佐江はダメ。あの子はあたしの親友なの。あたしが、みっともないところを見せても平気なたった一人の相手なの。世界中で一番大事な人間なのよ。
だから、中途ハンパな遊びの相手にしてほしくないの」
「……わかっているよ」
清春は、真乃の真剣な様子に気おされた。
真乃がこんなふうに誰かのことで感情を昂《たか》ぶらせるところは、初めて見たからだ。
それほど、真乃にとって岡本佐江は特別な存在なのだ。
「約束してよ、キヨちゃん? 佐江には一生、手をださない」
「分かってるよ」
清春は立ち上がった。
「佐江ちゃんとおれの間には、おまえ以外の接点はない。
おまえがブルドッグみたいに見張っていれば、何も起きないよ」
「じゃあ見張っているわ。キヨちゃんと佐江がキスしている横で、じっと見ていてやる」
カッと清春の全身に昨夜の熱が戻ってきた。あわてて顔を撫でおろす。
その指さきに、まだ『佐江の香り』が残っているような気がして、清春は一瞬、気が遠くなりかけた。
急ぎ足で、リビングを出ようとするのを、異母妹がふたたび呼び止める。
「……キヨちゃん!」
「——キヨちゃん、どうなのよ? まさか昨夜は佐江と二人きりだったんじゃないでしょうね?」
「状況だけ言えば、二人だが、お前が思っているようなことはなかったよ」
そう言いながら、今になって、清春は身体中の血が逆上しそうなほどの欲望を覚えた。
なぜ昨夜、あのまま佐江を抱かなかった?
佐江にはその覚悟があったのに。
覚悟があったからこそ、真乃の電話について何も言わず、自宅に送り届けてくれと頼まなかったのだ。
——清春に、最愛の女の異母兄に、最初の身体をゆるすつもりだったからだ。
「……くそ」
清春が吐き捨てるように言ったのを聞いて、真乃は兄の顔をのぞきこんだ。
「キヨちゃん、佐江と何かあった?」
「なにもない」
「ふうん……?」
うさんくさそうに言って、真乃は清春の端正な顔をにらみつけた。
「まさか、佐江に手を出したんじゃないでしょうね。キヨちゃん?」
「しない」
「この先も、やめてよね」
真乃は、びしりと厳しい声で清春に言った。
「キヨちゃんがあたしの知り合いの誰に手を出してもかまわない。でも佐江だけは、ダメよ」
「なんだよ、それ」
「佐江はダメ。あの子はあたしの親友なの。あたしが、みっともないところを見せても平気なたった一人の相手なの。世界中で一番大事な人間なのよ。
だから、中途ハンパな遊びの相手にしてほしくないの」
「……わかっているよ」
清春は、真乃の真剣な様子に気おされた。
真乃がこんなふうに誰かのことで感情を昂《たか》ぶらせるところは、初めて見たからだ。
それほど、真乃にとって岡本佐江は特別な存在なのだ。
「約束してよ、キヨちゃん? 佐江には一生、手をださない」
「分かってるよ」
清春は立ち上がった。
「佐江ちゃんとおれの間には、おまえ以外の接点はない。
おまえがブルドッグみたいに見張っていれば、何も起きないよ」
「じゃあ見張っているわ。キヨちゃんと佐江がキスしている横で、じっと見ていてやる」
カッと清春の全身に昨夜の熱が戻ってきた。あわてて顔を撫でおろす。
その指さきに、まだ『佐江の香り』が残っているような気がして、清春は一瞬、気が遠くなりかけた。
急ぎ足で、リビングを出ようとするのを、異母妹がふたたび呼び止める。
「……キヨちゃん!」
0
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
一夜限りのお相手は
栗原さとみ
恋愛
私は大学3年の倉持ひより。サークルにも属さず、いたって地味にキャンパスライフを送っている。大学の図書館で一人読書をしたり、好きな写真のスタジオでバイトをして過ごす毎日だ。ある日、アニメサークルに入っている友達の亜美に頼みごとを懇願されて、私はそれを引き受けてしまう。その事がきっかけで思いがけない人と思わぬ展開に……。『その人』は、私が尊敬する写真家で憧れの人だった。R5.1月
ねえ、私の本性を暴いてよ♡ オナニークラブで働く女子大生
花野りら
恋愛
オナニークラブとは、個室で男性客のオナニーを見てあげたり手コキする風俗店のひとつ。
女子大生がエッチなアルバイトをしているという背徳感!
イケナイことをしている羞恥プレイからの過激なセックスシーンは必読♡
性欲の強すぎるヤクザに捕まった話
古亜
恋愛
中堅企業の普通のOL、沢木梢(さわきこずえ)はある日突然現れたチンピラ3人に、兄貴と呼ばれる人物のもとへ拉致されてしまう。
どうやら商売女と間違えられたらしく、人違いだと主張するも、兄貴とか呼ばれた男は聞く耳を持たない。
「美味しいピザをすぐデリバリーできるのに、わざわざコンビニのピザ風の惣菜パンを食べる人います?」
「たまには惣菜パンも悪くねぇ」
……嘘でしょ。
2019/11/4 33話+2話で本編完結
2021/1/15 書籍出版されました
2021/1/22 続き頑張ります
半分くらいR18な話なので予告はしません。
強引な描写含むので苦手な方はブラウザバックしてください。だいたいタイトル通りな感じなので、少しでも思ってたのと違う、地雷と思ったら即回れ右でお願いします。
誤字脱字、文章わかりにくい等の指摘は有り難く受け取り修正しますが、思った通りじゃない生理的に無理といった内容については自衛に留め批判否定はご遠慮ください。泣きます。
当然の事ながら、この話はフィクションです。
冷徹御曹司と極上の一夜に溺れたら愛を孕みました
せいとも
恋愛
旧題:運命の一夜と愛の結晶〜裏切られた絶望がもたらす奇跡〜
神楽坂グループ傘下『田崎ホールディングス』の創業50周年パーティーが開催された。
舞台で挨拶するのは、専務の田崎悠太だ。
専務の秘書で彼女の月島さくらは、会場で挨拶を聞いていた。
そこで、今の瞬間まで彼氏だと思っていた悠太の口から、別の女性との婚約が発表された。
さくらは、訳が分からずショックを受け会場を後にする。
その様子を見ていたのが、神楽坂グループの御曹司で、社長の怜だった。
海外出張から一時帰国して、パーティーに出席していたのだ。
会場から出たさくらを追いかけ、忘れさせてやると一夜の関係をもつ。
一生をさくらと共にしようと考えていた怜と、怜とは一夜の関係だと割り切り前に進むさくらとの、長い長いすれ違いが始まる。
再会の日は……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる