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第1章「まず、キスから始めよう 」~佐江×清春 編

第24話「愛にもっとも近いもの」

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(UnsplashのAnnie Sprattが撮影)

 清春はリビングのカウチの上でゆるやかに佐江を愛撫しながら、ささやいた

「佐江ちゃん、セックスの方法は無限にあって、どれが佳《い》いのかはその時によって変わる。相手によっても変わるし、女性の感情によっても変わる。その日どうしてほしいのかは、相手の男にちゃんと言うんだ」
「どうしてほしいかなんて、わかりません」
「経験を積んでいけばわかるよ」

 清春はそう言いながら、きつい痛みを感じる。
 いつか岡本佐江は男と寝る。相手は清春じゃない。
 しかし、そのときに佐江の身体を大事に扱わないようなクズが相手だったら、初めてのセックスはどれほどつらいだろう。
 
 愛がなくても、セックスなんてできる。
 清春はそれを知り尽くしているが、好きな女と、愛情もなく抱いた女の身体は違う。
 愛情のある相手とのセックスは、たったいま岡本佐江が清春の指先で味わっている悦楽とは、比べものにならないくらいに深い。

 女がほんとうに好きな男と身体を重ねる時、感情も一緒に抱きとられてしまう。身体と感情が同時に絶頂に達すると、意識が飛ぶほどの悦楽を得る。
 そうなったとき、佐江の怜悧な美貌はどんなふうにゆがむだろう、と清春は考えた。

 きれいな身体をのけぞらせ、ほっそりした腕を男の首にからめて、佐江が泣きながら昇り詰めるところが見たい。
 だが、佐江が大人になっていく過程のすべてを清春が見ることはない。
 なぜなら清春は岡本佐江にとって最愛の女の兄にすぎず、どこまでも、真乃の付属品だからだ。

 清春は、ぎりっと奥歯をかみしめた。
 佐江の身体を、最初に抱く男を殺してやりたい。
 清春がそんなことを考えていると、佐江が助けを求めるように手を伸ばしてきた。

「キヨさん。なにかにつかまりたいの……きちゃう」

 清春は佐江を抱きしめて、額にキスをした。

「おれの肩に手を乗せて。そう、しがみついていいから」

 今だけは――佐江の身体は、清春のものだ。
 持てる限りのいたわりで、包んでやりたい。

 それが、愛じゃないとしても。
 清春にとっては記憶にある限り、愛にもっとも近いものだった。
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