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第12章「あした世界が終わるとしても」
第145話「おれは きみの理想とはほど遠い男」
しおりを挟む(UnsplashのArun Sharmaが撮影)
コルヌイエホテルのスイートルームはバスタブが大きい。185センチの清春が佐江を抱きしめながら入っていても、まだゆとりがあるほどに、大きい。
佐江の喉の曲線をゆっくりと撫であげながら、清春は身体が溶け出しそうに心地よかった。
くすぐったいのか、佐江は短い爪で、軽く清春の皮膚をひっかく。
たったそれだけのことで、また身体が鋭敏に反応する。
ふう、と清春は大きな息を吐いた。
ほんとうに、こんな佐江は見たことがない。見たことがないが、この先もずっと見ていたい。
清春は佐江の顔を抱え込んで、そっと唇を合わせた。首筋からは、かぎなれた“李氏の庭”のにおいがする。
しかし、佐江のシャープな顔のラインをなぞると不安がわいてきた。
「佐江、痩せたな。あまり食っていなかったんだろう。きみの顔はもともと細面だが、こんなに顎がとがっていなかった」
「キヨさんの記憶ちがいじゃないですか。だれと間違えているのかしら」
さすがに清春がむっとする。佐江の顎を持ち上げ、
「ほかの女はいないよ。
なあ、佐江。おれはきみの理想とはほど遠い男かもしれないが、きみはこの先、女のことだけは二度と心配しなくていい」
一瞬、それでも佐江が不安な顔をした。その傷ついた表情が、鋭い痛みとなって清春に跳ね返ってきた。
佐江はきっと、香奈子の事を思い出しているのだろう。
もう二度と、この女にこんな顔をさせてはならない。
それが、佐江の男になった清春の責任だ。清春は両手で佐江の頬を包み込んだ。
「いいか、佐江。これだけは約束しておく。
おれは、ほかのことではクズな男のままだろうが、女のことできみを泣かせることは、二度とないよ」
信じろ、と清春はもう一度、佐江の形のいい鼻をつまんだ。
「なあ、きみはいつかおれに、背の高いスレンダーな女が好みかって聞いたな?」
「やめてくださいよ。今そんなことを言われたら、腹が立つわ」
佐江がそっぽを向くのを、清春は笑いながら見ていた。
「怒るなよ。
きみの言う通り、背の高い細身の女がおれの好みだよ。正確に言えば、身長百六十九センチの、細身の女が好きなんだ」
佐江が、何か言いたそうな顔で見た。清春は惚れた女の目じりに指をすべらせた。
どこに触れても、清春の身体をたぎらせる女の顔だ。
「みっともない話だけどな、佐江。
おれは昔から、きみに似た身体の女じゃないと、欲情しないんだ」
そう。
十年前、まだ十九歳の岡本佐江に初めてふれたあとから。
井上清春は、佐江に似た女でなければ欲情しなくなっていた。
もう一度佐江にキスをして、風呂から立ち上がる。てばやくバスローブをまといながら、
「さて、きみはゆっくり風呂に入ってろ。おれは、きみがくしゃくしゃにしたスーツをランドリーに出すよ。あれを着て、帰る勇気はない」
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