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第3章「ラヴィン・ユー」
第23話「おれに残せる、キスの跡――」
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清春が驚いていると、岡本佐江は涼しい顔で言った。
「昨夜はあたし、”真乃(まの)”と寝ました。でも、あたしが結婚する相手は真乃じゃないんでしょう? それなら、キヨさんとしてみないと、お返事はできません」
“キヨさんと、してみないと”?
岡本佐江は、おれと、何をすると言っているんだ?
混乱する清春をよそにして、どこかからひんやりした男の声がこぼれ出た。
「ゆうべの“真乃”じゃあ、きみは満足できなかった?」
これは、おれが話している声だ、と清春は気がついた。そして声の冷たさに、ぞっとする。
『佐江ちゃんごめん、昨日のことは、なかったことにしよう。きみも、このまま全部を忘れなさい』
そう言おうとしたとき、冷静さも計算高さも何もかもを追いこして、男の身体が動き始めた。
ジャケットを脱ぎ、長い指がネクタイの結び目をこわし、あっさりと引き抜く。無駄のない動きが、清春から理性をはぎ取っていく。
「——佐江」
清春は低い声で呼んだ。
自分の耳に入ってきた“さえ”という音が、清春の身体と頭を一気にたぎらせる。目の前には、佐江のほっそりした身体が少しおびえたように座っていた。
ここからさがることは、清春には、もうできない。
「覚えておけよ。最後の一線は、おまえが踏み越えたんだからな」
自分でも驚くほどの素早さで佐江の身体をすくいあげ、ほっそりした身体をベッドに放り投げた。そしてさっさと佐江の黒いワンピースのジッパーを引き下ろす。このあたりの手順は、つい昨夜、やったばかりのことだ。
——真乃の代わりに。
しかし今朝はもう、妹のふりをする必要がない。
開いたジッパーから佐江の白い肌がのぞく。今朝の清春は、何のためらいもなくその柔らかい肌に歯を立てた。
佐江が、跳ね上がる。
佐江の肌からは、風呂上がりの女の清らかな香りがした。清春はめまいをおぼえながら、背骨に沿って唇をはわせていく。
ずっと、佐江の身体にしたくてもできなかったことを全部、今度は清春の手と身体でやりつくしたい。
「昨夜の“真乃”と、ちがうか?」
佐江の耳たぶを噛みながら、ささやいた。佐江は清春の手で効率よく服を脱がされてしまい、もうガーターと黒いストッキングしか残っていない。
『この格好は、たまらなく色っぽいから、このままにしておこう』
性急に佐江の身体にふれながら、清春の頭はまだ多少の理性を残している。
柔らかい肌に歯を立てながら、
「佐江。きみが欲しかったのは、おれじゃないことは、分かっている。でもきみの身体が、真乃じゃないおれを受け入れられるかどうかは、確かめてみてもいいんじゃないか。
昨夜と、同じことをしてやるよ」
清春は毒のある言葉を佐江の耳に流し込む。
「昨夜の“真乃”と比べてみろよ。きみの身体は、なんていうかな」
平然とした声で、佐江の身体の弱い部分を的確に攻めていった。
昨夜より、佐江をもっと泣かせたい。
なぜなら、清春とのセックスもそれほど悪いわけじゃないと、佐江の身体に教えこみたいからだ。
おれを欲しがれ、佐江。
清春は佐江の背中を撫で上げながら思った。
真乃ではなく、おれを欲しがれ。おれの指と口と、おれの身体が差し出す快楽に、屈服しろ。
「佐江」
かすかなじれったさを交えて、清春は言った。
「キスの跡、残したらだめかな?」
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