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第3章「ラヴィン・ユー」

第23話「おれに残せる、キスの跡――」

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(PexelsによるPixabayからの画像 )
 清春が驚いていると、岡本佐江は涼しい顔で言った。

「昨夜はあたし、”真乃(まの)”と寝ました。でも、あたしが結婚する相手は真乃じゃないんでしょう? それなら、キヨさんとしてみないと、お返事はできません」

 “キヨさんと、してみないと”?
 岡本佐江は、おれと、何をすると言っているんだ?

 混乱する清春をよそにして、どこかからひんやりした男の声がこぼれ出た。

「ゆうべの“真乃”じゃあ、きみは満足できなかった?」

 これは、おれが話している声だ、と清春は気がついた。そして声の冷たさに、ぞっとする。
『佐江ちゃんごめん、昨日のことは、なかったことにしよう。きみも、このまま全部を忘れなさい』

 そう言おうとしたとき、冷静さも計算高さも何もかもを追いこして、男の身体が動き始めた。
 ジャケットを脱ぎ、長い指がネクタイの結び目をこわし、あっさりと引き抜く。無駄のない動きが、清春から理性をはぎ取っていく。

 「——佐江」

 清春は低い声で呼んだ。
 自分の耳に入ってきた“さえ”という音が、清春の身体と頭を一気にたぎらせる。目の前には、佐江のほっそりした身体が少しおびえたように座っていた。

 ここからさがることは、清春には、もうできない。

「覚えておけよ。最後の一線は、おまえが踏み越えたんだからな」

 自分でも驚くほどの素早さで佐江の身体をすくいあげ、ほっそりした身体をベッドに放り投げた。そしてさっさと佐江の黒いワンピースのジッパーを引き下ろす。このあたりの手順は、つい昨夜、やったばかりのことだ。
 ——真乃の代わりに。

 しかし今朝はもう、妹のふりをする必要がない。
 開いたジッパーから佐江の白い肌がのぞく。今朝の清春は、何のためらいもなくその柔らかい肌に歯を立てた。


 佐江が、跳ね上がる。
 佐江の肌からは、風呂上がりの女の清らかな香りがした。清春はめまいをおぼえながら、背骨に沿って唇をはわせていく。
 ずっと、佐江の身体にしたくてもできなかったことを全部、今度は清春の手と身体でやりつくしたい。

「昨夜の“真乃”と、ちがうか?」

 佐江の耳たぶを噛みながら、ささやいた。佐江は清春の手で効率よく服を脱がされてしまい、もうガーターと黒いストッキングしか残っていない。

『この格好は、たまらなく色っぽいから、このままにしておこう』

 性急に佐江の身体にふれながら、清春の頭はまだ多少の理性を残している。
 柔らかい肌に歯を立てながら、

「佐江。きみが欲しかったのは、おれじゃないことは、分かっている。でもきみの身体が、真乃じゃないおれを受け入れられるかどうかは、確かめてみてもいいんじゃないか。
 昨夜と、同じことをしてやるよ」

 清春は毒のある言葉を佐江の耳に流し込む。

「昨夜の“真乃”と比べてみろよ。きみの身体は、なんていうかな」

 平然とした声で、佐江の身体の弱い部分を的確に攻めていった。
 昨夜より、佐江をもっと泣かせたい。
 なぜなら、清春とのセックスもそれほど悪いわけじゃないと、佐江の身体に教えこみたいからだ。

 おれを欲しがれ、佐江。

 清春は佐江の背中を撫で上げながら思った。

 真乃ではなく、おれを欲しがれ。おれの指と口と、おれの身体が差し出す快楽に、屈服しろ。

「佐江」

 かすかなじれったさを交えて、清春は言った。

「キスの跡、残したらだめかな?」
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