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王家のゾンビたち

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 「うわあ……」
思わず俺はのけぞった。

 祈祷所の前は、ゾンビの大軍で溢れかえっていた。清浄な火を焚く櫓も、彼らに包囲されてしまっている。集まった祈祷師たちが御幣ごへいを振り回すが、何の効果もない。

「これじゃ、帰れないよ」

 祈祷所の前だけではなく、墓所からの道も、ゾンビ達で埋めつくされていた。
 顎を撫で、ヴァーツァが唸った。自分で召喚したくせに、彼らの撤収に、ヴァーツァは手を焼いていた。

「うーむ、王家のゾンビだからタチが悪いな。突き飛ばしたりはねのけたりして、壊れちゃったら不敬だもんな」
「突き飛ばしたり、はねのけたり? もうそういうの、止めたんじゃないの、ヴァーツァ?」
「その通りだよ、シグ。俺は、いい人に生まれ変わったのだ。君の好みの男性は、いい人だからだ」

 王族のゾンビたちは、縷々として連なっている。彼らに、再び安息の場所で眠りについてもらうには、結構な労力が必要だ。

 「僕が呪文を唱えてみましょう」

 エクソシストの呪文を唱えてみた。数人のゾンビが姿を消した。

「クノール3世とシャロン7世だ。彼らの悪政は有名だからなあ。あ、王を毒殺したと噂のマリアーナ妃も消えたぞ!」

 双眼鏡を覗いていたヴァーツァがつぶやいた。
 そもそも俺が祓えるのは、悪霊を宿したゾンビだけ。頑張って呪文を唱えても、大勢に影響なし、だ。

「見てないで、貴方も何とかして下さいよ」
「やだよ。俺はもう、疲れた」

 本当にヴァーツァは疲れているようだった。恐らく、ゾンビ達を蘇らせることで全力を使い果たしてしまったのだろう。
 そこまでやることはなかったんじゃないかという気がしないでもないけど。 

 とはいえ、王室祈祷師を追いつめ、全てはアンリ陛下の命令だと白状させることに成功したんだ。おかげで、ヴァーツァの霊障云々は完璧なデマだとわかった。
 まずはよしとしよう。

 アンリ陛下が何を考えているかについては、当面、先送りだ。
 とりあえず、彼の先祖のゾンビ達をなんとかしなくちゃ。

 ヴァーツァの顔色は優れない。やはり、アンリ陛下が絡んでいたことがショックだったのだろう。何と言っても陛下は彼の「親友」だったわけだから。その上、ヴァーツァは大きな怪我が治ったばかりでもある。
 無理はさせられない。俺が、なんとかしなくちゃ。

 しかし、浄霊以外は、ただの一般人だ。この場合、一般人にできることは一つしかない。

「さあ、みなさん。墓所まで返りましょう」

 俺は、ゾンビ達の先頭に躍り出た。
 全く何の反応もない。というか、死んでいるのだから、あらゆる反応はないわけだが。

「僕が皆さんを誘導します。後に続いて下さい」

 やはり何の手応えもない。俺に気がついてさえいないんじゃないか。
 何か、目を引く物が必要だと思った。旗か何か……。上着を脱いで、頭の上で振った。

「出発しますよ。さあ、付いてきて下さぁーい」

 不思議な現象が起きた。
 ゾンビ達の鼻(というかその痕)が蠢いた。そして、次々と顔を上げ、暗い、洞窟のようにぽっかりと開いた目で、俺を見つめたのだ。

 チャンスかもしれない。
 上着を振り回しつつ、墓所へ向かって歩き始めた。近くにいたゾンビ達がついてくる。

 しめた。うまくいった!
 やっぱり旗だな! 上着だけど。

 先頭のゾンビにつられたのだろうか。後方のゾンビ達もぞろぞろと、後について行進を始めた。
 彼らの先頭に立って、俺は、王家の礼拝堂を目指した。

「シグ! また、フェロモンを垂れ流して!」
 いつの間にか、礼拝所でへばっていたはずのヴァーツァが、横を歩いていた。彼はひどく怒っているようだ。
「君のフェロモンは、ゾンビにさえ、有効だったのか!」

 何を言っているのか、理解不能だ。

 「王家のゾンビの方々にお引き取り願うのが先決でしょ!」
俺が正論を主張すると、ヴァーツァは渋い顔をした。






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