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疑惑
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ベッドの中で(!)互いのトラウマを話し合った日から、ヴァーツァと俺の仲は、少しだけ近くなった気がする。
ヴァーツァは以前のように尊大な態度を取ることはなくなった。むしろ、甘えてくるようになった。あーんと本の朗読はその前からだったが、とにかく俺をそばから離さない。食事の支度さえままならないくらいだ。
けれど、調理は俺がしなくてはならない。トラドに任せると、サービスのつもりか、血を大量に入れるから、スープは赤くなるし、焼いた肉は生臭い。トラドには悪いが、こんなものをヴァーツァに食べさせられない。
メルルと彼の眷属に料理をさせるなんて、とんでもない話だ。彼らは火を使えないし、かろうじてサラダは作れるけど、毛まみれだ。
俺がいないとヴァーツァは不機嫌になる。だから、彼が眠っている間に料理をするしかない。
畑の手入れもしなければならないのに、本当に難儀なことだ。
大急ぎで蕪と玉ねぎを収穫し、泥だらけのそれらを籠に入れて調理場へ運ぶ。
地下室の前を通りかかった。
地下室。
決して忘れていたわけではない。
そこには大量の柩が安置されている……。
けれど、あれは本当に柩だったのだろうか。だって、ヴァーツァには悪しき気配は全然ない。この頃は、かわいい、といったら言い過ぎだけど、俺に甘えて来る彼は、ごく普通の、少し年上の男だ。信じられないくらい美しいことが特徴の。
そんな彼が、地下室に遺体を大量に隠している?
まあ、誰かれ構わず引きずり込んだのは事実かもしれないが、必ずしも殺してしまったとは言い切れないのではないか。そもそも、王都の異常が彼の霊障だというのも誤りだったわけだし。
きっとあれは、柩ではないのだろう。中に入っているのは大量の本か食器か、とにかく、害のないものに違いない。
……でももし、噂が本当だったら?
たくさんの女性をさらってきて、飽きたら殺してしまうという、噂。
……女性。
俺は男だ。そういう意味では、ヴァーツァに愛されることはない。
きっと。たぶん。
今はただ、物珍しいだけだ。
突然、疼くような寂しさに、立っていられなくなった。しゃがみ込み、懸命に息を整える。
……確かめてみたら?
そう。本当に棺の中身は、死骸なのか。ヴァーツァが飽きて捨て去った女性たちの。
幸い、といっていいのかわからないけど、鍵は掛かっていなかった。空気を入れ替えると言って、トラドは頻繁にここのドアを開け放っている。ちょうど今日は、その日に当たっているようだ。
吸血鬼の執事は、夜になるまで起きて来ない。
ヴァーツァはよく眠っている。
確かめるなら今しかない。
あれらは本当に、棺桶なのか。中に納められているのは、女性の死骸なのか。
念のため辺りを見回してから、俺はそっと、地下室への階段へ足を踏み入れた。
昼間だというのに、相変わらず中は薄暗い。一段一段、慎重に下りていく。
下り切ってしまうと、一番近い棺……というか、箱に近づいた。人一人ゆうゆうと寝られるほど巨大な箱だ。埃だらけの蓋を日常魔法の灯りで照らすと、複雑な彫刻が施されているのが分かった。
随分古風な彫刻だ。中にはきっと、芸術品が納められているのに違いない。それか、古い本の類か。だってトラドは、湿気を極度に排除したがっている。
蓋は、釘などで打ちつけられてはいなかった。縁を掴み、両手で思い切って持ち上げる。
どっとかび臭い匂いが流れて来た。ミルラの強い香りも。
少し遅れて、灯りが中を照らした。
白い頭蓋骨が揃った歯を剥きだして、こちらを見返していた。
ヴァーツァは以前のように尊大な態度を取ることはなくなった。むしろ、甘えてくるようになった。あーんと本の朗読はその前からだったが、とにかく俺をそばから離さない。食事の支度さえままならないくらいだ。
けれど、調理は俺がしなくてはならない。トラドに任せると、サービスのつもりか、血を大量に入れるから、スープは赤くなるし、焼いた肉は生臭い。トラドには悪いが、こんなものをヴァーツァに食べさせられない。
メルルと彼の眷属に料理をさせるなんて、とんでもない話だ。彼らは火を使えないし、かろうじてサラダは作れるけど、毛まみれだ。
俺がいないとヴァーツァは不機嫌になる。だから、彼が眠っている間に料理をするしかない。
畑の手入れもしなければならないのに、本当に難儀なことだ。
大急ぎで蕪と玉ねぎを収穫し、泥だらけのそれらを籠に入れて調理場へ運ぶ。
地下室の前を通りかかった。
地下室。
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そこには大量の柩が安置されている……。
けれど、あれは本当に柩だったのだろうか。だって、ヴァーツァには悪しき気配は全然ない。この頃は、かわいい、といったら言い過ぎだけど、俺に甘えて来る彼は、ごく普通の、少し年上の男だ。信じられないくらい美しいことが特徴の。
そんな彼が、地下室に遺体を大量に隠している?
まあ、誰かれ構わず引きずり込んだのは事実かもしれないが、必ずしも殺してしまったとは言い切れないのではないか。そもそも、王都の異常が彼の霊障だというのも誤りだったわけだし。
きっとあれは、柩ではないのだろう。中に入っているのは大量の本か食器か、とにかく、害のないものに違いない。
……でももし、噂が本当だったら?
たくさんの女性をさらってきて、飽きたら殺してしまうという、噂。
……女性。
俺は男だ。そういう意味では、ヴァーツァに愛されることはない。
きっと。たぶん。
今はただ、物珍しいだけだ。
突然、疼くような寂しさに、立っていられなくなった。しゃがみ込み、懸命に息を整える。
……確かめてみたら?
そう。本当に棺の中身は、死骸なのか。ヴァーツァが飽きて捨て去った女性たちの。
幸い、といっていいのかわからないけど、鍵は掛かっていなかった。空気を入れ替えると言って、トラドは頻繁にここのドアを開け放っている。ちょうど今日は、その日に当たっているようだ。
吸血鬼の執事は、夜になるまで起きて来ない。
ヴァーツァはよく眠っている。
確かめるなら今しかない。
あれらは本当に、棺桶なのか。中に納められているのは、女性の死骸なのか。
念のため辺りを見回してから、俺はそっと、地下室への階段へ足を踏み入れた。
昼間だというのに、相変わらず中は薄暗い。一段一段、慎重に下りていく。
下り切ってしまうと、一番近い棺……というか、箱に近づいた。人一人ゆうゆうと寝られるほど巨大な箱だ。埃だらけの蓋を日常魔法の灯りで照らすと、複雑な彫刻が施されているのが分かった。
随分古風な彫刻だ。中にはきっと、芸術品が納められているのに違いない。それか、古い本の類か。だってトラドは、湿気を極度に排除したがっている。
蓋は、釘などで打ちつけられてはいなかった。縁を掴み、両手で思い切って持ち上げる。
どっとかび臭い匂いが流れて来た。ミルラの強い香りも。
少し遅れて、灯りが中を照らした。
白い頭蓋骨が揃った歯を剥きだして、こちらを見返していた。
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