全力でBのLしたい攻め達 と ノンケすぎる受け

せりもも

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3 英雄トーナメント

8.最終試合

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 翌日。
「ここにいる皆様は、第一試合で大勢の中から勝ち抜かれ、しかも、第二試合では素晴らしい勇気を見せつけられました。けれど、勇気があればいいというものではありません。勇者には、知恵も必要です」
 背中に回した手を組み、審判が言う。

「知恵……」

 嫌な予感しかしない。自慢じゃないがホライヨンの頭は上等ではない。産みの母がそう言ってるし、村の人も同じことを保証している。
 傍らで、ゴールが唇をへの字に曲げている。彼も、頭突きはさておき、頭の中身には自信がないのだろう。

 最終決戦の舞台は、古びた石造りの建物だった。図書館だ。一階から三階まで、ぎっしりと本が詰まった書棚が置かれている。

「最終となる第三試合では、ここの本の集約サマリーを作ってもらいます。3日後、口頭で試験が行われます。参照できるのは、ご自身でお作りになったサマリーだけ」

「だが、こんなにたくさん本があるんだ。試験範囲はどこからどこまでだ?」
口を尖らせ、ケフィルが尋ねる。
「範囲は、図書館の本全部です」
「えっ!」

異口同音に三人が声を漏らす。絶望したゴールが叫んだ。

「こんなにたくさん本があるのに、試験範囲もわからないとは! これじゃ、カンニングペーパーの作りようがないじゃないか!」
「カンニングペーパーではありません。サマリーです」
ぎろりと審判が睨んだ。

「つまり、あれか。一冊でも多くのサマリーを作った者の勝ちってことだな」
訳知り顔にケフィルが言うと、審判は頷いた。
「さようです。猶予期間は3日」

 「うわあ」
ゴールが呻いた。
「3日も本の中に缶詰なのか?」
「そういうことになりますね。ですが、強制ではありません。外出は自由です」

 懐からケフィルが何かを出そうとしている。
「筆写なんか、魔法で一瞬だ」
「魔術は封印します。これは、知恵を試す試練なので」
 すかさず審判が釘を刺す。ケフィルは肩を竦めた。
「ふん。魔術を封じられたって、この俺様が、脳筋二人に負けるはずがない」
 ホライヨンとゴールは応えなかった。


 審判が立ち去ると、いきなりホライヨンは高々と舞い上がった。

「おっ! 今まで羽を隠していたのか?」
下では、ゴールが目を丸くしている。
「大勢での肉弾戦や、有刺鉄線の迷路では、使い道がなかったからね」

 高い天井の辺りを旋回しながらホライヨンは胸を張った。
 やはり空(室内だが)を飛んでいると気持ちがいい。

 「ああ、やだやだ」
 下では、ぶつぶつとつぶやきつつ、ケフィルが本をひっくり返している。
「わかりやすく。図を入れて。箇条書きに。ああっ! こんなの、魔法があれば一瞬なのに」

「俺はもう、飽きたぞ!」
早々にゴールが本を投げ出した。
「外出は自由なんだ。おい、ホライヨン。お前も知恵がねえんだろ。どうせケフィルにはかないっこない。せっかく首都に来てるんだ。一緒に飲みにいかないか?」

「俺は行かない」

 宙を飛んだままで、ホライヨンは誘いを断った。
 彼は、どうしても、英雄トーナメントの賞品が欲しかった。それには、優勝するしかない。
 だが、ゴールもしつこい。

「なんで? ルクールは花の都だぜ? 都会の女はきれいだぞ。拝みに行こうや。うまくすると触れるかも」
「女? いらない」

 水色の薄物を身につけた涼やかな姿が脳裏に蘇る。
 おしろいや香水まみれの女なんかいらない。一皮むけば、母のように恐ろしい生き物なのだから。

「唐変木! いいさ。一人で行くから。第二試合はお前に負け、最終試合はケフィルに負け。俺が優勝の褒美をもらえるメはねえ。せめて、目いっぱい、楽しんでくるから」

 腹を立てたゴールは、一人で出かけてしまった。


 三日が経った。
 ホライヨン、ゴール、ケフィルの三人は、宮殿の中庭へ連れ出された。こここで、試験が行われると言う。

「完璧なサマリーを作り上げられた方なら、どのような質問にも答えられるはずです」
一段高い所に立った審判が言う。
「図書館の本を持ち出すことは禁止ですが、サマリーの持ち出しは許可されています。ケフィルさん。貴方のサマリーは、馬車10台で持ち出しました。全部ここにあるはずです」

 青白い顔をしたケフィルが頷いた。明らかに、書類仕事のやりすぎだ。彼の前には、紙の束がうずたかく積まれている。

「ゴールさん。3日も仕事をしたにしては、貴方のサマリーは、随分と薄いですね」
「これで充分だ」
 本当は、連日のように町へ遊びに行っていたゴールには、サマリーを作る時間などなかった。

「それからホライヨンさん。貴方のサマリーが見当たらないのですが」
「うん。ないからね」
「ない?」
「必要ないから」
あっさりとホライヨンは答えた。
「必要ない?」
 うん、とホライヨンが頷く。
 審判は肩を竦め、自分の席へ退いた。


 口頭試問が始まった。
 試験官は、この国の博士たちだ。歴史、地理、数学から魔法学まで、さまざまな問題が出題された。
 そのどれもに、ホライヨンは即答した。

「凄いな」
 魔法石の製造方法を完璧に答えたホライヨンに、ケフィルは目を丸くした。
「あんた、実は賢かったんだ……」
「まあね」
 本当は、何一つ、わかって言っているわけではないけれど、ホライヨンは余裕ぶって見せた。

 成績は、ホライヨンとケフィルが互角だった。ただ、ケフィルはサマリーを探してから答えるので時間がかかるが、ホライヨンは即答するという違いがあった。
 ゴールはとっくに脱落し、試験場の隅で、町から持ち帰ったお菓子を食べている。

 「回答の速さは問題ではありません。答えの正確さが焦点です」
 眉間にしわを寄せながら審判が言う。博士たちから出される難しい質問に、彼の頭は、大分疲れているようだ。

 聞いているだけの審判がそんな具合なのだ。実際に試験されるケフィルの疲労は、相当なものだった。
 だが、前半が終わっても、ホライヨンは平然としている。

「おい、ホライヨン。頭が疲れたろう。甘い菓子でもどうだ?」
「おれにくれ」

 ゴールの投げてよこした菓子を、傍らから手を伸ばしてケフィルが奪った。包み紙を剥がす暇ももどかしいといった風にむしゃぶりついている。

 後半は、主として哲学と語学の問題だった。ここでも、ホライヨンは比類のない速さで答えを出した。
 正確には、答えをしゃべった。

「いったい、あんたの頭ン中ははどうなってるんだ?」
 自分で作ったサマリーを投げ出し、ケフィルが喚いた。
「まるで、頭の中に博士が入ってるみたいじゃないか。それも、全種類の」
「頭の中じゃないよ、外だよ」
「外?」

 ホライヨンの目は鳥の目だ。
 鳥は、集団で知恵を共有する。
 彼の目は、雲の上クラウドにある、鳥の集団知に繋がれていた。みんなで知恵を集めてなんとかする、あれである。
 いわば、鳥類専門の外部記憶装置だ。

 鷲の王であるホライヨンは、見たもの全てを、この外部装置に転送することができた。

 図書館で彼は、膨大な数の本を鷲の目でスキャンし、この外部記憶へ転送した。
 そして、博士から質問されると、即座に外部記憶装置が集合知を精査し、答えを送り返してくれる。ホライヨン自身の脳を経由していないから、答えるのは神業級に早い。

「……そんなん、魔法とどう違うんだ?」
ケフィルは不服そうだ。
「全然違うよ。魔法は魔法だけど、鳥の記憶は魔法じゃないもの」
「よくわからん!」

「鳥の記憶は生体反応です。規約違反は認められません」
重々しく審判が告げた。
「では、最終問題です。先生、お願いします」

 今まではよぼよぼの学者ばかりだったが、比較的腰が真っ直ぐな学者が前に進み出た。
「インゲレ語で、『謝る』は?」

「インゲレの奴らが謝ることなんてあるのかよ」
 会場の隅から、ゴールがつぶやいた。

 一瞬、ホライヨンの頭が活性化した。
 これならわかる。だって、数日前に聞いたばかりだ。
 同国人が無銭飲食したと聞いて、インゲレ人のあの男が放った言葉……。

「〇×△*!」
ホライヨンは叫んだ。

「違う、〇×△だ!」
一拍遅れてケフィルが喚く。

 そういえば、「〇×△※」だったかも。
 遅ればせながら、ホライヨンは思い出した。鳥の集合知を頼ればいいものを、なまじ自分の脳を使ったから、失敗した……。

 審判が立ち上がった。
「ケフィル、正。ホライヨン、誤。従って、第三試合の勝者は魔術師ケフィルとなります」
 会場がざわめいた。
 「では、第二試合と第三試合の結果を持ち帰り、サハル陛下との合議の末、最終的な勝者を決定します。優勝者の名は、陛下自らご来臨の上、発表されます」

 一礼し、審判は去っていった。




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