66 / 76
幼少 ―初めての王都―
第67話 走竜
しおりを挟む
「お待たせいたしました。アルテュール様、オレリア様」
「かまわん」
「構わないわ」
時間をかけてしまったことを詫びるロタリオをリア姉と一緒に制す。
もう少しじっくりと竜を見ていたいところだが時間がもったいないので次の行動を促すとしよう。
「で、その走竜で何をするのだ?」
大空を駆け巡るのが『騎竜』であるのなら、大地を駆け巡るのが『走竜』だ。また人を選ぶのが『騎竜』であるなら、人を選ばないのが『走竜』である。
この二つの線引きをしっかりしないと『騎竜』に選ばれたことを誇りとしている竜騎士にはいやな顔をされる可能性がある、と父上テストに出てきていたのでしっかりと走竜という単語を強調する。
まぁ二人がそのような狭量な竜騎士であるとは思わないのだけど。
それから俺は心からの念をロタリオに飛ばした。
(さぁ言うんだロタリオ。走竜に乗って大草原を駆け巡ると!)
大体の予想は走竜が来た時点で出来ているがそれでも、もしもの場合は存在する。見るだけではい、おしまいなんてこともあり得るのだ。
ただその不安は杞憂に終わった。ロタリオが俺の最も望んでいる返答をしてくれたからだ。
「こちらの走竜に乗り、大草原にいる騎竜を見学して頂きます」
「ほう、楽しみだな」
説明不足がすごい。
が、時間がない今はこれくらいのシンプルさが何よりも大切なこと。残り時間はあとわずかだ。
「ではこちらに」
「わかった」
「オレリア様はこちらです」
「わかったわ」
走竜に乗っている時の注意事項を確認したあと、俺はロタリオに、リア姉はナディアに連れられて伏せた状態でいる走竜の上にヒョイと持ち上げられまたがる。
『騎竜』でないのだから乗れて当然なのだが、それでも少しほっとしてしまった。
(ナディアの方に俺は行きたかったけど、リア姉をロタリオの方に行かせるわけにはいかないな。我慢しよう・・・。)
ほっとすると碌でもないことを考えるのが俺という生き物である。
その後少しして、自分の前にすっぽりと収まった俺を確認したロタリオは走竜の身体側面をトントンと軽く蹴る。それに応えて走竜が伏せている状態からゆっくりと立ち上がった。
(うおぉぉ高ぇぇぇ)
なんだかじいちゃんに肩車されたときのことを思い出す。
ただ、あのときより高くないからか、俺が大きくなったからなのか、はたまた竜に騎乗しているという事実に興奮して麻痺しているのかは分からないが恐怖は一切感じない。あるのは幸福感のみだ。
先ほどまで見えていなかったものを見るため遠くを望む。
陽光を反射しキラキラと輝く湖、風が吹く度にあっちへこっちへと揃ってなびく草木。
(あ、忘れてた)
都市の中の大自然によって興奮が少し冷め、若干ではあるが冷静になった俺はふと気づいた。
―――ハッツェンとミラどうすんの?と。
俺とリア姉は竜を操る達人である竜騎士の前にすぽっと収まっているから、走竜に乗れているのであって、普通ならある程度の騎乗訓練を行わないと走竜に乗ることは出来ない。
つまりこのままでは彼女たちを置いていってしまうことになるのだ。
「ロタリオ、側付きの者にも貴重な体験をさせてやりたいのだがどうにかならないか?」
無茶を承知でロタリオにお願いする。
(駄目なら駄目でしょうがない。素人が無責任にギャーギャーと喚くのはちょっとな。けど・・・)
――ハッツェンとミラにも楽しんでもらいたい。みんなで楽しみたい。
そんな俺のわがままにロタリオは肯定でも否定でもなく、
「アルテュール様がご心配なされているようなことは起きませんよ」
と、答えた。
(え?)
思わずロタリオを見上げると彼はこちらではなく横を見ていた。
それにつられて俺も横を見る。
「乗れるんかい・・・。」
そこには走竜に姿勢良くまたがり走竜の歩を進めさせるミラと彼女にしがみつくハッツェンがいた。
どうやら俺はいらぬ心配をしていたらしい。
落ちまいと必死な可愛いハッツェンはともかく、ミラは素人目からしても走竜を乗りこなしているように見える。
「魔導学院では走竜の騎乗訓練の授業を取ることが出来るのです。彼女はその授業を取っていたのでしょう。かくいう私も取っていました」
「なるほど・・・」
(授業で竜に乗れるとか最高じゃん!俺、絶対魔導学院入ろう・・・)
「アルテュール様、出発いたします――はっ!」
俺が人知れず不純な入学動機を獲得しているとすぐ上からロタリオの気合いの籠もった掛け声が聞こえた。
「「「クエェェェェ!」」」
その掛け声を引き金に3体の走竜が一斉に走り出す。
俺は騎竜との出会いに胸躍らせていた―――。
「かまわん」
「構わないわ」
時間をかけてしまったことを詫びるロタリオをリア姉と一緒に制す。
もう少しじっくりと竜を見ていたいところだが時間がもったいないので次の行動を促すとしよう。
「で、その走竜で何をするのだ?」
大空を駆け巡るのが『騎竜』であるのなら、大地を駆け巡るのが『走竜』だ。また人を選ぶのが『騎竜』であるなら、人を選ばないのが『走竜』である。
この二つの線引きをしっかりしないと『騎竜』に選ばれたことを誇りとしている竜騎士にはいやな顔をされる可能性がある、と父上テストに出てきていたのでしっかりと走竜という単語を強調する。
まぁ二人がそのような狭量な竜騎士であるとは思わないのだけど。
それから俺は心からの念をロタリオに飛ばした。
(さぁ言うんだロタリオ。走竜に乗って大草原を駆け巡ると!)
大体の予想は走竜が来た時点で出来ているがそれでも、もしもの場合は存在する。見るだけではい、おしまいなんてこともあり得るのだ。
ただその不安は杞憂に終わった。ロタリオが俺の最も望んでいる返答をしてくれたからだ。
「こちらの走竜に乗り、大草原にいる騎竜を見学して頂きます」
「ほう、楽しみだな」
説明不足がすごい。
が、時間がない今はこれくらいのシンプルさが何よりも大切なこと。残り時間はあとわずかだ。
「ではこちらに」
「わかった」
「オレリア様はこちらです」
「わかったわ」
走竜に乗っている時の注意事項を確認したあと、俺はロタリオに、リア姉はナディアに連れられて伏せた状態でいる走竜の上にヒョイと持ち上げられまたがる。
『騎竜』でないのだから乗れて当然なのだが、それでも少しほっとしてしまった。
(ナディアの方に俺は行きたかったけど、リア姉をロタリオの方に行かせるわけにはいかないな。我慢しよう・・・。)
ほっとすると碌でもないことを考えるのが俺という生き物である。
その後少しして、自分の前にすっぽりと収まった俺を確認したロタリオは走竜の身体側面をトントンと軽く蹴る。それに応えて走竜が伏せている状態からゆっくりと立ち上がった。
(うおぉぉ高ぇぇぇ)
なんだかじいちゃんに肩車されたときのことを思い出す。
ただ、あのときより高くないからか、俺が大きくなったからなのか、はたまた竜に騎乗しているという事実に興奮して麻痺しているのかは分からないが恐怖は一切感じない。あるのは幸福感のみだ。
先ほどまで見えていなかったものを見るため遠くを望む。
陽光を反射しキラキラと輝く湖、風が吹く度にあっちへこっちへと揃ってなびく草木。
(あ、忘れてた)
都市の中の大自然によって興奮が少し冷め、若干ではあるが冷静になった俺はふと気づいた。
―――ハッツェンとミラどうすんの?と。
俺とリア姉は竜を操る達人である竜騎士の前にすぽっと収まっているから、走竜に乗れているのであって、普通ならある程度の騎乗訓練を行わないと走竜に乗ることは出来ない。
つまりこのままでは彼女たちを置いていってしまうことになるのだ。
「ロタリオ、側付きの者にも貴重な体験をさせてやりたいのだがどうにかならないか?」
無茶を承知でロタリオにお願いする。
(駄目なら駄目でしょうがない。素人が無責任にギャーギャーと喚くのはちょっとな。けど・・・)
――ハッツェンとミラにも楽しんでもらいたい。みんなで楽しみたい。
そんな俺のわがままにロタリオは肯定でも否定でもなく、
「アルテュール様がご心配なされているようなことは起きませんよ」
と、答えた。
(え?)
思わずロタリオを見上げると彼はこちらではなく横を見ていた。
それにつられて俺も横を見る。
「乗れるんかい・・・。」
そこには走竜に姿勢良くまたがり走竜の歩を進めさせるミラと彼女にしがみつくハッツェンがいた。
どうやら俺はいらぬ心配をしていたらしい。
落ちまいと必死な可愛いハッツェンはともかく、ミラは素人目からしても走竜を乗りこなしているように見える。
「魔導学院では走竜の騎乗訓練の授業を取ることが出来るのです。彼女はその授業を取っていたのでしょう。かくいう私も取っていました」
「なるほど・・・」
(授業で竜に乗れるとか最高じゃん!俺、絶対魔導学院入ろう・・・)
「アルテュール様、出発いたします――はっ!」
俺が人知れず不純な入学動機を獲得しているとすぐ上からロタリオの気合いの籠もった掛け声が聞こえた。
「「「クエェェェェ!」」」
その掛け声を引き金に3体の走竜が一斉に走り出す。
俺は騎竜との出会いに胸躍らせていた―――。
0
お気に入りに追加
48
あなたにおすすめの小説
30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~
しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」
病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?!
女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。
そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!?
そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?!
しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。
異世界転生の王道を行く最強無双劇!!!
ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!!
小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!
Switch jobs ~転移先で自由気ままな転職生活~
天秤兎
ファンタジー
突然、何故か異世界でチート能力と不老不死を手に入れてしまったアラフォー38歳独身ライフ満喫中だったサラリーマン 主人公 神代 紫(かみしろ ゆかり)。
現実世界と同様、異世界でも仕事をしなければ生きて行けないのは変わりなく、突然身に付いた自分の能力や異世界文化に戸惑いながら自由きままに転職しながら生活する行き当たりばったりの異世界放浪記です。
巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双
たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。
ゲームの知識を活かして成り上がります。
圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。
チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!
芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️
ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。
嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる!
転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。
新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか??
更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!
前世の記憶で異世界を発展させます!~のんびり開発で世界最強~
櫻木零
ファンタジー
20XX年。特にこれといった長所もない主人公『朝比奈陽翔』は二人の幼なじみと充実した毎日をおくっていた。しかしある日、朝起きてみるとそこは異世界だった!?異世界アリストタパスでは陽翔はグランと名付けられ、生活をおくっていた。陽翔として住んでいた日本より生活水準が低く、人々は充実した生活をおくっていたが元の日本の暮らしを知っている陽翔は耐えられなかった。「生活水準が低いなら前世の知識で発展させよう!」グランは異世界にはなかったものをチートともいえる能力をつかい世に送り出していく。そんなこの物語はまあまあ地頭のいい少年グランの異世界建国?冒険譚である。小説家になろう様、カクヨム様、ノベマ様、ツギクル様でも掲載させていただいております。そちらもよろしくお願いします。
~僕の異世界冒険記~異世界冒険始めました。
破滅の女神
ファンタジー
18歳の誕生日…先月死んだ、おじぃちゃんから1冊の本が届いた。
小さい頃の思い出で1ページ目に『この本は異世界冒険記、あなたの物語です。』と書かれてるだけで後は真っ白だった本だと思い出す。
本の表紙にはドラゴンが描かれており、指輪が付属されていた。
お遊び気分で指輪をはめて本を開くと、そこには2ページ目に短い文章が書き加えられていた。
その文章とは『さぁ、あなたの物語の始まりです。』と…。
次の瞬間、僕は気を失い、異世界冒険の旅が始まったのだった…。
本作品は『カクヨム』で掲載している物を『アルファポリス』用に少しだけ修正した物となります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる