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幼少 ―初めての王都―

第63話 馬鹿と天才は紙一重

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「それはねぇ―――ギルがその魔道具における製造の最終工程をバッサリと抜いたことさ」
「「へ?」」

 まさかの内訳に姉弟揃って間抜けな声をあげてしまう。
 ばあちゃんの言うことが本当ならば、ギルベアトは未完成の魔道具をプレゼントの中に入れたということになる。
 故意かはたまた事故なのか分からない。しかし仮にも下手人《げしゅにん》は『至高の魔技師』と呼ばれる天才だ。事故というのは考えにくい。じゃあわざとなのか?

「おばあちゃん、どうしてギルベルト様はそのようなことを?」

 リア姉も俺と同じことを考えていたらしい。俺も今それを聞こうと思っていたんだ。全部リア姉に質問任せよう。

 俺はハッツェンの太ももを楽しむ。
 ぽよーん、ぽよーん

「私だってあの変わり者が考えることなんて分からないさ。―――と言いたいところだが大体予想はついているよ。小箱の中はもう見たかい?」

(ほう、変人とな…。ギルっていうのは至高の方じゃなく変人の方か)

 それならば故意の可能性が高い。変人って何考えてるか分からないから変人って言われるんだよな。それにばあちゃん、随分とギルベアトのことを知っているようだ。

 ぽよん、ぽよん――「(アル様、お静かに…)」―――ぽよん、ぽよん「(アルさまぁ…)」


 ばあちゃんの問いかけにリア姉が「ううん」と首を横に振る。ばあちゃんが「アルもかい?」と目線で聞いてきたので俺も首を振った。
 あれだけの魔力を放ったのだ。触った瞬間どっかーんもあり得なくない小箱に触るものか。

「なら見てみな。どうせ小箱の中に正解が入っているよ。あぁ、もうこれ以上は何も起きないよ、ギルが飛ばした最終工程を先ほどやったからね。安心しな。―――ほら、アルも行きな。」
「うん」

 俺とリア姉の『危険な魔道具触りたくない』という気持ちに気づいたばあちゃんが根拠と共に安心感を与えてきた。
 ばあちゃんが言っているなら大丈夫だろう、と俺はハッツェンの太ももから降りてリア姉と一緒に二つの小箱へ向かい俺は紺色の小箱に入っていたくすんだ銀色を手に取る。


 ――それは円形だった。丸みを帯びていた。

(これって…。)

 蓋のようなものをはじくように開く。

「おおぉ~…。」

 長さ、太さが異なる針が3本。俺の瞳の色と同じ蒼色のガラスの中で規則正しく動いている。

 ちっ、ちっ、ちっ―――

(―――懐中時計だ)

 しかもこれと似たようなものを先ほどの誕生会で見た気がする。

「――ん?」

 あぁ、確かギルベアトが懐中時計を持っていたな、そう思った時――小箱の中に白い紙を俺は見つけた。

(なんだろう)

 折りたたんである紙を広げるとそこには文字が書かれていた。




『―――どうだい?驚いたかい?驚いてくれたのなら嬉しい。

 私から君への贈り物は魔法時計《マギ・ツァイト》という時を正確に教えてくれる魔道具だ。
 そこに加えて私は知人と協力してもう一つの性能を加えた。
 ただ、その性能についてこの紙では言わないでおくよ。実際に使ってみてからのお楽しみだ。
 使い方は簡単、魔法時計に魔力を流してその後に手をまっすぐ前に伸ばすだけ。
 きっと君の役に立つだろう。

 最後に―――魔力が収まらないだろうからフリーダ先生に助けを求めなさい。
 溢れ出す魔力は決して君の害にならないように調整してあると先生に伝えておいてほしい。
 ちなみにベルにはこの仕掛けを伝えていないからね。頼んだよ――――――

             ~ギルベアト・ネルフ・ゼーレ=ゼ―シュタット~』


「アル、何かわかったかい?」
「ギルベアトが変人っていうことが分かった」
「だろう?」

 こりゃ変人だ。
 たった一つのいたずらのために普通ここまでするか?
 決して流出した魔力は少ないものではなかった。平民よりはずっと魔力量がある俺をビビらせるほどにはあった。
 けれども魔力酔いの状態にはなるほどではなかった。

 魔力酔いとは今、ベットで寝ているグンターや先ほどまで気持ちが悪いとえずいていて今はグンターと同じくベットで横になっているイーヴォのような状態のことを指す。
 人の体の中に自分では満タンにすることのできない魔力を貯めるタンクがあるところを想像してほしい。
 その中にある液体という名の魔力が何らかの要因によって溢れる。
 これが魔力酔いの状態だ。症状はグンターとイーヴォを見ての通り。

 どのような方法で俺とリア姉の魔力タンクのキャパを測ったのかは分からないがいたずらに費やす労力としてはあまりにも多すぎると思うのだが…。

(いや、待てよ…。)

 ――じゃあ何で貴族ではないルーリーやマリエルたちは魔力酔いにならなかったんだ?

 よくよく考えてみれば俺とリア姉がビビるほどの魔力量を浴びたのにもかかわらず何でマリエルたちの魔力タンクは溢れなかったんだ?
 ハッツェンは貴族の平均値である第5位階魔法を使うことができる程の…いや、使用できる魔法階位は魔力総量に比例するのか?

(わっかんねぇな~)

 魔法の基礎の基礎しか教わっていない俺がこれ以上考えても無駄だな。反っておかしな先入観を持つようになってしまう可能性もある。

 ――あとにしよ‥‥‥。

 俺はいったん思考を放棄した。

「その紙を見せておくれ」

 空っぽ状態の俺にばあちゃんが話しかけてくる。
 隠すようなものでもない。むしろ見てほしいので「はい」とばあちゃんに紙を渡す。

「はぁ、馬鹿だねぇ…」

 10秒もしないうちに手紙は溜息と共に返ってきた。どっちもいらないんですけど。

「リア、お前さんも同じような紙屑が入っていたかい?」
「見せておくれ」
「うん」

 そう言ってばあちゃんに手紙改め紙屑を渡すリア姉の手にはピンク色のビー玉?が入った小箱が。どんな魔道具なんだろう。

(まあいっか。それよりも早く魔法時計に付いているもう一つの性能が気になる)

 特にこれといった理由もないがハッツェンの太ももの上を目指して戻る。
 その途中で何やら楽しそうな声が聞こえた。

「どれどれ‥‥‥はぁ、モノの説明以外はまるっきり同じじゃないか…。いたずらに凝るんだったら文章も少しは凝って欲しいもんだよ。――それよりリア、その魔道具は随分と良いものだねぇ」
「おばあちゃんに頼まれたってあげないわ」
「なに、貰おうとしてるんじゃないさ。少し貸してほしいと思っただけだよ」
「ダメ!」
「冗談だよ。これくらいなら少し劣るかもだが自分で作れるからね」

(ばあちゃんも欲しがるような魔道具か…やはり気になるな、どんな魔道具なんだろう。)

 考えながらもハッツェンの太ももにピットインしてもぞもぞとべスポジを確保。
 魔法時計に魔力を通す前に聞いておこう。

「リア姉なに貰ったの?」
「教えないわ」
「‥‥‥」
「アル様、女の子に秘密はつきものです」
「そういうもの?」
「そういうものなのです」

 そういうものらしい。俺は一つ賢くなった。手元の魔道具に集中しよう。

 ――――――――よし、やるか…!

 俺は変人ギルベアトからの手紙の通りに魔法時計へ魔力を通す。
 ばあちゃんのことを疑うわけではないがやはり変人が何を仕込んでいるのか分からないのでちょろちょろと少量の魔力を流し始める。

 変化はすぐに起きた―――。

 魔法時計を中心にに俺の周り半径1メートルが銀色の膜で覆われていく。

 もちろん出どころは手元にあるビックリ装置だ。

(やっぱりギルベアトはまだ何か仕込んでいたのか!)

 俺は何が起きても対処してやる、驚かないぞと周囲を警戒する。

「アル様、どうしたのですか?」
「?ハッツェンはこの銀の―――」

 ――魔力の膜が見えないのか?

(あ、魔力の色のこと忘れてた…)

「銀のなんですか?アル様」

 俺は彼女の太ももの上なので表情は見えないが不思議そうにしているのは分かった。

「この銀の魔法時計綺麗だよなぁ」
「それは魔法時計というのですか。綺麗ですね」

 ハッツェンは興味深そうに俺が持つ魔法時計を見ている―――気がする。見えないもの。
 誤魔化しは成功したようだ。

(‥‥‥何も起こらないな)

 ハッツェンとじゃれていてこれまた忘れていたが銀の膜は俺とハッツェンの周りを纏うように広がっているだけで縮小も拡張も爆発もしない。

(手を伸ばすんだっけ…)
 俺は手紙の内容を思い出して恐る恐る手を伸ばした。

 にゅっ――

 俺の手が消えた。

(うわああああああ!なくなったーーー!)

 慌てて手を引き抜く。

 にゅっ――

「あ、あった」

 数瞬前まで消えていた俺の手がしっかりと付いていた。

「アル様大丈夫ですか!」
「うん、大丈夫みたい…しっかりある」

 もう一度手を伸ばす。

 にゅっ――

 再び俺の手が消えた。

 2度目なので驚きはしない。

(動かせるのかな?)

 目に映らないが確かにそこにある手を俺は握りしめた。

 クシャっ――

 俺の手が何かを掴む。

(なんだ?クシャッ?)

 何かを握りしめたまま手を引き抜く。

「紙…ですか?」
「そうみたい…」

 ハッツェンのつぶやきに答え、俺は手に握られしわが付いた紙を見る。文字が見えた。紙を開く。




『―――驚いたかい?―――』





 びりっ―――

「アル様よろしいのですか?」
「紙屑が入っていたんだ」


火よファイヤ

 しゅぼっ―――

 ついでに燃やしてやった。
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