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幼少 ―初めての王都―
第54話 西部の英雄
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父上に叱られ少し大人しくなった俺だが、それでも挨拶に来る伯爵位の人たちへの対応はしっかりとする。
父上とリア姉が完璧なので少しのボロでも浮き彫りになってしまうからだ。
ただ挨拶しに来るのが父上の知り合いだったり姉上の知り合いだったりするので俺に話が振られることはほとんどなく助かっている。…あれ?おかしいな、目から汗が。
―――現在、心の中でふざけられるくらい元気になった俺の前には大柄な男二人がいる。俺の記憶が正しければ伯爵家からの挨拶はこの二人でラストだ。
会ったことないはずなのだが何故か既視感を覚えた俺は二人をじ~ッと見つめる。一人は野性感がにじみ溢れておりもう一人は対照的に紳士然とした雰囲気を醸し出していた。
(あぁ、ディーおじさんと一緒に料理馬鹿食いしていた二人だ。道理で見たことがあると感じたのか…。)
「久しいな、ヴィントホーゼ伯爵、ヘクサゴーン伯爵。」
「いやぁ、誠に久しいですなぁ。俺ぁこの日を楽しみにしていましたよ!―――おっ、ご令嬢と御子息には挨拶がまだでしたなぁ、……俺ぁティバルト・ウェスリー・フォン・ヴィントホーゼ=トロンベっていうんだ。これでも西部連合の頭をやってるヴィントホーゼ=トロンベ伯爵家の当主だ。魔の森から溢れてくる魔物たちを狩っていたりするんだが、ヴァンティエール辺境伯家には先代の頃から仲良くさせてもらってるし恩もある。よろしくなぁ」
父上に返答した後俺とリア姉に向かって自己紹介をしたのは二人のうち野生の方――ティバルトだ。口調は貴族というより山賊だが、身なりはしっかりしており、顎髭も整えられていた。なんだかおいちゃんと呼びたくなる、そんな30後半から40前半くらいの見た目の男だ。
「お久しぶりです、ヴァンティエール卿。―――初めましてオレリア嬢、アルテュール殿。私はグング・フェアタイディー・フォン・ヘクサゴーンと言います。ティバルトと同じく西部連合を率いている立場です。ヘクサゴーン伯爵家当主でもあります。魔の森に接している者同士仲良くしてくださると嬉しいです」
おいちゃんに続いて自己紹介したのは紳士――グングだ。ティバルトよりその物腰は低く口調も非常に丁寧。非常にがたいが良く真面目そうな顔をしている。
この二人が言った【西部連合】というのはヴァンティエール辺境伯家率いる【北方連盟】、フィリグラン伯爵家も所属している【南部同盟】と肩を並べる貴族家の組織の一つだ。
ちなみに東部には同盟国であるオルド魔導王国としか国境を接していないのに加え、海が近く対外貿易が盛んなお金持ちの家が多いのでこれといった強い結びつきが不必要。今言った3つのような明確に定められた組織が存在しない。
西部連盟の特徴としては上位貴族はあまりいないがその代わりに参加している貴族家が多く団結力も高いというものがある。
アルトアイゼン王国の西部は大部分が山脈を隔てて魔の森と接している。直接でつながっているのはヴァンティエール辺境伯領だけだが…いじめかな?
ただ、山脈で隔てられているから西部は安全、なんてことはない。時折山脈を超えてくる魔物が存在するからだ。
―――山脈を越えてきた魔物は桁違いに強い。それこそ一匹で都市を壊滅させることができる程の力を持つ。
そんな化け物を狩るのが王国から与えられた西部貴族の役割だ。その役割を果たすため西部貴族達は団結した。それがそのまま西部連合の特徴となったわけだ。
今回の誕生会に呼ばれるほどうちと仲がいいのは魔の森対策で頭を抱えている者同士、古くからの親交があるからだ。
「初めましてヴァンティエール辺境伯ベルトランが長女オレリアと申しますわ」
「同じく長男アルテュールと申します」
リア姉とともに俺も自己紹介をする。
口調だけでは分からないがリア姉はびっくりしていた。グングはともかくティバルトのような人種とは初めて会ったからだろう。貴族の世界にここまで乱暴な言葉遣いをする人物はそうそういないからな。
俺は前世の記憶があるので驚きはしない。と言うか前世だったらティバルトみたいな言葉遣いをする人の方が多かった。親しみやすそうだ。
だから聞いてしまおう『恩』とは何のことを指すのだろうか、と。
何の力も持たない俺にとって情報と言うのはとても大事なものなのだ。
「あのヴィントホーゼ伯爵、恩もあるというのはどういうことでしょうか」
まさか質問されるとは思っていなかったティバルト。一拍二拍おいてわざわざ俺と目線を同じにするために膝を曲げる。
「ん~恩か~……助けられたってことだ」
「‥‥‥」
(えっと~、それはわかってるんだけど…)
どうやら完全に子ども扱いされているらしい。よく考えてみなくても5歳児に「恩とは?」と聞かれれば常人なら「恩ていうのはね、人に助けられ時に感じるものなんだよぉ。」と答えるだろう。
固まる俺を見たティバルトは助け舟を求めるべく隣のグングに話しかけている。
「ん?これじゃあ分かんねぇか。…おいグング、どうやって子供に言葉の意味を教えればいい」
「ティバルト、アルテュール殿は恩の意味ではなく、内容を聞いているのだと思いますよ。―――そうですね?アルテュール殿」
グングは呆れた様子でティバルトに助け舟を出し、優しい声で俺にも助け舟を出してくれた。
(助かります…)
思えばここまで面と向かって年相応の扱いを受けたのは久しぶりだ。何で俺の家族はすんなりと受け入れたのだろうか…。
まあいいか。それより今は『恩』についてだ。
「…はい、ヘクサゴーン伯爵のおっしゃる通りです」
「お?そぉいうことか。それなら初めからそう言ってくれぇ」
にかッと笑い納得したように頷き、懐かしむようにティバルトは語りだす。
「そうだなぁ、あれは俺が16の時だったか。とんでもなく強ぇのが山脈から下って来たんだ。恥ずかしい話西部の貴族家だけでは対処できないと即座に判断した先代は当時から親交のあった貴族家に片っ端から緊急応援の使者を走らせたんだ、ダメもとだったけどな。西部の貴族だけで対処できない化け物を喜んで追い返そうってやつなんか居ねぇ。居たとしてもそいつぁ西部《うち》では払えないような大金や借りを吹っ掛けてくるような奴だ。割に合わねぇからな。
にもかかわらず駆けつけてくれたのがヴァンティエール辺境伯家だったてわけだ。しかも当主であるマクシム様ご本人がだ。
…当時の俺ぁ一つの家が来たところで何になると無礼にも考えていた。もちろんヴァンティエール辺境伯家が強ぇのは知っていたさ、ただ―――」
ティバルトは一呼吸置く。俺だけでなくリア姉や父上までもが聞き入っていた。確かティバルトは今年で38だ。そのおいちゃんが16の時と言うと約22年前の話になる。父上が7歳の時だ。
俺とリア姉は勿論まだ生まれていないので気になるのは当然のことだが、事実だけを知っている父上はそれ以上に気になっているのではないだろうか。
現場にいたであろうヘクサゴーン伯爵もどこか懐かしむような眼をしている。
「ただ?」
俺は続きを促す。
「―――ただ、ヴァンティエール家をしても勝てないだろうと戦場にいた奴ら全員が思ってしまうほどそいつは強かったぁ。一度《ひとたび》化け物が動けば猛者たちが紙吹雪のように舞っていくんだぁ。その中には顔見知りが何人もいた。グングもいたっけか?」
ティバルトがグングに聞くとグングは苦笑いする。
「はい、いましたね。私は盾を使いますので最前線に配置されていましたよ。ティバルトは魔法戦士だったので確か中盤にいましたね。あなたも吹き飛ばされていませんでしたか?」
「ありゃぁ吹き飛ばされたうちに入んねぇよ、直撃してねぇからな。化け物が振り回した尻尾の風圧が中盤まで届いただけだ。―――そんな化け物をほぼ単独で追い返したのがご自身よりもさらにデカい矛を一本背負って登場したマクシム様だった。あれ以来西部ではマクシム様は英雄だ。だから俺たち西部の貴族はかの御仁に恩しかないってわけだ」
前線の人が紙のように飛ぶのもあり得ないが風圧で人が飛ぶことなんてあってはいけないと思うし、それで吹っ飛ばされたのが今現在「暴風」の二つ名を持つティバルトと「鉄壁」のグングだという。若い頃だったとはいえ猛者には違いない。
そしてそんな化け物をほぼ単騎で撃退したじいちゃんは何者なんだ。父上がアマネセルの侵攻を気にせず今このように安心して領地を空けれている理由にもろ手を挙げて賛成しよう。
「貴重な話をありがとうございます」
思いもしなかった胸が熱くなる情報に俺は礼を言う。
「いや、いいってことよ。マクシム様によろしく言っといてくれ。―――おっと、長話が過ぎたなぁ…ヴァンティエール卿、俺たちはこれにて失礼します」
「順序が真逆になってしまいましたが我ら西部貴族はご子息ご令嬢の誕生月を心よりお祝い申し上げます。では――」
何かに気づいた二人が風のように俺たちの前から去ってゆく。
父上も何かに気が付いたようでじいちゃん絡みの話で剥がれ落ちかけていた貴族の仮面を被り直す。
(なんだ、なんだ?)
状況が把握できていない俺は頼みの綱のリア姉を見た。
「アル、舞台の横にルッツ大叔父様がいるわ。」
そう言われて初めてルッツさんが司会者として舞台の横に立っていることに気が付いた。我ながら遅すぎる。
そして、何故ティバルトとグング、父上の―――会場の雰囲気が引き締まったのかも理解した。
会場中の皆が会話や食事をやめてルッツさんを凝視する中、ルッツさんは落ち着いた様子で役目を果たす。
「国王陛下並び王妃殿下、王太子殿下がご到着なされました。皆様お出迎えの御準備を―――」
―――王族《家族》が到着したようだ。
父上とリア姉が完璧なので少しのボロでも浮き彫りになってしまうからだ。
ただ挨拶しに来るのが父上の知り合いだったり姉上の知り合いだったりするので俺に話が振られることはほとんどなく助かっている。…あれ?おかしいな、目から汗が。
―――現在、心の中でふざけられるくらい元気になった俺の前には大柄な男二人がいる。俺の記憶が正しければ伯爵家からの挨拶はこの二人でラストだ。
会ったことないはずなのだが何故か既視感を覚えた俺は二人をじ~ッと見つめる。一人は野性感がにじみ溢れておりもう一人は対照的に紳士然とした雰囲気を醸し出していた。
(あぁ、ディーおじさんと一緒に料理馬鹿食いしていた二人だ。道理で見たことがあると感じたのか…。)
「久しいな、ヴィントホーゼ伯爵、ヘクサゴーン伯爵。」
「いやぁ、誠に久しいですなぁ。俺ぁこの日を楽しみにしていましたよ!―――おっ、ご令嬢と御子息には挨拶がまだでしたなぁ、……俺ぁティバルト・ウェスリー・フォン・ヴィントホーゼ=トロンベっていうんだ。これでも西部連合の頭をやってるヴィントホーゼ=トロンベ伯爵家の当主だ。魔の森から溢れてくる魔物たちを狩っていたりするんだが、ヴァンティエール辺境伯家には先代の頃から仲良くさせてもらってるし恩もある。よろしくなぁ」
父上に返答した後俺とリア姉に向かって自己紹介をしたのは二人のうち野生の方――ティバルトだ。口調は貴族というより山賊だが、身なりはしっかりしており、顎髭も整えられていた。なんだかおいちゃんと呼びたくなる、そんな30後半から40前半くらいの見た目の男だ。
「お久しぶりです、ヴァンティエール卿。―――初めましてオレリア嬢、アルテュール殿。私はグング・フェアタイディー・フォン・ヘクサゴーンと言います。ティバルトと同じく西部連合を率いている立場です。ヘクサゴーン伯爵家当主でもあります。魔の森に接している者同士仲良くしてくださると嬉しいです」
おいちゃんに続いて自己紹介したのは紳士――グングだ。ティバルトよりその物腰は低く口調も非常に丁寧。非常にがたいが良く真面目そうな顔をしている。
この二人が言った【西部連合】というのはヴァンティエール辺境伯家率いる【北方連盟】、フィリグラン伯爵家も所属している【南部同盟】と肩を並べる貴族家の組織の一つだ。
ちなみに東部には同盟国であるオルド魔導王国としか国境を接していないのに加え、海が近く対外貿易が盛んなお金持ちの家が多いのでこれといった強い結びつきが不必要。今言った3つのような明確に定められた組織が存在しない。
西部連盟の特徴としては上位貴族はあまりいないがその代わりに参加している貴族家が多く団結力も高いというものがある。
アルトアイゼン王国の西部は大部分が山脈を隔てて魔の森と接している。直接でつながっているのはヴァンティエール辺境伯領だけだが…いじめかな?
ただ、山脈で隔てられているから西部は安全、なんてことはない。時折山脈を超えてくる魔物が存在するからだ。
―――山脈を越えてきた魔物は桁違いに強い。それこそ一匹で都市を壊滅させることができる程の力を持つ。
そんな化け物を狩るのが王国から与えられた西部貴族の役割だ。その役割を果たすため西部貴族達は団結した。それがそのまま西部連合の特徴となったわけだ。
今回の誕生会に呼ばれるほどうちと仲がいいのは魔の森対策で頭を抱えている者同士、古くからの親交があるからだ。
「初めましてヴァンティエール辺境伯ベルトランが長女オレリアと申しますわ」
「同じく長男アルテュールと申します」
リア姉とともに俺も自己紹介をする。
口調だけでは分からないがリア姉はびっくりしていた。グングはともかくティバルトのような人種とは初めて会ったからだろう。貴族の世界にここまで乱暴な言葉遣いをする人物はそうそういないからな。
俺は前世の記憶があるので驚きはしない。と言うか前世だったらティバルトみたいな言葉遣いをする人の方が多かった。親しみやすそうだ。
だから聞いてしまおう『恩』とは何のことを指すのだろうか、と。
何の力も持たない俺にとって情報と言うのはとても大事なものなのだ。
「あのヴィントホーゼ伯爵、恩もあるというのはどういうことでしょうか」
まさか質問されるとは思っていなかったティバルト。一拍二拍おいてわざわざ俺と目線を同じにするために膝を曲げる。
「ん~恩か~……助けられたってことだ」
「‥‥‥」
(えっと~、それはわかってるんだけど…)
どうやら完全に子ども扱いされているらしい。よく考えてみなくても5歳児に「恩とは?」と聞かれれば常人なら「恩ていうのはね、人に助けられ時に感じるものなんだよぉ。」と答えるだろう。
固まる俺を見たティバルトは助け舟を求めるべく隣のグングに話しかけている。
「ん?これじゃあ分かんねぇか。…おいグング、どうやって子供に言葉の意味を教えればいい」
「ティバルト、アルテュール殿は恩の意味ではなく、内容を聞いているのだと思いますよ。―――そうですね?アルテュール殿」
グングは呆れた様子でティバルトに助け舟を出し、優しい声で俺にも助け舟を出してくれた。
(助かります…)
思えばここまで面と向かって年相応の扱いを受けたのは久しぶりだ。何で俺の家族はすんなりと受け入れたのだろうか…。
まあいいか。それより今は『恩』についてだ。
「…はい、ヘクサゴーン伯爵のおっしゃる通りです」
「お?そぉいうことか。それなら初めからそう言ってくれぇ」
にかッと笑い納得したように頷き、懐かしむようにティバルトは語りだす。
「そうだなぁ、あれは俺が16の時だったか。とんでもなく強ぇのが山脈から下って来たんだ。恥ずかしい話西部の貴族家だけでは対処できないと即座に判断した先代は当時から親交のあった貴族家に片っ端から緊急応援の使者を走らせたんだ、ダメもとだったけどな。西部の貴族だけで対処できない化け物を喜んで追い返そうってやつなんか居ねぇ。居たとしてもそいつぁ西部《うち》では払えないような大金や借りを吹っ掛けてくるような奴だ。割に合わねぇからな。
にもかかわらず駆けつけてくれたのがヴァンティエール辺境伯家だったてわけだ。しかも当主であるマクシム様ご本人がだ。
…当時の俺ぁ一つの家が来たところで何になると無礼にも考えていた。もちろんヴァンティエール辺境伯家が強ぇのは知っていたさ、ただ―――」
ティバルトは一呼吸置く。俺だけでなくリア姉や父上までもが聞き入っていた。確かティバルトは今年で38だ。そのおいちゃんが16の時と言うと約22年前の話になる。父上が7歳の時だ。
俺とリア姉は勿論まだ生まれていないので気になるのは当然のことだが、事実だけを知っている父上はそれ以上に気になっているのではないだろうか。
現場にいたであろうヘクサゴーン伯爵もどこか懐かしむような眼をしている。
「ただ?」
俺は続きを促す。
「―――ただ、ヴァンティエール家をしても勝てないだろうと戦場にいた奴ら全員が思ってしまうほどそいつは強かったぁ。一度《ひとたび》化け物が動けば猛者たちが紙吹雪のように舞っていくんだぁ。その中には顔見知りが何人もいた。グングもいたっけか?」
ティバルトがグングに聞くとグングは苦笑いする。
「はい、いましたね。私は盾を使いますので最前線に配置されていましたよ。ティバルトは魔法戦士だったので確か中盤にいましたね。あなたも吹き飛ばされていませんでしたか?」
「ありゃぁ吹き飛ばされたうちに入んねぇよ、直撃してねぇからな。化け物が振り回した尻尾の風圧が中盤まで届いただけだ。―――そんな化け物をほぼ単独で追い返したのがご自身よりもさらにデカい矛を一本背負って登場したマクシム様だった。あれ以来西部ではマクシム様は英雄だ。だから俺たち西部の貴族はかの御仁に恩しかないってわけだ」
前線の人が紙のように飛ぶのもあり得ないが風圧で人が飛ぶことなんてあってはいけないと思うし、それで吹っ飛ばされたのが今現在「暴風」の二つ名を持つティバルトと「鉄壁」のグングだという。若い頃だったとはいえ猛者には違いない。
そしてそんな化け物をほぼ単騎で撃退したじいちゃんは何者なんだ。父上がアマネセルの侵攻を気にせず今このように安心して領地を空けれている理由にもろ手を挙げて賛成しよう。
「貴重な話をありがとうございます」
思いもしなかった胸が熱くなる情報に俺は礼を言う。
「いや、いいってことよ。マクシム様によろしく言っといてくれ。―――おっと、長話が過ぎたなぁ…ヴァンティエール卿、俺たちはこれにて失礼します」
「順序が真逆になってしまいましたが我ら西部貴族はご子息ご令嬢の誕生月を心よりお祝い申し上げます。では――」
何かに気づいた二人が風のように俺たちの前から去ってゆく。
父上も何かに気が付いたようでじいちゃん絡みの話で剥がれ落ちかけていた貴族の仮面を被り直す。
(なんだ、なんだ?)
状況が把握できていない俺は頼みの綱のリア姉を見た。
「アル、舞台の横にルッツ大叔父様がいるわ。」
そう言われて初めてルッツさんが司会者として舞台の横に立っていることに気が付いた。我ながら遅すぎる。
そして、何故ティバルトとグング、父上の―――会場の雰囲気が引き締まったのかも理解した。
会場中の皆が会話や食事をやめてルッツさんを凝視する中、ルッツさんは落ち着いた様子で役目を果たす。
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