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幼少 ―初めての王都―

第47話 再会と涙

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 今日は本当に疲れた。夜道を走り抜ける馬車の中で今日の出来事を思い返してため息をつきそうになるが我慢する。目の前に座っている父上に心配をかけないようにだ。
 襲撃なんてものは上級区では起こらないので何事もなく別邸に着き、玄関に入ると―――
「アルーーーー!」
 姉上が弾丸の如く飛んできた。

「うわっっと」
 漢の沽券にかけて受け止め……きれるわけないので、背中に魔法で風を吹かせ何とか転倒を防ぐ。

「リア姉あぶな―――」
「アル久しぶり!元気だった?」

 久しぶりにまじかで見た姉上は身内の俺でもドキッとするほど綺麗になっていたが相変わらず元気いっぱいだった。中身が変わっていないことに安心する

「元気だったよ、久しぶりリア姉」

 2年ぶりの再会だ

 このままここにいるのも何なので中に入る。もちろんリア姉は俺にぴったりと着いている
 その状態で家族団らんのスペースに着き一時間ほど離れていた2年の間に起こった出来事を話した。

 リア姉は学年の総代になっているらしい。リア姉が通っているのは貴族家のお嬢様達のためにつくられた学校だ。この国は文武両道が美徳とされていることもあってか男女関わらず貴族の子女たちは幼少の頃より英才教育を受けているので校内のレベルは相当高いだろう。なので総代というのは俺が思っている以上にすごいことだ。ただ、リア姉が総代…うん、別に違和感がない。だってうちの家族すんごいもの。
 またそんなリア姉には縁談の話も数々来ているとか。ヴァンティエールの人間で才色兼備だから引く手数多なのは仕方ない。しかし父上が王都不在という理由で全部断っているらしい。あと相手は自分で見つけたいんだと、リア姉に釣り合う男はそうそういないと思うのでまだ先の話になりそうだ。
 俺はというと孤児院事件とさっき起きたエミリオナンパ事件とかを話した。聞いたリア姉は孤児院のことに関しては興味深そうに、そして「よかったね」と言ってくれた。エミリオに関しては「よくやった、褒めてあげる。」とお褒めの言葉を貰ったぜ。何でもエミリオの妹がリア姉と同じ学年にいるらしく、その子も兄エミリオと同様優秀なものの性格があまり良くないという。いつも何かあるたびに突っかかってくるのだとか。大変なんだなぁ女の子も。

 二人ともこの二年間のことを粗方話し終え、マリエルが持ってきてくれた紅茶で一息つく。

(分かっていることだけど一応理由を聞いておこうかな…)

「何でこっちに来たんですか?」
「何でって、アルに会うためでしょ。まあ、パーティーがあるっていうのも理由だけどね」

 まあそうだよね。一つ目の理由に関してはさっき聞いたし、二つ目の理由もわかっていた。
 おじい様は俺に会いたいがために王都で誕生パーティーを開かせたのだけど、そのパーティーは俺の為だけじゃない、同じ誕生月のリア姉の為でもあるのだ。

 ただ来るのが早すぎる気がする。まだ一週間近くあるのだ。

「まだ、一週間近くありますが?」
「いいじゃない、乙女には準備が必要なのよ」
「さいですか」

 そういうことらしい。ここで本当の理由を聞いても意味がない、むしろ地雷を踏みぬく自信しかない。なのでそういうことにしておく。俺は賢いのだ。

「ところでアル、ハッツェンから乗り換えたの?」

 ここにいないハッツェンの代わりに紅茶を運んできたマリエルを見ながらリア姉が聞いてくる。ハッツェンは屋敷に戻ったと同時に謹慎を言い渡しているのでここにいないのは当たり前だ。ただそれはリア姉にはいっていないので当然の疑問ではあるが、その言い方はやめなさいよ…。

「違うよ、ハッツェンには今謹慎を言い渡しているんだ。それにそんな言い方どこで習ったのさ。」
 ていうかどちらも今のところ娶る気がない。二人も嫌だろこんなちんちくりん。
「ふ~ん、まあいいわ。ハッツェンがいなくなったわけじゃないのね。それよりもお姉ちゃんはまだ5歳のアルが大人な言葉を知っていることに驚いているわ。」
「…さいですか」

 言うようになったなぁ、純真無垢な姉上はどうやらいなくなってしまったらしい。

(あれ?)

 侍女の話になったので俺はふと気が付く、いないな。

「あれ?アグニータは?」

 そう、リア姉の専属侍女であるアグニータがいないのだ。クビにした?

「何も失態していないし謹慎もしていないわよ。―――アグニータ」
「失礼します。」

 懐かしさを感じる綺麗な礼をして入ってきたアグニ―タ。その手には小包のようなものが…なんだろう。

「久しぶり、アグニータ。」
「お久しぶりでございますアルテュール様。お元気そうで何よりでございます。―――お嬢様こちらを」

 小包をリア姉に渡した彼女はそっとリア姉の後ろに移動して綺麗な姿勢で控える。丁度今、俺の後ろに立っているマリエルと同じような位置だ。

「リア姉それは?」

 流石に気になるので聞く。

「あなたへのプレゼントよ。あとこれ、詳細はイーヴォ君に聞いて頂戴」

 そう言ったリア姉から小包と大銅貨三枚を貰う。プレゼントは嬉しいのだが現金に関してはよくわからん。リア姉の言う通りイーヴォに聞こう。まずはプレゼントだ。

「リア姉ありがとう。ここで開けて良い?」
「もちろん♪」

 そわそわしながら受け取った小包をゆっくりと開ける。前世での小さい頃に貰ったサンタさんからのプレゼントを開ける感覚に似ている。あれ楽しいよね。
 中から出てきたのは精巧な作りの木製の箱だった。ただ隙間があるので入れ物としての用途ではないのだろう。中に光源を入れるようなやつかな?

「綺麗な木工細工だね。」
「綺麗でしょ。お姉ちゃんが選んであげたのよっ。その中には光の魔道具も入っているの、魔力を流すだけで光りだすわ。」

 光を入れるタイプなのは予想通りだったが、何と既に光源が入っているらしい。絶対に高いやつだ。ただリア姉は気にしていないようなので値段については聞かないでおく。親しき仲にも礼儀ありだ。

「本当にありがとうリア姉。今度お返しに何か送るよ」
「お礼はいらないのだけど、アルがそう言うなら楽しみにしているわ」

 後で部屋に戻ったら使ってみよう、楽しみだ。

「父上と話した?」

 そういえば、と思い出したかのように俺はリア姉に聞く。リア姉は俺とだけでなく父上とも2年ぶりなので降り積もる話があるやもしれない。
 父上は帰ってきたとき俺の近くにいたはずなんだけどリア姉と話しているのを見ていない。というか俺に抱き着くなりすぐに今いる部屋に移動したし…。

(あれ、ヤバくね?)

「してないわよ。」

 案の定していなかった。

「今すぐしてきて…」
「何で?」
「多分泣いてるから」

 多分じゃない、絶対泣いてる。今日は父上もズタボロにされているのだ、最後らへんで。それに加えて2年ぶりに再会した娘にまでいないモノ扱い。可哀そうすぎる。
「いいから行きなさい」とリア姉の背中を押して向かわせようとするが「そろそろ夕食よ?一緒に行きましょっ」とリア姉に食堂まで連行される俺氏。

 すでに食堂で待っていた父上の目は少し充血しているように見えた。

(遅かったか…。すまん父上)
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