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幼少 ―初めての王都―

第39話 ぷりぷり

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 国王陛下との私的な対面は夕方になるとのことなので、暇な時間が出来てしまった

 今は大体午後3時ごろ、一度屋敷に帰るには短いし何もせずに待つにはちと長い。
 父上にはハッツェン達と一緒なら自由に王宮をふらついてきていいと言われのでまずはハッツェン、マリエルと合流する。

「アル様、大丈夫ですか!?」
 俺を見るなり、ハッツェンが駆け寄ってペタペタと触ってくる。もっと触っておくれ

「若様、お顔が真っ青ですね」
「マリエル、気遣っておくれ。それは気遣いの言葉ではなく感想だよ」
「アル様お着替えをしましょう。全身汗だくです、このままでは風邪をひかれてしまいます」

 おお~、ハッツェンのやさしさが身に染みる。極限状態だったもんでいつも以上にだ。

「マリエル、これだよ気遣いというのは。」
「ご教授感謝致します。」

 心にもないことを言うマリエル。
 ただそんなマリエルと話すことでいつもの調子を取り戻してきた。

 不意にぎゅっと抱きしめられる。

「ハッツェン?汗で汚れちゃうよ」
「何で私とは話してくれないのですかアル様、私も話したいです……」
(おっふ、なんだこのかわいい生き物は)

 可愛すぎる、愛おしさまで込み上げてきそうだが、放置はダメなので彼女にも話しかける。

「ごめんよハッツェン。そんなつもりはなかったんだ。玉座の間での出来事を話したいから早く着替えたいな?お願いできる?」
「はい!」

(マリエル、これだよこれ)

 目線でマリエルに訴えかける。しかし当の本人は微笑んでいるだけだ。

 ちぇっ

 二人が待機していた場所に俺の服やらなんやらがあるらしい。
 今すぐライドオンしたい気分だが、流石にそれはまずいので自力で何とか歩きやっとの思いで着いた。

 2人に着替えさせてもらい30分ほど休憩してから王宮散策へ繰り出す。
 余裕を持って戻りたいので午後5時には撤収したい。が、それを考えても1時間以上ある。
 さあどうしよう。

「二人ともどっか行きたいとこある?」
 思考放棄して二人の美少女に放り投げた、まずハッツェンを見る。

「私は特にありませんね、来たことありませんし」

 そりゃそうか、俺と同じでお上りさんだ。こういうのは都会っ子に任せよう
 てなわけでマリエル都会っ子に視線を向ける。

「私は何度か来たことがあるので案内くらいはできますよ」
「お、じゃあお願いしようかな」
「お任せください―――ただご褒美が欲しいなぁ、なんて」

 なんだって?

「マリエル、アル様に対して不敬ですよ」

 そうだそうだ~

「あら、別にいいじゃない。あなたも頼めば?」
「え?私もですか、ん~」

 なんだかんだマリエルにうまく丸め込まれてしまうハッツェン、頑張れよハッツェン

(慣れたのかマリエルの本性が出てきた気がするな~)

 マリエルはおっとりお姉さんの外見に似合わず結構ぐいぐい来るようだ。
 美人で巨乳でおっとりなお姉さん系、全然嫌じゃない。むしろぐいぐい―――

「アル様?私にもお役目をください、ご褒美が「来てほしい」――へ?」

 あ、口滑った

「何が来てほしいのですか?アル様。私今すごく嫌な気持ちになりました。何故でしょう」

 出てしまったものを引っ込めることはできない。
 しかし、それがじゃんけんでないのなら後の行動でいかようにも挽回することが出来る。それが人生ってもんだぜ―――

「ナンデダロウネ、まりえるイコウカ。」
「畏まりました若様」

 ―――俺は逃げることを選択しました…。


◇◇◇


「若様、あちらに見えるのが法務省に続く通路です。」
「へー。」
 バスガイドさんのように手を使って説明するマリエルに棒読みで返事をする俺氏。

 ―――1時間ほど前に人生の挽回に失敗した俺は今、頬をぷりぷりさせているハッツェンと共にマリエルの案内を受けている。
 案内と言っても工場見学のように現場の近くまで行きこれはこうでこうするためにあるのだとかいう細かい説明はない。
 王宮内をうろつき「あれは中庭です。あの花は―――」とか「あれは食堂です。用途は―――」とざっくり説明されるくらい。整えられた花壇に踏み入ってまでして花を触りたいとは思わないし、ここで食事をとろうとも思わないのでスムーズに進んでいく。 

 そして今、ぷりぷりハッツェンを横に法務省へと続く道を遠いところから見ていた。
 そう、近くではない、遠いところからだ。そして法務省の建物自体でもない。
 ちなみに一つ前は財務省の建物の屋根の一部を遠目から見ていた。

(つまらん・・・。)
 そう思わざるを得ない。ぷりぷりハッツェンもどこかつまらなそうにしている。顔芸が器用だな、いつまでぷりぷりしているのだろうか。

 もちろん悪いのはマリエルではない。
 強いて言うのであれば王宮探索を心のどこかで楽しみにしていた俺が悪い。ハードルを上げていたのだ。

 アイゼンベルク城の王宮はとにかく広い。同じ建物内でもある地点からある地点に移動するのに数時間かかりそうだ。
 そして、そのだだっ広い王宮を好き勝手に歩けるのは国王陛下ただ一人。下位貴族は勿論のこと、上位貴族の中でも身分が高いうちの父上でさえ行くことのできない場所は多く存在する。
 なので御曹司一人と侍女二人の集団でしかない俺たちが行動できる範囲は限りなく狭い。

 そのような厳しい条件下にあってもマリエルは俺を楽しませようと重要な建物の一部だけでも見えるところに連れて行ってくれたりしていた。彼女の努力がなければ食堂とかの基本的な施設を見た後、とっとと部屋に戻っていたことだろう。

 また当たり前のことだが、許可なく禁止エリアに入ろうとすると衛兵がすっ飛んでくる。
 RPGをプレイしたことのある人間ならば誰もが経験する『ストーリーが進まなければ入れない場所に何度も突進し、その度「ここから先はお通しすることが出来ません」と衛兵なんかに出戻りを要求される』なんて過程は踏まない。
「許可なく入ろうとする怪しい奴め、拘束してやる!」で終わりだ。疑いが晴れるまで開放してもらえない。
 そうなれば国王陛下との待ち合わせに間に合わなくなってしまう。そうじゃなくてもやんないけどね・・・。

「申し訳ありません若様。」
 つまらなそうにしていた俺に彼女が謝ってくる。

「いや、マリエルは悪くないよ。悪いのは王宮に期待し過ぎていた俺さ。
 でも、マリエルのおかげで王宮内の雰囲気とか何が何処にあるとかの大まかな場所を知れたから助かったよ。ありがとうマリエル。」

 最後の感謝の言葉は彼女を慰めるためのものではなくて本心だ。
 俺とハッツェンだけだったら何もできずに時間が過ぎるか、変なところに入っちゃってしょっ引かれるかの二択だったはずだ。

「そう仰っていただけると助かります。―――ご褒美はありますか?」
(げ、覚えてたのかよ。)
 お礼なんか言わなきゃよかったと思いつつも助かったのは本当なので頷いておく。
「・・・うん。」
「楽しみにしていますね、若様。」
 マリエルは大人っぽい微笑みを浮かべている。

 そして、こんな話をすれば横にいるぷりぷりが反応してくるのは当然のことで・・・

「アル様、私にご褒美はないのですか?」

 少し期待した目で横にいたハッツェンが聞いてきた。
(いや、君何もしていないでしょう・・・。)
 そう、彼女はただついてきてぷりぷりしていただけ。あっちでぷりぷり、こっちでぷりぷり。最近クール崩れてきてない?
 しかし、頷かないとぷりぷりモードが解除されない。可愛いから放置してもいいのだが、そろそろ解除しないと彼女の頬の肉が伸びたままになってしまいそうだ。万が一にでも可愛いハッツェンの顔が変わってしまうと嫌なので、頷いてしまう。

「わ、わかったよハッツェン・・・。」
「ありがとうございます♪」
 ハッツェンがぷりぷりモードを解除して嬉しそうに微笑む。魅力的な笑みだ。

(まあいっか、二人に何あげようかなぁ・・・。)
 悩みながらも心のどこかでこの状況を楽しんでいると―――


「そこのお嬢さん方、僕とお茶でもしませんか?」
 人好きしそうな笑みを浮かべた青年がハッツェンとマリエルに話しかけてくるのが見えた。


 ―――なんだお前?
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