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幼少 ―初めての王都―

第38話 謁見

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 翌日、父上と共に馬車に乗り王城へと俺は向かっていた。

 だんだんと城が近づいてくる。

「これは、大きいですね……」

 城壁の外から見た時から思ってはいたがそれにしても大きい。中に何が詰まっているのだろう。

「そうだな、私も初めて来たときは腰を抜かしそうになったよ。父上には笑われたがな」

 父上の言う父上とは当然俺の祖父マクシムである。
 そういえば以前オルデンがなんか言ってたなぁ、同級生だっけ?

「父上、前にオルデンから聞いたのですが、オルデンとおじいさまは友人同士なのですか?」
「ん?ああそうだよ、母上もディーウィット殿もだ。それに「拳神」殿もではなかったかな」

(え?「拳神」?!究極の器用貧乏「拳神」なの!?)

 自分が習っている武術の開祖が思いのほか大物で驚く、ここ最近驚きっぱなしである。ビッ〇リマンになっている俺に気づいた父上は何やら一人納得していた。

「ああ、そうか、アルはヴァサア流格闘術を習っていたのだな。「拳神」殿も父上たちと同じ王立学園の学友だよ、それに「拳神」殿は王宮勤めだ、もしかしたら会えるかもしれないな。あ~…しかし今は任務でいないのか。非常に…残念だな」

「拳神」殿と呼びすぎじゃないかね、何か恨みがあるのだろうか。それに残念が全くもって残念そうじゃない。



 馬車が止まる、着いたようだ。
 若干の緊張と興奮を胸に降り立ち、目の前にそびえたつ巨城アイゼンベルク城を見上げる。
 アルトアイゼン王国一の城の基本色は黒だが、白が所々に見受けられるためそこまで重苦しい印象は抱かない―――<荘厳>この言葉がぴったりだと思う、王族の威光を思う存分感じた。

 王宮に繋がる道を父上について歩いて行く、周りからの視線を感じるが苦ではなくなっていた。翡翠の目の少年から少しばかりの勇気を貰ったからかもしれない。
 心に落ち着きが出てくると周りが良く見えるようになり今まで気にしたこともないような情報を視覚がとらえる。

「ハッツェン、マリエル大丈夫?」

 俺についてきているハッツェンとマリエル(二人連れていけと父上に言われたのでマリエルを選んだ)がどことなく緊張しているのに気が付いた。

「もちろんです」
「少しだけなら」

 気丈に返事したのはハッツェン、俺を心配させたくないらしい。健気だ。
 それに対してマリエルは正直だった。それもそれでいい。

 豪華なシャンデリアが何処までも続く王宮の廊下の天井にぶら下がっている。非日常の光景が広がる中、二人《ハッツェンとマリエル》はひと際輝いていた。そこらでせわしなく、しかし優美に動き働いている女の人の大半は下位貴族の出身だ。下位貴族と言っても王宮に出仕するような令嬢は大抵容姿が優れている。その娘の行動で多かれ少なかれお家の評判が上下するのだからどうせなら優秀で見目麗しい娘を出したくなるのは貴族としての本能だろう。
 それでもこの二人には敵っていなかった。それほどの美少女が俺の後をついてきている、なんだか誇らしい気持ちになってきたぞ。

 彼女達とは途中で別れ父上と二人、めっちゃ高級な部屋の中で待機する。
 まさかの玉座の間での謁見らしい―――聞いていない、こういう部屋で会うのかと思っていたが違うらしい。

 恨みの籠った眼差しを父上に向け、だましたな?と迫るも父上はどこ吹く風だ。すでに大貴族としての父上が出来上がっている。俺みたいなガキに睨まれても怖くもなんともないのだろう。

(マジで覚えとけよ?)

 無駄とはわかりつつ、殺気に近い何かを出し続けていたら父上がぴくッと動いた。お?俺の勝ちか?

 そんな感じで父上で遊んで時間を潰していると貴族の服を着た男性が部屋に入ってきた。

「ヴァンティエール卿 準備が整いました。玉座の間へ」
「ご苦労」

 どうやら出番らしい。
 部屋を出るとほどなくして豪華な扉の前に着く。これまた大きいな、もはや門だ。屋内にも門があるとは、世界は広いな。

「ベルトラン・カーリー・フォン・ヴァンティエール=スレクトゥ卿ならび御子息アルテュール殿が参られました!」

 案内役の男性の叫びと共に扉がゆっくりと開きだす。

 初めに見えたのは深紅の道は数段高い位置にある玉座へと続いている。
 道の両端には大勢の貴族が並び、終着点にある玉座にはくすんだ金髪と見覚えのある碧眼を持った老人が腰かけていた。―――国王陛下、つまり母方の祖父だ。

 だがしかし、遠く離れたここからでも見えるその眼光は祖父が孫に向けるなんて生易しいものではなく、支配者とそれに仕える者。立場の差を分からせるための高圧的なもの。目線だけで「跪け」と本能に訴えかけてくる。

 普通に怖くて視線に耐えられなくなった俺はその斜め後ろで控えるように座っている人に目を向けた。怖いものは見ないようにする。常識である。

そして一瞬焦る。

(母上かと思った、焦った~)

 それほどに陛下の斜め後ろに控えるその人、いやその御方は母上に似ていた。王妃殿下で間違いないだろう。
 プラチナブロンドの絹のような髪以外は顔のパーツがほとんど同じだ。よく見ると少しずつ違うが、相対的に見ればほぼ母上―――つまり、超美人。美魔女と言った方がいいか、なんせ俺の祖母《おばあ様》だ。

 その他にも国王陛下の周りには王族と思われる御仁が数人。

 父上はこちらを見ない、一歩ずつしかし堂々とした足取りで中へ入っていく。
 その背中が「俺について来い」と言っている気がした。カッコいいぜ。

 かなり玉座に近いところまで来た父上は片膝をつく。
 それに反応して俺は斜め後ろで片膝をつく。

「ヴァンティエール辺境伯ベルトラン・カーリー・フォン・ヴァンティエール=スレクトゥ。王命を承り馳せ参上致しました」
「ヴァンティエール辺境伯ベルトラン・カーリー・フォン・ヴァンティエール=スレクトゥが長男アルテュール・ヴァンティエール=スレクトゥ。同じく馳せ参上致しました」

 頭を下げお決まりの言葉を言う。俺の方が長くね?不公平だ。

 数瞬の間の後―――

「面をあげよ」という声が聞こえてきた。

 父上が顔をあげたのを気配で感じ取り、少し遅らせて目線をあげ国王陛下の顔を見る。

(うわぁぁぁ‥‥‥‥‥‥‥)

 ―――王者の圧力《プレッシャー》が飛んでくる、可視化するんじゃないかというほどの圧が。
 しかも魔力ではない眼力だけのものだ。普通に考えてあり得ない、しかし現に俺は意識を保つことが精いっぱいだった。流石にこの至近距離で目を逸らすわけにはいかない、醜態をさらしてはならない、それだけを想い全力で耐える。

 長いような短いような時間の後ふと、圧が弱まった。出し戻し可能なのかよ。すごいな。

「大儀である。余はそなた等の忠心を受け入れよう」
「「ありがたき幸せ―――」」

 あらかじめ決められていたセリフ、ここからはアドリブだ。

「して、ベルトラン。アデリナは息災か?」
「はっ、産後の肥立ちも良く。今では公務を行えるほどには回復しております」
「そうか、アデリナに無理はするなと伝えておいてくれ」
「はっ」

 国王陛下と父上の会話が終わる。

 絶対次来る…。

「アルテュールよ、初めましてだな。余はアルトアイゼン王国第21代国王フリードリヒ7世だ。第3王女アデリナ父であり、そなたの祖父でもある。立派な男になれ、励めよ?」
「はっ」

(もう早く帰りたい、ハッツェンとマリエルの胸に飛び込みたい)

 そんなことを考えつつも国王陛下を今度は目を逸らさずに観察する。
 母上と同じ蒼色の瞳、しかしその瞳に宿る猛々しさは母上と似ても似つかないものであった。

「大儀であった」

 謁見が終わる。

 王妃殿下からの御言葉はなかった。国王陛下を支えるような位置に座りただ俺たちを見下ろしているだけだったが話したいという気持ちは伝わってきた。

 こけないよう慎重に歩く。
 足っていうのはこんなにも重いものなのかと思うほどに鈍重だ、鉛のようだ。

 無事何事もなく玉座の間の外へ出れたが扉が閉まるまでは決して気を抜かない。

 ガゴーン

 扉の閉まる音がしたと同時に緊張の糸が切れた。

「―――――っはぁぁ」

 心からの安堵が零れる。

「よく耐えたな、偉いぞ」

 余裕の表情を浮かべた父上が褒めてくれた。汗一つかいていないようだ。

(遠いなぁ)

 本当に俺はこの人のようになれるのだろうか…。今考えても無駄なことだとはわかっていてるが、ついつい考えてしまう。

(やっぱり、努力しないとなぁ―――――よしっ)

 王都滞在時間はまだまだある、しかし有限だ。ここアイゼンベルクで今後に活きるような何かを学び持ち帰らなければならない。
 俺は自分の立場を再認識した。
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