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幼少 ―友達を求めて―

第21話 戦闘開始

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「だから俺たちじゃねえって―――!!」

 路地裏から子供の声が聞こえたのでハッツェンにすぐ抱きかかえてもらい、現場に急行する。

「確かここら辺に…―――いた。」

 俺とハッツェンが現場に着いたとき、一人の大柄な少年が全身傷だらけで立っていた。

(何が起きているんだ?)

 先ほどまでの浮ついた心を静め、目の前の状況を観察する。

 少年の反対側に立っている5人のならず者達。

 その顔は傍から見ても不愉快なほど歪んでいる。差し詰め優越感といったところか。

(事情は知らんが、止めた方がいいな)

 と思うがすぐには、止めに入らない。

 数的不利の状況で正面から突っ込むのは悪手でしかない。隙を窺うんだ。
 そうやって機を待っている間にも、目の前の不合理《リンチ》は進んでいく。

「あがぁっっ!」

 ならず者の一人が少年の腹に蹴りを入れ、少年が吹っ飛んだ。
 蹴り飛ばされた少年には悪いがもう少し辛抱してくれ。

「「「ぎゃはははははは!」」」

 ならず者たちは不用心に倒れている少年の元へ近づいていき、腹を抱えながら笑う。何のどこが面白いのだろうか。

 ――でもそれでいい。愚かでいてくれ。

(いまだっ―――!)

「・・・ハッツェン」

「―――はいっ」

 瞬間―――

 ハッツェンが目にもとまらぬスピードで飛び出し、音もなくならず者たちへ急接近する。
 当然、子供をいたぶり愉しそうにしているならず者馬鹿たちは全く気付いていない。

 一撃目がきれいに決まる―――


 ―――股間へ

「はうっ!」

(おぁ、痛そ~)

 会心の一撃きんてきを決めたハッツェンは流れるような足捌きで、次の獲物を捕らえる。

「がぁっ!?」

 顎を蹴り上げられた男は何が起きたか理解できないという顔をしていた。

 5人中2人がやられ、漸《ようや》くならず者たちが襲撃者《ハッツェン》の存在をしっかりと認識する。

「このアマッ!――ブベっ」

 が、すでに彼女は3人目に肉薄しており、丁度顔面に回し蹴りを食らっているところだった。

 一人また一人と舞うように男を倒していくハッツェンに残りのならず者二人は夢中だ。俺なんか眼中にない。

(俺もなんかしなきゃだな―――土堀りディッグ

 ハッツェン目掛け突進する二人の足下に穴ぼこを生成。

「なっ!」「うわっ!」

 足を引っかけ体勢を崩す。

火よファイヤ

 すぐさま、つんのめった男たちの眼前に火を発射。当然避けられずに着弾。

「「ぎゃーーーー!!」」

 そんな男たちの後ろに小さい影が二つ。
 どちらも10歳くらいで一人は聡明そうな顔の整った男の子、もう一人はそれ以上に綺麗な顔をした女の子だった。

 二人はならず者たちが落としたであろうバールのようなものを持っている。

 ―――視線が合う。

 やっちゃえ♪という意味で俺がニヤッと笑いかけると意味が伝わったのかあちら側もニヤッと笑う。

 ―――その顔は悪ガキのそれだった。

(・・・いいねぇ)

「「ガキンッ(ボキッ)」」

 ならず者二人から鳴っちゃいけない音が出る。

 殺すつもりはないのだろう。しっかり急所から外れている。だが、しっかりと二人の男の腕と心は折れているようだった。

 ハッツェンの方を見るとあちらも丁度終わったようでこっちに向かって来ていた。その途中、最初の一撃を食らわせた男の股間をもう一度蹴り上げる。

「がぁっっっ!」

(オーバーキルだ、怖いよハッツェン・・・。)

「アル様、お怪我はありませんか?」
「・・・うん」

(あ、そうだ―――光よライト

 ハッツェンの容赦のなさに内股気味の俺の身体を彼女がペタペタチェックする間、思い出したかのように上空に向け光の玉を解き放つ。領兵を呼ぶためだ。

 ―――数十秒後、ガシャガシャと金属が擦れる音が近づいてきた。音の出もとはもちろん領兵が身に着けている鎧。

「どうした、何があった!―――っ、若様!?このようなところで何をなさっていたのですか!」

「事情聴取はあとでやれ、今はそこに倒れている少年の治療が最優先だ、俺も付き添う。あ~、あとそこで伸びている野郎たちはおそらく犯罪者だ。一応事情を聴きたい。こいつらも詰め所に連れていけ」

 ぱっぱと指示を出す。

「はっ。おい、お前たち今若様が言ったとおりにしろ―――おい少年大丈夫かっ」

(後はこいつらに任せておけば大丈夫だろう、先に詰め所に行こう)

「ハッツェン、面倒になる前に父上のところまで行って事情を説明してきてくれ」
「わかりました。しかし、私の仕事はアル様の護衛です。騎士団の詰め所まではご一緒します」
「・・・わかった。俺はまだ足が遅い、連れて行ってくれ」
「畏まりました♪」

 ハッツェンに抱えられこの場を後にしようとする。

「まって!」

 そこへ声がかけられた。

(ん?なんだ?)

 声のする方向へハッツェンごと振り向くと綺麗な顔の女の子が兵士に取り押さえられていた。

「おい小娘っ、控えよ!この方がどなたかと知っての行動か!?」
「秘密の通路に子供たちがいるの!!」
「『秘密の通路』なんだそれ?あと子供たち?」

 俺は領兵の叫びでなく少女の声を拾う。

「いいから付いてきて!」

(犯罪臭がすごいんだが・・・まぁとりあえず付いていくか)

「その子を放してやれ」
「しかし――」

 己が任務を全うしようとする領兵の真面目さを評価したいところだが今は邪魔でしかない。

「――くどい」
「っ―――!申し訳ございませんっ」


 魔力の波を直接あてると領兵は少女を取り押さえている腕を解いた。

「で、子供達ってのはどこに居るんだ?」
「こっちよっ!」
 解放された女の子が走り出し、俺はそれについていく。ハッツェンに乗りながら。

「ここよっ」

 目的地らしきところにはすぐに付いた。ただ、目的地である『秘密の通路』は見当たらない。

(どこ?)

 そう思った瞬間、少女が壁と壁の隙間へと入っていった。

(これハッツェン引っかかって入れないな、どこがとは言わないが)

「ハッツェン降ろして」
「アル様、お気を付けて」
「うん」

 降りた俺は、少女に続いて隙間へと入ってゆく。
 するとすぐに視界が開け、小さな空間に出た。

(おお、秘密基地《ロマン》って感じだ、心が躍る)

「こっちよっ」

 秘密基地を見渡していると女の子が秘密基地の一画にあるトンネルのようなものの前で呼び、トンネルの中へ入っていった。おそらくあれが少女の言った『秘密も通路』のことだろう。

 俺も後を追う、『秘密も通路』の中を進んで数分。
 前方に多数の人の気配を感じた。

 念のために探索サーチを使う。
 その結果、わかったのは気配の正体が子供であるということだった。

「みんなっ、助けが来てくれたわよ!」
「ふぇ~」「・・・やった」「こわかったよ~」「ほんと?」「べつにこわくなかったからな!」

 いろんな声がするが今はまずここから出よう。こんな暗闇よりもお天道様からの光あふれる外の方がずっといいはずだ。

「あんしんしていいよ~、こっちおいで~」

 怖がらせないように、年相応の声で誘導する。

「・・・」

 ここまで案内してくれた女の子がジト目で見てくるがこれはあくまでも誘導のためなんだ。変な目で見ないでほしい。

 時間をかけてトンネルの入口へ戻り、秘密基地から出るとそこには心配そうな顔をしたハッツェンがおり、出てきた瞬間、抱き上げられ定位置に着く。

(これがニュートラルポジションになっている気がする・・・)

 ぎゅっと抱きしめられているため降りれない。まあいいかと思い今の状況に至るまでの経緯を顔の整った男の子から情けない体勢で聞く。

 曰く、ここにいる子供たちは全員孤児院の子たちらしい。
 曰く、今治療を受けている大柄な男の子がリーダーらしく、名をグンターという

 そのグンターが孤児院の異変を察知しみんなを連れて逃げ出した。そしたら本当に異変が起きていた。
 なんと院長が子供たちを売り捌こうとしていたらしい。

 曰く、1週間ほど秘密基地に身を隠し細々と生活していたところ、院長の手先に見つかり戦闘に。グンターはみんなが秘密の通路に隠れるまでの時間を稼ぐために一人で戦闘。グンターの叫び声が聞こえたイケメンの男の子ラヨスと美少女ルウが助太刀のために戻ってきて今に至るという。

(なるほど、こいつらすげぇな。部下に欲しい。こうしちゃいられん、孤児院を制圧するか)

 父上に後で死ぬほど怒られるかもしれないが指示を出そうと思う。

「この場にいる兵の中で一番偉いのは誰だ」
「はっ、私でございます」

 壮年の男が出てきた。

「名は?」
「アルノーでございます。」
「そうか、ではアルノー、俺は孤児院に散歩しに行きたい(孤児院の奴らを捕まえに行きたい)、しかしこんなかわいらしい見た目だ、今のような輩が襲ってくるかもしれん(俺とハッツェンだけだと心もとない)。――ここにいる者たちで護衛してくれないか。なに、俺の我儘だ、いやなやつは来なくていい(このことで罰が下りそうになったら俺のせいにしろ、だから来い)。――そうだな、そいつは屋敷まで行って父上に伝えてくれないか、散歩してきます(一人は屋敷に行って詳細を報告してくれ)とな」

 アルノーは目を真ん丸にする。そしてすぐににやりと笑い、芝居がかった声で言う。

「それは大変ですな、若を待たすわけにはいきませぬ(若が責任を取ってくれんなら護衛します)。すぐに参りましょう。――ああ、オレール・・・お前確か今日奥さんの誕生日だと言っていたな、すぐに家に帰るといい。(お前が領主様に報告しに行け)」

 いきなり名前を呼ばれたオレ―ルという男は嫌そうな顔をした。領主様《父上》に事の顛末を報告する役目を押し付けられたからだろう。

「わかりました。こんな部下想いの上司をもって私は果報者です!(この野郎、後で覚えとけよ!)」

 と泣きそうな顔をしながら走り去っていった

 傷だらけだったグンターは中級区の医療所へすでに運ばれており、保護した小さな子供たちも俺たちが茶番している間に騎士団の詰め所でいったん預かってもらった。

「私も行くわっ」
「同行させてください」

 着々と孤児院突撃の為準備を整えているとルウとラヨスがそう言ってくる。

「・・・わかった。危ないと思ったらすぐに兵の後ろに隠れろ、いいな?」
「わかったわっ!」
「わかりました。」

 同行を拒否しようと一瞬考えもしたが結局は許可した。二人の瞳から覚悟を感じたからだ。

(よし、行くか)

「皆の者、行くぞお散歩孤児院潰しに!」

 ハッツェンに抱きしめられたままの俺が号令をかける。

(あぁ、かっちょわり~)

「「「「おうっ!」」」」

 いけっ、ハッツェン!!!
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