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第5話 実技チェックはお手柔らかに!【前編】
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さて。
学校祭でバタバタしている最中にも、どんどん授業は進んでいき。
楽しみにしていた看護技術の授業が始まった、夢歌さんたち1年生。
まず最初に始まったのが「共通看護技術」っていう科目。
要するに、看護するうえで必要な基本の基本の技術、ってことらしい(先生の受け売り)。
(この科目名は、学校によって違うらしくて、「基礎看護技術1」とか「看護基礎技術論」とかのところもあるらしい。他の看護学校や看護大学に行った友達から聞いた話……でも内容は同じような感じだった)
共通基礎看護技術では、看護技術の考え方とか、手洗いとか清潔物品とかゴミの区分とかベッドのこととか、そんなことを学んだ。
手洗いの仕方が、すごく細かくて、ちょっとびっくり。
手のひらから始まって、指一本一本掴み洗いして、指の付け根とか手首とか、指先を手のひらに立てて爪のすきままで洗うのだ。
これを援助のたびにやらないといけないと聞いて、夢歌さん、ゲンナリ。
でも、そんなに洗ったのに、手洗いセンサー(特殊な目に見えない染料を先に手に塗っておいて、石鹸使って手洗いした後、センサーに手をかざすと、洗い残しの染料がブラックライトで光るんだって)で、洗い残しがたくさんあって、かなりビビッてしまった。
「やっぱり手はしっかり洗わないとマズイ……」と実感。あと、アルコールジェルを使った方法も習った。これは夢歌さんも使ったことがあったけど、水の手洗いと同じようにみっちり刷り込む必要があり……今まで適当だったな、と反省。
でも、そんな感じでいろいろ発見しつつ、看護っぽい授業を楽しんでいた「共通看護技術」が終わる頃。
始まったのが「生活援助の看護技術1」という授業。
ここでは、生活の中でも環境・移動・活動・休息についての援助の方法を学ぶ(先生の受け売り・再)。
そこで、最初の授業で、言われた一言で、夢歌さん始め、クラス全員を震撼させた先生の言葉。
「単位認定の技術試験は前期末に行いますが、その前にも技術チェックを行います。とりあえず、一番最初にベッドメイキングの技術チェックがあります。また詳細はお知らせしますが、これをクリアしないと、1回目の実習に行けませんから」
は?
「ちなみに、技術チェックは5月末なので、文化祭重なって忙しいけど、しっかり練習してね」
この時点で、大型連休まであと1週間という……。
そして、1回目の実習って、たしか6月半ばだった気が……。
自分の布団のカバーは袋式で、それだってお母さんが取り替えてくれているのに(一応手伝ったことはあるけど、結構ぐちゃぐちゃになった)。
この日は、実習室での演習もあり、早速実際にベッドにシーツを掛けてみた、が。
こんな、一枚の布を、どうしたらあんな風にピシッと敷くことが出来るの?
見本として真っ白なシーツでピシッとベッドメイキングされたベッド。
本来はそこに、スプレッドというカバーを掛けた上掛けもかかっているそうなんだけど、今日は見本として上掛けを取った状態で置かれている。
ものすごい糊付けでもされているのかと思ったけど、渡されたシーツは、清潔で、そこまでシワだらけではないけどまあ、普通に洗濯されたもので。
これが、ああなるの?
もしかして、見本はめちゃくちゃ糊付けしてあるとか?
……違ってた。
デモンストレーションで先生が(最近はもう、呼び掛けるときは教員とか言わなくなっちゃった。先生も普通に返事してくれるし)、そのやわやわのシーツでピシッとベッドを作ってくれて……まるで、牛乳パック入りのレアチーズみたい!
お母さんが好きでよく買ってきてくれるお徳用の牛乳パック入りレアチーズ、プルンと大皿に出すと、真っ白でつやつやの面に、しっかり牛乳パックの底の斜め線がくっきり残っているんだよね。
上面はつやつや、側面はキャラメルの包みみたいにきれいな三角に整えられていて。
それを、あっという間にやってしまう。
先生、すごい……。
何だか簡単そうなのに、全然うまく出来ない。
「練習すれば必ず上手になりますよ。でも、むやみやたら回数を重ねてもダメです。どこがいけなかったのか、どうしたらもっと良くなるか考えながら練習しましょう」
って、先生は励ましてくれるけど。
えーん、何でシワがこんなに?
「ここはね、こう、目でイメージして、ここを持って……」
先生がサポートしてくれて、ようやく少しキレイにシワや四隅の始末が出来たけど……一人で出来るようになるには、どのくらいかかるんだろう?
「何のために上達しなければいけないか考えてみてね。技術チェックのためではないですよ。このベッドでお休みになる患者さんのために、安心して療養に励めるよう整えるために、大切なのよ」
「患者さんの、ため……」
「私達が技術を学ぶその先には、必ず患者さんがいらっしゃるのよ。それを忘れないでね」
全ては、患者さんの、ため。
夢歌さんは、しっかりと心に刻み込んだ。
が。
「そんなこと言ったって、結局技術チェック通らないとダメなんでしょ? 要領が良くて器用な子が有利に決まっているじゃない」
クラスの中でも、ちょつと言動がキツい学生が、授業が終わったあと、教室に戻ってそう言い放った。勝木さん、という社会人経験のある学生だ。
社会人経験の人達には色んな経歴の人がいて、周りにすごく気を遣ってくれたり、すごく気が利く人がいて、社会に出るってスゴいなあ、ってちょっと尊敬していたりもしたんだけど。
この勝木さんは、どちらかと言うと物言いもキツくて、あと、課外活動にあまり熱心でなく……授業が終わるとあっという間にいなくなってしまう。
バイトが忙しい、と聞いたけど。
栗白山看護(最近聞いたけど、名前が長いので、学生は『くりかん』って略すんだって)ではバイトは許可制で、絶対してはいけないわけではないんだけど、必ず届け出が必要だ。一応、学業に差し支えのない範囲でのみ許可って学則にも書いてある。入学オリエンテーションでも、看護学校は勉強も授業も忙しいから、あまりバイトをしないで、とも言われた。
それぞれ事情があるのは分かるんだけど、勝木さんは放課後の活動(今はモンブラン祭の準備とか)にも全く協力してくれない、と同じ係の子が愚痴っていた。
勝木さんが不機嫌なのは、きっと放課後の技術練習の話を聞いたからだろう。
技術チェックを受ける前に、まず練習記録を提出しないとチェックそのものが受けられないんだって。
放課後にほとんど居残っていることがない勝木さんにはそれが面白くないんだと思う。
でも、2年生の先輩達に聞いたら、放課後に残ってグループワークしないと間に合わない課題が、これからどんどん増えるって言ってた。
技術練習もどんどん種類が増えてくるので、夏休み中も学校に来てみっちり練習しないといけないよ、ともアドバイスされた。
何となく勝木さんのことが気になりながらも、夢歌さんもそれほど器用ではないので、ひたすら練習するしかなく……それでも放課後実習室で練習に励んでいると、違う用事できた先生とか、先輩だとかがアドバイスしてくれたり見本を見せてくれて。
多少時間はかかるけど、ある程度満足の行くベッドが作れるようになった。
やればできるもんだな。
なんて、自己満足に浸ってみたり。
でも「ここで、満足しない!」なんて叱られて反省したり。
係の仕事がない日はほとんど毎日実習室で練習した。ベッドの数は限られているから、交代で使うことになるけど、他のクラスメートの技術を見るのも勉強になった。
みんなが少しずつ上手になっていくのが分かって、ちょっとあせりもあったけど、励みにもなったりして。
……その間、勝木さんに出会うことはなく。
そして迎えた、技術チェックの日。
チェックは合格するまで時間内なら交代で何度も挑戦できる。
今日中に合格する自信が持てなかったら、明日以降も練習して、放課後先生に声を掛ければ見てもらえると聞いて、思ったより気が楽だった(期末の本試験はそういうわけにはいかないみたいだけど)。
「いいわね。合格よ」
やった! 合格!
……2度目の挑戦だけど、合格!
「でもね、ここをもう少し、こう引っ張れたら、もう少しキレイになったかな? 期末試験までに、練習して置きましょうね」
完璧ではなかったみたい……。
ちょっと指摘を受けたり、中には「とってもよくできました」なんて声も聞こえてきたりしながら、次々と合格して(中には「もう一回」の人もいて、再挑戦していた)いくなか。
「どうしてこれがダメなんですか?!」
……突然、嵐が巻き起こった。
学校祭でバタバタしている最中にも、どんどん授業は進んでいき。
楽しみにしていた看護技術の授業が始まった、夢歌さんたち1年生。
まず最初に始まったのが「共通看護技術」っていう科目。
要するに、看護するうえで必要な基本の基本の技術、ってことらしい(先生の受け売り)。
(この科目名は、学校によって違うらしくて、「基礎看護技術1」とか「看護基礎技術論」とかのところもあるらしい。他の看護学校や看護大学に行った友達から聞いた話……でも内容は同じような感じだった)
共通基礎看護技術では、看護技術の考え方とか、手洗いとか清潔物品とかゴミの区分とかベッドのこととか、そんなことを学んだ。
手洗いの仕方が、すごく細かくて、ちょっとびっくり。
手のひらから始まって、指一本一本掴み洗いして、指の付け根とか手首とか、指先を手のひらに立てて爪のすきままで洗うのだ。
これを援助のたびにやらないといけないと聞いて、夢歌さん、ゲンナリ。
でも、そんなに洗ったのに、手洗いセンサー(特殊な目に見えない染料を先に手に塗っておいて、石鹸使って手洗いした後、センサーに手をかざすと、洗い残しの染料がブラックライトで光るんだって)で、洗い残しがたくさんあって、かなりビビッてしまった。
「やっぱり手はしっかり洗わないとマズイ……」と実感。あと、アルコールジェルを使った方法も習った。これは夢歌さんも使ったことがあったけど、水の手洗いと同じようにみっちり刷り込む必要があり……今まで適当だったな、と反省。
でも、そんな感じでいろいろ発見しつつ、看護っぽい授業を楽しんでいた「共通看護技術」が終わる頃。
始まったのが「生活援助の看護技術1」という授業。
ここでは、生活の中でも環境・移動・活動・休息についての援助の方法を学ぶ(先生の受け売り・再)。
そこで、最初の授業で、言われた一言で、夢歌さん始め、クラス全員を震撼させた先生の言葉。
「単位認定の技術試験は前期末に行いますが、その前にも技術チェックを行います。とりあえず、一番最初にベッドメイキングの技術チェックがあります。また詳細はお知らせしますが、これをクリアしないと、1回目の実習に行けませんから」
は?
「ちなみに、技術チェックは5月末なので、文化祭重なって忙しいけど、しっかり練習してね」
この時点で、大型連休まであと1週間という……。
そして、1回目の実習って、たしか6月半ばだった気が……。
自分の布団のカバーは袋式で、それだってお母さんが取り替えてくれているのに(一応手伝ったことはあるけど、結構ぐちゃぐちゃになった)。
この日は、実習室での演習もあり、早速実際にベッドにシーツを掛けてみた、が。
こんな、一枚の布を、どうしたらあんな風にピシッと敷くことが出来るの?
見本として真っ白なシーツでピシッとベッドメイキングされたベッド。
本来はそこに、スプレッドというカバーを掛けた上掛けもかかっているそうなんだけど、今日は見本として上掛けを取った状態で置かれている。
ものすごい糊付けでもされているのかと思ったけど、渡されたシーツは、清潔で、そこまでシワだらけではないけどまあ、普通に洗濯されたもので。
これが、ああなるの?
もしかして、見本はめちゃくちゃ糊付けしてあるとか?
……違ってた。
デモンストレーションで先生が(最近はもう、呼び掛けるときは教員とか言わなくなっちゃった。先生も普通に返事してくれるし)、そのやわやわのシーツでピシッとベッドを作ってくれて……まるで、牛乳パック入りのレアチーズみたい!
お母さんが好きでよく買ってきてくれるお徳用の牛乳パック入りレアチーズ、プルンと大皿に出すと、真っ白でつやつやの面に、しっかり牛乳パックの底の斜め線がくっきり残っているんだよね。
上面はつやつや、側面はキャラメルの包みみたいにきれいな三角に整えられていて。
それを、あっという間にやってしまう。
先生、すごい……。
何だか簡単そうなのに、全然うまく出来ない。
「練習すれば必ず上手になりますよ。でも、むやみやたら回数を重ねてもダメです。どこがいけなかったのか、どうしたらもっと良くなるか考えながら練習しましょう」
って、先生は励ましてくれるけど。
えーん、何でシワがこんなに?
「ここはね、こう、目でイメージして、ここを持って……」
先生がサポートしてくれて、ようやく少しキレイにシワや四隅の始末が出来たけど……一人で出来るようになるには、どのくらいかかるんだろう?
「何のために上達しなければいけないか考えてみてね。技術チェックのためではないですよ。このベッドでお休みになる患者さんのために、安心して療養に励めるよう整えるために、大切なのよ」
「患者さんの、ため……」
「私達が技術を学ぶその先には、必ず患者さんがいらっしゃるのよ。それを忘れないでね」
全ては、患者さんの、ため。
夢歌さんは、しっかりと心に刻み込んだ。
が。
「そんなこと言ったって、結局技術チェック通らないとダメなんでしょ? 要領が良くて器用な子が有利に決まっているじゃない」
クラスの中でも、ちょつと言動がキツい学生が、授業が終わったあと、教室に戻ってそう言い放った。勝木さん、という社会人経験のある学生だ。
社会人経験の人達には色んな経歴の人がいて、周りにすごく気を遣ってくれたり、すごく気が利く人がいて、社会に出るってスゴいなあ、ってちょっと尊敬していたりもしたんだけど。
この勝木さんは、どちらかと言うと物言いもキツくて、あと、課外活動にあまり熱心でなく……授業が終わるとあっという間にいなくなってしまう。
バイトが忙しい、と聞いたけど。
栗白山看護(最近聞いたけど、名前が長いので、学生は『くりかん』って略すんだって)ではバイトは許可制で、絶対してはいけないわけではないんだけど、必ず届け出が必要だ。一応、学業に差し支えのない範囲でのみ許可って学則にも書いてある。入学オリエンテーションでも、看護学校は勉強も授業も忙しいから、あまりバイトをしないで、とも言われた。
それぞれ事情があるのは分かるんだけど、勝木さんは放課後の活動(今はモンブラン祭の準備とか)にも全く協力してくれない、と同じ係の子が愚痴っていた。
勝木さんが不機嫌なのは、きっと放課後の技術練習の話を聞いたからだろう。
技術チェックを受ける前に、まず練習記録を提出しないとチェックそのものが受けられないんだって。
放課後にほとんど居残っていることがない勝木さんにはそれが面白くないんだと思う。
でも、2年生の先輩達に聞いたら、放課後に残ってグループワークしないと間に合わない課題が、これからどんどん増えるって言ってた。
技術練習もどんどん種類が増えてくるので、夏休み中も学校に来てみっちり練習しないといけないよ、ともアドバイスされた。
何となく勝木さんのことが気になりながらも、夢歌さんもそれほど器用ではないので、ひたすら練習するしかなく……それでも放課後実習室で練習に励んでいると、違う用事できた先生とか、先輩だとかがアドバイスしてくれたり見本を見せてくれて。
多少時間はかかるけど、ある程度満足の行くベッドが作れるようになった。
やればできるもんだな。
なんて、自己満足に浸ってみたり。
でも「ここで、満足しない!」なんて叱られて反省したり。
係の仕事がない日はほとんど毎日実習室で練習した。ベッドの数は限られているから、交代で使うことになるけど、他のクラスメートの技術を見るのも勉強になった。
みんなが少しずつ上手になっていくのが分かって、ちょっとあせりもあったけど、励みにもなったりして。
……その間、勝木さんに出会うことはなく。
そして迎えた、技術チェックの日。
チェックは合格するまで時間内なら交代で何度も挑戦できる。
今日中に合格する自信が持てなかったら、明日以降も練習して、放課後先生に声を掛ければ見てもらえると聞いて、思ったより気が楽だった(期末の本試験はそういうわけにはいかないみたいだけど)。
「いいわね。合格よ」
やった! 合格!
……2度目の挑戦だけど、合格!
「でもね、ここをもう少し、こう引っ張れたら、もう少しキレイになったかな? 期末試験までに、練習して置きましょうね」
完璧ではなかったみたい……。
ちょっと指摘を受けたり、中には「とってもよくできました」なんて声も聞こえてきたりしながら、次々と合格して(中には「もう一回」の人もいて、再挑戦していた)いくなか。
「どうしてこれがダメなんですか?!」
……突然、嵐が巻き起こった。
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