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七
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「……彼女らの証言に、特に不審な点はないんだよなあ。被害者が被害妄想ぎみで、友人が少なかった、っと言う点では、他の人間からも証言取れているし」
「天涯孤独で、最近失恋したらしいって会社の同僚も言ってるし……こりゃ自殺に断定でよさそうだ。あわよくば妬んでいた同じアパートの住人を巻き添えにしようとしたんだろうな。階下の目撃者の二人も、たまたまデートと仕事帰りで一緒になっただけで。夜勤明けの看護師の方は、越してきたばかりでほとんど面識がないし」
「でも酷い話ですね。さも身勝手な隣人に迷惑をかけられている風を装うなんて」
「ブログに公開するとかじゃなくて、メモリーに書き込んでポケットに入れておく辺りは、どういう心理なのかな」
「個人を特定されたくなかった、とか? 遺書代わりだったんじゃないですか? あわよくば殺人を疑ってもらおうとか」
「そういう巧妙な所がありそうだな。粘着質な性格だったみたいだし。まあ、結局は穴だらけだった、ってとこだが」
「じゃ、自殺、ということで報告上げます」
「とりあえず乾杯!」
「声大きいってば」
「大丈夫よ。家の中だし」
「……でも、こんなに上手く行くとは思わなかった」
「ま、あの人のUSBメモリー拾ったのが幸いよね。名前も入っていたし」
「大体ああいうものに妄想書きこんで持ち歩くのが変なんだって!」
「あ、あれ多分小説にでもするつもりだったんじゃない? 字数が40×40だったし」
「妄想小説!? 笑えるー!」
「だから不自然じゃないように字数設定変えておいたわよ。だけどホント笑っちゃうよね。私が水商売してる淫売で、アンタが花を愛でるだけのヒッキーだもん」
「あなたはまだいいわよ。化粧は派手だけど美人ってなってたし。私なんか化粧も出来ないのっぺり厚化粧だよ? ヒドイし。今時スマホも携帯電話も持ってないとか、何時代の人よ」
「まあ、アンタは一見清楚な美人で、あの人が理想としてたらしいし。自分と入れ換えてたんでしょ……もっとも、出会った頃のアンタはあんな感じだったよね」
「もう3年も前じゃない! ……あの後で、あの人引っ越してきたのよね? 偶然とはいえ、恐ろしいわね」
「ね、あのまま、あの人の妄想進んでいたら、あの事も書いたのかな?」
「まさか! せいぜい痴情の縺れで、あなたと私が刺し違えて、仲良くあの世に、って程度でしょ?」
「そんなもんよね。実際にはそんなもんじゃ済まないのにね」
「事実は小説よりも奇なり、ってことね」
「まあ、仮にあの人が何かを知っていたとしても、死人に口なし、ってこと」
「あは! 山梔子がきっかけなだけに、おあとがよろしいようで……」
事実は小説よりも奇なり。
確かに、きっかけは山梔子。
山梔子の匂いに頭がクラクラして。
前からこころよく思っていなかったあの二人がトラブって。
そのあげくに刺し違えるようなことにでもなったら、きっと胸がすくように、気分がいいに違いない。
そう思って、パソコンで文章を打ち始めて。
書いているうちに、どんどん筆が乗って、会社でも仕事の合間に入力して。
会社のパソコンに記録が残ると不味いので、わざわざメモリーに保存して持ち歩いた。
刺し違える寸前まで書いて、ちょっと筆が止まってしまい、しばらく筆を休めている間に、メモリーをなくしたことに気付かず。
そうしたら、まるで私の文章をなぞるかのように、二人に新しい恋人ができて、カフェで見せつけられ、アパートで自慢され。
メモリーをなくしたことに気付き、見られたのかもと思ってお隣の彼女に探りを入れると。
「ピンクの猫の付いたメモリー? 知らないなあ……あ、そういえばお隣がそんなの持ってたの、見たかも。夕方、帰ってきた時だったかなあ」
誰かに見られたら困るという思いの一心でいると、お隣の彼女がメールで帰宅時間を聞いてくれた。
深夜1時すぎくらいだというので、1時少し前からドアの外で、手すりにもたれて帰りを待っていた。
車の停まる音がして、階下を見下ろすと、夜目にも鮮やかな派手な服が目に入った。
思わず身を乗り出した、その時。
山梔子の、匂い……!?
「天涯孤独で、最近失恋したらしいって会社の同僚も言ってるし……こりゃ自殺に断定でよさそうだ。あわよくば妬んでいた同じアパートの住人を巻き添えにしようとしたんだろうな。階下の目撃者の二人も、たまたまデートと仕事帰りで一緒になっただけで。夜勤明けの看護師の方は、越してきたばかりでほとんど面識がないし」
「でも酷い話ですね。さも身勝手な隣人に迷惑をかけられている風を装うなんて」
「ブログに公開するとかじゃなくて、メモリーに書き込んでポケットに入れておく辺りは、どういう心理なのかな」
「個人を特定されたくなかった、とか? 遺書代わりだったんじゃないですか? あわよくば殺人を疑ってもらおうとか」
「そういう巧妙な所がありそうだな。粘着質な性格だったみたいだし。まあ、結局は穴だらけだった、ってとこだが」
「じゃ、自殺、ということで報告上げます」
「とりあえず乾杯!」
「声大きいってば」
「大丈夫よ。家の中だし」
「……でも、こんなに上手く行くとは思わなかった」
「ま、あの人のUSBメモリー拾ったのが幸いよね。名前も入っていたし」
「大体ああいうものに妄想書きこんで持ち歩くのが変なんだって!」
「あ、あれ多分小説にでもするつもりだったんじゃない? 字数が40×40だったし」
「妄想小説!? 笑えるー!」
「だから不自然じゃないように字数設定変えておいたわよ。だけどホント笑っちゃうよね。私が水商売してる淫売で、アンタが花を愛でるだけのヒッキーだもん」
「あなたはまだいいわよ。化粧は派手だけど美人ってなってたし。私なんか化粧も出来ないのっぺり厚化粧だよ? ヒドイし。今時スマホも携帯電話も持ってないとか、何時代の人よ」
「まあ、アンタは一見清楚な美人で、あの人が理想としてたらしいし。自分と入れ換えてたんでしょ……もっとも、出会った頃のアンタはあんな感じだったよね」
「もう3年も前じゃない! ……あの後で、あの人引っ越してきたのよね? 偶然とはいえ、恐ろしいわね」
「ね、あのまま、あの人の妄想進んでいたら、あの事も書いたのかな?」
「まさか! せいぜい痴情の縺れで、あなたと私が刺し違えて、仲良くあの世に、って程度でしょ?」
「そんなもんよね。実際にはそんなもんじゃ済まないのにね」
「事実は小説よりも奇なり、ってことね」
「まあ、仮にあの人が何かを知っていたとしても、死人に口なし、ってこと」
「あは! 山梔子がきっかけなだけに、おあとがよろしいようで……」
事実は小説よりも奇なり。
確かに、きっかけは山梔子。
山梔子の匂いに頭がクラクラして。
前からこころよく思っていなかったあの二人がトラブって。
そのあげくに刺し違えるようなことにでもなったら、きっと胸がすくように、気分がいいに違いない。
そう思って、パソコンで文章を打ち始めて。
書いているうちに、どんどん筆が乗って、会社でも仕事の合間に入力して。
会社のパソコンに記録が残ると不味いので、わざわざメモリーに保存して持ち歩いた。
刺し違える寸前まで書いて、ちょっと筆が止まってしまい、しばらく筆を休めている間に、メモリーをなくしたことに気付かず。
そうしたら、まるで私の文章をなぞるかのように、二人に新しい恋人ができて、カフェで見せつけられ、アパートで自慢され。
メモリーをなくしたことに気付き、見られたのかもと思ってお隣の彼女に探りを入れると。
「ピンクの猫の付いたメモリー? 知らないなあ……あ、そういえばお隣がそんなの持ってたの、見たかも。夕方、帰ってきた時だったかなあ」
誰かに見られたら困るという思いの一心でいると、お隣の彼女がメールで帰宅時間を聞いてくれた。
深夜1時すぎくらいだというので、1時少し前からドアの外で、手すりにもたれて帰りを待っていた。
車の停まる音がして、階下を見下ろすと、夜目にも鮮やかな派手な服が目に入った。
思わず身を乗り出した、その時。
山梔子の、匂い……!?
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