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2章
2
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件の宅飲みから数日、祥吉はぼんやりすることが多くなっていた。仕事場と家を往復するだけの日常が、祥吉の意識から薄皮一枚隔てた霞みがかった世界の出来事のような気がしている。
「くらーげクン。ここ左右で角度違うのこれデザイン?」
「……」
お茶目な調子で尋ねられて祥吉の手が止まる。全く周囲が見えてなかった祥吉は、だからといって集中できていたわけでもない図面をようやく目が覚めた心地でじっと見つめた。
「うっわ あぶね……! ありがとございます」
「まだ製図でよかったなー。ミス多いて祥吉」
「……ですよね。すみません」
言われてホッとする反面 不甲斐なさにしょんぼりしていると、花園社長が明るく笑いながら背中をバシバシ叩いた。
「まあそんなに気負わないで、祥吉くんは復帰したばっかりだし。とは言っても……ぼけーっとしてると危ないぞ」
「はい……」
社長にまで気を遣わせて いたたまれなくなった祥吉は作業台に広げた設計図にちらりと目をやった。台にマスキングした設計図に身を乗り出して眺め、にっこり笑って尋ねたのは大先輩の八家 俊だ。
「これは塩ビとアクリルで作るのかな?」
祥吉をくらげクンと呼ぶこの大先輩は 笑うと目元に良い感じの優しそうなしわが出来る。ふさふさのグレーヘアが柔和な雰囲気に似合っていて、祥吉は常々、夢世界で家令になって「お嬢様……」とか言っていても違和感ないなと思っている。
「はい、何回か作って素材を色々試したいです」
「そのうち刀身は合金になるだろうけど、それでも結構あぶないからねえ。持ち運び時はケースに入れてとか、お客さんには重ねて説明しなくちゃ」
最終的には芯材に金属を使って刀身は主にアルミ合金、装飾パーツに鉄やステンレスなどを使う予定だ。今後使う素材について話しているとワクワクした様子で社長が割って入った。
「実はさ、私の知り合いが模造刀の工房やってるから皆で見に行こうと画策しているんだけど……もちろん行きたいよな?」
「行きたい!」
祥吉が食い気味に賛同すると花園社長が満足げに頷く。
「だよねだよね!祥吉くんは行きたいよな!輝星くんなんか酷いんだよ私が真剣に武器作ってたらさ、遊ばないでくれんですかね、とか冷たい目でね……あれはホントしゅんとしちゃうぞ」
「納期を忘れとるからですねー。それより祥吉、お前にこれ渡しとけて誰だっけあの弁護士先生。お前の、昔から世話んなっとるとかの」
「乙里さん?」
狛路から受け取ったA4の茶封筒には不動産の書類が入っていた。ピックアップされた物件は一人暮らしに丁度よく、キッチンも広めで魅力的だ。
(でも引っ越しは考えてないんだよな)
―― 俺の家とか。
「……」
―― 俺のそばにいてください。
特に意味もなく物件を眺めたはずが そのせいで先日の出来事を鮮明に思い出してしまった。 緊張で固くなった波留音の声が、まるで今まさにそう言われていると錯覚するほど祥吉の脳内に沁み込んでいく。
―― 好
「そうだ祥吉くん。波留音くんと」
「はっ、波留音!?」
唐突に出てきた名前に祥吉の肩が跳ね上がって声が上ずる。
「……土曜日に二人で工場行くの知ってる? 製菓部門の生産技術部と花園製作所の技術提携のためって名目で、一般公開しない工程も含めた全製造機械を見学できるらしいぞ」
「あっ、そ……そう、なんです。そういう名目で根回ししてくれたみたいっすね、俺がチョコレート工場見たいとか言ったせいでなんかそんな手間かけてくれたぽくて」
心臓がバクバクするのを落ち着けながらなんとか返事をした。祥吉と波留音の間に何があったかなんて誰も知るわけがないのだから焦る必要はない。
「知ってるならいいんだ。いちおう仕事らしい格好で行くように。チャラチャラした格好はダメだぞ」
「アッハイ、ふつーにチャラチャラするとこでした。スーツがいいですかね?」
「それが無難だな」
その連絡が主な目的だったのか、よろしくと言って社長は奥の方へと仕事に戻った。
「しょーきち工場見るの好きだなぁ」
「同級生だっけ? あのイケメン君よしよしに激甘よな」
「……ま、お仕事持ってきてくれるいいおトモダチよ。な、祥吉」
「う、ん……はい」
花園製作所に度々仕事を持ってきてくれる波留音は職場のみんなと顔なじみだ。曖昧に相槌を打って作業に戻ったけれど集中しきれず惰性でこなした感が否めなかった。
その後 ぼんやりと終業の挨拶をしてふらふらと帰宅し、ぼけっとしながら料理して無心に食べ終え風呂に入って寝ころんだ今はもはや虚無だ。
「……」
この数日、虚無的日常の消化試合をこなすだけになっている。
(いやだめだろこんなんじゃ)
ふと窓の外を見ると、干したままになっている洗濯物がほとんど落ちていた。
「あー……」
2階のベランダでも夜はそれなりに風が強い。祥吉は忘れがちな脳内買うものリストに洗濯バサミ、と再度記憶し、のろのろと起き上がって洗濯物を拾い集めて部屋に投げ込んだ。長いこと野ざらしになっていた洗濯バサミは摘まむと同時に壊れてしまったのだ。
「余所んとこに飛んでないといいけど」
タオルを畳むのも億劫で ラグの上に散らばった洗濯物はそのままに、明日の朝出す予定のゴミをまとめる作業に取り掛かる。正直これも今はやりたくないけど台所にゴミが溜まるのはストレスの元だ。退院後に片付けてまとめた燃えるゴミに加えて、部屋のゴミ箱を回収しようと見回したときに気付いた。
「……?」
今朝出したはずのプラゴミが何故か残っている。
「やっべ間違えた。てことは今日出したのが燃えるゴミ」
帰宅時にちらりと見た集積所には何も置いてなかったので、おそらく管理人さんが始末したのだ。
「申し訳ない……」
重さで気付けよと呆れながら祥吉はがっくりと蹲った。
「だめだなんも手に付かねぇ――」
膝を付いたままラグに頭を突っ込んで変な体勢をとってみても気が紛れる気配がしない。
(波留音、はるね……くっそーイケメンの顔しか浮かばん)
どうしてくれんだこれ。
思い切り息を吸い込んでゆっくりと吐き出しながら仰向けになる。手足を大の字に投げ出して ふと、数冊の本が目に留まった。一冊を手に取ってパラパラと捲れば、そういえば昔この辺りまで読んだことあるな、とぼんやり記憶が戻ってくる。最初からざっと目を通すと記憶が一段と明確になり、なんとなくそのまま続きを読んで、そこからは時間を忘れて読み込んでいた。
気付けば一冊読み切ってあとがきなんか眺めている。
(なんだ俺、意外と読める?)
以前読んだ時には文字は読めるのに何言ってるのかさっぱりわからず眠くなって途中放棄したものが不思議とするする入ってきたのだ。
「寝よ」
ぐっと伸びをして軽く肩をほぐすと、祥吉は気分が少し上向いたのを感じた。何も解決してないが 読書はいい気分転換になったようだ。
*******
翌日、心なしかすっきりした気持ちで仕事に取り組んだ祥吉はとてもご機嫌だった。調子に乗って自主的に居残り、古文書を恐る恐る紐解きながら武器製作の構想を練る予定で、花園社長に許可を貰って作業場の鍵を預かっている。
「よしよしお疲れ~」
「ほどほどで帰れよなぁ」
「お疲れさまでしたー!」
次々に帰る先輩たちを見送って不要な照明を落とし、シャッターを半分閉めようと外に出た祥吉は、見知った人物を見つけて手を振った。
「乙里さん!こんばんは、仕事今帰りっすか?」
「やあ海月君、元気そうだね。こっちに用があったからついでに寄ってみたよ。書類は見てくれた?」
祥吉とは長い付き合いになる乙里 万葉は昔から柔らかい物腰で、祥吉は近所のお兄さん的な彼の穏やかな微笑みが好きだった。弁護士の職業柄か きっちりと着こなしたスーツが様になっている。
「気に入った物件はあったかな」
「あー……あれは、どれも良い物件で迷いますね。引っ越しはまぁ、考え中です」
立ち話もなんなので作業場に招き入れ椅子を勧めてお茶を出す。自然にそうする程に乙里は花園製作所の馴染みの人物だ。
しんと静まった作業場で祥吉はそわそわと乙里の様子を見ながら、ずっと気になっていたことを聞くべきか考えていた。
「あの」
「何だい?」
考えがまとまらないまま勢い余って出た言葉の続きを、乙里は急かすでもなく静かに待っていた。
「えと、そっ……」
―― 俺のストーカーってどんなやつだったんですか?
祥吉は漠然と 乙里はストーカーの詳細を知っている気がした。乙里だけでなく、ほとんど保護者的な立ち位置の花園社長も、ひょっとしたら波留音だって少しなら知っているのかもしれない。だけど誰も、祥吉の空白の記憶に関わることには何も触れようとしない。波留音のことで吹き飛んでいたが、この数か月ずっとそれが胸の中で靄を作っていた。
聞きたいことが頭ではわかっているのに声になって出てこなかった。口を開けたまま黙り込んだ祥吉を見て、乙里の慈しむような目が困ったように微笑んだ。
「海月君、まだ無理しない方が良い」
「……」
無理をしている、のだろうか。
記憶が消し飛ぶほどのしんどいことだろうと思ってはいる。それを思い出そうとすると言いようのない嫌悪感に襲われるのに、思い出さないまま過ごすことが じりじりと心を焦がしていく。何か、忘れてはいけない大切な、重要なことではないのか――……
「匿名の通報があったらしいよ」
「え?」
「海月君が出社しないって心配した花園さんが君の部屋に行ったあと、一日置いて捜索願を出したんだ。その数日後に公衆電話から」
「どっ、どんな通報ですか?」
「アパートの……様子がおかしい部屋があるって」
「誰が……」
「そこまではわからない。けど、作業場に海月君がいて安心したよ」
乙里はそう言うと茶封筒を祥吉に渡した。
「気を付けて帰るんだよ。街灯の多い道を選んでね」
「うっ、はい。だいじょうぶです……」
帰り際まで祥吉の心配をする乙里のせいで、どこかの娘さんにでもなったような気分で少し気恥しい。茶封筒の中はやはりというか、独り暮らしにぴったりの物件紹介がいくつか入っている。職場から程よい距離で周辺施設に恵まれたキッチンの広い1LDK、こんな良物件を仕事の合間にいくつも探し出すなんて大変な作業だ。
「引っ越しか」
―― 俺の家とか。
もれなくついて来る波留音を振り払い 祥吉は書類を鞄に仕舞った。引っ越しは乗り気ではなかったが、お世話になっている乙里にこれだけ勧められれば前向きに考えてもいい気がしてくる。入院中からずっと気になっていた事件のことを知れて また少し祥吉の気分が上がった。
「さて」
武器屋になった作業場の一角にある本棚を眺め、いちばん古そうなノートをそっと引き抜く。開いてみると拙い字の練習の合間に拙い線で魔術式が描かれている。
(あの夢ってこの頃から見てたのか)
―― 1ねん4くみ かいづき よし
(たぶんこのノートの魔術式がいちばん古いやつだ。野良の魔術式が多いんだよな)
あの鬼厳しい師匠に矯正される前に使っていたテキトー魔術式と、矯正後の魔術式が入り乱れている混沌ノートがこの一冊だ。
―― 懐かしいな
ノートの終盤まで描かれていた、規則もなく論理的でもないふわっとした図形の集合体の魔術式が、突然きちっとした基礎を元に組み立てられた力強い魔術式へ変わった。
「あ、これ」
無意識に祥吉の指が魔術式をなぞる。
あの人に手を引かれてあの家の門をくぐった。ここが俺の帰る家になるのだという予感が 未来への期待を膨らませてドキドキと胸が高鳴った。俺に触れる人はいなかったから 何の躊躇も遠慮もなく俺の手を掴んだ大きな手にびっくりして、引かれるままほとんど走るようにして付いて行ったんだ。その掌の温かさに気を取られ、問答無用の強引さや配慮のなさに全く気付かず、きっと優しいひとに違いないってそんなことを思っていた。
「一層平面構造の防御障壁だと思ってたけど違ったのか。魔力遮断、物理ダメージ軽減……と、幻視……の三層立体構造だな。構築式をかなり削り落として簡単に描けるようにしてある」
家に着いて早々、あの人は俺を放置して部屋に閉じこもってしまった。次の日突然これを渡して、魔力制御でどうにかするまで使い物にならんから一日でどうにもならんなら叩き出すとか言っていた。
「こんな難解なもの1年生の俺にやれとか無茶苦茶だなあのおっさん」
ノートの片面1ページを丸々使って描かれた魔術式をじっと見つめる。
「……だけど」
小さな子供が描いたとわかる拙い線をゆっくりと、今度は意識して丁寧に辿った。
「魔法の威力はそのままに一分の隙なく無駄を省いて魔力効率を最大まで高めた……美しい魔術式だ」
―― あの人が俺にくれたいちばん最初の魔術式
忘れていたわけじゃない。思い出す必要がないから思い出さなかっただけで、振り返って見なかっただけで。
古びたノートをそっと棚に戻してまた一冊を引き抜き開く。ひとつ、また一つと懐かしい魔術式が蘇ってくる。術式は複雑難解になっていくが、その時の能力に合わせて段階的に難易度を上げている。当時は必死にこなすだけで何も気付かなかった。
知らず魔術式を指で辿ってしまう。
「何で今になって……」
今になったからこそ判ることなのかもしれない。
「くっそ」
すべて燃やせと、狂気を孕んだ形相で言い放ったあの人。灰すら残してはならぬという言葉に従って一切を燃やし尽くしてエルドランを離れた。貴重な本も、あの人の研究レポートも、試行錯誤最中にあった魔術式も、何も残っていない。
炎があの家を飲み込んで赤々と燃える様はとても悲しかった。あの人と過ごしたあの家は俺の帰る家にはならなかったし、あの家にあった俺のものは俺のものなんかではなくて、大切だと思っていたものは何ひとつ残らなかった。そう思っていたのに。
「こんなところに残ってるなんて変な話だ」
古びたノートを次々に開けば幼いころに必死で覚えた魔術式がそこにあった。まるで旧友に会ったような、失った自分の一部が戻ってきたような感動を覚える。と同時に、あの頃は知らなかったものが――……恐れて知ろうとしなかったものが見えたような気がした。
「……この文字」
しばらく夢中でノートを見ていたが、あるものに目を引かれた。
―― 2ー3 海月 祥吉 英語
ノートの中身はレシピが4割を占めている。そして魔術式と武器デザインと、何か暗号のような文字の羅列が4割を占め、残り2割が英語だ。
(2割で大丈夫なのか?)
祥吉の英語の成績は全然大丈夫じゃなかったが、それはそうと何が目を引いたかというと暗号のような文字の羅列だ。絵のようにも見える文字は適当な羅列ではなく 規則に沿って書かれているように見える。この文字に見覚えがあるのだ。
―― いったいどこで
確かに見たことのある文字なのに どこで見たのかわからない。
「復讐の炎が燃え」
がらんとした作業場に知らない男の声が響いた。
「まるで魂を取り戻したかのようだ」
いつの間にか作業場に入って来ていた男は気配もなく祥吉の後ろに立ち、祥吉が開いたノートの謎の文字を読んでいる風だ。
「亡霊よ、おまえの魂の形代を抱け」
なんだか口を挟める雰囲気ではないので祥吉は黙ってじっとしていた。
「終わりなき苦しみの沼、決して形を持たぬ泥よ」
ちらと横目で伺い見るとなにやら眉間にしわを寄せて考えているらしく、まだ終わりそうにない。まだその時ではないようだ。祥吉はそっと目を閉じて出来る限り気配を薄くするよう努めていた。
「――我が銀の…… ……って書いてますよね」
「え!?はい!そうです!」
突然同意を求められた祥吉は反射的に頷いた。
ノートを棚に戻してさっと距離を取って改めて見ると、その男は会社帰りの普通の人だ。ただちょっと、目の下の隈が酷くてスーツが若干くたびれていて、若いんだか若くないんだか微妙に判断し辛い白髪交じりの黒髪は日々の苦労を思わせる。
「自分ホームページ見て来たんです。武器売ってるのここで合ってます?」
「アッハイ。合ってます」
「よかった。実は俺……」
男は心底ホッとした表情で微笑んだあと、ゆるい雰囲気が削げ落ちて不穏な空気を纏った。焦点が合ってるのか怪しい血走り気味のふたつの眼が祥吉を捕らえた。
「最強の武器が必要なんだ」
なんか気合の入った厨二のひと来た……
なんて言えるはずもなく、考えるより先に祥吉は気合を入れて武器屋になっていた。
「いい武器揃ってますぜ、旦那!」
「くらーげクン。ここ左右で角度違うのこれデザイン?」
「……」
お茶目な調子で尋ねられて祥吉の手が止まる。全く周囲が見えてなかった祥吉は、だからといって集中できていたわけでもない図面をようやく目が覚めた心地でじっと見つめた。
「うっわ あぶね……! ありがとございます」
「まだ製図でよかったなー。ミス多いて祥吉」
「……ですよね。すみません」
言われてホッとする反面 不甲斐なさにしょんぼりしていると、花園社長が明るく笑いながら背中をバシバシ叩いた。
「まあそんなに気負わないで、祥吉くんは復帰したばっかりだし。とは言っても……ぼけーっとしてると危ないぞ」
「はい……」
社長にまで気を遣わせて いたたまれなくなった祥吉は作業台に広げた設計図にちらりと目をやった。台にマスキングした設計図に身を乗り出して眺め、にっこり笑って尋ねたのは大先輩の八家 俊だ。
「これは塩ビとアクリルで作るのかな?」
祥吉をくらげクンと呼ぶこの大先輩は 笑うと目元に良い感じの優しそうなしわが出来る。ふさふさのグレーヘアが柔和な雰囲気に似合っていて、祥吉は常々、夢世界で家令になって「お嬢様……」とか言っていても違和感ないなと思っている。
「はい、何回か作って素材を色々試したいです」
「そのうち刀身は合金になるだろうけど、それでも結構あぶないからねえ。持ち運び時はケースに入れてとか、お客さんには重ねて説明しなくちゃ」
最終的には芯材に金属を使って刀身は主にアルミ合金、装飾パーツに鉄やステンレスなどを使う予定だ。今後使う素材について話しているとワクワクした様子で社長が割って入った。
「実はさ、私の知り合いが模造刀の工房やってるから皆で見に行こうと画策しているんだけど……もちろん行きたいよな?」
「行きたい!」
祥吉が食い気味に賛同すると花園社長が満足げに頷く。
「だよねだよね!祥吉くんは行きたいよな!輝星くんなんか酷いんだよ私が真剣に武器作ってたらさ、遊ばないでくれんですかね、とか冷たい目でね……あれはホントしゅんとしちゃうぞ」
「納期を忘れとるからですねー。それより祥吉、お前にこれ渡しとけて誰だっけあの弁護士先生。お前の、昔から世話んなっとるとかの」
「乙里さん?」
狛路から受け取ったA4の茶封筒には不動産の書類が入っていた。ピックアップされた物件は一人暮らしに丁度よく、キッチンも広めで魅力的だ。
(でも引っ越しは考えてないんだよな)
―― 俺の家とか。
「……」
―― 俺のそばにいてください。
特に意味もなく物件を眺めたはずが そのせいで先日の出来事を鮮明に思い出してしまった。 緊張で固くなった波留音の声が、まるで今まさにそう言われていると錯覚するほど祥吉の脳内に沁み込んでいく。
―― 好
「そうだ祥吉くん。波留音くんと」
「はっ、波留音!?」
唐突に出てきた名前に祥吉の肩が跳ね上がって声が上ずる。
「……土曜日に二人で工場行くの知ってる? 製菓部門の生産技術部と花園製作所の技術提携のためって名目で、一般公開しない工程も含めた全製造機械を見学できるらしいぞ」
「あっ、そ……そう、なんです。そういう名目で根回ししてくれたみたいっすね、俺がチョコレート工場見たいとか言ったせいでなんかそんな手間かけてくれたぽくて」
心臓がバクバクするのを落ち着けながらなんとか返事をした。祥吉と波留音の間に何があったかなんて誰も知るわけがないのだから焦る必要はない。
「知ってるならいいんだ。いちおう仕事らしい格好で行くように。チャラチャラした格好はダメだぞ」
「アッハイ、ふつーにチャラチャラするとこでした。スーツがいいですかね?」
「それが無難だな」
その連絡が主な目的だったのか、よろしくと言って社長は奥の方へと仕事に戻った。
「しょーきち工場見るの好きだなぁ」
「同級生だっけ? あのイケメン君よしよしに激甘よな」
「……ま、お仕事持ってきてくれるいいおトモダチよ。な、祥吉」
「う、ん……はい」
花園製作所に度々仕事を持ってきてくれる波留音は職場のみんなと顔なじみだ。曖昧に相槌を打って作業に戻ったけれど集中しきれず惰性でこなした感が否めなかった。
その後 ぼんやりと終業の挨拶をしてふらふらと帰宅し、ぼけっとしながら料理して無心に食べ終え風呂に入って寝ころんだ今はもはや虚無だ。
「……」
この数日、虚無的日常の消化試合をこなすだけになっている。
(いやだめだろこんなんじゃ)
ふと窓の外を見ると、干したままになっている洗濯物がほとんど落ちていた。
「あー……」
2階のベランダでも夜はそれなりに風が強い。祥吉は忘れがちな脳内買うものリストに洗濯バサミ、と再度記憶し、のろのろと起き上がって洗濯物を拾い集めて部屋に投げ込んだ。長いこと野ざらしになっていた洗濯バサミは摘まむと同時に壊れてしまったのだ。
「余所んとこに飛んでないといいけど」
タオルを畳むのも億劫で ラグの上に散らばった洗濯物はそのままに、明日の朝出す予定のゴミをまとめる作業に取り掛かる。正直これも今はやりたくないけど台所にゴミが溜まるのはストレスの元だ。退院後に片付けてまとめた燃えるゴミに加えて、部屋のゴミ箱を回収しようと見回したときに気付いた。
「……?」
今朝出したはずのプラゴミが何故か残っている。
「やっべ間違えた。てことは今日出したのが燃えるゴミ」
帰宅時にちらりと見た集積所には何も置いてなかったので、おそらく管理人さんが始末したのだ。
「申し訳ない……」
重さで気付けよと呆れながら祥吉はがっくりと蹲った。
「だめだなんも手に付かねぇ――」
膝を付いたままラグに頭を突っ込んで変な体勢をとってみても気が紛れる気配がしない。
(波留音、はるね……くっそーイケメンの顔しか浮かばん)
どうしてくれんだこれ。
思い切り息を吸い込んでゆっくりと吐き出しながら仰向けになる。手足を大の字に投げ出して ふと、数冊の本が目に留まった。一冊を手に取ってパラパラと捲れば、そういえば昔この辺りまで読んだことあるな、とぼんやり記憶が戻ってくる。最初からざっと目を通すと記憶が一段と明確になり、なんとなくそのまま続きを読んで、そこからは時間を忘れて読み込んでいた。
気付けば一冊読み切ってあとがきなんか眺めている。
(なんだ俺、意外と読める?)
以前読んだ時には文字は読めるのに何言ってるのかさっぱりわからず眠くなって途中放棄したものが不思議とするする入ってきたのだ。
「寝よ」
ぐっと伸びをして軽く肩をほぐすと、祥吉は気分が少し上向いたのを感じた。何も解決してないが 読書はいい気分転換になったようだ。
*******
翌日、心なしかすっきりした気持ちで仕事に取り組んだ祥吉はとてもご機嫌だった。調子に乗って自主的に居残り、古文書を恐る恐る紐解きながら武器製作の構想を練る予定で、花園社長に許可を貰って作業場の鍵を預かっている。
「よしよしお疲れ~」
「ほどほどで帰れよなぁ」
「お疲れさまでしたー!」
次々に帰る先輩たちを見送って不要な照明を落とし、シャッターを半分閉めようと外に出た祥吉は、見知った人物を見つけて手を振った。
「乙里さん!こんばんは、仕事今帰りっすか?」
「やあ海月君、元気そうだね。こっちに用があったからついでに寄ってみたよ。書類は見てくれた?」
祥吉とは長い付き合いになる乙里 万葉は昔から柔らかい物腰で、祥吉は近所のお兄さん的な彼の穏やかな微笑みが好きだった。弁護士の職業柄か きっちりと着こなしたスーツが様になっている。
「気に入った物件はあったかな」
「あー……あれは、どれも良い物件で迷いますね。引っ越しはまぁ、考え中です」
立ち話もなんなので作業場に招き入れ椅子を勧めてお茶を出す。自然にそうする程に乙里は花園製作所の馴染みの人物だ。
しんと静まった作業場で祥吉はそわそわと乙里の様子を見ながら、ずっと気になっていたことを聞くべきか考えていた。
「あの」
「何だい?」
考えがまとまらないまま勢い余って出た言葉の続きを、乙里は急かすでもなく静かに待っていた。
「えと、そっ……」
―― 俺のストーカーってどんなやつだったんですか?
祥吉は漠然と 乙里はストーカーの詳細を知っている気がした。乙里だけでなく、ほとんど保護者的な立ち位置の花園社長も、ひょっとしたら波留音だって少しなら知っているのかもしれない。だけど誰も、祥吉の空白の記憶に関わることには何も触れようとしない。波留音のことで吹き飛んでいたが、この数か月ずっとそれが胸の中で靄を作っていた。
聞きたいことが頭ではわかっているのに声になって出てこなかった。口を開けたまま黙り込んだ祥吉を見て、乙里の慈しむような目が困ったように微笑んだ。
「海月君、まだ無理しない方が良い」
「……」
無理をしている、のだろうか。
記憶が消し飛ぶほどのしんどいことだろうと思ってはいる。それを思い出そうとすると言いようのない嫌悪感に襲われるのに、思い出さないまま過ごすことが じりじりと心を焦がしていく。何か、忘れてはいけない大切な、重要なことではないのか――……
「匿名の通報があったらしいよ」
「え?」
「海月君が出社しないって心配した花園さんが君の部屋に行ったあと、一日置いて捜索願を出したんだ。その数日後に公衆電話から」
「どっ、どんな通報ですか?」
「アパートの……様子がおかしい部屋があるって」
「誰が……」
「そこまではわからない。けど、作業場に海月君がいて安心したよ」
乙里はそう言うと茶封筒を祥吉に渡した。
「気を付けて帰るんだよ。街灯の多い道を選んでね」
「うっ、はい。だいじょうぶです……」
帰り際まで祥吉の心配をする乙里のせいで、どこかの娘さんにでもなったような気分で少し気恥しい。茶封筒の中はやはりというか、独り暮らしにぴったりの物件紹介がいくつか入っている。職場から程よい距離で周辺施設に恵まれたキッチンの広い1LDK、こんな良物件を仕事の合間にいくつも探し出すなんて大変な作業だ。
「引っ越しか」
―― 俺の家とか。
もれなくついて来る波留音を振り払い 祥吉は書類を鞄に仕舞った。引っ越しは乗り気ではなかったが、お世話になっている乙里にこれだけ勧められれば前向きに考えてもいい気がしてくる。入院中からずっと気になっていた事件のことを知れて また少し祥吉の気分が上がった。
「さて」
武器屋になった作業場の一角にある本棚を眺め、いちばん古そうなノートをそっと引き抜く。開いてみると拙い字の練習の合間に拙い線で魔術式が描かれている。
(あの夢ってこの頃から見てたのか)
―― 1ねん4くみ かいづき よし
(たぶんこのノートの魔術式がいちばん古いやつだ。野良の魔術式が多いんだよな)
あの鬼厳しい師匠に矯正される前に使っていたテキトー魔術式と、矯正後の魔術式が入り乱れている混沌ノートがこの一冊だ。
―― 懐かしいな
ノートの終盤まで描かれていた、規則もなく論理的でもないふわっとした図形の集合体の魔術式が、突然きちっとした基礎を元に組み立てられた力強い魔術式へ変わった。
「あ、これ」
無意識に祥吉の指が魔術式をなぞる。
あの人に手を引かれてあの家の門をくぐった。ここが俺の帰る家になるのだという予感が 未来への期待を膨らませてドキドキと胸が高鳴った。俺に触れる人はいなかったから 何の躊躇も遠慮もなく俺の手を掴んだ大きな手にびっくりして、引かれるままほとんど走るようにして付いて行ったんだ。その掌の温かさに気を取られ、問答無用の強引さや配慮のなさに全く気付かず、きっと優しいひとに違いないってそんなことを思っていた。
「一層平面構造の防御障壁だと思ってたけど違ったのか。魔力遮断、物理ダメージ軽減……と、幻視……の三層立体構造だな。構築式をかなり削り落として簡単に描けるようにしてある」
家に着いて早々、あの人は俺を放置して部屋に閉じこもってしまった。次の日突然これを渡して、魔力制御でどうにかするまで使い物にならんから一日でどうにもならんなら叩き出すとか言っていた。
「こんな難解なもの1年生の俺にやれとか無茶苦茶だなあのおっさん」
ノートの片面1ページを丸々使って描かれた魔術式をじっと見つめる。
「……だけど」
小さな子供が描いたとわかる拙い線をゆっくりと、今度は意識して丁寧に辿った。
「魔法の威力はそのままに一分の隙なく無駄を省いて魔力効率を最大まで高めた……美しい魔術式だ」
―― あの人が俺にくれたいちばん最初の魔術式
忘れていたわけじゃない。思い出す必要がないから思い出さなかっただけで、振り返って見なかっただけで。
古びたノートをそっと棚に戻してまた一冊を引き抜き開く。ひとつ、また一つと懐かしい魔術式が蘇ってくる。術式は複雑難解になっていくが、その時の能力に合わせて段階的に難易度を上げている。当時は必死にこなすだけで何も気付かなかった。
知らず魔術式を指で辿ってしまう。
「何で今になって……」
今になったからこそ判ることなのかもしれない。
「くっそ」
すべて燃やせと、狂気を孕んだ形相で言い放ったあの人。灰すら残してはならぬという言葉に従って一切を燃やし尽くしてエルドランを離れた。貴重な本も、あの人の研究レポートも、試行錯誤最中にあった魔術式も、何も残っていない。
炎があの家を飲み込んで赤々と燃える様はとても悲しかった。あの人と過ごしたあの家は俺の帰る家にはならなかったし、あの家にあった俺のものは俺のものなんかではなくて、大切だと思っていたものは何ひとつ残らなかった。そう思っていたのに。
「こんなところに残ってるなんて変な話だ」
古びたノートを次々に開けば幼いころに必死で覚えた魔術式がそこにあった。まるで旧友に会ったような、失った自分の一部が戻ってきたような感動を覚える。と同時に、あの頃は知らなかったものが――……恐れて知ろうとしなかったものが見えたような気がした。
「……この文字」
しばらく夢中でノートを見ていたが、あるものに目を引かれた。
―― 2ー3 海月 祥吉 英語
ノートの中身はレシピが4割を占めている。そして魔術式と武器デザインと、何か暗号のような文字の羅列が4割を占め、残り2割が英語だ。
(2割で大丈夫なのか?)
祥吉の英語の成績は全然大丈夫じゃなかったが、それはそうと何が目を引いたかというと暗号のような文字の羅列だ。絵のようにも見える文字は適当な羅列ではなく 規則に沿って書かれているように見える。この文字に見覚えがあるのだ。
―― いったいどこで
確かに見たことのある文字なのに どこで見たのかわからない。
「復讐の炎が燃え」
がらんとした作業場に知らない男の声が響いた。
「まるで魂を取り戻したかのようだ」
いつの間にか作業場に入って来ていた男は気配もなく祥吉の後ろに立ち、祥吉が開いたノートの謎の文字を読んでいる風だ。
「亡霊よ、おまえの魂の形代を抱け」
なんだか口を挟める雰囲気ではないので祥吉は黙ってじっとしていた。
「終わりなき苦しみの沼、決して形を持たぬ泥よ」
ちらと横目で伺い見るとなにやら眉間にしわを寄せて考えているらしく、まだ終わりそうにない。まだその時ではないようだ。祥吉はそっと目を閉じて出来る限り気配を薄くするよう努めていた。
「――我が銀の…… ……って書いてますよね」
「え!?はい!そうです!」
突然同意を求められた祥吉は反射的に頷いた。
ノートを棚に戻してさっと距離を取って改めて見ると、その男は会社帰りの普通の人だ。ただちょっと、目の下の隈が酷くてスーツが若干くたびれていて、若いんだか若くないんだか微妙に判断し辛い白髪交じりの黒髪は日々の苦労を思わせる。
「自分ホームページ見て来たんです。武器売ってるのここで合ってます?」
「アッハイ。合ってます」
「よかった。実は俺……」
男は心底ホッとした表情で微笑んだあと、ゆるい雰囲気が削げ落ちて不穏な空気を纏った。焦点が合ってるのか怪しい血走り気味のふたつの眼が祥吉を捕らえた。
「最強の武器が必要なんだ」
なんか気合の入った厨二のひと来た……
なんて言えるはずもなく、考えるより先に祥吉は気合を入れて武器屋になっていた。
「いい武器揃ってますぜ、旦那!」
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