上 下
72 / 114
獲物は反撃を開始する

72

しおりを挟む
 アルに言われてハッとする。そうだ、早く洗ってあげないと彼の身体に負担がかかるではないか。

「ご、ごめんっ」

 慌てて石鹸をシャカシャカ泡立て、海綿で背中を擦る。彼の背中には左の肩甲骨辺りから斜めに走る大きな傷跡があった。過去に父王に切られたと言う傷だろう。
 前にも今回負った傷があるし、良く見ると他にも細かな傷がたくさんある。

「……痛くない?」
「平気、もう少し強くても良いくらい」

 傷の事を聞かれたとは思わなかったようだ。早苗は言われた通り少し力を強め、念入りに洗って行く。後ろ側を洗い終え前に回った。

「前は良いよ、別に手が動かない訳じゃないし」
「私は洗われたけど?」

 そう返すと、問答無用で洗い始める。泡だらけの海綿を肌の隅々まで滑らせていると、何故か背中を洗っていた時より胸の鼓動が激しくなって来た気がした。

「……大丈夫? 何か、真っ赤だけど……」

 指摘され、思いきり心臓が大きく跳ねる。

「へ?! だ、だだ大丈夫大丈夫!!」

 全然大丈夫では無い。どこを意識していたかなんて、気付かれてはいけない。早苗は額からだらだらと汗を流す。

「ふーん……?」

 そんな彼女を、アルはじーっと見詰めた。動揺と浴室内の熱気で汗ばむ肌に白いシャツがピタリと貼り付いている。
 彼はおもむろに手を伸ばすと、シャツのボタンをぷつぷつ外して行く。

「ん? えっ、何やってんの?!」
「ん~? いやあ、びしょびしょだし着てても脱いでも同じかな? と思って。君も汗流したら?」

 言いながら、あれよあれよと言う間にテキパキと脱がされる。下穿きと共にズボンも一気に下げられた。

「ひゃああっ!」

 何と言う手際の良さだろうか。抵抗する暇も無かった。

「あ」

 何かに気付いたらしいアルが一点に視線を向ける。

「真っ赤になってる理由、分かっちゃった」

 バッと下を見ると、彼が見詰める脚の間から粘度のある液体がとろりと糸を引き下に落ちる所だった。
 アルが自身の口の端をペロリと舐める。まるで獲物を前にした捕食者のようだ。

「……君って、分かりやすくて可愛い……」

 囁くと、目の前の濡れた下生えに口付けを落とす。

「や、ちょ!?」

 今日はまだ洗っていないのに!焦って腰を引こうとするが、掴まれて引き寄せられる。この人は本当に弱っているのだろうか?

「可愛い……好き……」
「……え?」
「君の、素直で可愛い」

 まさかの告白かと思ったのに、股間が好きだと宣ったのか。この男は。ときめきを返して欲しい。

「~もうっ!」
「はは、君も可愛いよ? 真っ直ぐでお人好しで強くて……」
「……そ、それは、どういう、ひゃっ!」

 聞こうとしたが、彼が脚の間に顔を埋めぺろぺろと舐め始めてしまう。そんな事をされながら話すのは至難の技だ。

「あ、あ……んっ……は……」

 優しく撫でるように舌が這う度、早苗の口から甘い吐息が漏れた。
 口淫が苦手と言う割りに、彼はこの所毎回執拗に舌で嬲なぶる。まるでそれを好んでしているかのようだ。

「ま、ますたぁ……あっ」
「……違うでしょ? 何て呼ぶんだっけ? 俺の事」

 濡れて開いた花弁を指でぬるぬる撫でられる。

「ちゃんと言えたらご褒美あげるよ……?」
「あ……あぅ……あ、ありゅ……あっ……」

 舌がもつれて上手く言葉を紡げない。アルは可笑しそうにクスクス笑う。
 早苗は優しくもどかしい刺激がこんなにも辛いのに。目に溜まった水滴が零れ、ぱたぱたと落ちた。

「……っ」

 降って来た雫に、アルはハッとする。見上げて見えた泣き顔に手を止めた。
 彼は戸惑うように瞳を揺らめかせ見入っている。暫し固まったかと思うと、焦燥した顔で衝動的に腕を伸ばした。
 勝手に動いた腕は、彼女の身体を掻き抱く。早苗はぎゅうぎゅう抱き締められる。

「………………」
「……あ、アル……?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

鬱金桜の君

遠野まさみ
恋愛
子爵家の娘だった八重は、幼い頃に訪れた家で、不思議な桜を見つける。その桜に見とれていると、桜の名を貰った、という少年が話し掛けてきた。 少年は記念だといって、その桜の花を一輪手折って八重にくれた。 八重はその桜を栞にして大事にすると、少年と約束する。 八重は少女時代、両親の愛情に包まれて過ごすが、両親が亡くなったあと、男爵である叔父の家に引き取られると、華族としての扱いは受けられず、下働きを命じられてしまう。 ある日言いつけられたお遣いに出た帰りに、八重は軍服を着た青年と出会うがーーーー?

貴方様の後悔など知りません。探さないで下さいませ。

ましろ
恋愛
「致しかねます」 「な!?」 「何故強姦魔の被害者探しを?見つけて如何なさるのです」 「勿論謝罪を!」 「それは貴方様の自己満足に過ぎませんよ」 今まで順風満帆だった侯爵令息オーガストはある罪を犯した。 ある令嬢に恋をし、失恋した翌朝。目覚めるとあからさまな事後の後。あれは夢ではなかったのか? 白い体、胸元のホクロ。暗めな髪色。『違います、お許し下さい』涙ながらに抵抗する声。覚えているのはそれだけ。だが……血痕あり。 私は誰を抱いたのだ? 泥酔して罪を犯した男と、それに巻き込まれる人々と、その恋の行方。 ★以前、無理矢理ネタを考えた時の別案。 幸せな始まりでは無いので苦手な方はそっ閉じでお願いします。 いつでもご都合主義。ゆるふわ設定です。箸休め程度にお楽しみ頂けると幸いです。

【完結】偽聖女め!死刑だ!と言われたので逃亡したら、国が滅んだ

富士とまと
恋愛
小さな浄化魔法で、快適な生活が送れていたのに何もしていないと思われていた。 皇太子から婚約破棄どころか死刑にしてやると言われて、逃亡生活を始めることに。 少しずつ、聖女を追放したことで訪れる不具合。 ま、そんなこと知らないけど。 モブ顔聖女(前世持ち)とイケメン木こり(正体不明)との二人旅が始まる。

二人のエリーと遅れてあらわれるヒーローたち

ぺきぺき
恋愛
Side A:エリーは、代々海馬を使役しブルテン国が誇る海軍を率いるアーチボルト侯爵家の末娘だった。兄たちが続々と海馬を使役する中、エリーが相棒にしたのは白い毛のジャーマン・スピッツ…つまりは犬だった。 Side B:エリーは貧乏なロンズデール伯爵家の長女として、弟妹達のために学園には通わずに働いて家を守っていた。17歳になったある日、ブルテン国で最も権力を持つオルグレン公爵家の令息が「妻になってほしい」とエリーを訪ねてきた。 ーーーー 章ごとにエリーAとエリーBの話が進みます。 ヒーローとの恋愛展開は最後の最後まで見当たらないですが、ヒーロー候補たちは途中でじゃんじゃん出すので誰になるのか楽しみにしてください。 スピンオフ作品として『理想の女性を見つけた時には、運命の人を愛人にして白い結婚を宣言していました』があります。 全6章+エピローグ 完結まで執筆済み。 一日二話更新。第三章から一日四話更新。

荒ぶる獣たちは、荒野に愛を叫ぶ~捨てられたゴブリン少女は、獣人の王に溺愛されてます~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
伯爵家の長女ミリア・ウィリアムは、妹を公爵家の嫡子であるルシアン・エリゼルドの婚約者にしようと懸命になっている両親から軽んじられてきた。 そんなある日、百年に一度の邪神への生け贄に妹が選ばれてしまう。 ミリアは、妹の身代わりにされる。 生け贄に選ばれた少女は、ミリアの他に二人。 一人は、商人の娘ローラ。 もう一人は、男爵家の娘ルシィ。 三人は、邪神クーラントに捧げられるが、ミリアは、邪神クーラントを倒すために戦う。 エブリスタにも掲載しています。

グーダラ王子の勘違い救国記~好き勝手にやっていたら世界を救っていたそうです~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
ある日、ティルナグ王国の自堕落王子として有名なエルクは国王である父から辺境へ追放を言い渡される。 その後、準備もせずに木の上で昼寝をしていると、あやまって木から落ちてしまう。 そして目を覚ますと……前世の記憶を蘇らせていた。 これは自堕落に過ごしていた第二王子が、記憶を甦らせたことによって、様々な勘違いをされていく物語である。 その勘違いは種族間の蟠りを消していき、人々を幸せにしていくのだった。

【完結】私を虐げる姉が今の婚約者はいらないと押し付けてきましたが、とても優しい殿方で幸せです 〜それはそれとして、家族に復讐はします〜

ゆうき@初書籍化作品発売中
恋愛
侯爵家の令嬢であるシエルは、愛人との間に生まれたせいで、父や義母、異母姉妹から酷い仕打ちをされる生活を送っていた。 そんなシエルには婚約者がいた。まるで本物の兄のように仲良くしていたが、ある日突然彼は亡くなってしまった。 悲しみに暮れるシエル。そこに姉のアイシャがやってきて、とんでもない発言をした。 「ワタクシ、とある殿方と真実の愛に目覚めましたの。だから、今ワタクシが婚約している殿方との結婚を、あなたに代わりに受けさせてあげますわ」 こうしてシエルは、必死の抗議も虚しく、身勝手な理由で、新しい婚約者の元に向かうこととなった……横暴で散々虐げてきた家族に、復讐を誓いながら。 新しい婚約者は、社交界でとても恐れられている相手。うまくやっていけるのかと不安に思っていたが、なぜかとても溺愛されはじめて……!? ⭐︎全三十九話、すでに完結まで予約投稿済みです。11/12 HOTランキング一位ありがとうございます!⭐︎

カモフラ婚~CEOは溺愛したくてたまらない!~

伊吹美香
恋愛
ウエディングプランナーとして働く菱崎由華 結婚式当日に花嫁に逃げられた建築会社CEOの月城蒼空 幼馴染の二人が偶然再会し、花嫁に逃げられた蒼空のメンツのために、カモフラージュ婚をしてしまう二人。 割り切った結婚かと思いきや、小さいころからずっと由華のことを想っていた蒼空が、このチャンスを逃すはずがない。 思いっきり溺愛する蒼空に、由華は翻弄されまくりでパニック。 二人の結婚生活は一体どうなる?

処理中です...