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獲物にされた猟師ちゃん
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「それで、その岩熊は何処に? お前が居るって事は、運んで来たんでしょ?」
失礼な納得の仕方をしたアルは、彼女のツッコミを無視してアウインを見る。
「玄関に置いてある。早いとこどかさねぇと邪魔だろうな、ありゃ」
「分かった、移動しよう。黒いの、手伝え」
「はいはい」
アルはアウインに手伝わせ、岩熊を急遽宿の裏庭に運んだ。
中庭は客を楽しませる為に美しく整えてあるが、裏庭は客室の窓からも見えない場所な為、荒れ果ててはいないが使われてもいない。広大と言うほどでは無いものの、岩熊を解体するのには十分な広さだろう。
「……それにしても凄いな……」
「……ああ、背中のは虹星石だな、巨大な。巨万の富になりそうなのが一つ、二つ、三つ……」
「……チッ、黒いの、余計な事を言うな」
一方、アルと話すタイミングを逸した早苗は、目の前の岩熊にわくわくしていた。こんなに巨大な獲物を解体するのは初めてなのだ。元の世界でも熊の解体経験は無い。
先の事を忘れた訳では無いが、早苗の単純過ぎる脳味噌は二つの事を同時に考えられず、取り合えず目の前の好奇心の方を優先したのだった。
「これ、私が解体しても良いっ?」
「え? そりゃあもちろん、君の獲物なんだから。でも一人じゃ大変なんじゃない? この黒いのが手伝うよ」
「ぃやった! ありがとう! アウインさん!」
早苗は跳び跳ねた。アウインは露骨に嫌な顔をする。
「ぅえっ?! 何で俺が! 汚れんの嫌いなんだよっ」
「洗えば良いでしょ」
斯くして岩熊を解体する事になった早苗達だが、作業中大量の水が必要だと言う事で、何度も往復するのが大変なため急遽水の魔法を使える者を雇う事になった。
「わ~凄いですね! こんな大きな岩熊初めて見ました!」
何とか捕まった水魔法使いのヘイルズが人の良さそうな笑顔で言う。
「急ですみません、よろしくお願いしますね」
これまた穏やかで人の良さそうな笑みを浮かべて優しげな声を発するのは、アルだ。
このバージョンのアルを見るのは久し振りだな、と早苗は思う。この宿に泊まった最初の日以来である。最近はいつも意地悪だ。
「じゃあ、まずは背中の鉱石を何とかしなきゃですね…………どうしましょう」
「俺が切り取ってやるよ。ヘイルズとやら、水かけてくれ」
「はいっ、了解です!」
まずヘイルズが水をかけ、そこにアウインが細くした風で切り込みを入れて行く。風の魔法と言うのは切る事も出来るらしい。
「うわあ! 凄い凄い!」
大きな鉱石が道具を使わず魔法によって次々に切断される様に、早苗は大興奮だ。
切り取った大小様々な鉱石達は、一つ一つ丁寧に布に包んで行く。
「切れましたね! じゃあ血抜きしましょう。アウインさん、ひっくり返してもらえますか?」
「あいよっ」
アウインが岩熊を浮かせて裏返す。早苗は目を瞑り手を合わせた。そして仰向けになった岩熊の胸に乗り、骨格を確かめる。
「大きすぎてよく分かんないな……ここら辺かな?」
「ああ、その辺りで良いと思うぜ」
アウインが同意する。力がいるだろう、硬そうな筋肉だ。早苗は岩熊の胸に向かって大きなナイフを突き立てた。
失礼な納得の仕方をしたアルは、彼女のツッコミを無視してアウインを見る。
「玄関に置いてある。早いとこどかさねぇと邪魔だろうな、ありゃ」
「分かった、移動しよう。黒いの、手伝え」
「はいはい」
アルはアウインに手伝わせ、岩熊を急遽宿の裏庭に運んだ。
中庭は客を楽しませる為に美しく整えてあるが、裏庭は客室の窓からも見えない場所な為、荒れ果ててはいないが使われてもいない。広大と言うほどでは無いものの、岩熊を解体するのには十分な広さだろう。
「……それにしても凄いな……」
「……ああ、背中のは虹星石だな、巨大な。巨万の富になりそうなのが一つ、二つ、三つ……」
「……チッ、黒いの、余計な事を言うな」
一方、アルと話すタイミングを逸した早苗は、目の前の岩熊にわくわくしていた。こんなに巨大な獲物を解体するのは初めてなのだ。元の世界でも熊の解体経験は無い。
先の事を忘れた訳では無いが、早苗の単純過ぎる脳味噌は二つの事を同時に考えられず、取り合えず目の前の好奇心の方を優先したのだった。
「これ、私が解体しても良いっ?」
「え? そりゃあもちろん、君の獲物なんだから。でも一人じゃ大変なんじゃない? この黒いのが手伝うよ」
「ぃやった! ありがとう! アウインさん!」
早苗は跳び跳ねた。アウインは露骨に嫌な顔をする。
「ぅえっ?! 何で俺が! 汚れんの嫌いなんだよっ」
「洗えば良いでしょ」
斯くして岩熊を解体する事になった早苗達だが、作業中大量の水が必要だと言う事で、何度も往復するのが大変なため急遽水の魔法を使える者を雇う事になった。
「わ~凄いですね! こんな大きな岩熊初めて見ました!」
何とか捕まった水魔法使いのヘイルズが人の良さそうな笑顔で言う。
「急ですみません、よろしくお願いしますね」
これまた穏やかで人の良さそうな笑みを浮かべて優しげな声を発するのは、アルだ。
このバージョンのアルを見るのは久し振りだな、と早苗は思う。この宿に泊まった最初の日以来である。最近はいつも意地悪だ。
「じゃあ、まずは背中の鉱石を何とかしなきゃですね…………どうしましょう」
「俺が切り取ってやるよ。ヘイルズとやら、水かけてくれ」
「はいっ、了解です!」
まずヘイルズが水をかけ、そこにアウインが細くした風で切り込みを入れて行く。風の魔法と言うのは切る事も出来るらしい。
「うわあ! 凄い凄い!」
大きな鉱石が道具を使わず魔法によって次々に切断される様に、早苗は大興奮だ。
切り取った大小様々な鉱石達は、一つ一つ丁寧に布に包んで行く。
「切れましたね! じゃあ血抜きしましょう。アウインさん、ひっくり返してもらえますか?」
「あいよっ」
アウインが岩熊を浮かせて裏返す。早苗は目を瞑り手を合わせた。そして仰向けになった岩熊の胸に乗り、骨格を確かめる。
「大きすぎてよく分かんないな……ここら辺かな?」
「ああ、その辺りで良いと思うぜ」
アウインが同意する。力がいるだろう、硬そうな筋肉だ。早苗は岩熊の胸に向かって大きなナイフを突き立てた。
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