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16:ふたりの関係(終)
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コン コン
ささやかなその音は、それでもこの狭い空間には驚くほどよく響いて
閉ざされた扉の向こうにある存在を嫌というほど感じさせる
表の看板も外灯ももちろん点灯させていないし、扉のドアプレートはCLOSEと表示されているはず
それでも扉をノックするのはーーー
「悠……?」
そっと扉に近付いて、思わず呟いた名前
ある程度防音設備は整えられているはず
もちろん聞こえるはずはないとわかっていて、それでも呼びかけてしまった名前
あぁ、俺もたいがい未練がましいな
でも、だって
振動を感じて取り出した携帯に、どうしても消せなかったその名前が映し出されるから
「……は、い」
『湊人』
ずっとずっと聴きたかったその声が、あまりにも普通に名前を呼ぶから
「悠……っ」
『開けてよ。湊人』
そこにいるんでしょ?
その言葉に思わず息を呑んで、次の瞬間には無意識に扉の鍵を開けていた。
「湊人」
ゆっくりと開いた扉の向こうにいたのは、記憶の中の悠と似て異なる姿
派手だった髪色は黒くなっていて、綺麗な顔に幼さではなく色気が滲んでいる
元々長身ではあったけれど、なんだかあの頃よりすらりとして見えるのは……少し痩せたのだろうか
そういえば顔つきも大人びて見えるのは、頰の肉付きが少し変わったから……?
たった2ヶ月でこんなにも変わるのか
あぁ、でも、独特な色を帯びたその瞳はーーー何も変わっていないんだな
そんなことをぼんやりと考えていたら、不意に一歩踏み出した悠の腕が俺の背中に回った。
あ、と思う間もなく強く抱き締められて、懐かしい匂いと感触に軽く眩暈を起こす
「久しぶり」
「悠、な、なんで……」
「会いたかった」
それは、最初で最後のデートを彷彿とさせる言葉
あの日、自然に零れたようなそれを咄嗟に疑問形に変えた悠が愛おしかった。
あの日の俺はなんて答えたかな
なんて、そんなこと思い出す必要もない
だって
俺の答えはいつだって
「会いたかった、悠……っ」
呟いた瞬間、どうしようもなく涙が溢れた。
「湊人」
「……っ、でも、なんでここ」
「イツキに聞いてから、ずっと足で探し回ったんだよ」
最初は街さえ特定できればすぐ見つけられると思ったのに、ここほんとBAR多すぎ!
身体を離した悠が、少し唇を尖らせて文句を言う
聞けば片っ端からBARに突撃して、マスターや客にこの近辺で新しくオープン予定のBARはないか聞き回ったらしい
たしかに、同業者や酒好きな客なら普通の人よりも情報が早そうだ
なるほど……と驚いていたら、悠がカウンターの端に置かれたグラスを見て微笑んだ。
「知ってる?今週末にオープンするBAR、この界隈だけでも8軒以上あるんだよ」
「……うん、一応調べたから」
「でもね、俺、すぐにここだって分かった」
え?と首を傾げる俺に、悠がそのグラスを持ち上げてかざす
俺がさっき作ったそのカクテルはーーー
「Between the Sheets。ナイトキャップ・カクテルとして有名なこれは……夜の誘いに最適だよね」
「……調べたの?」
「湊人が選んだ世界を知りたくて勉強した。イツキとか、他にも交友関係が役に立ったよ」
たしかに、悠の周りには酒に詳しい知り合いがたくさんいそうだ
俺もそうだけど、同じ職場でバイトをしていたイツキもカクテルの種類やカクテル言葉に精通している
「色々教えてもらってる中で、たまたまこれを知った時さ……思わず笑っちゃった」
「……っ」
「俺が初めてだと思っていたあの日。本当は2回目だった、あの日。湊人が初めて俺に作ってくれたカクテルがこれ」
「……そう、だっけ」
「カクテル言葉は、“あなたと夜を過ごしたい”」
カァーッと頰に熱がたまるのを感じて、思わず俯く
カクテル言葉なんて普通の人はあまり知らない
特にアルコールがあまり得意ではないらしい悠は知るはずもないだろうと、あの日自身の欲を孕ませて差し出したカクテル
まんまと望み通り関係を持てたあの夜は、罪悪感とともにこの胸に強く焼き付いている
「“ b ・ t ・ s ”っていうこの店の名前、これの頭文字でしょ?」
「……っ、ご、ごめん…俺、」
「湊人。ちょっと中、借りていい?」
え、と見やればカウンターの中を指している悠
コクコクと頷いた俺にニッと笑って、キョロキョロしながらも手際よく材料を並べていく
本当に勉強したんだな……と火照った頰もそのままにただ眺めていたけれど、着々と作られるそのカクテルの名前に気付いた瞬間ーーーまた、視界が滲んだ。
「モーニング・グローリー・フィズ。カクテル言葉は……知ってるよね?」
「……あなたと、明日を迎えたい……」
「もしあの日の俺がカクテル言葉を知っていたら、ビトゥイーン・ザ・シーツのかわりにこれをオーダーしたよ」
一夜の関係ではなく、明日も関係が続きますように
そんな想いが込められたモーニング・グローリー・フィズは、おこがましくて作ろうとも思えなかった。
ビトゥイーン・ザ・シーツでさえ、あさましいなと自嘲した。
それなのに
「なんで、そんな……っ」
「ねぇ湊人。俺、煙草やめたんだ」
「え……?」
「女遊びもやめたし、無駄な夜遊びもやめた。大学もバイトもサボってない」
「そ、うなんだ……」
「だから、言っていい?」
「え?」
カウンターから出てきた悠が目の前に迫る
ほぼ同じ身長だけれどなぜか悠の方が大きく感じて、思わず身を竦めたら
「湊人。愛してる」
ふわりと頬を包んだ悠が、あまりにも自然に囁いた。
耳から入ったその言葉が、脳に伝わることなく消えたのはーーー信じられないから
悠が、ではなく……この状況が。
「悠、なに、」
「俺は湊人を愛してる。ずっと隣にいて欲しいし、もう二度と離したくない」
「ちょ、ちょっと」
「セフレなんかじゃなくて、ちゃんと恋人になってほしい。セックスのあと帰らないで、一緒に朝を迎えてほしい。前から見える場所にキスマークをつけたいし、つけてくれてもいい」
「悠、ま、まって」
「俺をこんなふうにしたのは湊人なんだから、責任とってよ」
ぎゅうと強く抱き締められれば、戸惑う両手が縋るように服を握ってしまう
本当は、その手を背中に回して強く抱き締め返したい。でも、でも悠は
「ダメだよ、悠……俺はおまえを幸せにできない……っ」
「俺は湊人を幸せにする自信があるよ」
「っ、でも、だから、俺は」
「湊人が幸せなら俺も幸せになれる。それでよくない?」
「違う、違うんだよ、悠。だって」
「たしかに俺は男を恋愛対象には見れない。それは今までもこれからもそう」
「……っ、そう、だから」
「でも俺、もう女も対象に見れないんだよ」
思わぬ言葉に息を呑んで黙ってしまう
そんな俺の頭をゆっくりと撫でながら、悠は少しだけ身体を離して俺を覗き込んだ。
見つめてくるその瞳は、切なげに細められていて
「ねぇ、もう俺湊人しか恋愛対象に見れないんだ。どうしようもないんだよ」
「悠……」
「湊人は?湊人は、俺以外もそういう対象に見れるの?」
そう問いかける顔も声も確信に満ちているのは、俺の顔に感情が溢れ出ているからか
それともおそるおそる回したこの手が、震えながらも強く縋り付いているからか
ぼろぼろと零れる涙もそのままに、迷った挙句ふるふると首を横に振ればーーー吐息で笑った悠にまた強く抱き締められた。
「お互いしか対象に見られないんだから、俺と湊人は“同じ”なんだよ」
「おな、じ……?」
「そう、同じ。だからさぁ、湊人」
諦めて、俺と幸せになってよ
そう囁いた唇がふわりと重なって
舌を絡めるわけではなく、ただ優しく食むようなそれはーーー別れの合図だったはず
でも、離れた唇が囁くのは、どこまでも甘く優しい愛のことば
「好きだよ、湊人。愛してる」
「……っ」
「ねぇ湊人。俺まだ聞いてない。教えてよ、湊人の気持ち」
「……写真に、書いたでしょ」
「ちゃんと言って」
「……好き」
「うん」
「ずっと、好きだった。愛してた」
「愛してた?」
「愛してる。これからもずっと」
「うん、俺も」
愛してると囁いた唇が今度は少し強く重なって、柔らかな舌が甘やかすように舌を撫で掬い絡めてくる
力を抜けばどこまでも深く溶け合うようなキスをされて、夢ならこのまま醒めないでほしいと願った
でもその唇は何度だって、愛を囁いてくれるから
「幸せすぎて、夢みたいだ」
「夢になんかさせないよ」
「……店の名前、“ x ・ y ・ z ”でも良かったかな」
抱き締め合ったままぽつりと零れた言葉は、独り言のつもり
でも眉を上げて見つめてくる強い瞳がじわりと滲むのを見て、意味が伝わった恥ずかしさと嬉しさに胸が苦しくなる
ぽろりと頬を伝う雫を唇で受け止めて、綺麗な涙だねと呟いた俺にーーー悠は今まで見たことない顔で笑った。
これから先
俺がまたこの幸せから逃げたくなる時がきても
悠の幸せと自分の幸せを天秤に掛ける時がきても
きっと悠は、何度でも俺の手を握ってくれるだろう
その時は……この笑顔を、涙を、触れる指先の熱を思い出して
悠の手を強く握り返せますように
2人の幸せが、“同じ”だと思えますように
「x ・ y ・ z 作ろうかな……飲んでくれる?」
「じゃあ俺はコープス・リバイバー作ろうか」
「も……やめろよ、バカ……っ」
また泣き出してしまった俺を、笑いながら抱き締めて何度もキスをくれる愛しい人
どんなカクテルよりも甘いそのあとの時間は
2人だけの、秘密でーーーend
【 x ・ y ・ z 】
カクテル言葉……永遠にあなたのもの
【コープス・リバイバー】
カクテル言葉……死んでも、あなたと
※本編終了です。読んでいただきありがとうございました!
続けてセフレ時代のSS数話と恋人になってからのSSを投稿しますので、もう少しだけお付き合い宜しくお願い致します^ ^
ささやかなその音は、それでもこの狭い空間には驚くほどよく響いて
閉ざされた扉の向こうにある存在を嫌というほど感じさせる
表の看板も外灯ももちろん点灯させていないし、扉のドアプレートはCLOSEと表示されているはず
それでも扉をノックするのはーーー
「悠……?」
そっと扉に近付いて、思わず呟いた名前
ある程度防音設備は整えられているはず
もちろん聞こえるはずはないとわかっていて、それでも呼びかけてしまった名前
あぁ、俺もたいがい未練がましいな
でも、だって
振動を感じて取り出した携帯に、どうしても消せなかったその名前が映し出されるから
「……は、い」
『湊人』
ずっとずっと聴きたかったその声が、あまりにも普通に名前を呼ぶから
「悠……っ」
『開けてよ。湊人』
そこにいるんでしょ?
その言葉に思わず息を呑んで、次の瞬間には無意識に扉の鍵を開けていた。
「湊人」
ゆっくりと開いた扉の向こうにいたのは、記憶の中の悠と似て異なる姿
派手だった髪色は黒くなっていて、綺麗な顔に幼さではなく色気が滲んでいる
元々長身ではあったけれど、なんだかあの頃よりすらりとして見えるのは……少し痩せたのだろうか
そういえば顔つきも大人びて見えるのは、頰の肉付きが少し変わったから……?
たった2ヶ月でこんなにも変わるのか
あぁ、でも、独特な色を帯びたその瞳はーーー何も変わっていないんだな
そんなことをぼんやりと考えていたら、不意に一歩踏み出した悠の腕が俺の背中に回った。
あ、と思う間もなく強く抱き締められて、懐かしい匂いと感触に軽く眩暈を起こす
「久しぶり」
「悠、な、なんで……」
「会いたかった」
それは、最初で最後のデートを彷彿とさせる言葉
あの日、自然に零れたようなそれを咄嗟に疑問形に変えた悠が愛おしかった。
あの日の俺はなんて答えたかな
なんて、そんなこと思い出す必要もない
だって
俺の答えはいつだって
「会いたかった、悠……っ」
呟いた瞬間、どうしようもなく涙が溢れた。
「湊人」
「……っ、でも、なんでここ」
「イツキに聞いてから、ずっと足で探し回ったんだよ」
最初は街さえ特定できればすぐ見つけられると思ったのに、ここほんとBAR多すぎ!
身体を離した悠が、少し唇を尖らせて文句を言う
聞けば片っ端からBARに突撃して、マスターや客にこの近辺で新しくオープン予定のBARはないか聞き回ったらしい
たしかに、同業者や酒好きな客なら普通の人よりも情報が早そうだ
なるほど……と驚いていたら、悠がカウンターの端に置かれたグラスを見て微笑んだ。
「知ってる?今週末にオープンするBAR、この界隈だけでも8軒以上あるんだよ」
「……うん、一応調べたから」
「でもね、俺、すぐにここだって分かった」
え?と首を傾げる俺に、悠がそのグラスを持ち上げてかざす
俺がさっき作ったそのカクテルはーーー
「Between the Sheets。ナイトキャップ・カクテルとして有名なこれは……夜の誘いに最適だよね」
「……調べたの?」
「湊人が選んだ世界を知りたくて勉強した。イツキとか、他にも交友関係が役に立ったよ」
たしかに、悠の周りには酒に詳しい知り合いがたくさんいそうだ
俺もそうだけど、同じ職場でバイトをしていたイツキもカクテルの種類やカクテル言葉に精通している
「色々教えてもらってる中で、たまたまこれを知った時さ……思わず笑っちゃった」
「……っ」
「俺が初めてだと思っていたあの日。本当は2回目だった、あの日。湊人が初めて俺に作ってくれたカクテルがこれ」
「……そう、だっけ」
「カクテル言葉は、“あなたと夜を過ごしたい”」
カァーッと頰に熱がたまるのを感じて、思わず俯く
カクテル言葉なんて普通の人はあまり知らない
特にアルコールがあまり得意ではないらしい悠は知るはずもないだろうと、あの日自身の欲を孕ませて差し出したカクテル
まんまと望み通り関係を持てたあの夜は、罪悪感とともにこの胸に強く焼き付いている
「“ b ・ t ・ s ”っていうこの店の名前、これの頭文字でしょ?」
「……っ、ご、ごめん…俺、」
「湊人。ちょっと中、借りていい?」
え、と見やればカウンターの中を指している悠
コクコクと頷いた俺にニッと笑って、キョロキョロしながらも手際よく材料を並べていく
本当に勉強したんだな……と火照った頰もそのままにただ眺めていたけれど、着々と作られるそのカクテルの名前に気付いた瞬間ーーーまた、視界が滲んだ。
「モーニング・グローリー・フィズ。カクテル言葉は……知ってるよね?」
「……あなたと、明日を迎えたい……」
「もしあの日の俺がカクテル言葉を知っていたら、ビトゥイーン・ザ・シーツのかわりにこれをオーダーしたよ」
一夜の関係ではなく、明日も関係が続きますように
そんな想いが込められたモーニング・グローリー・フィズは、おこがましくて作ろうとも思えなかった。
ビトゥイーン・ザ・シーツでさえ、あさましいなと自嘲した。
それなのに
「なんで、そんな……っ」
「ねぇ湊人。俺、煙草やめたんだ」
「え……?」
「女遊びもやめたし、無駄な夜遊びもやめた。大学もバイトもサボってない」
「そ、うなんだ……」
「だから、言っていい?」
「え?」
カウンターから出てきた悠が目の前に迫る
ほぼ同じ身長だけれどなぜか悠の方が大きく感じて、思わず身を竦めたら
「湊人。愛してる」
ふわりと頬を包んだ悠が、あまりにも自然に囁いた。
耳から入ったその言葉が、脳に伝わることなく消えたのはーーー信じられないから
悠が、ではなく……この状況が。
「悠、なに、」
「俺は湊人を愛してる。ずっと隣にいて欲しいし、もう二度と離したくない」
「ちょ、ちょっと」
「セフレなんかじゃなくて、ちゃんと恋人になってほしい。セックスのあと帰らないで、一緒に朝を迎えてほしい。前から見える場所にキスマークをつけたいし、つけてくれてもいい」
「悠、ま、まって」
「俺をこんなふうにしたのは湊人なんだから、責任とってよ」
ぎゅうと強く抱き締められれば、戸惑う両手が縋るように服を握ってしまう
本当は、その手を背中に回して強く抱き締め返したい。でも、でも悠は
「ダメだよ、悠……俺はおまえを幸せにできない……っ」
「俺は湊人を幸せにする自信があるよ」
「っ、でも、だから、俺は」
「湊人が幸せなら俺も幸せになれる。それでよくない?」
「違う、違うんだよ、悠。だって」
「たしかに俺は男を恋愛対象には見れない。それは今までもこれからもそう」
「……っ、そう、だから」
「でも俺、もう女も対象に見れないんだよ」
思わぬ言葉に息を呑んで黙ってしまう
そんな俺の頭をゆっくりと撫でながら、悠は少しだけ身体を離して俺を覗き込んだ。
見つめてくるその瞳は、切なげに細められていて
「ねぇ、もう俺湊人しか恋愛対象に見れないんだ。どうしようもないんだよ」
「悠……」
「湊人は?湊人は、俺以外もそういう対象に見れるの?」
そう問いかける顔も声も確信に満ちているのは、俺の顔に感情が溢れ出ているからか
それともおそるおそる回したこの手が、震えながらも強く縋り付いているからか
ぼろぼろと零れる涙もそのままに、迷った挙句ふるふると首を横に振ればーーー吐息で笑った悠にまた強く抱き締められた。
「お互いしか対象に見られないんだから、俺と湊人は“同じ”なんだよ」
「おな、じ……?」
「そう、同じ。だからさぁ、湊人」
諦めて、俺と幸せになってよ
そう囁いた唇がふわりと重なって
舌を絡めるわけではなく、ただ優しく食むようなそれはーーー別れの合図だったはず
でも、離れた唇が囁くのは、どこまでも甘く優しい愛のことば
「好きだよ、湊人。愛してる」
「……っ」
「ねぇ湊人。俺まだ聞いてない。教えてよ、湊人の気持ち」
「……写真に、書いたでしょ」
「ちゃんと言って」
「……好き」
「うん」
「ずっと、好きだった。愛してた」
「愛してた?」
「愛してる。これからもずっと」
「うん、俺も」
愛してると囁いた唇が今度は少し強く重なって、柔らかな舌が甘やかすように舌を撫で掬い絡めてくる
力を抜けばどこまでも深く溶け合うようなキスをされて、夢ならこのまま醒めないでほしいと願った
でもその唇は何度だって、愛を囁いてくれるから
「幸せすぎて、夢みたいだ」
「夢になんかさせないよ」
「……店の名前、“ x ・ y ・ z ”でも良かったかな」
抱き締め合ったままぽつりと零れた言葉は、独り言のつもり
でも眉を上げて見つめてくる強い瞳がじわりと滲むのを見て、意味が伝わった恥ずかしさと嬉しさに胸が苦しくなる
ぽろりと頬を伝う雫を唇で受け止めて、綺麗な涙だねと呟いた俺にーーー悠は今まで見たことない顔で笑った。
これから先
俺がまたこの幸せから逃げたくなる時がきても
悠の幸せと自分の幸せを天秤に掛ける時がきても
きっと悠は、何度でも俺の手を握ってくれるだろう
その時は……この笑顔を、涙を、触れる指先の熱を思い出して
悠の手を強く握り返せますように
2人の幸せが、“同じ”だと思えますように
「x ・ y ・ z 作ろうかな……飲んでくれる?」
「じゃあ俺はコープス・リバイバー作ろうか」
「も……やめろよ、バカ……っ」
また泣き出してしまった俺を、笑いながら抱き締めて何度もキスをくれる愛しい人
どんなカクテルよりも甘いそのあとの時間は
2人だけの、秘密でーーーend
【 x ・ y ・ z 】
カクテル言葉……永遠にあなたのもの
【コープス・リバイバー】
カクテル言葉……死んでも、あなたと
※本編終了です。読んでいただきありがとうございました!
続けてセフレ時代のSS数話と恋人になってからのSSを投稿しますので、もう少しだけお付き合い宜しくお願い致します^ ^
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