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7話 悪魔違い

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 クレイドルは、俺の右手の甲への異質な力の集束を解除していたが、幼女(?)は、お構い無しに、集められた光を解き放った。

 「うへぇ~!一切躊躇なしっすかッ!?ッたくもぉ~ッ!!」

 1年の男子高校生は、短冊を片手に4枚づつ保持し、俺と幼女(?)の双方へと向け構えていた。

 そして、幼女(?)側の方に向けていた、左手の短冊、4枚の内、3枚が燃えるが、幼女(?)の放った光線は消失する。

 「勧修寺かじゅうじ、言った筈だッ!!私の邪魔をするなら、お前だろうと殺すとなッ!!」

 「つってもアリス先輩、彼は部長が真理学研究部うちに勧誘した人材っすよ?なら、例え、どんな奴だとしても、一旦は様子を観た方が得策じゃないっすか?」

 と言って、勧修寺は、俺の方へと警戒を露にした視線を向ける。

 「うるさいッ!!」

 アリスは、怒りと憎悪を剥き出しにした態度で、手にしたロザリオを捨て、懐から試験管を3本取り出した。

 「殺す、殺すッ!コロス、殺す、コロスコロスコロスコロス殺すッ!!!」

 試験管の蓋を全て外すと、中からは、赤、黄、緑の三色の煙が立ち上る。

 「主よ、邪悪な悪魔とその眷属に裁きをherr richte den bösen teufel und seine anhängerッ!!」

 三色の煙が合わさり、白く輝き始め、美しき女神の姿へと変化する。

 「おいおい、ここら一帯、更地になっちまうっすよッ!?」

 勧修寺は、学生服のボタンを外し、その裏側にびっしりと貼り付けてある短冊を、女神の姿に成りつつある煙へと向ける。

 「ッチィィイッ!!我求むワレモトム万物を両断するバンブツヲリョウダンスル一振の刃ヒトフリノヤイバ。」

 学生服の裏側に、びっしりと貼ってあった短冊は、勧修寺の左手にペラペラと、音を立てて集まり、瞬く間に、紙で出来た日本刀が出来上がる。

 「仮称、天叢雲剣アメノムラクモノツルギ。」

 勧修寺がそう言うと、紙で出来た日本刀は、本物の鉄の様な色が広がり、淡い青の輝きが放たれる。

 「聖なる光の息吹きHauch von heiligem Lichtッ!!」

 「散れッ!!急急如律令キュウキュウニョリツリョウ

 俺はというと、完全にかやの外で、棒立ちである。

 「ほぉ、これはこれは!」

 俺の右隣でパタパタと飛ぶクレイドルは、呑気に感嘆の声を漏らしていた。

 大きな力と力がぶつかり合う寸前、アリスは、何かを感じ取り、ピタリと動きを止める。

 それを受けて、斬りかかる直前の体勢で、勧修寺も動きを止める。

 「待つんだミッ!!2人とも争いを辞めるんだミーーーッ!!」

 「ん。」

 凄い勢いで息を切らしながら飛んできたミカエルと、顔色一つ変えず、共に飛んできた白川。

 「ミカエル様、並びに、アカネ様、御目にかかれて光栄です。」

 アリスは、その場に片膝をついて、ミカエルへと、最上の敬意を払う。

 「ふぁぁぁ~!助かったぁぁぁ~!はぁぁぁ~!!」

 全身の力という力を抜いて、尻から地面にへたり込む勧修寺。

 「な、何とか間に合ったミッ!!はぁっ、はぁっ。」

 「アーちゃん、悪魔祓いエクソシストだから、こうなると思った。」

 「ミカエル様、アカネ様。何故、私を御止めになられたのですか?そこにいるのは、間違いなく悪魔ッ!!なら、私が悪魔トイフェルを殺す事に、何の問題がありましょうかッ!!?」

 アリスは、殺意の籠った眼差しを俺に向けながら、ミカエルへと尋ねた。

 「違うんだミ!悪魔は悪魔でも、彼は純粋な悪魔なんだミ!!つまり、えーっと、悪魔違いなんだミッ!!」

 「悪魔違い?・・・と、申しますと??」

 未だ、アリスの殺意は消えず、むしろ静かに増している様にすら伺える。

 「貴女方の言う所の悪魔とは、悪しき人の魂の断片、その集合体に確固たる自我の芽生えた個体でしょう?それに対して、わたくしは、神より生み出された地獄の管理者。同じく、悪魔と呼ばれては居るものの、全く異なる存在なのですよ。」

 クレイドルは、礼儀正しく一礼をしながら、そう答えた。

 「そうなんだミ。ややこしいのは、彼ら地獄の管理者が、負のエネルギーを帯びているからなんだミ!」

 「ん。」

 アリスは、目を閉じ、少しの間、現在知り得た情報を精査する。

 「ミカエル様がそう言われるのでしたら、真実なのでしょう。・・・となると、私は、勘違いで、無実の者を殺そうとしていたのですね。」

 そして、ようやく殺意を消したアリスは、俺の方へと近寄り、ミカエルへとそうしたのと同様に、最上の敬意を持って、片膝をつく。

 「この度は、私の勘違いから、多大な迷惑を掛けてしまい、大変、申し訳ございませんでした。」

 「あぁ、まぁーー」

 「本当だよっ!僕にも謝ってッ!!ほらッ!あ・や・ま・っ・てッ!!」

 俺の台詞の上から言葉を発し、地面へと寝転がったまま、駄々をこねる子供の様にジタバタと手足を動かす勧修寺。

 「・・・すまなかった。」

 アリスは、勧修寺に対しては、ぞんざいに、冷ややかな口調で、謝罪の言葉を述べた。

 「ははーん、本当に悪いと思ってるなら、ちゃんと態度で示して貰わないとさぁ~!ねぇ~??」

 アリスの返答を受けて、ここぞとばかりにつけあがった勧修寺は、悪巧みを思い付いた浅ましい表情を浮かべる。

 「うっ。な、何をすれば、今回の件を水に流して貰える?」

 イライラとしつつも、勧修寺の下手に出るアリス。

 「ん~!なら、今からアリス先輩の奢りで、新入部員歓迎会とかどうっすか!?アリス先輩のお・ご・り・でッ!!」

 「ん!それは、妙案!!」

 意外な事に白川は、目を輝かして、勧修寺に良くやったと、親指でグッドのサインを送る。

 「お、お、おご、奢り?わ、わた、私の、奢りで、か、かか、歓迎会ッ!?」

 アリスは、突然、全身から冷や汗をダラダラと流す。

 「せんぱーい!禍根を残すと、ろくな事にならねっすよ~??ここは気前良く奢って、何もかもを水に流しましょうや~!」

 「うっ・・・!」

 嬉々として、女子高校生の装いをした幼女に、たかろうとする男子高校生という、何だか、とても良心の痛む光景が出来上がっていた。
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