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第1章
代償
しおりを挟む「魔法は……タダで使えるものじゃない。この力を使えばそれと引き換えに、それ相応の報いを受けることになるんだ」
「報い?」
「魔法を使った代償、みたいなものかな」
そう言って、彼は苦笑した。
傷が痛むのか、その表情はどこか引きつっている。
「魔法の、代償……? じゃあこの傷は、さっきの人形を直したから?」
魔法の力で、人形を直した。
その代償として、彼が怪我をしたという。
「そんな……。じゃあ、あなたは本当に……魔法が使えるんですか?」
疑う余地はもうなかった。
現に私は二度にわたって、彼の不思議な力を目にしているのだ。
さっきのことも、そして、昨日の虹のことも。
でも。
「魔法を使ったらこうなるって、わかっていたんですよね? なら、どうしてそんな危険なことを」
そこが理解できなかった。
なぜ、こんな危険を犯してまで魔法を使う必要があったのか。
――だって可哀想じゃないか。
不意に、先ほどの彼の言葉が思い出された。
あの男の子のことが『可哀想だから』――たったそれだけの理由で、彼は魔法を使ったというのか。
赤の他人のために、自分の身を犠牲にして?
当の本人は気まずそうに視線を逸らすと、掴んでいた私の手首をそっと離した。
私は胸の奥にどうしようもない焦りを感じて、思わず声を荒げて言った。
「こんなの、危ないじゃないですか。なんでっ……、どうして、こんな危険なことをするんですか。さっきだって、一歩間違えれば死んでいたかもしれないんでしょうっ?」
死ぬ、なんて言葉を簡単に口にしたくはなかったけれど。
それでも、過言ではないと思った。
魔法で人形の腕を直したことで、彼は自分の腕に傷を負った。
今回はまだ腕だったから良かったものの、これが例えば首だったら。
壊れた人形の箇所がもしも首だったなら、彼は今頃どうなっていただろう?
考えただけでぞっとする。
それに、
「あなたがこうして怪我をしたこと、あの男の子は知らないんでしょう?」
あの男の子。
おそらくは近所の子だろう。
あの子にとって彼は、困ったときに助けてくれる優しいお兄さんであって、それ以外のことはきっと何も知らない。
魔法の代償のことだって知らない。
こうして彼が怪我をしていることだって、きっと。
だからこそあんな風に、気軽に魔法に頼ることができてしまうのだ。
その代償がどんなものであるのかも知らずに。
「知らない間に、あなたのことを傷つけて……それが、本当にあの子のためになると思っているんですか?」
そこまで言ったとき、それまで穏やかだった彼の顔が少しだけ陰りを見せた。
尚も黙ったままの彼の横顔からは、その心中を探ることはできない。
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