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第三章 京都府京都市
第十三話 渡月橋
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「右京さまが亡くなったのは今から二十年前のことで、ご本人が二十五歳の時。天満さまはまだ五歳だった頃のことですよね。そして今、あなたは二十五歳になった。右京さまの亡くなった年齢と同じです」
スピーカーの向こうから、こちらの顔色を探るような璃子の声が届く。
「ああ。俺も今朝気づいたんだ。右京さんと同じ年齢になったんだなって」
天満は観念したように笑って言った。
「朝起きて、スマホで日付を確認して。ああ、今日は五山送り火と灯籠流しがあるから、京都に行かなきゃって思ったんだ。右京さんの灯籠を流そうと思って……。それで仕度をしていたら、やっと気づいた。俺はいま、右京さんと同じだけの人生の時間を生きてきたんだって」
スマホを片手にそう話しながら、彼は『灯籠販売所』と書かれたテントの中で灯籠を二つ購入した。一つは右京のため。そしてもう一つは、永久家の先祖代々の霊を慰めるため。
「俺は、二十五歳まで生きられればそれで十分だと思っていた。右京さんと同じ二十五年の歳月を生きられれば、それで満足だって」
「だから、もう死んでもいいと思ったんですか? 彼女と同じだけの時間を生きられたから。彼女と同じ年齢になったから、自分はいまこそ死ぬべきなのだと。……それが、呪詛を生み出したきっかけなのですか?」
自分自身を殺そうとする呪い。それを生み出す原因となった決定打。
天満がなぜ右京の幻影を生み出してしまったのかという謎。その答えにようやく辿り着いた璃子に、天満は賛辞の言葉を送った。
「よく出来ました」
言い終えるが早いか、彼は通話を一方的に切った。そうして購入した灯籠に文字を書き込み、受付を済ませてテントを出る。
桂川の水面にはすでに何百もの灯火が浮かんでいた。音もなく流れていくそれらを、岸辺から多くの人がわいわいと談笑しながら見送っている。
と、不意に周囲が一際湧き立って歓声を上げた。
釣られて天満も顔を上げると、遠くの山に赤い大文字が浮かび上がっている。
五山送り火。どうやら今年も始まったようだ。二十年前のあの時から何も変わらない。死者の魂をあの世へと送るための篝火。
「天満」
懐かしさに浸っていた彼のもとへ、彼女の声が届く。見ると、右京と同じ美しい微笑を浮かべた呪いが、彼の手をそっと握ってくる。
「渡月橋の上まで行こう。あそこからの眺めが一番よく見えるんだ」
あの時と同じ声で彼女が誘い、天満の手を引く。人混みで溺れそうになっても、その手は力強く彼を導いていく。
やがて二人は渡月橋の上まで来た。中央付近の特等席はさすがに人でいっぱいだが、橋の袂あたりならば何とか体を落ち着けられそうな場所があった。
「天満」
再び彼女がその名を呼ぶ。見ると、彼女はするりと天満の手を離して、川に向かって歩いていく。橋の欄干をすり抜け、足場のないところまで歩く。
天満以外の誰もが、彼女の存在に気づいていない。この世の者ではない彼女は、橋の外側で宙に浮いたまま、こちらを振り返って言った。
「おいで、天満。一緒にいこう」
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