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Chapter #4
またね
しおりを挟む「Sorry~~, I’m late! Haha!」
遅れてごめんね! と車の窓から顔を出したのは、見覚えのある女性だった。
金髪碧眼の、おそらくはオーストラリア人。
「There’s something wrong with my car. But, it’s probably OK! So, get in the car! Haha!」
車の調子がおかしいんだけど多分大丈夫だから乗って! と、まるで機関銃のように早口で言う彼女は、留学の初日に私を空港から送迎してくれた誘導員の人だった。
顔はよく覚えていなかったけれど、あの底抜けに明るい声と笑顔と雰囲気は間違いない。
前に会ったときは彼女の言葉を一ミリも理解できなかったけれど、今ははっきりと聞き取ることができる。
いつのまにか自分もちょっとは成長したんだな——と感慨深い気持ちになったものの、やっと聞き取れた彼女の言葉がこちらの不安を煽るようなものだったのは残念だった。
予定時刻に遅れるくらいに調子の悪い車は、果たして本当に『大丈夫』なのだろうか?
「Hurry up, Misaki. You don’t have much time.」
時間がないから急いで、とレベッカが私を促す。
私は慌てて荷物をトランクへ詰め込むと、最後にレベッカたちの前に立った。
「Get home safe.」
気をつけて帰ってね、とレベッカ。
「Come again anytime.」
またいつでも来なよ、とスコット。
「Rebecca, Scott, thanks……. I had a really good time with you.」
ありがとう、本当に楽しかったよと、私は心からの感謝を二人に伝える。
そして、
「Oliver.」
オリバーの方を見ると、彼はいつになく俯きがちな目をこちらへ向けた。
長い睫毛に縁取られた美しい瞳が、上目遣いに私を見る。
本当に、人形のように綺麗な顔だなあと改めて思う。
彼とは色々あったけれど、なんだかんだで一緒にいると楽しかった。
まだまだ子どもっぽいところもあるけれど、それも含めてご愛嬌。
世話のかかる弟ができたようで新鮮だった。
「Take care of yourself. I’ll call you later.」
元気でね、また電話するからと私が言うと、彼は何も言わずに私の方へ両手を伸ばして抱きついてきた。
最後のハグ。
背中へ回された手が、名残惜しむようにぎゅっと力を込めて私を抱きしめる。
やっぱり寂しいのかな、と思った。
もともと寂しがり屋で嫉妬もしやすいぐらいの彼のことだから、別れ際には泣いちゃうんじゃないかと思ったけれど。
意外とそこは男の子なようで、涙は一滴も見せなかった。
「Hey, be quick! Come on, Misaki. The plane will take off soon~~.」
早くおいで、飛行機が飛び立っちゃうよー、とまるで歌うように送迎の女性が言う。
こちらが感傷に浸っている空気に微塵も配慮しないフリーダムな声だ。
もともと時間が遅くなったのも誰のせいだと思いつつ、なんだか毒気を抜かれた私は、くすりと笑ってオリバーの背中を優しく摩った。
「See you again.」
また会おうね。
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