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Chapter #2
オリバーの暴走
しおりを挟むそこへ突如、世にも喧しい陽キャ集団が通りがかった。
「Woooo-hoooooooo!!」
耳をつんざくような絶叫に、その場の誰もが注意を向ける。
十代後半くらいの若者の集団だった。
動画でも撮っているのか、一人はスマホを構え、残りの十人ほどが一斉に踊り出す。
SNSのおかげで日本でもこういった光景は珍しくなくなったとはいえ、やはりテンションの高さは段違いだ。
そんな彼らについ気を取られているうちに、急にオリバーが私の手を引き寄せた。
「Hey! Come on, Misaki. I’ll show you around!」
僕が案内してあげるからおいで、と彼は強引に私の手を引いて駆け出そうとする。
「えっ!? オリバー、wait……!」
このままではカヒンとはぐれてしまう——その焦りから私は咄嗟に、脊髄反射でカヒンの腕を掴んだ。
突然の私の行動に、彼は目を丸くする。
私も私で、自分自身に驚く。
勢いとはいえ、まさか自分がこんな大胆なことをするなんて。
オリバーが駆け出すと、それに引っ張られた私がさらにカヒンを引っ張る。
一繋ぎとなったまま、私たちは表通りの方まで出た。
夕陽のオレンジ色に染まった街は人でごった返しているが、それを感じさせないほどに道は広い。
両脇には背の高い建物がどこまでも続き、たくさんの店が軒を連ねている。
どれも英語表記の看板ばかりだが、たまにマクドナルドやスターバックスなどの見慣れた名前が目に入ると、なんとなく親近感が湧く。
やがて走り疲れて最初に音を上げたのは私だった。
これ以上は走れないとオリバーを引き止める。
「We should go to riverside.」
まずは川沿いまで行こうとオリバーが提案する。
どうやらそこでライトアップがあるらしい。
まだ開始時間までは余裕があるので、それからは三人でゆっくりと歩いた。
時折私が周りの建物やオブジェに興味を示すと、すかさずオリバーが隣から説明をしてくれる。
中でも特に目を引いたのは、一見お城のようにも見える一際大きな石造りの建物だった。
オリバー曰く、そこは街のシンボルの一つでもあるカジノらしい。
「Misaki, look at that.」
時々カヒンが何かを見つけて話しかけてくれるのだけれど、その度にオリバーが邪魔をする。
おかげでカヒンとの会話は全く続かない。
このままだと彼にも申し訳がないし、なんとかオリバーを説得しようとするのだけど、当の本人は一向に聞く耳を持たない。
(もう、どうすればいいの!)
葛藤し続けた末に、私たちは川沿いへと辿り着いた。
空はすでに夜の色を見せ始めており、川の縁には大勢の観客が場所取りをしている。
この辺りは特に見えるポイントらしい。
私たちもどうにか良い場所を見つけようと歩き回っていると、
「Oliver!」
と、聞き慣れない声が届いた。
見ると、地元民らしい若いグループがこちらに手を振っている。
オリバーの友達だろうか——そう思って彼の方を見ると、こちらはなぜかバツの悪そうな顔をしていた。
「Hey, Oliver. ××××× ××××× ×××!」
ネイティブな発音の彼らの会話は、私の耳では到底聞き取ることはできなかった。
こうして見ると、普段私の周りにいるレベッカや大学の先生なんかが如何に私に配慮して喋ってくれているのかがわかる。
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