日本語しか話せないけどオーストラリアへ留学します！

Chapter #2

落ちこぼれ

　
　昔の夢を見た。

　私がまだ小学生だった頃、授業で初めて英語に触れたときのこと。

　——では皆さん、前の人から順番に発音してみましょう。

　This is an apple.

　何の変哲もない、ごくごく普通の簡単な英文。

　私は特別意識することもなく、ただ自分の順番が回ってくるのを待っていた。
　クラスメイトたちは皆、淡々とそれを読み上げていく。

　やがて私の番が回ってきた。

　——ずぃすいず、えあん、えあぽぉ。

　言い終えた瞬間、教室の中はしんと水を打ったように静まり返った。

　どうしたんだろう、と私が辺りを見渡したとき、

　——……ぶふっ！

　と、誰かが一人、盛大に吹き出して、それを合図に教室全体が笑いの渦に巻き込まれた。

　ぎゃはははは！　と誰もが私を見て笑う。
　どうやら私の発音がとんでもなく可笑しかったらしい。

　私は教室の真ん中で、ただただ顔を真っ赤にして俯いていた。
　恥ずかしくて、穴があったら入りたい気分だった。

　その後も休み時間や帰り道で、クラスメイトの男子たちにひたすらからかわれた。

　——もう、いい加減にしなよ！

　たった一人、私を庇ってくれたのは舞恋だった。

　——大丈夫だよ、美咲ちゃん。発音なんて、みんな似たようなもんだって！

　だから気にしないでね、と慰めてくれる彼女のことを、私は女神様か何かだと思った。

　いつも明るく、私を引っ張ってくれる舞恋。

　彼女はどうして、こんなにも私に優しくしてくれるのだろう……？


　　　　　　　　　　◯


「大丈夫だって、みさきち！　クラス分けなんて所詮はテキトーだって！」

　だから気にすんな！　と慰めてくれる彼女のことを、私は悪魔の囁きか何かだと思った。
　この甘い言葉に惑わされていると、私はいつまで経っても成長しないような気がする。

　プレイスメントテストの結果、私は最下位のクラスに決まった。

　面接の感じからして覚悟はしていたが、いざこうして事実を突きつけられるとさすがに胸にくるものがある。

　対する舞恋は想像以上に良い結果だったようで、私とはクラスどころかキャンパスまで別になるらしい。

「ネイサンキャンパス、だって。マウントグラバットキャンパスのすぐ隣にあるらしいよ。無料のシャトルバスが出てて、五分ぐらいで着くみたい」

　私が通うことになるマウントグラバットキャンパスは、テストで下位になった学生が集められているらしい。
　いわば落ちこぼれだ。

　そして中央値よりも上の学生はネイサンキャンパスに通うことになる。
　おそらくはカヒンもそちらにいるのだろう。