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第一章 フーバスタン帝国編

第23話 〈狩りの女神!!〉

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「やっちまった……」


 何がみんなで美味しくいただきましただ。
 結局採っただけ全部食べちまったじゃねーか。

 俺は空になったカゴを見て呆然としていた。
 吹き付ける秋風がとても冷たく感じた。


「ミレーヌが七輪なんか持ってくるから……」

 その言葉にミレーヌがムッとして頬を膨らませる。


「アンタもノリノリで食べてたじゃない」

「全体の3分の2は意地汚いオマエが食べたけどな」

「アンタねぇ、言うに事欠いて、意地汚いとは何よ!?」

 喧嘩腰になっていく二人を、慌ててアンナが止めに入った。


「二人ともいい加減にして下さい! せっかく美味しかったのに喧嘩したら台無しですよ!」

「……アンナの言う通りだな。喧嘩していても仕方ない」

 クエストを失敗で終わらせないためにも、もう一度冬マツキノコを採りに行かねば。
 だけど近い場所の冬マツキノコは俺たちが採ってしまったから、松林の奥まで探しに行かないといけない。


「暗くなると危ないからそうだな……二時間、二時間目一杯探そう」

 一度キノコ狩りを経験したから、朝よりは効率よく集められるかもしれない。


「行くぞ!」

「ラジャ!」
「クッキー、冬マツキノコのニオイは覚えてるわね? アンタが頼りよ……ゴー、クッキー、ゴー!!」

「アンアーン!」

 クッキーを追いかけるように、俺達は松林に突入した。


 いいよいいよ~、クッキーが次々と冬マツキノコを見つけ出してる。
 これは予想外の活躍だ。
 このペースで見つけられれば、日没までには納品分は採集出来そうだと思っていた、そんな時だった。

「ウーー……ウーー……グルル」

「クッキー?」

 ミレーヌがクッキーの異変に気が付いた。
 クッキーが茂みの奥に向かって唸っている。
 何かに対して威嚇しているのだ。


「ミレーヌちゃん!」

 アンナも異変に気付きミレーヌに駆け寄る。


「ミレーヌ! クッキーを下がらせろ! 何かいるぞ!」

 俺が星屑スターダストハンマーを構えてクッキーの前に出るのと同時に、ミレーヌがクッキーを呼び寄せた。


 ガサガサ、ガサガサ、ガサガサ。

「フーッ、フーッ、フーッ」

「来るぞ!!」

「グガァァァァァ!!」

 野生のベルト・紺ベアーが茂みから飛び出してきた!!
 ベルト・紺ベアーとは、腰回りだけが紺色の白熊だ。
 魔物ではなく動物だが、肉食で気性の荒い熊だ。
 なぜコイツが魔物に分類されないのかが不思議な熊で、大好物の冬マツキノコのニオイに釣られて出てきたのだろう。

 ベルト・紺ベアー単体の討伐の依頼は、Dランククエストに分類される。


「ベルト・紺ベアーか……今の俺達には強敵だぞ!」

「どうしますかアッシュさん!?」

 逃げられるのなら逃げたいところだが……その場合は冬マツキノコを諦めるしかなくなる。
 どうすればいい……。


「……やるしかない。 アンナ、スキル残像で撹乱しろ!」

 アンナの身体にエフェクトが発生して、アンナが動く度に残像が付いて回る。


「くっ……あまり意味はないか……!?」

 ところがベルト・紺ベアーはアンナの動きに混乱しているようだ。


「バウ? バウ!?」

 混乱しているベルト・紺ベアーの周りをアンナがグルグル回っている。


「アッシュさん、見てますか~!? スキル役に立ってますよね~!?」

 良かったなアンナ!
 だが、今はそういう感想言ってる場合じゃないからな?
 ベルト・紺ベアーがアンナの動きに混乱してる間に攻撃だ。
 俺の星屑スターダストハンマーの一撃で、綺麗な星を拝ませてやるぜ!


「そーーーーい!!」
 ドーーーーン!!

「ガウ?」

「やっべーぞ! 効いてない上に混乱が解けた!」

「何やってんのよ! 仕方ないわね。行くわよクッキー! スキル【人魔一体】!!」

「ミ、ミレーヌ!?」

 ミレーヌのスキルの中で唯一どのような効果があるか定かではなかった【人魔一体】をミレーヌが使った。

 俺の勘ではテイムモンスターにテイマーが乗って戦うか、テイムモンスターと自分の感覚をリンクさせるスキルだと思っていたのだが、どうやら前者が正解のようだ。
 正解なのだが……。


「おいミレーヌ! 逆、逆、逆ゥー! 上下逆だよ!!」

「え? そうなの!?」

 ミレーヌがまさかの行動に出ていた。
 なんとクッキーを頭の上に乗せたのだ。
 さすが知力がGなだけはある。
 そもそもスキルと言いつつ、頭の上に乗せているだけではないか。

 俺に指摘され、クッキーを下ろしてもう一度スキルを使用する。
 ミレーヌの後方から走ってくるクッキーにタイミングを合わせるようにミレーヌがジャンプした!


「お、おお!」


 ジャンプして走ってくるクッキーにそのまま飛び乗るつもりか!?
 これが真の人魔一体なのか!?


「クッキー!」
「アオーーン!」

 完璧なタイミングだと思った次の瞬間、着地したミレーヌの股の下をクッキーが駆け抜けて行った。


「…………」
「…………」
「…………」

「何やってんだよ、も~……」
「ミレーヌちゃーん……」

「だってクッキーが小さすぎて乗れなかったんだもん」

 それはハナから分かってた事だよね?


「そもそもウルフだからなぁ!! 乗れるわけねーだろーが!! 何が人魔一体だ。バーカバーカ」

「ミレーヌちゃんのバカ~!!」

「バカバカ言わないでよ、仕方ないじゃない。クッキーはまだ子供なのよ!?」

「だからウルフだって言ってんだろ! それ以上大きくならねーよ!!」

「え? うそ!?」

「そんなトロい事ばっかやってるから、オマエはヒロインならぬトロインなんて呼ばれるんだよ」

「誰が言ったのよ、そんな事!!」

「……カイだよ!」

本当は俺である。


「もうアッシュさんもミレーヌちゃんも、いい加減にして下さい。ベルト・紺ベアーにまで、こんな茶番に付き合わせちゃって……」

「本当だぞ! ベルト・紺ベアーに謝れ!」

 本当によくぞ律儀に待っていてくれたものだ。


「いやよ! 何で熊に謝らなきゃならないのよ! はいはい、分かりました、やればいいんでしょ!? 私一人でやれば文句無いんでしょアンタ達は!」

 そう言ってミレーヌが手に持っていた嬢王の鞭で、ヒュンとベルト・紺ベアーを攻撃した。


「嬢王様とお呼び!」

 パッシィィーーーン!!

 とても乾いた音が、レイホウ山の麓に広がる松林に響き渡った。

 ────ズドォォン。

 ミレーヌの鞭のたったの一撃の前にベルト・紺ベアーは沈んでしまった。


「ふぁ!?」
「え!?」

「私にかかればこんなものよ」

 テイマーの癖に、力SSのミレーヌの鞭の破壊力は、たったの一撃でベルト・紺ベアーの命を奪ってしまったのだ。


「ありゃま! こりゃおでれーただ。コイツはこの麓の主と言われちょる白兜でねーか!? オマエさんらが殺ったのか!?」

 ……だれだオマエは。


「私が殺ったのよ!」

「オラ達ここいらの狩人ハンターは、この白兜さずっ~と追っかけておったのよ。オラ達が二年も狩れなかった白兜をね~、こんなお嬢さんがね~。たまげた~」

 だから誰なのだオマエは。
 突然現れて、普通に会話に加わってんじゃねーよ。


「アラ? アナタの獲物だったのね。横取りしてごめんなさい」

「いんや、倒せたんならそれが一番だぺしょ。オラはここらの狩人ハンターを仕切ってるタゴ・サクてもんだべ。嬢ちゃんの名前さ聞いてもええか?」

「名乗るほどの者ではないわ」

「白兜さ倒してもこの余裕……やっぱりただもんじやねぇべ」

 いつまでこのやりとり見てなきゃいけないんだ?
 アンナが隣で、真顔を通り越して無になってるぞ。


「白兜さ倒した証拠として、コイツの肉を少し分けて貰いてぇんだけども……」

「私達は持って帰れないから、全部差し上げるわ。いいわよね、アッシュ?」

「構わないよ、そんなん。それよりも早く帰りたいんだけど?」

「て事だから。熊は好きにして頂戴。じゃあねタゴ・サク」

「おおきに、まっことおおきに。アンタは今日からワシら狩人ハンターの女神様だべ」

 なにまんざらでもない顔してんだミレーヌ。

「じゃーね」


 こうして、突発的なベルト・紺ベアーとの戦闘は、ミレーヌの活躍により勝利に終わった。


「さて、帰るか」

「そうね」
「帰りましょう~」

 俺達は無事帝都メストまで、採集した冬マツキノコを持ち帰り、冒険者ギルドに納品して依頼を達成することが出来た。

 また、レイホウ山の麓の村では鞭を持った女神が狩りの神として祀られていくことになるのだが、それはまた別のお話だ。

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